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勇くんと12人の嫁  作者: 夏目八尋
第一章
16/39

第16話

 キュリオス村から行商人が去り、数日が過ぎた。


「それじゃあイサムさん、おさらいしますよ」

「ああ」


 シルクに見守られる中、俺は目の前の標的を見つめる。


「コッコッコッコ……」


 シルクの家で飼われている食用のニワトリ、ウィンチくん1歳。


「相手の内側に存在する水面に波紋を浮かべるイメージです」

「イメージ……」


 何度も繰り返したイメージを心の中に思い浮かべる。


(水面、響かせる……)


 自分の内側にあるマテリアル、その中でも破壊を司る力、ケイオスを引き出す。


『はーい』

「……」


 何度やっても龍の神様しか浮かばない!


「焦らないで、力のイメージを先ほど言ったイメージで染め上げて下さい」

「はい……」


 体内に存在する龍の神様、マテリアルの形をそのまま引き出す。俺の場合はそれでいい。そして、


「震えろ、響け……」


 詠唱し、力を発動させる呪文を唱える。


「……強振ショッケ!」


 噛んだ。正確には強振ショック


「コケッ!?」


 だが、俺の手の平から放たれた魔法の振動はウィンチくんを揺さぶり、彼の意識を刈り取った。近い内に彼はシルクの家の食卓に並ぶことだろう。


「コケー……」


 ぐったりと地面に倒れ伏すウィンチくん。動かなくなったところで袋に入れ、完遂。


「……」


 俺はゆっくりと振り返りシルクを見る。


「……」


 シルクはにっこりと笑ったまま、ゆっくりと頷いた。


「その法術、安定してきましたね」


 魔法というのは噛んでも発動するらしいと、その日俺は学んだ。


「魔法の振動を作り出して手の触れた相手を揺さぶり気絶させる法術。非殺傷で便利そうだからって覚えてから言うのもなんだけど、色々と悪用出来そうな魔法だよなこれ」

「信じてますから」


 その過程でシルクの笑顔には複数種類があることも学んだ。これは破ったら許しませんの笑顔。


「まぁ、法術も魔術も専門的な技術ですし、使える人は限られます。その理由についてはイサムさんならよーくお分かりですよね?」

「はい……」


 シルクから棘のある言葉をいただく。これにはわけがあった。


「精神衰弱っていうのはそうほいほい陥っていい状態じゃないんですからね?」

「はい」


 精神衰弱。体内のマナ、あるいはケイオスが0に近づいた結果起こる精神的な疲労状態の特に酷い物を指す。特定の病気に併発したり、魔法を行使し過ぎて体内のマテリアルを消費し過ぎた場合にも起こる危険な状態だ。正常な判断が出来なくなったり、意識を失ったり、最悪昏睡状態に陥り死に至る場合もある。


「確かにマテリアルは日々の鍛錬、繰り返しで器を広げ、術も習熟によって効率が上がると説明しました。自発的にマテリアルを消費した場合は睡眠などによって大幅に回復出来るとも言いました。でも、だからと言って毎日疲れきるまで法術の練習をしていいとは一言も言ってません!」

「ごめんなさい」


 この説教は法術の実技を学んでいる時ほぼほぼセットでついてくる。というのも俺はシルクから初めて法術の基礎の基礎である傷を癒す術を学んだその日、家に帰ってから倒れるまで術の練習をしてしまったのだ。幸いそのまま泥のように眠って目が覚めるとある程度元気になっていたが、俺の顔色を見たシルクが一発でそれを見抜いてこっ酷く怒られたことに端を発している。でまぁ、先ほどのシルクの言葉の通り、俺はそれに懲りずにさらに数日、寝る前に法術を練習してはぐったりと倒れるように寝る生活を繰り返してしまい、今に至る。子供っぽいと分かっているが、魔法が使えるのがどうしようもなく楽しかったんだ。


「毎日の鍛錬で少しずつ器は広がっていきます。無理に押し広げてもどこかで破綻する可能性の方が高いんですから、焦らないでくださいね」

「はい」

「本当に気をつけてくださいよ?」


 いつも通りの念押しをして、シルクがようやく溜飲を下げてくれた。俺のためを思って怒ってくれる彼女には感謝と、そして申し訳なさが満ちる。


(実は今も、夜中にギリギリの一歩手前までやってるとは言えないよなぁ)


 無理をした数日のおかげで自分の限界がどんな感じか掴んだ俺は、そこから自主練習の効率をあげることに成功していた。回復出来る限界まで練習して、翌日にはスパッと回復する。なんだか親に隠れてテレビゲームとか深夜番組を見た時のような、ちょっと悪いことをしているような気分も相まって、法術の自主練習はすこぶる順調だった。最初1日4回くらいだった治癒の法術なんか、昨日は8回も行使出来た。植物にも効くらしくって、ちょっと元気がなくなってたイチゴの苗も今はグッと茎を伸ばしている。イチゴは多肥に弱いからほどほどにしようとか考えたが、そもそも魔法は肥料になるんだろうか。


「……」

「あ」


 シルクがむくれている。


「私が心配したところで、イサムさんは聞いてもくださらないんですね……」

「わー! ごめん!」


 平謝りしながら、ちらりと彼女の髪を見た。そこにはプレゼントした花を模った髪留めがしてある。俺がプレゼントした髪留めを、あれからシルクは愛用してくれていた。


「実際、イサムさんの法術の習得速度には目を見張るものがあります。頑張った分だけ身になっているのだと思います。でも、剣の稽古だってしてるんですから無茶したらダメですよ?」

「ありがとう。気をつけるよ」


 朝農場、昼社会と法術の勉強、夕方前に剣の稽古とトレーニング、夜に法術の復習。頼まれごとをこなしながら基本的にはこのサイクルで繰り返す日常にも慣れてきた。出来ることが増えていく実感は、何よりも俺の楽しみだった。っていうか、この村の娯楽場が酒場と賭け事好きの小作人さん相手のカードゲームくらいしかないのもいけない。


「絵本はあっても"漫画"はないんだよなぁ」

「Manga?」


 ちょっとだけあの吹き出し付きのコマ達が恋しい。


「絵本といえば、あの物語人気なんだって?」


 今日の法術の訓練を終え、俺とシルクはいつものテーブルに腰掛けのんびりしていた。ふと思い出したことがあり、それをシルクに聞いてみた。


「魔王勇者物語」

「あー、学園でも流行ってましたよ」


 数年前から刊行され始めた絵本シリーズで、大いなる力を持った魔王とそれに立ち向かう勇者が、時にライバルだったり、時に父と子だったり、時に恋人になったりと様々なパターンで描かれているのが特徴だ。半年に一回王都の出版社から発売されるそれは全世界的に大人気らしく、六賢種全ての言語に翻訳され発売されているという。幻の存在である巨人種の言語、テトテト・エンシェントも例外なく翻訳されている徹底ぶりで、それもまた一部のマニアに売れているそうだ。この間最新刊が行商人のお店に並んでたからジョルジュのために買ったのだが、ジョアンさん含めて大層喜ばれた。


「あれ、何で毎回魔王が勝つんだ?」


 魔王勇者物語の大きな特徴、その二つ目。二人の戦いは必ず魔王が勝つ。この国の現状を考えると、そういった展開の内容だと検閲に引っかかるんじゃないのかと思うのだが、実際は逆で国を挙げて販売を推奨しているらしい。確かにその結末だけ見れば気になるが、そこに至る物語運びなどが秀逸で、俺のような外の人間としては毎回同じオチが待っていることへの安心感だってある。ヒュリム国の懐は深い。


「噂ですが、作者が魔人種だとか、王が戦争を止めるために友好の証として描かせているだとか、色んなお話を聞きますね」

「つまりこれっていう理由は分かってないのか」

「そうですね。ですが事実魔王勇者物語の流行の後、デモルファス28世がヒュリム侵攻を止め、世界に向けて自身への勇者の挑戦を歓迎する宣言をしたのは記憶に新しい出来事でした。その時はみんなして、魔王もこの作品のファンに違いないって、まことしやかに語り合ってました」

「へー」


 現魔王様の考えていることはさっぱり分からない。ただのパフォーマンスか、あるいは。


「ただ、そうして魔王が迎え撃つ構えを取ってしまった結果、暴れる先を失った末端のデモン兵が勝手に侵攻して拠点を襲う事件が起こるようになって、それに伴ってこの間みたいな強盗まがいのことをしたりする輩も増えました」


 大きな戦こそないが、小さな争いは絶えなくなった。そんなところか。


「だからこの間の行商人、サニーも護衛を雇ってたんだな」

「ですね」


 今日日一人でのんびり街道を歩くなんてのは難しいらしい。王都に店を開くと言っていた彼女も、その旅路には用心として3人の護衛が付いていた。シルクとアルカがジョアンさんにくっついて帰ったのも、彼の旅の安全を懸念してのことだったのだろう。実際それは吉と出たわけだから、まさしく備えあれば憂いなしだ。


「俺に剣の腕と法術が身に付いたら、ああいった護衛みたいな仕事も出来るのかな?」

「イサムさんは農家になるんじゃないんですか?」

「もしもの話、かな」

「もしも、ですか」


 そう、もしもの話だ。


(もしもあのイチゴが新しい苗を作れなかったら。もしも何らかの理由で失われてしまったら)


 俺のやりたかった農業は出来ずに終わる。俺の夢はそこで潰える。


「今はまだ、俺に何が出来るか分からないから、もしもを沢山考えて、色々なことを知りたいんだ」

「なるほど」


 それでも俺はこの未知ばかりの世界で生きていかなきゃいけない。そう考えた時、自分の歩める道の数は多いに越したことはなかった。それくらいを考える余裕も、ようやく俺に出来始めていた。


「それなら、冒険者という道もあるかもしれないですね」

「冒険者、か」


 自ら危険を冒す者、それが冒険者だ。この世界における冒険者は、ヒュリムの非政府組織、冒険者ギルドに所属している者を指す言葉でもある。彼らはギルドに舞い込む依頼をこなし、その働きに見合った報酬を得て日々の営みを重ねていく。当然そこには荒事や人がやりたがらない仕事などがあるし、依頼を受けた以上は覚悟をもってことにあたる必要がある。まさに自ら危険を冒す者だ。


「数多の冒険を駆け抜け目指せ勇者!」

「あはは、実際はとっても難しいと思いますよ」


 さっき物語の勇者の話が出たが、その勇者が現れやすい三大職業の一角がこの冒険者だ。命を担保にするくらいハイリスクハイリターンなのだから納得である。そうでなくても一山当てれば普通に生活していては辿り着けない贅沢な暮らしに手が届くかもしれないとあって、何万人という数の人々が冒険者になるんだそうな。人は夢を追う生き物だって誰かが言ってたが、その急先鋒だと思う。


「俺には向かないだろうなぁ」

「……イサムさんはのんびり、自分の生活を少しずつ豊かにする方がいいですよ」


 シルクの言葉に深く同意する。俺の夢は持ち込んだイチゴを増やし出荷が出来るほどにして、一角のイチゴ農家になること。こっちはこっちで大変なことが沢山あるけれど、冒険者に比べれば落ち着いたものだ。


「シルクはどうするんだ?」

「はい?」

「学園を卒業して、故郷に帰って。でも、お父さんには家を継ぐ必要はないって言われてるんだよな?」

「そうですね。鍛冶家業は弟子のコナーさんが引き継ぎますし、私が家を継ぐことはないと思います」


 この世界、ことヒュリム国の一般層において家の家業を継ぐというのはそんなに重要視されていない。適材適所、出来る者が相応しい仕事を行うことが推奨されていて、職人の弟子入りや商人の丁稚育成など、学園による教育に限らず様々な育成にこの国は力を注いでいる。地図を見せてもらったことがあるが、ヒュリム国は他の5つの国に全方位を取り囲まれる立地で、200年を越える歴史の間、他国と密接に関わり続けてきたんだそうな。その分色々ちょっかいも出されてきたし、それに対抗するために綿密な教育政策が採られてきたのだという。村に立派な私塾なんてものがあって教育が行き届いているのも、そうしたお国柄が出ているわけだ。そうじゃなきゃ生き残れない、と。


「シルクは自由の身なわけだ。となると、何でも出来る」

「そうですね」


 俺の言葉に頷いたシルクがポツリと呟いた。


「……一応、決めてはいるんです」

「お、何になるんだ?」


 シルクの法術の腕前があれば、先生とか治癒院を開いたりとか色々と出来そうだと思う。


「……」


 でも、俺の問いかけに対してシルクの返事はなくて、代わりにどこか恥ずかしがるような、照れたような、怖がっているかのような複雑な顔を彼女はした。


「まぁ、言いにくいんならいいと思う」


 言い淀んでいるシルクから無理矢理聞くのも筋じゃないと、俺は問いを切り上げた。


「将来については考えないとなぁ」

「農家になるという話ではなく、ですか?」

「それに関連して、かな」


 神様に願った本来紡ぐはずだった真っ当な人生の履行。幸せに暮らすための設計図について。


「ほら、いつかは農家として立派に一人立ちして、その後はお嫁さんもらったりしてさ」

「お嫁さん……」

「子供に恵まれて、幸せな家庭を築いてその子達を立派に育て上げて、孫に囲まれたいとか、そういう」

「お嫁さんに、子供! そ、そういう話ですか!?」


 妙にシルクの食いつきが良い。


「シルクは子供好きだよな」

「は、はい!」

「だよな」


 俺とこうして授業する前は、私塾の先生のお手伝いをして村の子供達に勉強を教えている。その慕われっぷりはちょっとしたもんだ。何度か高い高いをしてあげているところを見たが、大人気過ぎて子供達に囲まれて動けなくなっていた。


「イサムさんは、作るとしたら子供は何人くらい欲しいんですか?」

「そうだなぁ。やっぱり作れるならいっぱい作りたいよな」

「いっぱい……!」


 大規模農業を視野に入れるなら、大勢の人手がある方がいい。二人くらいの子供に、小作人もいっぱい雇おう。賑やかなのはきっと楽しい。それに、そうして作った視界一面に広がるイチゴ畑はきっと壮観だ。


「沢山育てて、どんどん作りたいな」

「そ、そんなにですか?」

「ああ!」

「~~~!!」


 どうやらちょっと大言壮語だったらしい。俺の夢語りにシルクが恥ずかしそうにしてしまっていた。


「ちょっと夢を語り過ぎたかな」

「いえ、その、すごいと思いました」

「あはは」


 顔を背けたシルクからの精一杯のフォローが気恥ずかしい。でも、一歩ずつ実現に近づけて行きたいと心から思う。


「何をするにもまずは自分がしっかりしないとな。とりあえず一本、アルカから取れるようになる!」


 そろそろ剣の稽古しにアルカがやって来る時間だ。俺は席を立ち、訓練用に刃引きされた鉄の剣を手に取る。ブローチをプレゼントした日を境にアルカの訓練が厳しくなったが、より本格的になったのはいよいよ自分の自信に繋がってくる。


「頑張ってくださいね」


 シルクからの応援に気力も回復。さっき行使した法術で消耗した分も取り返した気分だ。


 そうこう準備している内にアルカがやって来た。


「おー、なんか気合入ってる?」

「こんにちは、アルカ。今日こそは取るよ」

「いやいやいや」


 こちらの気迫を物ともせず、アルカがふにゃっとした笑顔を向ける。胸当ての奥にちらりとプレゼントしたブローチが見えた。


「武器変えてからまだ慣れてないでしょ。調子に乗ると怪我するから気をつけてね」

「それはどうかな。そっちこそ舐めて掛かると痛い目見るかもしれないぞ?」


 軽口を叩き合う。正直実力的には足元にも及ばないが、始めた頃に比べれば打ち合える数も増えてきた。


「二人とも程々にね」


 今日は観客もいる。ちょっと無様なところは見せられない。


「構えて」

「ああ」


 剣の柄を強く握り、アルカにその剣先を向ける。


「準備はいい?」

「もちろん」

「じゃあ、始め!」


 そうして俺は今日も変わらずアルカに挑み掛かるのだった。


   ※      ※      ※


 時を同じくして、それは起こっていた。

 王都と各町を結ぶ街道を警護する巡回兵士の一団が、道端にたむろする八人程の魔人種を発見した。


「おーい、お前達。そこで集まって何をしている?」


 巡回兵士の班長を務める男が代表して声をかけ近づいていく。


「おお、これはこれは巡回兵士の皆さん。お疲れさん。俺達は旅の冒険者で、今は移動中の身だ」


 おそらく集団の長だろう、魔人種の中でもオーガ族と呼ばれる体格のいい男がそれに応えた。


「そうか、なら冒険者の証は出せるな?」

「ああもちろん。ところで兵士さん。普通、巡回兵士ってのは一人で回るもんじゃないのか?」


 冒険者の身分を証明するカードを差し出しながら、オーガの男が問いかける。カードを受け取った巡回兵士の班長は苦笑しながら答えた。よくある光景だ。


「秋の頭頃の話だが、ここの近くでデモン兵を名乗る二人組が捕まってな。万が一に備えて巡回する人数を三人に増やしているんだ」

「本当に迷惑な話だ。俺達流れの魔人種の肩身が狭くなって、どこに行くにも面倒臭い」

「気を悪くしたならすまんな。何分このご時勢だ、冒険者にはむしろ頑張ってもらいたい。名前は、オルコか。今から証の照合をするから少し待ってくれ」

「へへ、それにはおよばねぇよ」


 その時、少し離れたところでことの推移を見守っていた巡回兵士の一人が声を張る。


「ジダン! そいつ短剣を抜いたぞ!」

「!」

「遅い!」

「うぐっ!」


 注意に警戒を強めた時にはもう遅く、オーガの男、オルコの手に握られた短剣は深々と巡回兵士の班長の腹に刺し込まれている。


「貴様ら!」

「南の兵士ってのは本当に平和ボケしてやがるぜ!」


 サーベルを抜刀する兵士達に、魔人種の一団は一斉に己の剣を抜き放つ。彼らの手にした刃にはデモン国の紋章が刻み付けられていた。


「あのバカヤロウ共が火遊びしてとっ捕まったから計画がずれ込んじまった。とっとと村一つ潰して、その手柄持って帰るぞ!」

「おう!」


 オルコの号令に一団は統率の取れた声を上げる。それは誰が見ても組織立った動きであった。


「やらせるか!」

「待て、シジェン!」

「オラッ、くたばってろ!」

「ぐぁぁっ!」

「シジェーーーン!」


 巡回兵士達は臆さず果敢に挑むも多勢に無勢。あっさりと返り討ちに遭いその身を血に染める。


「目指すはジルヴィス村だ。キュリオスの方が近かったが割に合わねぇからな」


 忌々しげに口にするオルコに、傍に控える小柄で羽を生やしたインプ族の男がデモン語で話す。


「あいつらを捕らえた凄腕に加えて、魔物を素手で倒した男なんてのもいるそうですからね!」

「ま、とにかく村一つ潰せばいいだろ。さくっと終わらせるぞ」


 そうしてデモン兵達は己の目的を果たすべく歩き始める。残されたのは二つの屍と、


「……う」


 一人の生き残り。


(キュリオス村には、あれに対抗出来る人が、いる……少なくとも時間を稼いでくれた、なら)


 傷ついた体を無理矢理起こし、巡回兵士の生き残りは鎧を脱ぎ捨てる。身を軽くしたところで、彼は気力を振り絞って駆け出した。


「はぁ、はぁ、はぁ……!」


 一縷の希望に賭け、血が噴出すのも気にせず兵士は駆ける。

 そんな大事が近づいてきているなんて、その時アルカと剣を交えている俺は知りもしなかった。


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