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いかつい兄とロリ双子  作者: 赤雪トナ
9/15

8 芋ほり

 九月もそろそろ終わるという頃、藤井宅に一本の電話がかかってきた。

 ちょうど揚げ物をしていて手が離せなかった透は、星乃に出てくれと頼む。実星は歩けるくらいには回復したが、急に立ち上がったりはまだ避けた方がいいのだ。


「はい、藤井です」

『その声は星乃か? 賽多津の爺ちゃんじゃ。元気にしとるか?』


 電話先の相手は賽多津というところに住んでいる、母方の祖父だ。

 賽多津はここから一時間ほど電車で北に行ったところにあり、父方の祖父母がいるところよりも近いため遊びに行く頻度が多い。


「おじい? うん、私は元気だよ」

『そうかいそうかい、いいいことじゃ。透は今いるのかい』

「にいちゃんは料理してて離れられないの」

『おや、そうか。だったら星乃から今度の土日にうちに来れるか聞いてみてくれんか? そろそろ芋ほりの時期なんじゃよ。去年もやったろう?』


 わかったと返した星乃は受話器から顔を離して、透に顔を向ける。


「どっちの爺ちゃんなんだ?」

「賽多津のおじい。芋ほりの時期だから、今度の土日来れるか聞いてみてくれって」

「ああ、そんな時期なんだな。俺は大丈夫だけど、二人は遊ぶ約束とかはないのか?」

「だいじょーぶ」


 私もーっと座っている実星が手をあげて答えた。


「だったら爺ちゃんに行けると伝えてくれ」


 頷いた星乃は受話器に顔を戻し、透からの返答を伝える。


『これるか! そうかいそうかい。婆さんも楽しみにしとるよ。じゃあ土曜にのう』


 上機嫌とわかる声音で別れを告げて、祖父は電話を切る。

 双子も祖父母の家にお泊りだと楽しそうな様子を見せていた。

 透も自分よりもはるかに美味い祖母の手料理を楽しみに思いながら、料理を仕上げていく。

 そして土曜日の午後、学校から帰ってきた透は昨日のうちにまとめていた宿泊用荷物を持って双子と家を出る。祖父母には今からでると電話しておいた。

 駅まで三十分ほど。ついた駅で、自分たちで切符を買いたいとねだる双子にお金を渡し、ジュースを買って電車に乗り込む。

 電車に揺られること一時間。車内から見える風景から徐々に大きな建物が減っていっていた。


「そろそろ着くぞ。降りるからな」


 聞こえてきたアナウンスに透は、自身に両側から寄りかかってうとうととしていた双子を起こしつつ言う。


「もうつくぅ?」

「つく?」

「ああ、ほら電車の速度が落ちてるし、外は見覚えのある風景だろ?」


 ぐぅっとのびをした双子は外を見て、透の言う通りだと頷き合う。

 止まった電車から降りて、改札口から出ると到着を待っていた祖父が孫の到着を喜びながら、ここだと手を振る。


「三人ともよく来たな」

『おじい、こんにちは』

「爺ちゃん、久しぶり」


 うむうむと頷き、双子の頭を一撫でして、三人を車に乗せる。

 祖父母の家までは車で十五分。畑までは二十分と少しといったところだ。

 

「まずは畑に向かうが、それでいいかの?」

『うん』


 畑近くの空き地に車を止め、芋ほりに必要な物を持って畑に向かう。

 ここら一帯は市が貸し出している畑で、祖父母は趣味で農業をやっている。


『こんにちはー』

「はい、こんにちは」


 農作業中の人たちに双子が元気に挨拶し、相手は微笑みながら作業の手を止めて挨拶を返す。

 すぐに祖父母の区画に着く。祖父母の畑は縦六メートル横十メートルの広さで、一ヶ月四千円で借りている。農機具も格安で借りることができるため、農作業をする人が準備するものは種や苗や肥料くらいだ。

 今祖父母たちの畑は半分が芋で、もう半分は冬に収穫する大根と白菜が植えられている。

 芋の方も三分の一が引き抜かれていて、今はなにも植えられていない状態だ。


「早速抜いてみようかの」


 どれでも好きなものを引き抜いていいということで、双子はそれぞれ早速近くにあった芋の茎を引っ張る。

 土の中から赤紫の芋が顔をのぞかせ、三つの芋が引っこ抜かれてた。


「とれたー!」

「とれたよ、にいちゃん! おじい!」


 嬉しそうにとれた芋を掲げる双子。

 その様子を透は写真に撮る。


「いい大きさだな。俺も早速抜いてみるか。二人より大きな芋をとってやろう」

「負けないよ」

「私も!」


 頑張れと笑いながら祖父は応援し、取れた芋を持ってきていたダンボールに入れる。

 次々と抜いては大きさを比べ、勝った負けたと嬉しそうに話す三人。


「うわっ」


 勢いよくひっぱりすぎたか、星乃がしりもちをついた。


「なにしてるんだ」


 笑いながら透が手を取って立たせ、お尻についた土を払う。


「土とれた?」

「うん、綺麗にとれたぞ」


 ありがとうと礼を言って星乃は実星の隣に行って、また芋を抜き始める。

 そうして三十分ほど過ぎて、芋の収穫は終わった。


「たくさんとれたのう」


 ダンボール一杯の芋を見て双子ははしゃぐ。


「家に帰ろうか、ばあさんが首を長くして待っとるだろうよ」

「爺ちゃん、俺がダンボール持つよ」

「助かる、ありがとうの」


 ずっしりとした重さのダンボールを持ち透は歩き出し、その両隣を双子は歩く。


「にーちゃん重くない?」

「重いけど大丈夫」


 聞いてくる実星にそう返す。実際、実星を抱っこしたときよりは楽なのだ。

 運んだダンボールはトランクに入れて、家に移動し、すぐに到着する。

 着替えの入ったバッグは祖父に任せて、透はダンボールを持つ。


『おばあ、来たよー!』


 双子は玄関をガラリと開けて、そこから祖母に声をかけて中に入っていった。

 芋を玄関の端に置いて、透も祖父と一緒に上がる。


「ようきたようきた。元気そうでなによりだ。芋を焼いてるからおやつにしようね」


 双子に抱き着かれ、祖母は満面の笑みを浮かべつつ言う。

 芋は数日前一足先に収穫したもので、祖父が三人を迎えに車をだしたときに庭で焼いていたのだ。今は火も消え、ほどよく温度も下がり問題なく取り出せるだろう。

 祖母は拾い上げた芋についた煤をハケで払い、丸々とした芋を透と双子に渡す。

 渡されたそれを三人は真っ二つに割ると、もわっと湯気上がり、黄色い中身が現れる。

 かぷりと噛みついた双子は、ほくほくとした食感と優しい甘さを舌に感じた。


「美味しいよ!」

「うん、美味しい!」


 この喜びの感想だけで祖父母は芋を作ったかいがあったと思う。

 透も食べて味に満足しているが、ふとこの芋の調理方法に考えが向き、微妙な表情になる。


「透の口には合わんかったかの?」


 そう聞く祖父の声音には少しだけ寂しそうな感情が込められていた。

 今の若い者は芋などでは喜ばないのだろうかと思ったのだ。今年は受験もあるし、誘ったことは迷惑だったかとも考える。


「いやいや美味しいよ。この芋をどう調理するかって考えてね、思わずそういった考えになることで、普通の男子高校生からずれてきてるなぁと思ってたんだ」

「そうだったか。呼んだことが迷惑になっていないようでよかった」

「みほしのが喜ぶし、迷惑とか思ってないよ」


 ほっとした様子の祖父母に、透も傷つけなくてよかったと安堵する。

 迷惑ではないというのは本当だ。言ったように双子が喜ぶし、勉強の日々のいい気分転換になる。

 芋を食べ終えて、透は持ってきていた教科書でも読もうと思っていたが、双子に誘われて庭で遊ぶことになる。


「何して遊ぶんだ」

「ボールがあるはずだから、バレーやろう」


 実星が言い、星乃が頷く。

 ボールは庭隅の箒などが置かれているところに、一緒に置かれていた。


「とーう」「そりゃー」「よっと」


 ボールをポーンポーンとトスで飛ばしあう。

 それだけでも楽しいのか、それとも兄が一緒なのが嬉しいのか、はたまた両方か、双子は笑顔で遊んでいる。

 その様子を祖父が縁側に座って、農業関連の本を読みつつ眺めている。いつもより騒がしい家に上機嫌な様子だ。

 ボール遊び以外にも、肩車して庭を歩き回ったりしているうちに、日が傾き始め家に入る。

 双子はリビングでテレビを見て、透は祖母が料理の準備を始めているのに気づき、キッチンに入る。


「また隣で見てていい? ちょっとしたことも手伝うよ」

「いいよ。こっちにおいで」


 祖母は手招きする。何度かこういったことはあり、断る理由もない。妹たちのためにレパートリーを増やしたいというのだから、微笑ましくて断る気は欠片もない。

 いつか双子と一緒に料理する機会はあるかもしれないと思っていたが、透と並んで料理することになるのは意外だった。だがこういうのも楽しいものだった。

 笑みを浮かべる祖母に透は献立を聞く。


「かぼちゃのそぼろ煮、サバ味噌、レンコンのきんぴらだよ」

「いいね、美味しそうだ」

「腕によりをかけるよ」


 楽しみにしててなと言って祖母は腕を動かし、透も手伝う。

 煮崩れしないコツや味が染み込むコツ、最近できた茉莉子という家事仲間といったことを話しつつ料理は進んでいく。

 七時頃にご飯が炊けて、夕飯が始まる。


「やっぱり俺が作るよりも美味いなー」


 かぼちゃのそぼろ煮を咀嚼し飲み込み、感想を漏らす。


「にいちゃんの料理も美味しいよ」


 口の中のものを飲み込み星乃が言う。実星もそれに頷く。

 

「そっか。美味しいって言ってもらえるのは嬉しいけど、やっぱり年季の差はいかんともしがたいね。今後も精進しないと」

「手を抜かず、しっかりとやってれば腕はどんどん上がっていくさ」

「透は将来料理人を目指すのもありか?」


 祖父の言葉に透は首を横に振った。

 そこまで料理のセンスがあるわけではないと、この数ヶ月でわかっているのだ。双子に美味しいものを作れればそれでよかった。

 

「将来に関してはこれといった予測ができないなー。五年後くらいはなにしてるんだか」

「普通に過ごしたら、大学卒業しているんだっけ? どこかに就職してるか、就職活動中かだねぇ」


 祖母の予想に、そんな感じだろうなと透は頷く。

 今のところ、どこかの会社に就職しているのだろうというおおまかな推測ができるくらいだ。


「みほしのは高校受験くらいか。これから成長期だろうし、見違えるくらいに見た目が変わってんのかね」

「そうね。体にメリハリが出て、元がいいし男の人に声をかけられたりするかもしれないわね」

「ちゃらんぽらんな男についていってはいかんぞ?」


 双子は祖父の注意によくわからないまま頷く。


「そんな男と付き合いだしたら、俺は別れるよう言うべきなんだろうか? それとも本人が望んでるから見守るべきなんだろうか?」

「そのときになって悩みなさいな。今から考えるには早すぎるわよ。お爺さんも変なことを言わないの」

「いやもとはお前が男に声をかけられるとか言ったからじゃろうに」


 未来を話したり、最近起きたことを話しながら夕食は進んでいき、テーブルにあったものは綺麗になくなった。

 風呂に入り、時間も九時を過ぎて、双子は祖父母と一緒に眠る。

 透はテレビから流れてくる音をBGMに勉強をして、十一時を過ぎた頃布団に入った。

 翌日、朝食を食べてゆっくりと過ごし、少し早めの昼食を食べてから、祖父に駅まで送ってもらう。

 お土産にビニール袋いっぱいの芋をもらっている。

 マンションに戻ってきた三人は、家に入る前に綾達の家のインターホンを押す。


『はーい』

「透です。おすそわけを持ってきました」

『あら、ありがとうね』


 ドアの向こうからパタパタと足音が聞こえ、すぐにドアが開く。

 透が持っているカバンを見て、綾は首を傾げた。


「こんにちは。三人でどこかに行ってたの?」

「おじいとおばあのところ!」

「泊まってきたの」

「賽多津というところにいる祖父母に呼ばれて、昨日から行ってたんですよ。祖父母の畑で芋がとれたんで、そのおすそわけです。どうぞー」


 四本小分けしていた芋の入った小さなビニール袋を綾に差し出す。

 それを礼を言って受け取る。少し芋を見ていた綾は自信ありげな表情を見せる。


「おイモをイモうとたちと掘りに行ったとき、ポテット落としたりしなかった?」

『おーっ』


 乾いた笑みを浮かべる透に反して、双子は純粋な笑いと上手いこと言ったという感心の表情を浮かべて手を叩いてる。

 その反応に嬉しそうな笑みを見せる綾。

 ダジャレから話をかえるように、透は考えていたことを口に出す。


「あ、そうだ。芋のモンブランを作りたいなと思ってるんですけど、綾さん作り方を知ってます?」

「知らないなぁ。一緒に作る? 興味あるし」

「よければお願いします。綾さんお菓子作り上手ですし」

「じゃあ、来週の土曜日までに作り方を調べて、材料を準備しよう」


 ケーキを食べることができると双子は両手を上げて喜んでいる。

 その双子に綾は頑張って美味しいケーキを作るねと言って、双子とハイタッチをする。

 後日作った芋のモンブランは里紗も一緒に五人で美味しく食べた。

 それでも芋は余り、てんぷらやレモン煮にして腐らすことなく食べきった。

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