第6話~深淵より来る災い~
筆の進みが良くてもう一話上がりました。
この話は冒険者パーティーのリーダー薬師ちゃん視点の回です。
ちょっと拙い文になってしまった感が否めないですが宜しければどうぞ。
ー海鳴りの洞窟?層ー
「うぅ、みんな大丈夫?」
私は鈍く痛む頭を押さえて立ち上がった。何が起きたか把握できていないけどパーティーの無事を確認しないと。
「あぁ、何とかな。クッソまだ揺れてるみたいに気持ちわりぃ。」
最初に返事を返したのは剣士の一人。このパーティーでは一番の年長者だ。と言っても剣士二人は双子の兄弟らしいので年齢的には最年長が二人になる。
「おい起きろ、俺達前衛が動けないと仲良くくたばるぞ。」
ぶっきらぼうな物言いとは裏腹に弟を優しく揺り起こす姿を見るに兄弟仲は良いらしい。
「どうやらさっきの揺れで深層を超えて大穴が空いたみたい。」
姿の見えなかった弓士が大穴を上から滑り降りてきた。どうやらこの子が一番最初に目を覚ましたみたい。
「冗談だろ。この階層が噂の深淵だとでも言うのかよ、ただの都市伝説じゃあ無かったってのかよ。」
「僕たちの腕じゃ中層が限界なのに不味いよ。」
起こされた弟剣士も状況を理解して青ざめている。こんなときはパーティーリーダーの私がしっかりしないと。
「幸い穴が直下に空いてなくて良かったよ急だけど斜面になっていなかったら今頃みんなぺしゃんこだった。とりあえず怪我があったら手当てするよ。装備や道具も確認してね。」
私の持っていた薬は半数以上瓶が割れてしまっていたが薬師である私には丸薬や軟膏も数多くある。早急に数が足りなくなることはないだろう。
「矢が少し折れた、問題はない。」
弓士ちゃんは最年少だけど一番行動力がある。無口な正確なので誤解されやすいけどとてもいい子だ。
「俺は予備の装備も含めて全部無事だが弟はメインの長剣が折れちまってる。申し訳ねぇが最前線は俺一人になっちまう。」
兄剣士が二人分の所持品を分配して言った。予備の剣は少しリーチが下がるらしく攻撃を受ける危険が高まるらしい。
「大丈夫。慎重に進んで会敵を減らしましょう。弓士ちゃん、上はどうだった?もとの位置まで戻れそう?」
「駄目、元居た中層から8フロア落ちてきてる。上にいくほど急になってて、頑張ってもよじ登るのは3フロア目の深層まで。迂回、必要。」
低層が一層だとすると十層、想像以上に海鳴りの深淵は深いみたい。あまりゆっくりしてると危険な魔物が湧いてくるかも。揺れの影響かはわからないけど気配がない今のうちに深層までは行かなきゃ。
「私が殿になるから準備ができ次第上りましょう。兄くん先行頼める?」
「だーかーらー、兄くんはやめろっていってるだろ仕方ねぇなー。」
苦笑しつつも縦穴を登り始めた兄剣士に続いて弟剣士、暫く一緒に警戒してくれた弓士ちゃんも登りはじめて最後に私もゆっくりと登り始める。三層程登ったところで私達の居た底の方から咆哮が聞こえてくる。まだ距離があると言っても追い付かれるとどれ程危険なのかも分からない奴等だ。先手を打つ。
「揺れるから落ちないように気を付けて!」
先行する三人に声を掛けてポーチから幾つかの薬の入った包みを取り出す。
「爆薬だって薬なんだからね?」
誰に言うわけでもなく得意気に言って素早く混ぜ合わせたそれを階下に落としそれを目掛けて火を点けた小型の松明を投げる。
火に炙られた爆薬は爆音と共に炸裂し揺れで脆くなった壁面を抉り階下へと降らせた。大穴を埋め立てるような大事は出来なくても時間稼ぎにはなるだろう。
「リーダー、流石、頼りになる。」
少し上で弓士ちゃんが称賛してくれている。私は照れて顔が赤くなっているのを自覚しながら先を急いだ。
この後も数度迎撃を繰り返しながら進み何とか正体の分からない魔物と接触することなく深層まで登ってくることができた。
弓士ちゃんの報告通り穴が反り返る形状になっていて上ることが出来ない。奥に進んで正規の縄梯子を使って中層に上らないといけない。
懐中時計の時刻は明け方に近い、日中であれば他の冒険者と共闘することも出来たかもしれないと少し後悔する。さっき出会ったあの単独冒険者さんは無事街についているだろうか?
一瞬救助隊を期待したけど洞窟内の異変が知られていなければそれも叶わない。楽観的な自分の思考を嗜めて周囲に気を配る。
「さあみんな、深層は私達にとっては厳しいところだけど撤退だけを考えてれば危険は下がるからもうちょっと頑張ろう。」
中層へ上がる縄梯子と低層へ上がる縄梯子の位置はかなり近い位置に設置されているので深層さえ抜けてしまえば生還率は大幅に上がる。ここが正念場だ。
街で集めた魔物の情報を駆使してやり過ごし、逃げ、時には撃退しながら深層を進んでいく。正体の分からない魔物は見かけない。まだ深淵の魔物達は上がってきてないんだと少し安心する。深層に現れる巨大な亀や鮫の魔物を巧く避けながら一時間程。中層への縄梯子が見えてきたときには張り詰めていた空気が漸く弛んだ。
立て続けに二階層を上り低層に付いたところで休憩にしようと提案して魔物避けの結界内に荷物をおろした私達の表情は明るく軽口を叩く程度には精神的にも落ち着いていた。
「それにしても爆薬まで自由自在なんてリーダーには逆らえねぇなぁ?テロとかやるなよ?」
「ひどーい。私の子とそんな目で見てたのー?」
「兄ちゃん、それじゃ誉めてるって伝わらないよー?」
「べ、別に誉めてねーし。」
「ん、実際リーダーは優秀。お陰でここまで戻れた。」
そんな会話をしていると誰一人欠けること無く戻ってこれたと実感する。このパーティーなら、これから先もやっていけると思える。
「それじゃあそろそろ帰ろうか。街に報告もしなきゃだし、多分討伐隊が組まれて大規模探索することになるかなー。」
「きっと、脅威度上がる。」
弓士ちゃんの言う通りに初心者から中級者までが適正だったこの洞窟の適正は大幅に引き上げられることになりそう。深淵の魔物は姿を見なかったけど咆哮を聞くだけで私達じゃ束になっても太刀打ちできないと簡単に悟れた。
思えば完全に気が緩んでたんだろう。生還しきった訳でもないのに先の事を考えるくらいには。忘れていたのだろう。浮かれきった冒険者を無事に帰す程ダンジョンは甘くない事を。
「嘘でしょ?」
洞窟の出口へと繋がる道は落盤で完全に塞がれていた。それどころか近辺の小さい洞窟や洞穴とか繋がってしまって低層全域が巨大な迷宮になってしまっている。これでもかと言うほど地形が変わり地図はもはや完全に役に立たない。生還を目前に浮わついていた心は叩き落とされ直面した事態に絶望が見え隠れしている。闊歩する魔物には中層の個体が入り交じり安全と決めつけていた低層はどれ程の危険度を孕んでいるか分からない。
「こうなったら全部吹き飛ばして!」
咄嗟に目減りした爆薬に手をかけた所で弓士ちゃんに止められた。
「落ち着いて。出口まで、どれだけ塞がってるかが分からない。使いきるの、危険。」
「そうだリーダー。多少状況は悪いが巻き返せない訳じゃない。俺達が浮かれちまってただけで其処まで深刻な事態じゃねぇ。」
「むしろしっかり休めたからまだまだ行けるよ!ね、兄ちゃん?」
「そういうこった。正規のルートは潰れてるがここまで洞窟が拡がったなら入り江や浅瀬に抜ける道もあるはずだ、最悪でも爆破一発で外に繋がるような外縁位はあるだろ。リーダーのお陰ででかい傷貰ったりはしてないから回復薬もまだ余裕あるだろ?」
「あ、うん。ごめんなさい。頭に血が上ってた。みんなありがとう、お陰で冷静になったよ。」
何とか士気を保った私達は徐々に、でも確実に先へと進んだ。
時間が経つにつれて魔物との遭遇が増えた。深層の魔物まで現れるようになって必死に身を隠しながら進んだ。我が物顔で闊歩する深層の大型の魔物達は嘲笑うように低層の海蛞蝓や中層の魔物達を蹂躙していく。
蓄積する疲労に足取りは重くなり今までは有利を維持していた戦闘も被弾が増え傷が目立ち始めた。最低限の回復薬で凌ぐことが出来ない大きな怪我も出始めこのままではいずれ詰むことが容易に理解できた。
「見ろよ。俺達はまだ女神様に見放されちゃいないみたいだぜ?」
先頭を進んでいた兄剣士が言った。大回りで一周してきたらしく其処は私達が最初に落ちた大穴がある広い空間だった。兄剣士が指差した壁は半分ほどが瓦礫の山になっていて僅かに朝陽が漏れていた。
「あそこを吹き飛ばしてここからオサラバしようぜ。」
みんな気を抜かずに周囲を警戒してる。此処で気を抜けば先程の二の舞になってしまう予感がしたから。
「手早く、慎重に。」
淀みない手つきで爆薬を調合し壁に仕込んでいく。手持ちの中で一番強力な爆薬。混ぜ合わせた瞬間から発熱が始まり臨界温度に達すれば頑強な鉄の城壁すら容易く溶解させる危険物。数多くの薬師の誰一人知らない私だけの武器。これを教えてくれた師匠は昔にダンジョンで散ってしまった。
師匠、師匠の残した禁断の爆薬。みんなの命を救うために使うことを許してください。
全ての仕掛けを終え足早に壁から離れる。
「みんな、出来るだけ物陰に隠れて伏せて!あれは一歩間違うと街ひとつ滅ぼすようなものだから。」
それを聞いた三人は信じられないと言う顔をしていたが私の真剣さが伝わったのか物陰に集まって爆発に備えている。数十秒が経ち、間も無く爆発する段階に来て異変は起こった。
「Grrrrrrrrrooooooooooo!!!!!!!」
深淵に繋がる大穴から大きな影が飛び出す。その影が勢いのままに壁に激突した瞬間に臨界を迎えた爆薬は内包する破壊と閃光と炎を解き放った。
一瞬にして膨れ上がった爆炎が一気に集束し高密度の火柱を形成する。その熱波に晒された洞窟の壁面はドロリと融解して溶岩溜まりを作る。本来の爆発と熱を内側へ集束するこの爆薬は範囲こそ狭いものの威力は小型の太陽を解き放ったかの様な代物。
・・・だと言うのに。
なんで【アレ】は生きている?
あの赤い閃光の中で。
形を保ったまま立っている?
やがて閃光は衰えを見せ、壁のあった先には洞窟の裂け目から朝陽が見えた。けして大きくは無いが人が出入りするには十分使える裂け目があった。
しかしその前に立ちはだかっていた。
閃光に舐められ全身が焼け爛れていた。
だがそれだけだっだ。
本来なら灰すら残らずに消え去っていなければいけないはずのそれは。
悠に人の三倍を超える巨躯で。
山羊のような頭を振り上げ。
ドラゴンの羽を広げ。
鬼と見紛う剛腕を備え。
蛇の如く長大な尾をうねらせた。
紅き三眼の、正真正銘のバケモノが。
最後の方の描写絶望感が少しでも伝わってくれれば嬉しいですね。
次の7話は更に救い用のない描写ができれば(o>ω<o)ーと思います。
と言うか乃夏くんまだ合流できないんですかね?時間かかりすぎじゃ無いですかねぇ?
まぁ、きっと彼も蛞蝓より強いのがわんさか湧いて苦戦してるのでしょう。
それでは第7話でまたお会いしましょう。