1 日常
なんとなく思いついた日常物。可愛いロリ双子が書きたい(希望)
時刻は五時三十分あたりか。夕焼けが町を朱く染め、ヒグラシの声が子供たちの遊び声と一緒に聞こえる。
学校のカバンと買い物袋を持った高校生の青年がマンションの階段を上がっている。
百八十cmに近い身長で体格がよく、顔つきも厳つい方だ。演技でも怒った様子を見せると小さな子は泣きだすかもしれない。
おそらく十七才あたりだろう。チョコレートブラウンの短髪で、ネクタイを締め白シャツに身を包んでいる。
青年は藤井と刻まれた表札のある玄関前で止まり、ドアノブを回すが回らない。
「あいつらはいないかー」
そう言うとポケットから鍵をとりだして、家に入る。
静かな家の中を歩いて、リビングの明かりをつけ、テレビの電源を入れ、買い物袋をテーブルの上に置く。
教科書の入っている学校カバンを自室に置くため、買い物袋をそのままに玄関そばの五畳ほどの部屋に入る。
カバンを置いて、制服を脱いで部屋着に着替えていく。
「おっとしわにならないようにハンガーにかけないと」
脱いでベッドテーブルに置いた制服をハンガーにかけた。
ある程度手でしわを伸ばすと、よしと呟いて部屋を出る。
はやりの歌を鼻歌で歌いつつ、テレビから流れてくるニュースをなんとなく聞き、買い物袋のものを冷蔵庫にしまっていく。
「やっぱりほうれん草はあったな。買わなくてよかった」
無駄な買い物をせずに喜ぶ姿からは、所帯じみたものを感じる。
「まあ、余計に買っても明日の朝に使って、弁当にも入れればいいだけなんだけどさ」
そんなひとりごとを言いながら、冷蔵庫を閉める。
時計を見た青年は自室に向かい、今日出た宿題を持ってリビングに戻る。
座布団に座ろうと腰をかがめたとき、玄関が開く音が聞こえてきた。
「「ただいまー!」」
女児の重なった声が青年の耳に届く。
青年は座るのを止めて、玄関に向かう。
「おかえり。みほ、しの」
「にーちゃん」「にいちゃん」
笑みを向けるとみほしのと呼ばれた少女たちも満面の笑みを返し、左右から青年の腕をとる。楽しかったかと聞くまでもなく、上機嫌な様子からわかる。
年の頃は二人とも十才あたり。似たような背格好で、顔つきも似ているため双子なのだろうとわかる。
みほと呼ばれた少女は、本名を実星と言う。赤みの強い肩までの茶髪をショートポニーにした活発的な雰囲気を持つ子だ。パステルイエローの半そでフリルブラウスと白のミニスカートを着ている。
しのと呼ばれた少女は、本名を星乃と言う。髪の長さは実星より少し長く、こちらは束ねて結い上げバレッタで止めている。雰囲気は実星に比べると大人しめだ。空色のノースリーブシャツにミニネクタイ、グレーのハーフパンツを着ている。
二人から兄と呼ばれた青年は藤井透。双子の兄で、受験をひかえた高校三年生だ。
透は腕を上げて二人を浮かし、歓声を聞いておろす。
「手を洗ってこーい」
「「うん」」
行こうと互いに手を取り合って洗面所に向かっていく。
透は宿題をやるのを止めて、先に夕飯の支度をすることにして冷蔵庫から材料を取り出していく。
そこに手を洗い終わった双子がやってきて、夕飯はなにか聞く。
「今日はチャーハンとスープ」
「スープの具はー?」
そう聞いてくる実星に、ホウレンソウとベーコンとニンジンとコーンの中華スープ風と答えつつ、鍋に水を入れて火にかける。
「ご飯できるまで宿題やっとけ」
「わかった。みほはどんな宿題がでた?」
「私はねー、算数の教科書の問題とローマ字の書きとり。しのは?」
「漢字の書き取りと九州の地名の暗記。ちゃんと覚えたか月曜日テストするんだー」
二人でどんな宿題が出たか話しつつ自分たちの部屋に入り、ランドセルから宿題を出すとリビングに戻ってくる。
「ローマ字の書き取りとか地図の暗記とか俺もやったな、懐かしい」
双子の会話で小学校時代のことを思い出し、ほかにどんな宿題が出たか考えながら、ざっくりと切ったスープの材料を鍋に入れる。
次は油を引いたフライパンを火にかけて、チャーハンに入れるたまねぎをみじん切りにしていく。
星乃がたまねぎを嫌っているので、できるだけ細かくしてフライパンに入れる。
テーブルに宿題を広げている双子を見ながら、たまねぎにしっかりと火を通す。飴色一歩手前まで焼いて、皿に移し、ハムと卵も焼いて下準備を終える。
「お湯の方も沸騰したな」
火を止めて、中華スープの素と塩などで味を調える。
やや薄味に感じられたが、双子の舌にはちょうど良いだろうと判断し、水溶き片栗粉でとろみをつけて完成させた。
「スープはこれでよし。二人ともすぐにご飯食べたいか? それとも先に宿題すませてから?」
双子は顔を見合わせてどうしようか話し合い、結論を出す。
「「宿題おわらせる」」
「あいよ。じゃあ俺も少し宿題やってしまうか」
透は手を洗って、テーブルに座る。
「にーちゃんの宿題どんなのー?」
実星がのぞき込む。英文がずらりとならんでいた。
「ローマ字がたくさん!」
「こっちはアルファベットって言うんだ。まあローマ字と同じ文字だけどな」
「なんて書いてあるの?」
星乃ものぞき込んで聞く。
そうだなーと透は言い、これと指差す。
「これなんかわかりやすい。アップルって書いてある」
「それわかる! リンゴのことだよね」
「当たり」
星乃の頭を撫でると嬉しそうな表情になる。
羨ましいのか実星は透の服を引っ張って、私もと問題をねだる。
いくつか問題を出して正解し喜ぶ姿を見て、自分たちの宿題に戻らせる。
翻訳を終わらせると七時少し前になっていた。テーブルを片づけて、チャーハン作りのためキッチンに立つ。
スープを温めなおし、まずは二人前のチャーハンを作る。使っているフライパンでは三人前は難しかったのだ。
フライパンを熱して卵を入れ、ご飯を投入。卵とご飯が混ざり合ったら、具材とチャーハンの素を入れて混ぜて完成だ。
「できたぞー。持っていってくれ」
「「はーい」」
三人分のスープと二人分のチャーハンを持っていってもらっている間に、透の分のチャーハンもささっと作って皿に盛る。
自分のチャーハンを持ってテーブルに行き、座る。
「じゃあいただきます」
「「いただきます」」
チャーハンを口に運んだ双子の表情に不満が浮かんでいないところを見て、ほっと胸を撫で下ろす。
しばし食事を続けて、粗方食べてから今日小学校でどんなことがあったのか聞く。
ここで聞いたことを、あとで両親にメールするのだ。
「給食でみかんゼリーがあまったんだよ。それを男子たちが牛乳の早飲みで一番だった人がもらえるって言って競争してた。そのときに男子の一人が飲んでる人の脇をついて、牛乳噴き出させたよ。先生に怒られてた」
牛乳を噴き出したときの顔が面白かったと笑う実星。
「俺も小学生のとき似たようなことやったな。噴き出しはしなかったけど」
「勝ったー?」
「勝てなかったなー。早飲み磐田ってあだ名の奴がいてね。そいつがあまりに勝つもんだから、二学期過ぎてからはジャンケンで決めるようになってた。一度磐田がむせて牛乳噴き出して顔を白く染めたのは笑える思い出だ」
白磐田の変と言えば、小学校時代のクラスメイトはすぐに思い出して、懐かしそうに笑うだろう。
「うちはあまってたゼリーを欲しい人はジャンケンで決めてたよ。参加したけど勝てなかった」
「そっかー。明日にでもゼリー買ってこようかね。食べたくなった」
「私桃のやつ!」
「私はぶどう!」
「はいはい。忘れずに買ってくるよ。給食のほかにどんなことがあったんだ?」
「二学期は学芸会があるって先生が言ってた」
実星の言葉に、星乃が「社会見学も」と追加する。
「学芸会の時期はいつごろだっけ? 先生はなんて言ってた?」
「十一月頃だって。予定表に書いてあるんじゃないの?」
星乃の指摘にああそうだったと透は手を叩く。
予定表を見てから、両親にメールで知らせておこうと決める。
「社会見学も予定表を見ればわかるかな。その日は弁当なのか? 去年は社会見学のとき弁当持っていった?」
双子はそろって頷いた。
「頑張って作るか。可愛らしい盛り付け方が載ってる本とかインターネットサイトとか見とこうか」
弁当は自分の分を毎日作っているが、盛り付け方はいい加減なのだ。そんな弁当を双子に持たせたら不満だろうと、ちょっと勉強しておくことにする。
ほかにも今日あったことを聞いているうちに夕食を始めて三十分が過ぎた。
食べ終えた食器をまとめて水につけ、風呂の準備を手早くやってしまう。
テレビを見ている双子に、風呂が沸いたら入るように言って食器と料理に使ったフライパンなどを洗う。
洗い物をすませると、透は再びテーブルに戻り、携帯電話を扱う。届いていたメールをチェックして、両親に双子の様子をメールで送る。
メールを終わらせると同時に風呂が沸いたと知らせるアラームが鳴り、双子を促す。
一人になったリビングで透は残りの宿題に取りかかる。
二十分もすると風呂から上がってパジャマに着替えた双子がリビングに戻ってきた。
「「あがったよー」」
「はいよ。ちゃんと髪はふいたか?」
確認のためこっちこいと手招きして、二人の髪に触れる。
「ん、大丈夫だな。俺もさっさと入ろう。二人はそろそろ寝るか?」
「九時から怖い映画あるのー」
「それを見る!」
新聞のテレビ欄を見てみれば、たしかに二年前映画館で放映されていたホラー映画が載っていた。
透も見たことはないが、評判は聞いていてなかなかに怖かったらしい。
「怖いらしいが大丈夫か?」
「「平気だもーん」」
こういうのをフラグが立ったというのかな、と思いつつ透は着替えを持って風呂に向かう。
風呂から上がるとそろそろ双子が見たがっている映画が始まる頃だったので、受験勉強のための教科書を片手にいっしょに見る。
高校生たちが廃墟に行って探索するという導入で、双子は興味津々にテレビを見ていた。
その高校生たちが一人また一人と暗闇に消えて行き、事件としてニュースが流れる。その事件を雑誌記者が追っていくという流れで本編に入る。
最初こそ目が輝かせていた双子は、暗闇からひたひたと足音を静かに立てて出て来ては誰かを引きずり消えていく正体不明の女に、小さく悲鳴を上げて目を曇らせていく。
そして四度目のCMに入り、明るい音楽と画面が流れて、ほっと安堵する表情を見せる
「評判どおりの怖さだな。ん? どしたよ」
立ち上がった双子に透は尋ねる。
双子は答えずに、透の両側に立つと引っ張りテレビの正面に座らせ、両側に座る。
べたーっと体全体に抱き着くのは星乃で、実星はちょっと恥ずかしがって透の腕を抱くだけだ。
こういったところに性格の違いが出て、小さく笑みをこぼす透。
「そんなに怖いなら見るのやめればいいだろうに」
怖さはあるのだろうがそれ以上に続きが気になるのだろう。ふるふると首を横に振って、CMが終わり映画が始まると抱き着く力が強まった。
この状態では勉強もできず、仕方ないと苦笑を浮かべた透は教科書をテーブルに置いて、両手を双子の肩に置く。
そのまま映画は終盤になり、突如現れ雑誌記者に迫る女という一番の山場で双子は大きく体を震わせて力一杯服を握る。実星は恥ずかしさよりも怖さが上回っており、星乃と同じように抱き着いていた。
同時に家の外からも悲鳴が上がった。
「これは……おとなりさんも同じ映画見てたのか」
なんとなく隣の状況が想像できて笑みが浮かんだ。
事件は終わったと判断し家に帰る雑誌記者の影にうっすらと女の笑みが浮かんで映画は終わる。事件はまだ続くという示唆に恐怖の余韻が残る。
「終わった終わった」
そう言いながら透はテレビを消す。
「動けないから手を離してくれ」
ほらほらと二人の手を握って揺らす。
「やーっ」「やなの!」
「嫌じゃないよ。いつまでもこの状態じゃ寝れないだろ」
「にーちゃん「にいちゃん」
恐怖に震える目で自身を見上げてくる双子に、なにを言いたいのか察した透はまあそうだろうなと苦笑を浮かべる。なんとなく映画を見る前から予想はできていた。
「はいはい。リビングに布団持ってきな」
そろって力強く頷いた双子はようやく手を離して、自室に駆けていく。
布団を敷くスペースを確保するためテーブルを端に寄せる。
双子が持ってきた敷布団を並べ、その真ん中に透の枕とタオルケットを置いて、三人で洗面所で歯磨きする。
「にーちゃん早く」「早く」
「ちょっと待ってくれ。ご飯炊けるようにしとかないと」
朝食用の米をといで六時三十分にセットする。
タオルで手をふいて、電灯のスイッチに手をかける。
「明かり消すよー」
「全部はダメー!」「ダメー!」
「じゃあ豆電球だけな」
部屋が暗くなり、透は急かす双子の間に入り川の字で並ぶ。実際は小の字に見える。
両側から抱き着いてきた双子に、まだ残暑厳しいんだけどと思いつつ、おやすみと声をかけて目を閉じる。
五分もせずに三人分の寝息がリビングに小さく響く。
双子は怖い夢を見てはいないようだが、透のそばから離れることはなかった。
そうして夜が明けて、ご飯が炊けたアラームで透は目を覚ます。
「二人はまだ寝てるか」
そっと移動し二人の間から抜け出た透は洗面所で口をゆすいで顔を洗い、キッチンに立つ。
「大根の味噌汁と目玉焼きとウインナーでいいか」
ちゃちゃっと献立を決めて、朝食を作る。
七時前には出来上がり、皿に盛っていく。
双子はもぞもそと動いていてそろそろ起き出しそうだ。
「これなら起こしても問題はないな。というわけで起きろー」
声を若干大きくして呼びかけ、二人の体を揺らす。
「ふぁおはよーにーちゃん」
先に起きたのは実星で目を擦り挨拶してくる。
すぐに星乃も起き上る。
「んーっおはよーにいちゃん」
「二人ともおはよう。ご飯できてるからな。顔洗ってこい」
はーいと返事をした二人はとてとてと歩いて洗面所に向かった。
二人が戻ってくるまでに布団を端に寄せ、テーブルを元の位置に戻す。茶碗にごはんをよそい、お椀に味噌汁を入れてテーブルに並べる頃にはしっかりと目を覚ました双子が戻ってきた。
「「「いただきます」」」
朝食を食べた後、透は学校に行く準備をして制服に着替え、カバンに教科書を入れていく。
透の高校は週休二日だが、たまに振替休日などで時間がたりなくなると土曜日の午前に授業がある。そして三年生は受験のため毎週土曜日の午前中に授業がある。
八時になると透はカバンを持って玄関に向かう。その透を見送りに双子も玄関まで行く。
「遊びに行くなら家の鍵は閉めるように。あと一時前には帰ってくるから、二人もその頃には帰ってくるように」
「「うん。いってらっしゃい」」
「いってきます」
手を振る双子に見送られて透は家を出る。
玄関が閉まると双子はなにをして遊ぼうかと話しつつ家の奥に歩いていく。
こうして三人の一日は始まるのだった。