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いかつい兄とロリ双子  作者: 赤雪トナ
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4 学校模様

 月曜日になり、透と双子は学校に行く準備を整える。

 八時前に家を出て、バス通学の透はバス停で足を止め、元気よく腕を振りつつ離れていく双子を見送る。

 すぐにやってきたバスに揺られること20分。バス停を降りて3分ほど歩いたところに、透の通う原ヶ瀬高校はある。


「おはよーございます」


 校門に立つ教師や風紀委員たちに挨拶し、通り抜けようとして教師に止められる。一年生のときの担任で、50才のベテラン教師だ。名前は田野中いずる。


「遅刻じゃないですよね? ほかの皆は慌ててないし。あとはなにも問題起こしてもいませんよ」

「叱るために止めたんじゃない。ちょっと頼みがあってな」

「はあ」

「二学期から三学期の始めにかけて短期留学生がくることになっているんだが知ってるか?」

「いや、聞いてないっす」

「二年生のクラスに入るから知らなくても当然か。その留学生なんだが、ドイツからくるんだよ」

「へー。名前はなんていうんですか」

「カーヤ・ヴァイゲルという名前のお嬢さんだ」


 友達が留学してきたのかと少しだけ思ったが、さすがにそんな偶然はなかった。


「俺はその子につきっきりで通訳をすればいいので?」

「いやいや、学年が違うのにつきっきりはない。それにお前受験生で家事もしてるだろう? あまり苦労かけさせる気はないよ。彼女もある程度は日本語が話せるしな。困ったときとか、必ず伝えておきたいことがあれば通訳を頼むつもりだ」

「了解っす。じゃ、教室に行きますね」


 歩き出そうとしてまた止められる。


「カーヤ嬢と会ってから教室に行ってくれ。一度は顔合わせしておいた方がいいだろうからな」

「ういっす。どこにいるんですか」

「職員用玄関の近くに来客用の部屋がある。そこに日本での保護者さんと一緒に待ってもらっている」

「わっかりやした!」


 下足箱で上履きにはきかえ、来客室まで行く。ノックをして返事を聞こえたので開ける。

 部屋の中には着物姿の初老のお婆さんと腰までの青みを帯びた銀髪の少女がいた。

 入ってきた透を見て、ギョッとした顔になる。

 顔を見て怯えられるのは慣れているため、透は気にせず口を開いた。


『初めまして、藤井透と言います。先生から俺のことは聞いていますか?』


 透の口から出た流暢なドイツ語に二人は驚いた顔を見せたが、すぐに頷きを返してくる。

 カーヤが驚いたのは、透がドイツ語を話せたことだけではない。その理由をあとで聞くことになり、透は世間の狭さを感じることになる。


『初めまして。カーヤ・ヴァイゲルです。高校にいる間、よろしくお願いします』

『私はこの子の保護者で、皿場あやめと。カーヤはいい子なので、どうか親しくしてあげてください』

『わかりました、俺でよろしければ。それでカーヤはある程度日本語ができると聞いてますが、日常会話くらいならば問題ないのですか?』

「はい、やや拙いトコロありますが、話せまス。でも早口だト、聞きとれなくなりまス」


 透の疑問に、カーヤは日本語で応える。発音がおかしいところはあるものの、その程度ならば問題はないだろう。

 あとはクラスの者たちに早口は避けるように伝えておけば、会話に困ることはないはずだ。

 自分の出番はそう多くはないのかもしれないと透は考える。

 ホームルームが始まるということで二人とわかれ、教室に入る。

 自分の机に荷物を置くと、すぐに一年からの腐れ縁の友人が近づいてきた。名前は立川圭吾だ。


「遅刻か? 珍しい」

「ちげーよ。ちょっと先生から野暮用を頼まれたんだ」

「野暮用ってなんだよ」

「ドイツから留学生が来ることになっていたのは知ってるか?」

「皐月がそんなこと言ってたな。うちのクラスにドイツ人の女の子が来るんだってはしゃいでたわ」


 皐月というのは圭吾の妹で、カーヤが入ることになっているクラスにいる。

 透と皐月は面識がある。圭吾の家に遊びに行ったときに会ったのだ。


「皐月ちゃんと同じクラスなのか」

「んでなんでその話をしたんだ?」

「俺がドイツ語を話せることを田野中先生は知っててな。困ったときの通訳として動いてくれって頼まれたんだ。その流れで顔合わせをしてきた」

「ドイツ語なんて話せたのか!?」


 ドイツ人の友達がいると説明し、軽くドイツ語で話したことで圭吾は納得する。

 まるで聞いたことのない言語なので理解はできないが、適当に話した感じでもないとわかったのだ。


「カーヤさんって言ったか。どんな子だった? 可愛かったか?」

「小柄で可愛いらしい方向の美少女って感じだったぞ。マスコットとしてかまわれそうな気がするな」

「ほー、お近づきになりたいもんだ」

「学年が違うからな、その機会はこないと思うが」

「せめて一目くらいは見てみたいもんだけどな。あとで皐月に会うって口実で行ってみるかな」

「そのときは俺も行こうか」


 登校初日だ、少しくらいは気にかけてなにか困ったことがあるか聞いておくのもありだろう。


「可愛い子だといいなー。見ただけで土日の鬱憤はれるくらいの美少女を希望する」

「どんな美少女だよぞれ。それにしても土日になにかあったのか?」

「運が悪かったんだよ。勉強の気晴らしに外をぶらついたんだけどな? 角から飛び出てきた子供にぶつかられるわ、玄関先を掃除している人に水をかけられるわ、欲しい漫画を買おうとして財布忘れたのに気づくわ、財布取ってきたら漫画が売り切れてるわ、えらく興奮した犬に追いかけまわされるわで散々だった」

「犬は危ないな、どこらへんだ?」


 妹たちが遊ぶ範囲で、そんな犬が出るのなら近づかないように言っておく必要があった。

 そんな心配を圭吾は察したのだろう、大丈夫だと手を振る。


「バイトかなにかわからないけど、俺たちと似た年齢の男女が捕まえてたから誰かに襲いかかることはないだろうさ」

「そりゃよかった」

「そっちは土日どうだったよ」

「俺は家事と勉強くらいだったが。あとはお隣さんと夕食を一緒にしたくらいか」

「お隣さんって一度見たことあるけど、女子大生だろ。羨ましいぞ、おい」

「はっはっは、美人さんの手料理美味しかった」

「ちくしょう! どうして俺の家の隣には女子大生が住んでないんだっ」

「かわりに可愛い幼馴染が住んでるじゃないか」


 はっと鼻で笑う圭吾。


「容姿はよくとも性格が駄目だろあれは」


 その反応に「あ」と言い背後を指差す透。


「誰の性格が駄目だって?」

「誰って夕夏のこと……」


 やばいといった表情で圭吾が振り返ると、笑みを浮かべたクラスメイトが立っていた。彼女が圭吾の幼馴染である相川夕夏だ。

 透は彼女の額にいげたを見た気がした。


「そろそろ先生が来るから席につくように言おうとしたら、人の悪口を言ってるなんていい度胸してるじゃない」

「あだだだだだだだっ」


 アイアンクローで圭吾の顔を掴む。

 圭吾は夕夏が怒っていると思っているが、夕夏の表情の変化を見ていた透には怒りだけではなく照れもあるとわかる。

 圭吾が夕夏の容姿を褒めたときは嬉しそうだったのだ。アイアンクローは照れ隠しでもあるのだろう。

 とそんなことを掴まれたまま連れていかれる圭吾を見て考える透だった。


 ◆


 二時間目が終わり、実星がいる二組は次が体育なので体操服に着替えてグランドに出る。

 柚子と話しながら授業が始まるのを待つ。

 チャイムが鳴るとすぐに担任の早田一恵がグランドに出てくる。その手にはノートと大型の巻尺がある。

 手を叩いて生徒たちを集め、口を開く。


「はーい、ちゃんと聞いてね。今日は走り幅跳びをやります。砂場に移動しましょう」


 一恵を先頭にぞろぞろとグランド端にある砂場へと移動する。


「とりあえず皆座ってね」


 生徒が皆座ると一恵は少し移動して、地面に線を引いて口を開く。


「ここから走って、砂場の縁を踏んで飛んで距離を測ります。実演してみるわね」


 持っていたものを地面を置いて、一恵は走っていき跳ぶ。

 跳んでできた跡を、先に用意してあったトンボでならして、生徒の前に戻る。


「あんな感じ。わかった?」

『はーい』


 元気のいい返事に笑みを浮かべて頷いた一恵は、計測の手伝いを三名に頼む。

 

「じゃあ出席番号順に行くからね。青江さん準備して」


 呼ばれた柚子が、一恵の引いた線まで行って走る構えをとる。

 ピッと吹かれた笛を合図に走り出し、力強く砂場の縁を踏んで跳ぶ。

 巻尺を持った二人の生徒が動いて、飛んだ距離を一恵に伝える。それを一恵がノートに書き込んでいる間に、トンボを持った生徒が土をならす。

 そして次の生徒の名前が呼ばれる。

 次々と生徒が飛んでいき、柚子と話しながら順番を待つ実星に近づく者がいる。


「藤井、勝負だ!」


 ピンッと伸ばされた人差し指で、柚子と話していた実星を指差すのは男子生徒。

 身長は実星と同じくらいか、やんちゃそうな風貌をしている。


「久木、あんたまた実星にちょっかいかけて」


 呆れたように柚子が言う。

 周りの者たちもまたかと言った反応で気にする様子を見せない。


「青江は黙っていてもらおう! これは俺のライバルである藤井との勝負なんだ!」

「あんたが勝手にライバル認定してるだけでしょうに。もっと運動できるやつは他にいるんだから、そっちに絡んでいけばいいものを」

「同じくらいの実力の相手と競い合うのが面白いんだろうが」


 実星たちの年齢ならばまだ男女の身体能力に差はなく、久木と同じくらいの身体能力が実星で目をつけられたのだ。


「面白がっているのはあんただけなような気もするけどねー」

「な、なんだと?」


 柚子の言葉に一歩後ずさってすがるような目を実星に向ける。

 実星としてはたまに競ってくるというだけで、邪険にするような相手でもなく、付き合っている部分がある。


「すごく楽しんでるってわけでもないけど、断ることでもないしね。いいよ、勝負だ」


 実星の返答に嬉しそうな表情となる。

 そんな久木を見て柚子は、なんとなく散歩に連れて行ってもらえる犬のように思えた。

 記録を取りながら一恵はこういった会話を聞いており、いつも通りだなと注意をほかに向ける。

 楽しんでいる節が実星にも見えるため、競い合いを止める気はない。実星が嫌がっているようなら、久木の注意をほかに向けるつもりだった。

 競い合いが悪い方に発展して、強要したり貶したりといった部分が出てくる可能性もあるので、完全放置というわけにはいかないが、これまで見てきた部分では現状維持で進みそうなので下手に口出しするのはやめている。


(最初は藤井さんのことが好きで、ちょっかいかけているのかなと思ってんだけどねぇ。運動欲の一種みたいだし、ちょっとつまらないかな)


 可愛らしい恋愛模様を見たかったという思いを口に出さず、次の生徒である久木を呼ぶ。

 呼ばれた久木が跳び、次に実星が跳んだ。

 結果は一センチだけ実星が先をいった。

 ブイサインを見せる実星に、少しは楽しんでいる様子が見てとれ、柚子もほっとしたように笑みを返す。


 ◆


 昼休みが終わって星乃のクラスの五時間目は図工だ。

 内容は車や花といった一つのものを選んで絵を描き、それを手でちぎった色紙で好きな色付けをするというものだ。


「名前呼ぶから取りに来てね」


 少し前の授業からやっていて、回収され保管してあったA4サイズの画用紙が担任の柄倉弥生によって配られる。

 星乃の手元に戻ってきた画用紙には魚の絵が三匹描かれている。魚のモデルはニジマスだ。

 これは夏休みに里紗の家が所有するコテージに連れて行ってもらったとき、近くにあった生け簀で夕食用にと釣ったときのものだ。


「どんな色にしようかなー」


 描かれている三匹の魚を見て、配色を考える。そのままというのも味気ないのだ。好きに色付けしていいのだから凝ってみたい。

 買ってもらった色紙を広げてイメージも広げる。


「星乃ちゃん手が止まってるけどどうしたの?」


 ヒマワリの絵に貼る色紙を破っていた咲子が尋ねる。


「色をどうしようかなって」

「お魚さんだと普通は銀とか青と緑かな」

「うん。夏休みに見たお魚も銀と緑だった。でもそれだと味気ない」

「そうだね。私もひまわりを見たそのままにはしないつもりだし」


 咲子はグラデーションを意識した配色にしようとひまわりの花弁に合わせて色紙を破っている。

 星乃はその作業を見ながらどうしようか考え、咲子の筆箱の模様を見てピンっとくるものがあったのか、色紙を手に取る。


「どうするか決めたんだ?」

「うん。星型をいくつも作って、それをお魚の形にはっていくことにする」


 星型で魚を描くのではなく、魚の絵に星がつまっているといった感じになるのだろう。

 いくつもの色紙を定規を使って大小の星型にちぎっていき、一度魚の絵に置いて形や彩りのバランスを考える。


「へーそういった形なんだ」


 自身の作業をしつつ、星乃の作業を見ていた咲子が感心したような視線を向ける。


「私もやってみよっと」

「今からやったらヒマワリのバランスがおかしくならない?」

「大丈夫。もう一つお花さんを描くから」


 そう言って咲子はヒマワリの隣にさらさらっとパンジーのような花を描いた。そしてヒマワリに色付けする作業に戻る。

 星乃も一匹目の魚に星型を張り付ける作業に戻る。のりづけが終わり、二匹目の魚にはどんな形を詰め込もうかと考え出したタイミングで、五時間目終了のチャイムが鳴った。


「はーい。画用紙を持ってきてちょうだい」


 全員分の画用紙をひとまとめにして、弥生は職員室に戻っていく。

 次は社会の時間なので、星乃はその教科書を取り出し、咲子と一緒にのりで汚れた手を洗いに教室の外に出る。


 ◆


 全ての授業が終わり、帰りのホームルームも終わって、実星はランドセルを背負う。

 その実星に柚子が近づいてきて、帰ろうと誘う。


「ゆずちゃんは今日ピアノのお稽古だっけ?」

「そうよ。だから遊べないわ」

「さきちゃんも書道だよね、たしか」

「そうだったはず」

「じゃあ、もう今日は家に帰ったらそのままで出ないで遊ぶことになりそう。なにしようかなー」

「自由に遊べて羨ましいわ。まあ別にピアノが嫌いなわけじゃないんだけど。おばさんはなにか習わせようとしなかったの?」


 柚子がピアノを始めたのは、やりたいと頼んでわけではなく、母親が通わせたからだ。

 小学校一年の頃から通い、最初の一年は友達と遊ぶ時間が減ったことに不満があったが、徐々に実力が上がっていくと自由に弾ける楽しさがわかってきた。

 ピアノの教室で出される課題ではなく、自分で弾きたいと思ったものを自由気ままに弾いて楽しんでいる。


「うちはなにも言ってこないよ。ただ一度だけ習いたいものがあれば言ってごらんとは言われたけど」

「今やってないことは特になかったんだ?」

「うん。でも最近散歩というかドライブに興味があるかな」

「なにかきっかけでもあった?」

「りさお姉ちゃんがたまにバイクに乗せてドライブに連れて行ってくれるんだよ。いろいろな景色見たり、風を切っての移動にわくわくするの。だから自転車がほしくなってる」

「自転車はのれる?」


 実星は首を横に振る。練習もしたことがないが、運動神経はそれなりなので何度か練習すれば乗れるだろうと思っている。


「にーちゃんに欲しいって言ってみよう」

「そうね、まあ断れることもないでしょ」


 双子があまりわがままを言っていないと知っているので、こういった頼みを透が断る可能性は低いと柚子は考える。

 その予想は当たっていて、きちんと安全に配慮した乗り方をするようにと注意されたのち、星乃の分も合わせて買ってもらえることになる。

 三週間後には、自転車も持っていた里紗と一緒にサイクリングに行くことにもなる。

 そんなことを話している二人に、星乃と咲子が教室の外から声をかけてくる。

 下足箱に向かいながら、星乃が聞く。


「みほたちなにを話してたの?」

「習い事に関してよ。私はピアノで、さきは書道。あなたたちはなにか習い事や他になにか興味あるのかって。実星は自転車に関心があるみたい」


 そうなんだと聞く星乃に実星は頷きを返した。

 星乃はどうなのかと柚子が尋ねる。


「私はねー……お菓子作りに興味があるかな。あやお姉ちゃんが作ってわけてくれるんだ。自分でも作ってみたいって思うことがある」

「へー、お兄さんに言ってみたら一緒に作ってくれるんじゃない?」

「今度頼んでみようかな」

「美味しくできたらおすそわけお願いね」


 そう言ってくる咲子に星乃は頷いた。

 学校を出た四人は少しだけ同じ道を歩き、それぞれの帰り道にわかれた。手を振ってくる咲子と柚子に手を振り返す。

 双子は今日あったことを話しながら歩き、家まであと五分ちょっとというところで里紗と遭遇する。


「二人ともおかえり」

「「ただいまー」」


 里紗も帰りということで並んで歩く。


「里紗お姉ちゃんも学校の帰り?」


 星乃の疑問に首を横に振った。


「大学はもう少し休みだよ。今日はジムに行ってきたんだよ。思いっきり体を動かしてきた」

「まだ休みなの? うらやましー」

「あははは、私も中学生のとき大学に通っている親戚に同じこと言ったな。何年かしたら通うことになるんだろうし、今は小学校を楽しんどいで。今日はなにかあったの?」

「男子と走り幅跳びで競争して勝ったよ」

「私は図工で貼り絵をした」


 双子から話す小学校ライフを懐かしいと思いつつ、里紗は聞き手に回る。

 そのままマンションに帰り、透が帰ってくるまで里紗の家で一緒に過ごす。


 ◆


 高校の授業も終わり、いつもはすぐに学校を出る透はカーヤの様子を見るため二年生の教室がある二階に向かう。その隣には朝言ったように圭吾の姿もあった。

 カーヤがいるであろうクラスまで来て、外から様子を窺う。


「近づくなって言ってんでしょ!」

「俺にも話させてくれよ! 銀髪ロリと話せる機会なんてそうないんだぞ!」

「その言動をなんとかしてから出直しておいでっ」


 感情溢れる言動の男子生徒とカーヤを背後に隠す女子生徒を、透たちは驚きの眼で見る。

 庇われているカーヤは銀髪ロリという単語が理解できないのだろう、不思議そうな顔で二人のやりとりを見ていた。


「なんというド直球野郎だ。見習いたいもんだ」

「いや見習うなよ」


 感心する圭吾に突っ込む透。


「あの、うちになにかご用ですか?」


 出入口に立つ二人にこのクラスの女子が不思議そうに聞く。若干おそるおそるといったふうなのは、透たちが上級生なのか、透の顔つきのせいか。


「俺はカーヤの通訳とかを先生から頼まれているんだ。んで今日一日でなにか困ったことないか聞きに来た」

「えと、それじゃ中に入ります?」

「あの面白やりとりを中断させることになるが」

「庇っている子にとっては、むしろ望むところなんじゃないでしょうか?」


 透と圭吾は教室に入り、カーヤへと近づく。

 大柄な透は目立ち、教室中の注目が集まった。

 言い争っていた二人も気づき、透に視線を向ける。

 女子の方が口を開こうとしたタイミングで、カーヤが透に近づいていき、声を発するタイミングを失う。


『やあ、カーヤ。様子を見にきたけど、今日一日どうだった?』


 透の口から出てきたドイツ語にクラス中の生徒が意外そうな表情を見せた。見た目だけなら、英語も不得意そうな純日本人といった感じなのだ。


『賑やかなクラスで楽しいです。クラスメイトたちとも交流できました』


 笑顔で言うカーヤに透もにこやかな笑みで返す。


『じゃあ、困ったこととかはなさそうだね』

『はい。授業もなんとかついていけました。あ、でもちょっとわからないことが』

『それは?』

『さっき彼が言ってたんですけどギンパツロリってなんですか?』


 カーヤから放たれた単語に、クラスメイトの視線が一人に集中する。

 碌でもない単語覚えさせやがってという思いで一致していた。

 女子の一人が透に話しかける。


「えと、カーヤちゃんなんて言ったんでしょうか?」

「銀髪ロリってどういった意味なんでしょうか、だってさ」

「……ぉぅ」

「どう言えばいいと思う?」

「ええと」


 困ったようにクラスメイトを見渡すが、誰もが明確な答えを持っていないようで曖昧な笑みしか浮かんでいない。

 その中で一人、原因となった男子生徒が声をあげた。


「素晴らしいっ。銀髪ロリと話すためにドイツ語を習得するという姿はまさに俺の目指す紳士的な在り方! 師匠と呼んでいいですか!?」

「俺のドイツ語習得理由をろくでもない動機にするな、わりと大切な思い出なんだ。あと師匠呼びは断る」

「すみませんっ。うちの馬鹿がほんとすみません」


 男子生徒の頭を掴んで、言い争っていた女子生徒が一緒に頭を下げる。


「いやまあ、そこまで謝らなくていい。銀髪ロリに関しては、てきとーに説明しとくよ」


 お願いしますと再度頭を下げる女子生徒にお疲れさまと声をかけて、カーヤに向き直る。


『銀髪ロリに関してだが』

『はいっ』

『ええと、銀色の髪の小さい女の子といった感じだな』


 男子生徒が込めたであろう性癖的な意味合いは抜いて説明する。


『私っ小さくないですよ! 立派なレディーですっ』


 プンプンっといった感じで頬を膨らませ両手を腰に当てたカーヤを皆が微笑ましそうに見ている。

 そうだなと宥めて、カーヤが落ちつかせる。

 用事をすませた透は教室に帰ろうとして静かだった圭吾を探す。

 アホなことを言っていた男子生徒と話し合っている姿を見つけ、まともな会話じゃないのだろうと放置することに決めた。

 透がなにか言わずとも、恥ずかしそうな表情の皐月が近づいて行っているのだ。説教は確実だろう。

 教室に戻った透はカバンを持って、下足箱へと向かう。

 クラスメイトに囲まれて帰るカーヤと出くわし、別れを告げて夕食の材料を買うためにスーパーへと向かっていった。

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