6 怪我
九月もそろそろ終わりが見えてきて、夏の暑さも遠のいた。
今日は雨で、一段と肌寒さを感じる。
昼休みを終えて、五時間目が始まる。実星のクラスは体育で体育館に集まった。
「せんせー、今日はなにするの?」
生徒の一人が手を上げて一恵に聞く。
「今日はバスケの3on3をやるわ。コートの左右を使って二戦同時にやります。一試合十分で、点数を入れるたびに攻守交代」
「チームわけはどうするんですか?」
「出席番号順に三人ずつ。試合も出席番号一二三対四五六といった感じ。じゃあさっそくわかれてちょうだいな」
実星の試合は次なのでコートの端に座り、柚子といった友達の応援をする。
試合をしている生徒たちが動き、トタトタといったものやキュキュキュッという足音、ボールの跳ねる音が体育館に響く。
昼休みに濡れた上履きで体育館に入った生徒がいたのか、少し滑る。バランスを崩した生徒を見た一恵は一度止めて、モップでコートを生徒たちにふいてもらい試合を再開する。
一恵が終了を知らせるホイッスルを吹く。
「はーい、交代よ」
試合をしていた生徒たちがコートから出て行き、実星たちが入る。
出席番号の近い者で集まり、実星と同じチームには久木がいる。
「ライバルであるお前と組むことになろうとはな!」
「不満なら相手チームと交代する?」
「いやたまには力を合わせるのもいいだろう! 俺の足を引っ張るんじゃないぞ」
「やれるだけやるよ」
久木が相手チームの一人とジャンケンし、向こうが先行になる。
実星たちはばらけて配置し、相手チームを迎え撃つ。
競い合いってきたことが相手を知ることになったのか、実星と久木は互いにどう動くかなんとなくわかり、わりと連携がとれていた。
数度攻守を交代し、試合終了まであと二分といったところで実星たちが攻める側になる。
久木がボールを持ち、前を相手が塞ぐ。
「藤井っパスだ!」
両手でボールを実星へと飛ばす。
声をかけられた実星は、ボールを受け取るため止まる。だが床の乾きがあまかったのか、踏ん張れずに足を滑らせる。足下に気をとられた実星は、飛んできたボールを取り損ね、でこで受けることになった。
「うきゃんっ!?」
頭部に感じた衝撃に踏ん張ろうとし、床が滑るせいで踏ん張ることはできず、足におかしな具合に力を込めて倒れる。
すぐに一恵と柚子が駆けつけて、実星のそばにしゃがみこむ。
「藤井さん、大丈夫?」
「だ、大丈夫。ありがと……い゛っ!?」
起き上るのに手を貸してくれた柚子に礼を言って立ち上がろうとして、右足の足首に激痛がはしる。
立つことができず、膝をつく。
「どうしたの? やっぱりどこか痛めた?」
「右足の足首が」
「右足ね?」
一恵は実星を座らせ、足を伸ばしてもらい、足首にそーっと触れる。
「っ!?」
少し触れただけだが発せられた痛みに体を震わせる。
「捻挫かしら。私じゃ判断つかないわね。ちょっと保健室にいきましょう。青江さん、先生が戻ってくるまで時間の管理をお願いできる?」
「わかりました」
「藤井さんのかわりは誰か入って、試合を続けてちょうだい。さ、行きましょう」
一恵は実星を背負って、保健室に向かう。
足首を保険医に診てもらい、いくつかの質問をされたあと応急処置を施してもらう。
保険医の見立てでは捻挫だが、念のためレントゲンでしっかり調べた方がいいということで、病院に行くことになる。
一恵は実星の服とランドセルを教室から持ってきて着替えを手伝い、あとは保険医に任せて体育館に戻る。
保険医は車で実星を整形外科のある病院に連れて行く。そこで怪我をした状況を医者に伝えて、診てもらう。
レントゲンを使用した診察で、骨に異常はないとわかり、捻挫と確定した。
◆
五時間目の数学を終えて教科書を片づけ、六時間目の音楽の教科書を出している透はポケットに入れている携帯が振動しているのに気づく。
変なところからのメールだろうかと思いつつ取り出し、画面を見る。表示されている文字を見て、一瞬見間違いかと思う。
「小学校?」
「どうした?」
不思議そうでありながら不安そうな表情も浮かべた透に圭吾が尋ねるが、手の向けて待ってくれと示す。
「はい、藤井です」
『お久しぶりです。藤井実星さんの担任の早田一恵です』
「お久しぶりです。実星がお世話になっています。今日はどのようなご用件でしょうか?」
『さきほど私どものクラスは体育だったんですが、授業中実星さんが怪我しまして』
「えっ!?」
透は背筋にひやりとしたものを感じ、がたんっと立ち上がる。
いきなりな行動に圭吾のみならず、教室中の注目を集めるが、透は気にせず一恵との会話に集中する。
「実星は大丈夫なんですか!?」
『落ち着いてください。怪我といってもおそらく捻挫ですから。念のため病院に連れて行ってもらっています』
「捻挫ですか、よかったぁ」
ほーっと心底安心した様子で透は椅子に座る。
『診断と治療が終わったら家に送りたいと思うのですけど、今家にどなたかいらっしゃいますか?』
「いや、誰もいないんですよ。こちらから病院に迎えに行こうと思いますので、どこの病院か教えてもらえませんか?」
『高校はまだ授業中だと思うんですが、大丈夫ですか?』
「早退させてもらいます。担任も両親が出張中ということは知っているので大丈夫だと思います」
『そうですか。佐倉野整形外科という病院なんですが、わかりますか?』
「はい、大丈夫です。電話ありがとうざいました」
見えないとわかっているが一礼して電話を切る。
教科書を片づけ始めた透に圭吾が話しかける。
「実星ちゃん怪我したのか?」
「ああ、捻挫だけど念のため病院に連れて行ってもらったってさ。それで俺は実星を迎えに行くために早退することにした。じゃあ職員室に行ってくる」
「おう、また明日な」
急ぎ足で職員室に向かう透の背に圭吾は声をかけた。
その圭吾にクラスメイトが集まり、どういうことか尋ねていた。
透は担任の深山菜助に許可をもらい早退し、実星の待つ病院に向かう。たいしたことのない怪我だとはわかっているが、どうしても早足になり、病院が見えると走り出す。
ロビーに入り、診察を待つ人の中から実星を探すが、見当たらない。
「診察中なのか?」
もう一度周囲を見渡していると診察室の扉が開いて、女性の手を借りてひょこひょこと片足で跳ねる実星が出てきた。
「みほ」
「あ、にーちゃん!」
名前を呼ばれた実星は安心したような笑みを浮かべて透に近寄る。
「いきなり小学校から電話があって驚いたんだぞ」
言いながら実星の頭を撫でる。
「えっと藤井さんのお兄さんで間違いないんですよね?」
「はい。ええとそちらは?」
身分証明になるかと生徒手帳を渡しつつ尋ねる。
「私は藤井さんの学校の保険医をしている者です」
「保健室の先生でしたか。実星を病院に連れて来ていただきありがとうざいました」
深々と一礼した透に、顔を上げてくださいと保険医は声をかける。
「どういった状況で怪我をしたのかは聞きましたか?」
「詳しいことまでは聞いてません」
透がそう答えると、保険医は一恵と実星から聞いたことを話す。
ないとは思うが、いじめを受けていて怪我をした可能性も疑っていた透は、完全に事故だとわかりほっとした様子を見せる。
「怪我をしたときのことはこれくらいで、次に怪我そのものについてです」
「捻挫と聞きましたが、それで確定ですか?」
「ええ、レントゲンでも異常はありませんでした。症状としては軽度と重度のちょうど中ごろといった感じだそうです。完治には一ヶ月。歩けるようになるのはもっと早いですが、治ったわけではないので無理すると悪化するので注意してくださいとのことです」
「だとすると一ヶ月は体育は見学ですね」
「はい。担任にそう伝えておきます」
「通院はした方がいいんでしょうか?」
「できれば週に一回は診察を受けた方がいいですね」
生活していく上で捻挫した方の足ではなく、もう片方の足に負担がかかってそっちに異変が起こることも考えられる。そこらへんの見極めは医者が最適なのだ。
ほかに完治までの注意点や治療費について話し、保険医は学校に帰っていった。
「俺たちも帰ろうか。背負うからのっかってくれ」
「んー抱っこの方がいいな。だめ?」
「別にいいけど、どうしてだっこ?」
「なんとなくかな。それにずいぶんとだっこしてもらってないし」
甘えたい気分だったが、素直にそう言うのは恥ずかしく、なんとなくということで誤魔化す。
実星は透の首を抱え、透の右腕に支えられる形で抱き上げられる。
「カバンとランドセルも一緒だと重いな」
「大丈夫?」
「まあ、大丈夫だ。途中で一度休憩するだろうが。雨が止んでてよかった。傘もさしながらだともっと大変だった」
家まではだいたい三十分で、その途中にある公園のベンチに一度実星を下ろして休憩する。
ペットボトルのジュースを二人でわけて十分ほど休み、家に帰る。
マンション近くまで来ると、大学帰りで夕食の入ったビニール袋と畳んだ傘を持った綾と会う。
包帯を巻いた足を見て心配そうな表情を浮かべた。
「実星ちゃん、足を怪我したの?」
「体育の授業で捻挫したようで。幸い重症というわけではなくてよかったです」
「それはよかった。完治まで時間かかりそう?」
「一ヶ月くらいだとか。それよりも前に歩けるようにはなるそうです」
「そう、なにか困ったことがあったら言ってね? いつでも力を貸すわ」
「ありがとうございます」
「ありがとー」
綾と並んで歩き、家に帰る。
実星をゆっくりと床に下ろし、透は一息つく。
「あ、そうだ。母さんに電話しとこうか。実星からも大丈夫だって伝えたら安心できるだろう」
そう言いつつ携帯を取り出して、母親である千夏の携帯にかける。
三度のコールの後、千夏が出る。
『どうしたの、こんな時間に?』
学校が終わったばかりの時間で、日頃この時間帯に電話することはない。そのため不思議そうな声音だ。
みほが捻挫したこと、病院には行ったことを伝える。
『たいしたことなくてよかったわ。みほにかわってくれる?』
「あいよ。かわってくれってさ」
「うん。かあさん? かわったよー」
かすかに心配する千夏の声が透の耳にも届く。
実星の話し声を聞きながら、冷蔵庫を開けて夕食の献立を考える。あまっているニンジンとブロッコリーを付け合わせにしたハンバーグでいいやと決めて、自室に戻って着替える。
リビングに戻ると、ちょうど電話を終えた実星が携帯を差し出してくる。
「買い物行ってくるから留守番頼むな?」
「その前にトイレ連れてって」
両手を透に向かって差し出してくる。
はいはいと言って実星を抱え、便座に下ろす。洗面所で手を洗わせたあと、リビングに戻す。
「しのは鍵を持ってたよな?」
「うん」
「じゃあ鍵閉めていくから。インターホンが鳴っても出なくていいぞ」
実星の返事を聞いて家を出た透は急ぎ足でスーパーに向かい、買い物を済ませる。
その間に不安げな表情の星乃が帰ってくる。そばには柚子と咲子もいた。
柚子から捻挫で病院に行ったと聞いたのだが、病院に行くこと自体がそうないことなので大丈夫なのだろうかと自分の目で見るまで不安なのだ。
「鍵しまってる。みほまだ帰ってきてないのかな」
「まだ病院かもしれないわね」
ランドセルから鍵を取り出し、玄関を開ける。
奥から実星の声でおかえりと聞こえてきた。
「あ、いた」
三人は家に入り、リビングでテレビを見ている実星を見て、ほっとした様子を見せる。
特に不安がっていた星乃は実際に目にしてようやく心の底から安堵できたのだ。
「ゆずちゃんもさきちゃんもどうしたの?」
「怪我はどうだったのか気になったのよ」
「心配したんだよ?」
柚子と咲子に、たいしたことはなかったと答える。
症状と治療までの時間と透が迎えに来てくれたことを話す。
「体育見学かー。学校に行き帰りも大変じゃない?」
そこらへんなにか考えているのかと柚子は聞く。
聞かれた実星は考え込んで答えない。なにも考えていなかったのだ。
しばらくタクシーでも使うか、星乃に支えられてゆっくり歩くかと話しているうちに透が帰ってくる。
玄関に双子以外の子供の靴が二人分並んでいるのを見て、透は柚子と咲子だろうかと思いつつリビングに入る。
「しの、おかえり。柚子ちゃん咲子ちゃんいらっしゃい。みほの様子を見に来てくれたのかな?」
「にいちゃん、ただいま」
「お兄さんお邪魔してます」
「お邪魔してます」
何度か顔を合わせているため柚子と咲子に透が怯えられるようなことはない。
透は三人分のジュースを注ぎ、テーブルに置く。
お礼を言って柚子と咲子は口をつける。星乃はコップを持って、先ほどの話題を透に尋ねた。
「学校の行き来? そういや考えてなかったな……俺が送り迎えするか。病院の帰りみたいに抱っこしようかと思うが、みほはどう思う? 俺が遅刻しないようにいつもより早く家をでることになるが」
「一ヶ月ずっと?」
さすがにそれはないと透は首を横に振る。
「一週間もすれば歩くだけなら問題はなくなると思うから、それくらいだと思うぞ。途中土日を挟むから日数的には一週間もない」
少し考えて実星は頷いた。そこはかとなく嬉しそうにも見える。それを聞いた星乃が羨ましそうに透を見ていた。
二十分ほど話して柚子と咲子は帰っていった。
透はハンバーグを作り始め、双子は宿題を始める。
そこに捻挫したと聞いた里紗がやってきて、元気そうな実星の顔を見て帰っていった。
ハンバーグに温野菜に味噌汁ができて、テーブルに並ぶ。
夕食が終わり、透は風呂の準備を整え、お湯がはるまでに使った食器を洗う。
「みほ、まだ足は洗われたら痛むか?」
「んー……うん」
少し足首を自身で曲げてみた実星は頷く。
「だったら湿布をはりかえるのもきついか。今日はそのままにして明日の朝はりかえるとして、足は濡らさないようにビニールで包まないとな」
買い物袋とゴムで足を包む。痛みないかと聞いて調整し、星乃へと顔を向ける。
「しの、風呂に入れてくるな」
「にいちゃんも一緒に入るの?」
「そうしようと思ってるけど」
「私も入る!」
「いや三人は狭いだろう?」
だから今日は遠慮してくれと頼むと、星乃が膨れた。
「みほばっかりかまってずるい!」
「ずるいって仕方ないんだけどなぁ」
「う゛ーっ」
少し目の端に涙を見せつつ唸る。
それを見て千夏が片方を贔屓しないようにと言っていたのを思い出す。
現状贔屓というか、実星を世話するのは当然のことなのだが、星乃にとっては我慢できないことなのだろう。
可愛いわがままとして受け入れることにした。
「わかったわかった。一緒に入っていいからみほの分の着替えも準備してくれ」
透がそう言うと星乃はパァーッと笑みに表情を変化させて駆け足で部屋に向かっていった。
「あんなに喜ぶことかねぇ」
「反対だったら私もねだったよ」
「んー普段そんなに甘やかしてないか? それなりに言うこと聞くようにしてると思うけど」
「普段に不満なんかないよ。ただここまでかまってくれるのも珍しいし、羨ましかっただけじゃないかな」
「そっか」
透は実星を抱き上げて、着替えを持って風呂に向かう。
「服は自分で脱げるよな?」
「うん」
実星は頷くと脱ぎにくそうにしながら上下を脱ぐ。裸を見られるのは恥ずかしかったのか、脱ぐところを見ないとように透に言って、脱いだ後もタオルで隠す。
透は脱いだ衣服やパンツを受け取って洗濯機に放り込んだ。
着替えを持った星乃もやってきて服を脱ぎ、風呂場に入る。こちらはまだ恥ずかしさはないのだろう、平気な顔でパパッと脱いでいた。
透は全部は脱がずに濡れてもいいシャツとトランクスのみになり、実星を抱き上げる。
「あぅ」
恥ずかしそうに、ほのかに全体を赤くする。
対して透は、二年前に一緒に入ったときから身長くらいしか変わっていない実星を見て、照れといった反応を見せない。
照れる実星を椅子に座らせて、シャワーを浴びせていく。
「髪を洗うから目を閉じてろよー」
「次は私の髪もー」
わかってると湯に浸かっている星乃の頭を撫でる。
シャンプーを泡立てて髪を洗い、それを流してリンスーを髪になじませていく。
タオルで髪をまとめて、透はそこで手を止める。
「体は自分で洗ってくれ」
さすがになにからなにまで世話焼くのも面倒だった透は風呂の縁に腰かける。
実星としても恥ずかしさから遠慮したかったので、うんうんと頷いてボディタオルで体を洗う。
泡を洗い流すと、星乃がお湯から出てくる。透はかわりに横抱きにした実星をお湯に入れる。
「おねがい」
椅子に座って背を向け、星乃はわくわくといった様子で頼む。
実星と違って、楽しみといった感情のみを感じさせる。
はいよ、と答え透は実星と同じように髪を洗う。透からは見えないが、気持ちよさそうに表情が緩んでいる。
体の泡を落とした星乃は再びお湯に入る。
「にいちゃんは入らないの?」
「二人が出た後にゆっくり入るよ」
実星と星乃だけなら余裕もあるが、体の大きな透もとなるとやはり無理なのだ。
双子が温まっている間に、透は髪を洗ってしまう。
「みほ、リンスー洗い流そうと思うけど、まだ浸かってるか?」
「んー流す」
お湯から実星を出して、椅子に座らせ、シャワーでリンスーを落とす。
洗い終わり、実星を抱き上げ、タオルを敷いた洗面室に座らせて、髪と体を大雑把にふく。
「細かいところは自分でな」
「うん」
実星が体をふいている間に、着替えを手に取りやすい位置に置いて、透も簡単に体をふいていく。
パジャマに着替え終わった実星をリビングに移動させ、足を包んでいたビニール袋を外し、透は風呂に戻る。
星乃は体をふきおわり、パジャマを着ていた。
「俺が風呂に入っている間のフォロー頼んだぞ」
「わかった!」
着ているものを脱いだ透は、お湯に浸かる。
運動したものとは違う疲れがあり、それがお湯に溶けていくような心地よさだ。
「ふーっ。介護やってる人すごいな」
そんなことを呟いて、目を閉じる。
十分ほどそうして、お湯から出ると体を洗い、風呂から出る。
翌朝、双子を起こした透は、実星をリビングに運び、足首にそっと触れる。
「痛みはどうだ?」
「触れると痛いけど、昨日よりまし」
「湿布のはりかえはできそうだな。少し痛むかもしれないけど、我慢してくれよ」
できるだけ痛くないようにゆっくり湿布をはがす。
腫れはまだひいておらず、熱も持っている。新しい湿布をはるとひやりとした感触に実星は気持ちよさそうな表情を見せた。
きつくらないように包帯を巻いていき、靴下をはかせる。
朝食を食べて、出る準備を整えるといつもより十五分ほど早く家を出る。
昨日と同じ抱っこをしているが、少し違うところもある。実星のランドセルを星乃が持っていることと、空いている透の手を星乃が握っていることだ。
まばらに歩いている小学生の注目を集めつつ、小学校に到着する。
実星は集まる注目に少し恥ずかしそうだった。
「教室まで運んだ方がいいか?」
「ううん。しのに教室まで連れてってもらうよ」
「じゃあ、ここまでだな」
校門前で実星を下ろし、星乃に支えてもらう。
「帰りは四時半を過ぎると思う。それくらいにここで待ち合わせだ」
わかったと頷いた双子に、いってきますと言って近くのバス停に向かう。
その背に双子はいってらっしゃいと元気な声を送った。
ポイントありがとうございます