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君と出会う運命は真実に続く道  作者: 氷結みかん
壱ノ幕ー昔から変わってないと思うけれどー
2/8

第1話~「俺は何者?」~

と、言うわけで壱幕第1話でございます。

長くない(と言うかクソ短い)ので食後の一服のお供にでもどうぞ。


※未成年者の喫煙は法令で禁止されているので絶対に駄目ですよ!

 柔らかな朝の陽射しが瞼を叩く、背に優しげな大地と力強い草花の生命を感じゆっくりと身体を起こした。視界には穏やかな草原とそこに伸びる石畳の馬車道が続いている。


「さて、早々で悪いのだが誰か教えてくれ。俺は誰でなんでこんなところで寝ていたんだ?」


 投げ掛けた言葉はそよ風に浚われ草原の草花を撫でていった。どうやら現在俺は孤独の身らしい。


「どうしてこうなった。」


 俺の傍らに転がっていた肩掛けの鞄を自分の物だと断定して中身をまさぐる。日持ちのするパンと缶詰、ボトルに入った紅茶と地図の小冊子。通話端末と薄型のタブレット、それに繋がったヘッドホン。護身用の短剣、財布の中に小旅行出来る程度の金銭。


 見慣れているはずのそれらは何故か並んでいることに違和感を覚えたが些細な問題だろうと放置する。


「ちょっと状況整理でもしてみるか。」


 自分について考える。

 名前は初深乃奏(ハツミノカ)歳は23性別は男・・・・・まて、それだけか?


「何も覚えてない、思い出せない。俺は誰だ?」


 いやいやそんなはずはない寝惚けてるだけだ先に他を整理して脳を起こすとしよう。


 現在地について考える。

 陽の位置から考えてまだ朝だろう。9時くらいか?こんなときに限って腕時計も持ってないし携帯端末もタブレットもバッテリー切れで不安しかないが。

 一般冒険者御用達の軽装で野宿できていたと考えると南部大陸の草原なんだろう。もう少し経てば商隊馬車なり街道バスが行き来するだろう。幸い金はそこそこあるし今晩も野宿とはならないだろう。

 不幸なことと言えば何処から来たのかも何処へ行こうとしていたかも分からない覚えていない。せめてこの地図冊子が旅行のガイド本であったならよかったのに。


「洒落になってないんだよなぁ。」


 情報を整理して改めて思い知らされる。俺こと初深乃奏は【自分に関する記憶のほぼ全てが無い】覚えてることが【名前】【年齢】【性別】しかない。


「途方にくれていても仕方無いか。出来るだけ前向きに明るく楽観的に、取り合えず軽く食事にして近い街にでもいこうか。」


 俺の独り言に答える声は無かったが風に揺れる草花の優しい音は俺を慰めてくれているようだった。








 ーーー三時間程後。



 開き直って朝食を摂った俺は街道沿いを歩いていた。安定した気候の繁殖期とはいえ真っ昼間の陽射しは馬鹿に出来ないので陽を遮るものがない丘陵地帯は抜けておこうと思い南に歩を進めた。現在位置がおおよそにでも分かれば目的地を定めるのだがこればかりはどうしようもない。天気が良いお陰で方角がわかるのがまだ救いだろう。


「お、立て看板はっけーん。」


 街道沿いに点在する立て看板、街道整備が整っていない時代の商人達が立てた道標だ。


 エレクシア領サウスヴァレー

 北 首都フィストリア

 南 ポートルーシア


「よりによってここサウスヴァレーなのかよ。」


 南大陸の3割を占め2国に跨がる大丘陵サウスヴァレー。このまま南下してポートルーシアを目指したとしても今日中には辿りつかないだろう。逆に北上したとしたら首都までは馬車で7日、商人や旅人の立ち寄るような宿場村でさえ歩くと2日は掛かってしまう。頼みの綱であった街道バスもサウスヴァレーを縦断するものは存在しなかったはずだ。


「これは困ったことになったな。」


 困ったことが2つ。正確には困ったことと不可解なことが1つずつ。


 1つは食料があまりないこと。ポートルーシアへ行くとして順調ならば持つとはいえ少しでも停滞すれば底をつく程度の量しか残っていない。


 もうひとつの不可解なこと、自信に関する記憶がないのはこの際置いておくとして知識的な物についてだ。少しの違和感だったものが立て看板を見て確信に変わった。俺の中に蓄積されている知識を思い出しているのではなく見たものとそれに付随する知識があたかも昔から知っていることのように刷り込まれているような感覚、街の名前や国家について、地形や気候と国柄や種族。それらの知識がまるで俺が求めるがままに与えられているような感覚、手にした情報をもとにその先を思い出そうとするだけで降って湧いたかのように新たな知識や情報を手にしている。


「記憶喪失の弊害なのか?相変わらず自分の事だけは思い出せないのも不自然と言えばそうだけど。」


 物は試しと言うことで鞄から短剣を引っ張り出し鞘から抜く。やはりと言うか野性動物や魔物との立ち回り方が頭に浮かぶ、構えてみるとどう振るうのか、どう動かすのか身体は知っている。


「不可解どころか気味が悪いな、ここまで来ると。」


 情報を集めなければと思う。積極的に、貪欲に、質や量を問わずに。この現状を打破するためには知らなきゃいけないことが多すぎる。多分一人ではすぐに限界が来る。話し相手が欲しいと、そう思った。


「おう兄さん、そんなところに突っ立ってどうした?」


 気が付けば結構な時間考え込んでいたらしい、振り向くと体格の良い気の良さそうなおっさんが馬車からこちらに手を振っていた。







「兄さんは旅人かい?」


 数分後、行き足がない俺の事情をしった彼はポートルーシア迄の同乗を提案してくれた。金銭はあったので乗車賃を払おうとすると彼の仕事の補佐を持ち掛けられ、こうして馬車に揺られているのだった。


「説明するとややこしくなるんですが自分でも何故ここに居たのか分からないんです。」


「ほー。ってことは兄さんは【ナガレ】になっちまった訳か。」


【ナガレ】その単語を聞いた途端に例に漏れずそれの知識が頭に浮かんだ。便利なんだか恐ろしいんだか分からなくなってきた。



【ナガレ】

 主に繁殖期や豊穣期に確認される現象。

 記憶の一部、或いは全てを唐突に失ってしまう。

 観測された初期には一種の風土病かと思われていたが各国の至るところで確認され始めた為にその節は消え今では妖精の悪戯とか女神様の気紛れ等と呼ばれている。記憶が戻った例は極々少数で基本的に失った記憶は戻らないとされている。

 発生の条件は不明で発生確率は二千人に一人と言われている。

 尚、俺自身に起こっている記憶の刷り込みのような感覚とは一切無関係らしい。


「そのようですね、自分に関する記憶のほぼ全てが無くなっています。」


「そいつは災難だなぁ。もし良ければ暫く俺の仕事の相棒にでもならんか?兄さんは色々と見て回れる、俺は仕事が楽になる。良いことだらけじゃねぇか?」


「あー、考えておきます。」


「ガハハハ、振られちまったなこりゃ。」


 俺の少し困った表情を読んだ彼は冗談だと言って豪気に笑うのだった。


「俺はルーシアとフィストリアまでを行き来する巡業商のゲラスってモンだ。見掛けたら贔屓にしてくれよ?」


「俺は初深乃奏と言います、此方こそ宜しくお願いします。」


 二頭立ての馬車にすると半日も掛からない道程は話し相手に飢えていた俺にとってはあっという間の旅で気が付けば傾きかけた夕陽に照らされた港町の潮風に迎えられながらポートルーシアの関所を潜っていたのだった。




はい1話でした。


「は?ナニコレ?ヒロインは愚か女の子1人出てこないじゃねぇか!はぁーつっかえ(クソでかため息」


的な皆さんは生き急ぎすぎなのでもちっと待ってて下され。


次回第2話は早ければ今晩中、遅くても明日中には上げる予定です。宜しくお願いします。

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