第3話~女神アレクシアとナガレ~
物語を進めるのはもう少し先の予定でしたがうちの登場キャラ達が早く出番を寄越せと騒ぐので世界が動き始めました。
※今更ですがこの物語には過度な俺TUEEEEEもハーレムもございません。ご了承ください。
足掻いて足掻いて一歩一歩前に進む子達を見守ってあげてくだされば作者と致しましては幸せでございます。
終わりの見えない真っ白な地平、見上げれば黄金に染まった黄昏の空。
余りの現実味のなさ故に漂う現実感は、何も語ることなく悠久の時を刻み続けていた。
「さぁ、起きなさい*****貴女もずっとこのままではいけないことは分かるでしょう?そろそろ次の旅路へついても良いと思いますよ?」
透き通るほどの美しい声の主の姿はまるで聖母の様に優しく温かで、英雄の様に気高く凛としていて。儚く崩れていきそうな憂いを帯びていた。
「フィーリス様、私はもう嫌です。誰かを信じることも信じられることも。誰かに裏切られることも裏切ることも。誰かを傷付けることも傷つけられることも。いっそこのまま此処で誰にも知られずに朽ちていきたいです。」
話し掛けられた少女は辟易とした様子で返す。その瞳は一切の光を宿すことなく冥く深い闇のような絶望に塗り潰されていた。
「何故私なんですか?こんな力も存在も、望んだ訳じゃないのに。」
少女は続ける。祈りのような憤りを、嘆きのような呪詛を。
「*****今の貴女には酷な言葉になりますが聞きなさい。」
フィーリスと呼ばれた女性は叱るでもなく慰めるでもなく、幼子をあやす子守唄を歌うかのように語った。
「私の存在、女神としての力だって望み得た物ではありません。女神としての讃えられ崇められたところで私程度の無力な力では何一つ護ることが出来ないのです。想い人にこの想いを伝えることだってこの身には過ぎた願い。世界をなげうって命を、存在を断とうとしたことだって一度や二度ではないのです。不安なのは、怖いのはわかります。ですが貴女が踏み出さなければ、求めなければ、手を伸ばさなければ。何かを手にする事も、何かを手にする機会だって訪れません。傷付くことを恐れないで?きっと傷だらけの道を越えた先にはそれに見合う大切ななにかがあるはずだから。」
「フィーリス様・・・・。」
「気負わなくて良いのですよ*****。役割に押し潰されては駄目、貴女は貴女の幸せを一番に考えても良いのですから。この旅の果てに、貴女の幸せがあることを祈っていますよ。」
少女は頷く。その瞳はいまだに絶望に色濃く塗りつぶされてはいたが、女神は知っている。少女が誰よりも人を愛し、人に愛されることを望んでいることを。半信半疑でありながらも、自らの殻を破り踏み出す決心をしたことを。不器用で良い、失敗ばかりでも良い。
「きっと、貴女をその闇から救い出してくれる人が現れますから。」
既に少女の姿はなく。女神と呼ばれた女性が1人佇んでいるだけだった。
「マスター。私は貴方の期待に応えられているでしょうか?貴方は今もこの世界で生きているのでしょうか?またいつか貴方の隣に居られるでしょうか?」
次第に掠れた涙声に変わった呟きは、誰に届くことなく虚空に呑まれていった。
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「此処が岬の教会か、どっちかというと聖堂みたいだな。」
翌朝、実際にはもう昼を過ぎていたが。俺は酒場のオヤジに教えられた教会に来ていた。牧師もシスターも必要としない教会は放牧に来る牛飼い達が交替で管理しているらしく無人ではあっても手入れの行き届いた綺麗な場所だった。街道も整備され、草原は時折野兎が駆け回っている程度の長閑な道だった。
教会の壁に掛けられた案内に俺のようなナガレのための託宣の儀式方法が記されていた。
「なになに?教会の最奥の小部屋にはいって備え付けの香を焚く、そして寝る・・・・。」
え?これだけ?寝るってなに?
詳しく読んでみるとどうやら託宣の受け取り手には本来なら負担がかかる儀式らしく、負担を軽減させるために特殊な香を焚いた中でも睡眠を取ることで掛かる負担と睡眠による回復効果を相殺させるのだとか。
「なるほど。考えても仕方無いしひとつやってみるか。」
棚に並んでいる香を持ち出し小部屋に入る。小部屋はまるで懺悔室のような狭い空間で光を入れるための小窓を閉めれば完全な暗闇だ。俺は置かれたテーブルに火を点けた香を置き1人掛けの小さな椅子に腰掛け窓を閉めた。
暗闇と静寂が支配する空間は自分と周りの境界がドロドロに溶けて混ざる様な感覚に陥る。充満し始めた香の淡い薫りに惹かれゆっくりと瞼が落ち次第に俺の意識は深い深い眠りの底へと沈んでいった。
『乃奏。・・・・初深乃奏。私の声が聞こえますか?』
真っ暗な闇の中。上下も左右も分からない浮遊感の中に俺はいた。正しくは俺の意識だけがそこに存在していた。
「聞こえる。貴女がアレクシア=フィーリスですか?」
『正しくはその一部。アレクシア=フィーリスの人格と感情を司る存在です。』
「一部。貴女は思念の集合体のような存在と言うことですか?」
『残念ながら。私は私を正しく定義する術を持っていません。貴方の質問に対する答えも曖昧なものになってしまいます。』
「分かりました。ひとまず俺は貴女の託宣を受け取ることに注力します。」
『お心遣い感謝します。』
自身の疑問を端に追いやり沈黙を貫く俺に女神アレクシアは語り始めた。
『まず最初に、この世界は無数の糸を束ねた一本の紐のような物です。幾つもの結末があり、またその全てが突然無に還る事もある泡沫の夢のような危うい均衡の上に存在する世界。』
『貴方方ナガレは、望む望まざるを問わずこの世界に選ばれた楔。均衡を保つための鍵のような存在です。故に常に一定の数が産まれ、また命を全うし死んでいきます。と言ってもナガレには特別な力も果たすべき役割も存在しません。思うままに生きていただければそれで十分です。』
それだけを伝えると女神アレクシアは黙ってしまった。
「まだ言いたいことがあるんじゃないですか?何の取り柄も無い俺で良ければ話してみてくれませんか?」
『本当に良いのですか?貴方の平穏を奪い死地に追いやることになってしまうかもしれませんよ?』
「構わないです。たぶん俺は他の【ナガレ】とは異なる存在なんでしょう?」
根拠も推測も無い、だけど何故かそんな気がした。そして俺のような特殊な【ナガレ】が他にも居るであろう事も。
『ならば貴方に1つ頼み事があります。貴方はこの先遠くない未来に心を閉ざした少女と出会うことになるでしょう、その子の支えになってあげてください。そして願わくばこの世界の謎を解き明かし【私】を見つけ出して下さい。無論、可能な範囲で。無為に命を落とすことの無い様に。貴方の人生を第一に考えた上で構いません。』
無言で頷く。眠りが浅くなっているのだろう意識が濁っていく。
『感謝します【縛られずの民】よ。貴方の歩む未来に幸多き事を。』
空間が純白に塗り潰され。俺の意識はそこで途絶えた。
第3話でした。
次回第四話は本日中に投稿できればと思います。
(投稿できなかったらごめんなさい。)