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いかつい兄とロリ双子  作者: 赤雪トナ
3/15

2 おとなりさん

「「ツインショット!」」


 実星と星乃がそれぞれ左右の手に持ったラケットを同じタイミングで振り、バトミントンの羽を同時に打つ。

 ガチャンっと音を立ててぶつかったラケットはそのまま振られ、羽はそこそこの速度で相手の少女二人の方向へ真っ直ぐ飛ぶ。


「とりゃー」


 飛んできた羽を少女の一人が打ち上げた。


「うーたーれーたー」

「ここでうたようとも第二第三のツインショットが」


 実星はその場にがくりと膝をつき、星乃はラケットを相手に向けて遺言のごとき言葉を放つ。

 打ち返した濃緑色の長髪の少女は寸劇を笑ってみていて、もう一人金髪をサイドテールにしている少女は両手に腰を当てて溜息を一つ。


「バカ言ってないで羽を拾ってきなさい」

「「はーい」」


 素直に返事をして背後に落ちた羽を拾う。

 その場から実星が羽を打ち、サイドテールの少女が打ち返す。

 何度か落とさずに打っているところに背後から声をかけられる。


「みほちゃん、しのちゃん。お昼だよ、一度家帰ったら?」

「お腹すいてるでしょ」


 羽をキャッチして双子は振り返る。そこには買い物袋を持った隣に住む二人がいた。年の頃は二人とも20才手前だ。

 一人は光の反射で濃い紫にも見える黒髪をボブカットにした女で、ノースリーブブラウスにロングスカートを身につけている。

 もう一人は背中までの金髪をストレートにした女で、タンクトップに八分丈のフィットパンツを身につけている。


「あや姉ちゃん、りさ姉ちゃん。ほんとにもうお昼なの?」


 あや姉ちゃんと呼ばれた方の名前は和白綾、りさ姉ちゃんと呼ばれた方の名前は橘里紗だ。


「本当だよ。ほら」


 綾が腕時計を見せる。あと五分で十二時だ。


「そろそろ帰らないと」

「ゆずちゃん、さきちゃん。もう十二時だよ」


 星乃がそう声をかけると、サイドテールの少女と長髪の少女も帰ることにする。

 金髪サイドテールの少女が青江柚子、濃緑ストレートの少女が山野咲子という名前だ。


「お昼も遊ぶ?」


 柚子が聞き、双子は頷いた。

 またこのグランドに集合することにして、柚子と咲子は大人二人にも手を振って帰っていった。

 私たちも帰ろうと里紗が声をかかけて歩き出す。


「あの子たちといつも一緒に遊んでいるの?」


 尋ねる綾に双子は頷いた。


「サイドテールの子は青江柚子ちゃん。わたしと同じクラス」


 そう言うのは実星だ。


「背中までの緑の髪の子は山野咲子ちゃん。わたしと同じクラス」


 続けて星乃も言う。


「青江って聞いたことあるなー。もしかして父親は画家?」


 里紗の疑問に双子はわからないと答える。

 その返答に友達の父親の職など気にしないかと納得する。画家だからどうだということもなく、たまに画廊で名前を聞いたことがあったので聞いてみただけだった。

 四人で話しながらマンションの前までくる。

 そうやって話している姿から実星は里紗に、星乃は綾に懐いているとわかる。その逆の組み合わせでも懐いていないわけではなく、比較的懐いているのはということだ。


「透君に夕食一緒にどうって聞いておいてくれる?」


 自分たちの家がある階まで来て綾が言う。


「「わかった」」

「ちび共期待しとけよー。美味しいお肉を使ったすき焼きだ!」


 笑みを浮かべて言った里紗の言葉に双子は「おーっ」と期待の声をあげた。素直な反応に里紗の笑みは深くなる。


「お肉買いすぎたの?」


 実星の疑問に里紗は首を横に振った。


「実家から送ってきたんだよ。でも二人で食べるには多くてね。だからいつものようにおすそわけってこと」


 里紗が言うように実家からなにか送られてきて、それを食べきれずに藤井兄妹と消費するのはわりとあることだった。

 その逆もある。両親の出張先から送られてくる食材や様子を見に帰ってくる母親のお土産を二人に渡しているのだ。

 

「楽しみだね」「ねー」

「楽しみにしとけー」

「透君が了承してくれるといいんだけどね。昨日のうちに献立決めて下準備してるかもしれないし、その場合は断られるかも」

「了承してくれないとちょっと困る。がつがつ食べてくれてないと肉が減らないし」


 二人で消費した場合、体重計に乗るのが怖いのだ。

 数日にわけて食べていけばいい話なのだが、毎食肉料理というのも飽きる。いろいろな食材が美味しい季節なのに、同じ食材ばかり食べていられないのだ。

 おとなりさんの二人とわかれて双子は家に入る。

 テレビをつけて透を待ち、十二時四十分を少し過ぎた頃に玄関が開く音が聞こえてきた。


「ただいまー」

「「おかえりー」」


 昨日とは逆に買い物袋を持った透を出迎える。


「お腹へったろ? すぐに作るからな。ラーメンとおにぎりでいいか?」


 肯定の返事をもらった透は着替えずにインスタントラーメンとそれに入れるもやしとコーンを準備する。

 水を入れた鍋を火にかけて沸くまでの間に、手を洗っておにぎりを作る。


「ほい、できた」


 小さめに作って海苔を巻いたおにぎり四つが乗った皿をテーブルに置く。

 先に食べておくように言って、自分の分のおにぎりを食べつつ、もやしをさっと炒める。

 さくっとできあがった野菜入りインスタントラーメンをどんぶりに入れてテーブルに置く。


「さて食べよう」

「「いただきまーす」」


 ずるずるチュルチュルとしばしリビングに音が響き、昼食は終わった。


「昼からも遊びに行くのか?」

「うん。ゆずちゃんさきちゃんとグランドで待ち合わせしてる」

「車に気をつけるんだぞ」

「わかった。あと隣のお姉ちゃんたちが夕食一緒にどうですかだって」

「実家からお肉送られてきて食べきれないから一緒に食べてほしいんだって。すき焼きするって言っていたよ!」

「にいちゃん、一緒に食べよ? いいでしょ?」


 両側から透の腕を取って見上げてねだる。

 

「んーまあ向こうから誘ってもらえてるわけだし断るのは失礼か。あとで一緒に食べさせてもらいますって言っとくよ」

「「やったー!」」


 二人して透の腕を持ち上げ喜びをあらわにする。


「餃子は明日だな」

「おゆうはん餃子だったの?」

「そうだぞ。一緒に作ろうと思ってたんだ」

「楽しそうだね」

「今日のお返しにお姉ちゃんたちも誘って明日一緒に作って食べる?」


 星乃の提案に、それもよさそうだと透は思う。


「あとで聞いとこうかね」


 そう言って食器を片づけ始める。

 双子は遊びに行ってきますと元気よく家を出ていく。

 食器を洗って着替えた透は洗濯機をまわしてから家を出る。

 隣の家の玄関前で止まる。表札には和白と橘という二つの名前が書かれている。あの二人は今年の三月頃に引っ越してきてルームシェアをしているのだ。

 インターホンを押すとすぐに返事があった。


「隣の透です。夕食の誘いを受けたようで」

『あ、ちょっと待ってね』


 ぱたぱたと扉の向こうから足音が聞こえ、玄関が開いて綾が出てきた。


「こんにちは、綾さん」

「こんにちは、透君」


 挨拶をしてから、夕食を誘ってくれたことの礼を言う。


「何時くらいに来ればいいですかね?」

「そうねぇ、六時過ぎくらいかしら。もうちょっと早くても里紗姉が相手してくれるでしょうし大丈夫よ」

「じゃあそれくらいに。それにしても食べきれないくらいに送ってこられたと聞いたんですが、どれくらいの量だったんです?」

「千五百グラムです。ステーキ一人前百二十グラムと考えると十人前以上。多いでしょ?」

「たしかに多いっすね。なんでそんなに」


 あきらかに女二人暮らしのところに送る量ではない。


「里紗姉が言うには美味しそうな肉をテレビで見たからたくさん食べてほしいと思ったんじゃないかとかなんとか。あとは線が細いからふっくらさせるためかもしれないとも呟いてたわね」


 透は里紗の体を想い返し肉付きの薄さに納得して、頷きかけて止める。ここで頷いてしまえばセクハラになるかもと思ったのだ。

 ちなみに綾はふっくらとした方だ。たまに星乃が正面から抱き着いて胸に顔をうずめてふわふわだと言っている。


「誘いを受けてくれて助かったわ。たくさん食べてね?」

「がんばります。軽く走って腹減らしとこうかな」

「十代男子の食欲に期待してるわ」


 軽く笑って頷き、透は明日の夕食について話す。


「実は夕食は餃子を作ろうと思ったんですよ。それを明日に回すので、明日はうちで餃子を作って食べません?」

「そういえば何ヶ月か食べてないわね。私はいいわよ。里紗姉にはあとで聞いておくわね。作るところから始めるなんて楽しそうだし、頷くと思うけどね。よそさまの家に行くんだから餃子よくするように言わないと」

 

 どやぁとダジャレを笑顔で言われ、透は反応が遅れる。


「……行儀と餃子をかけた?」

「うん。その反応だと面白くはなかったみたいね。精進しないと」

「デスネー」


 がんばるぞと両のこぶしを握って気合いを入れる綾に、棒読みな返事をする。

 容姿端麗、性格もよく、料理もできる。そんな憧れのお姉さんキャラな綾だが、こうしたたまに飛び出すダジャレが少々困りものだった。

 双子にとっては面白いようで、ダジャレが飛び出すたびに喜んでいる。

 昔からこうだったのか透は里紗に聞いたことがあり、乾いた笑みが返され、里紗にとっても反応に困るものなのだとわかった。

 きりがいいので、そこで会話を切り上げて透は家に戻る。


「綾さんとも普通に話せるようになったなー。なったらなったでダジャレが飛び出すようにもなったけど」


 言いながら掃除機を取り出す。

 半年以上前、初めて綾と里紗に会って挨拶したときは軽く怯えの色が両者の表情に浮かんでいたのだ。

 透自身、初対面の人間に安心感を与える顔つきではないとわかっているため、気にせず流した。

 そして双子を含めた付き合いで態度が軟化していき夕食に誘われるようにもなった。

 美人二人に怯えられたままというのも寂しいので、親しく付き合えるようになったのは嬉しく思えている。

 リビングと自室と双子の部屋に掃除機をかけてのんびりしていると、洗濯機が止とまったので洗濯物を干す。


「とりあえず家事はこれで終わりかな。次は勉強しないとな」


 勉強道具を自室から持ってきて、スマフォを操作して入れてある音楽を流して勉強を始める。

 途中一度休憩をいれて2時間半ほどで勉強を終える。

 時計を見ると四時を過ぎていた。


「あとは夜にやってと。少し走ってくるか」


 勉強の気晴らしと腹を空かせるため、軽くマンション近くを走ることにして家を出る。

 三十分かけて二週目を終えて家に戻る。鍵はかかっていて双子はまだ帰ってきていなかった。


「二人が帰ってくるまでインターネットでもやっていよう」


 リビングに置いてある父親からもらったノートパソコンを開いて、最初は弁当の盛り付けに関したサイトを見る。

 十五分ほど眺めて、あとは趣味に関したサイトやまとめサイトを眺めて時間を潰す。

 五時三十分になる少し前に玄関が開く音が聞こえてきて、ただいまと双子のそろった声が聞こえた。


「おかえり」

「おとなりさんに行こう!」「行こう!」


 楽しみで仕方ないといった様子で透を誘う。


「少し早いけど、まあいいか。その前に手とか洗うように」


 はーいと返事をした双子は洗面所に向かい、透はノートパソコンの電源を切る。

 玄関に向かい、双子と一緒に家を出る。

 インターホンを慣らして出てきたのは里紗だ。


「いらっしゃい、青年にちびたち。お腹は空かせてきたかー?」

「「すかせた!」」

「本日はごちそうになります」


 一礼した透と一緒に双子も頭を下げる。


「堅苦しい挨拶は抜きだよ。入った入った」


 明るい色調のカーテンや絨毯が使われたリビングに入ると、材料を切っていた綾が声をかけてくる。


「まだまだできないからゆっくりしててね」

「なにか手伝うことはあります?」

「材料切って煮るだけだから大丈夫」


 言葉に甘えることにして透は双子と一緒にリビングの床に座る。

 里紗はクッションをそれぞれに渡しながら、すき焼きができるまでなにをするか聞く。


「なにか映画見てもいいし、ゲームでもいいよ」

「じゃあこの前のゲーム!」

「あれね、ちょっと待って」


 実星のリクエストに頷き、里紗は二世代ほど前のゲーム機を自身の部屋から持ってくる。里紗はわりとゲーム好きで色々なハードを持っているのだ。

 双子だけではなく透にもコントローラーが渡され、電源を入れられ、テレビ画面にゲーム業界で一番の知名度を誇る配管工が映る。


「この前のとちょっと違うね」

「あれは二作目でこっちは三作目だからね」


 実星の疑問に答えつつ、里紗は操作してスタート画面から進めていく。

 ゲームが始まり、四人はボタンを押してそれぞれのキャラクターを動かしていく。

 

「古いハードのゲームなのに今でも楽しめるんですねー」


 そう言うのはゲームには詳しくない透。


「新しいゲームが古いゲームより面白いというわけじゃないからね。ファミコンのゲームでも面白いものはたくさんあるし、最新ゲームでも面白くないものはある」

「ファミコンのゲームは難易度が高すぎるものがあるとか友達が言ってましたねー」

「あるね。でもクリアできないわけじゃないし、達成感もあるー」

「にーちゃん、話してていいの? ビリだよ!」

「りさ姉ちゃんは話してても上手にできててすごいね」

「ゲーマー歴十年以上は伊達ではないのだよ」

「おっとと集中しようか。まあ、おいつけなさそうだけどな」

「あはは、がんばれ」


 一位確定している里紗が応援し、しらけさせないよう透も頑張ったが最下位ということにはかわりなかった。

 三人が楽しんでいるならそれでいいやと透も笑う。

 賑やかな雰囲気に綾も微笑みを浮かべて、調理を進めていく。

 やがてすき焼きが完成し、テーブルに置いたコンロの上に鍋を移動する。

 ゲームを止めた四人は、食器や茶碗を運び、すぐに炊き立てのご飯も人数分並んだ。里紗の前にはノンアルコールビールの缶も置かれている。

 くつくつと音を立てて、いい匂いを漂わせるすき焼きに双子の目は輝きを見せる。


「ちびたちも我慢できないみたいだし食べようか」

「ええ、それじゃあいただきます」

「「「「いただきます」」」」


 五人とも最初はたくさん入れられた肉を取り、溶いた生卵にくぐらせて口に入れる。

 柔らかな肉に五人の表情がほころぶ。


「「美味しい!」」


 感想を言った双子が顔を見合わせて「ねー」と頷き合う。


「母さんほんとにいい肉を送ってきたわね」

「明日にでもお礼を言っておかなと」

「私が電話しておくよ。皆喜んでいたってね」

「いやー美味いっす。俺もお礼を言っていたと伝えてください。頑張れば三人分と少しは食べられそうだ」

「おう、がんばれがんばれ。私は美味しいって言っても二人分は無理だし、美味しく食べてたくさん減らしてくれるのは助かるわ」

「うん、私も二人分はちょーっと無理かな」


 箸が進んでいつもより多く食べることはできても、透のように多くを食べるのは無理だ。

 パクパクと肉だけではなく豆腐やネギなどを豪快に食べ進める透や双子を、綾はニコニコとしながら見ている。作ったものを美味しく食べてもらえるのは嬉しいのだろう。

 同じようにニコニコしている里紗もカシュッと開けたノンアルコールビールを飲む。


「りさ姉ちゃんそれってビール?」


 聞いてくる実星に軽く缶を振って頷く。


「アルコール皆無のビールっぽいやつだよ」

「私でも飲める?」

「子供にゃまだ早い味だぞー? 少し飲んでみる?」


 渡された缶を実星は口につけて少し傾ける。星乃がそれを興味深そうに見ている。舌が感じ取った苦味に実星の表情が歪んだ。


「美味しくなーい」

「まあ、そうだろうね。大きくなればこういうのも好きになるんだよ。青年も飲んでみるか?」


 差し出された缶を受け取り、口をつけて思う。これ間接キスじゃないかと。

 あまりに自然に渡されたので口をつけるまで気づかなかった。ちらりと里紗を窺うと気にした様子もない。

 気にしすぎかと一口飲む。

 実のところ直前に飲んだ実星とも間接キスということになるが、透は気にしていない。里紗も似たようなものか、気付いていないかのどちらかなのだろう。


「思ったよりは美味い」

「お、いける口か。新しくもう一本開けようか」

「ほんとに美味しいの? あんなに苦いのに」


 実星は信じられないといった視線を向ける。


「この味がわかるようになれば大人へ一歩近づいたってことかな」


 里紗はコップ二つと缶を持ってきて、そう言いながらコップに注ぐ。

 好奇心を刺激された星乃も透から一口もらい、苦いと舌を出す。


「みほちゃんとしのちゃんは私とリンゴジュースを飲みましょう」


 コップを三つ持ってきて綾はそれぞれに注ぎ、双子は喜んでそれを受け取る。

 

「ジュースの方が美味しい!」


 口の中の苦味が流された星乃がそう言い、実星もこくこくと頷いた。

 子供らしい反応に年上組は微笑みを浮かべた。

 食事は和やかに進み、鍋の中身も空になる。締めにうどんも用意していたが、全員お腹いっぱいといった様子だったので出されることはなかった。


「ちょっと食べすぎたかしら」

「「私もー」」


 ごろんと仰向けに寝転んだ里紗の両側に双子も寝転ぶ。

 にやりと笑った里紗は双子の脇に手を移動させ、くすぐり始る。

 双子の笑い声でいっきに賑やかになり、おかえしだと双子も里紗をくすぐりさらに賑やかになった。

 笑い声を聞きながら綾は食器を片づけ始める。


「手伝います」


 透も一緒にシンクへと運ぶ。

 綾が食器を洗い、透は受け取った食器を軽く吹いて水切りに置いていく。


「今日はごちそうさまでした。肉も美味しかったですけど、味付けもよかったです」

「ありがと。口にあってよかった。ちょっと濃い目かなって思ったんだけどね」

「濃い分ご飯が進みましたね。妹たちもこれといって不満はなさそうでしたし、なんの問題もありませんでしたよ」


 家事に慣れている二人なので、口と同時に手もきびきびと動き、あっという間に洗い物は終わる。

 里紗たちのじゃれあいは既に終わっていて、バラエティー番組を三人で見ていた。

 透と綾もそちらに移動する。


「テレビといえば、昨日九時からやってたホラー映画見てました?」


 里紗とその隣に座った綾に聞く。


「見てたよー」

「やぱりですか。この子らが一番怖がったシーンで悲鳴が聞こえてきたんですよ」

「ありゃ、聞こえてたのか。恥ずかしいね。綾が怖がるところを見たくて、一緒に見ていたんだけどね。私の方が怖がったのさ」


 綾に抱き着いて見てたよと言って、実演してみせる。胴に抱き着いて幸せそうに笑う。

 抱き着かれた綾は苦笑を浮かべている。


「綾さんは怖くなかったんです?」

「私は映画館で一度見てたから、そこまで怖くなかったの。初めて見たときは悲鳴上げたわね」

「一緒に見なかったんですね」

「ちょうど里紗姉に用事があってね。友達と一緒に見たの」


 綾たちと話して、テレビを見てといった感じで過ごしている間に、八時半になり帰ることにする。


「「おやすみなさーい」」

「おやすみなさい」


 玄関で綾と里紗に挨拶して藤井一家は出ていく。

 里紗は綾に背後から覆いかぶさるように抱き着いて移動する。

 よくあることで綾は気にせずリビングに戻る。


「風呂の準備するから、さすがに邪魔だよ」

「邪魔って言われたー。一緒にお風呂入ってくれないと立ち直れないー」


 ペタンと座り込んだ里紗は、期待する目で綾を見上げる。


「はいはい。一緒に入るから大人しく待っていましょーね?」

「はーい」


 子供に言い聞かせるように声をかけ、里紗も幼い感じで返す。

 二人だけになると里紗が甘えるのは、ルームシェアを始める前からよく見られる光景だった。

 家族にもこういった姿を見せることはあり、最近は透たちにも少しだけ見せるようになってきている。

 それは透たちにも心を許している証拠だろう。

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