12 学芸会
透の高校の文化祭が始まる一ヶ月前。双子の通う小学校でも学芸会に関する話がされた。
高校と違い、一クラスでなにかするのではなく、一学年で行うのでまとめて説明しようと、四時間目に四年生が体育館に集められる。
一組二組の担任、一恵と弥生が前に立ち、手を叩いて皆の注目を集める。
静かになったところで一恵が口を開く。
「これから十一月にある学芸会の説明をします。四年生と三年生は演劇です」
一年生と二年生が歌で、五年生と六年生が演奏だ。あとは保護者たちの歌もある。
「私たちがやるのは浦島太郎のように動物を助けてその恩返しをうける話です。どういった内容かは今から配るプリントを見てちょうだい」
一恵と弥生がそれぞれのクラスの学級委員にプリントを渡し、そこから全員にプリントが渡る。
皆、手元のプリントに目を通し始める。
山の麓に住む若者が、怪我をして助けを求めていた鹿親子を助けたことから話が始まる。
このことをほかの村人に話すと馬鹿にされたが、若者はいいことをしたと思っていた。
その日から数日した夜に家の戸を叩かれて、出てみるとそこには鹿親子を名乗る人間の親子がいた。
怪我の治療に使った布を差し出してくる母親の話を聞いてみると、仙人の飼っている鹿だったようで、仙人が恩返しをしたいと言っているらしく、一緒に来てほしいと誘われた。
若者を問題なく誘えるように鹿親子は仙人の術で人間の姿になっているのだ。
若者は頷き、一緒に山に入るという流れで話が進んでいく。
道中では、腹をすかせた熊が道を塞いでいたり、宴会をやろうとして準備不足に困っている動物たちがいたり、橋が落ちていたりとアクシデントが起こる。
それを手持ちの品を使ったり、機転を効かせたり、助けた動物に助けてもらったりして若者は問題を解決し、仙人の住処に到着する。
家に入ると仙人と若者を睨んでくる仙人の娘がいる。急にそんな態度をとりだしたことを不思議に思った仙人が尋ねると、若者のことを娘の婿にするため連れてくるのだと勘違いしていた。
これは仙人と鹿親子の会話を断片的に聞いたことが原因で、間違いを諭されると娘はすぐに謝った。それは睨んだことだけではなく、若者をここまで来れないように道中のアクシデントを起こしたことにもだった。
娘の仕業と聞いた若者は驚いたものの、反省している様子を見て許すことにした。
その懐の大きさと鹿を助けた優しさに関心した仙人は、娘の勘違いを本当のことにすることにした。
嫁にどうかと勧められた若者は、仙人の娘の美しさに見惚れたこともあり頷く。
娘も全く知らない相手と結婚するのが嫌で道中アクシデントを起こしていたのだが、ここに来るまでと来てからの若者の様子で良い人だとわかり、結婚に頷く。
こうして若者は仙人の娘と仲睦まじく不自由なく暮らしていくことになる。
皆が読み終わりざわつき始めたので、一恵が手を叩いて注目を集める。
生徒たちの視線が集まったことを確認して、一恵は話を再開する。
「劇の内容は読んでもらったとおり。今度は学芸会までの流れを説明するわね。劇をやるにはもちろん舞台に立つ人を選ぶ必要があるわ。でもそれだけでは劇はできない。大道具を作る人もいるわ。シーンが変わったときに大道具を移動させる人がいるし、演じている最中に効果音を出す人も必要。ここまではわかったかしら?」
『はーい』
たくさんの返事に一恵と弥生はうんうんと頷いた。
「じゃあ今日はおおまかに役割を決めるわね。五分後になにをやりたいか聞くから、それまでに決めてちょうだいな。人数によっては希望通りにいかないこともあるからね」
そう言って一恵が口を閉じると、生徒たちは近くにいる者とどんなことをやろうか話し出す。
双子と柚子と咲子も集まり、どうしようかと話す。
「私は役者やってみたい」
「私もよ」
まずは実星と柚子が希望を口に出す。
わくわくした表情で、舞台に立つのが楽しみといった感じだ。
「私はちょっと恥ずかしいから演じるのは止めとく」
咲子は裏方志望で、星乃もどちからというと裏方志望なようで咲子側で頷いている。
「そうかな? きっと楽しいよ」
「皆に見られて緊張しちゃいそうだけど」
実星は乗り気ではない咲子から視線を星乃に移す。
「にーちゃんが見に来てくれたときに、頑張ってる姿見せなくない?」
「そう言われるとやってみようかなって思えてきた」
透が来るということでやる気を見せた星乃に、ちょろいなぁと柚子と咲子の考えが一致した。
星乃を攻略した実星は咲子に視線を向けたが、苦笑を浮かべて首を横に振られた。
どう説得しようかと頭を捻ってなにか思いついたか、口を開く。
「旅の恥はかき捨てっていうじゃん?」
「なんとなく言いたいことは通じるけど、使い方が違うわね」
柚子の言葉に、実星は不思議そうに小首を傾げた。
「せっかくのイベントだから多少の恥ずかしさは気にするなってことかな」
咲子なりに受け取った考えを口に出すと、実星はうんうんと頷いた。
咲子は少し考え込んだが、やはり気乗りしない様子で首を横に振る。
手強いと実星は可愛らしく唸る。
「そこらへんにしときなさい。無理に誘っても楽しめないでしょ」
「……そうだね」
柚子の言葉で納得したように実星は誘うことを諦めた。
ほっとしたような様子を見せて咲子は柚子に礼を言う。
そんな四人の様子を離れたところから、自称実星のライバルである久木が見ていた。
劇に関した勝負をしかけようと思ったが、劇での勝敗はどういうふうにつけるのか考えているうちに五分たったため、話しかけることができなかった。
「役者をやってみたい人は手をあげてー」
一恵が声をかけると、ぱらぱらと手が上がる。
実星が手を上げたのを見て、久木もとりあえず上げた。
弥生と協力し数え、次に大道具作りと配置の希望者に手を上げてもらう。最後に音響希望者に手を上げてもらう。
咲子は音響で手を上げた。
「合計して、この人数っと。柄倉先生、これであってますかね?」
弥生に一恵が尋ね、数え間違いがないかの確認をしてノートを閉じる。
人数の振り分けに関しても話して、特に問題なしと結論が出た。
「はい。今日決めることは終わったわ。明日からは役割別にわかれて説明するからね。朝の会でどこに集まるか話すから聞き逃さないように」
そう言って一恵が締めたところで、授業の終わりを知らせるチャイムが鳴る。
教室に帰るように一恵たちが指示を出し、生徒たちは話しながら体育館から出ていく。
翌日、朝の会で全員に台本が渡され、六時間目に役者組は一組に、大道具組は美術室に、音響組は体育館にと知らされる。
そして六時間目になり、それぞれの場所に向かう。
役者組の今日の内容は、どの役をやるか決めることだった。
役者組担当の一恵が黒板に役を書きだしていく。手に着いたチョークの粉を払い、生徒たちを見る。
「この中から選んでいくことになるわ。まずは希望者を募ってみましょうか。主役の若者役をやりたい人ー」
三人が手をあげた。どうせやるなら主役だと久木もあげている。
「はいはい、じゃあその三人は……じゃんけんでいいかな?」
一恵は三人の顔を見て、不満がなさそうなのを確認し、最初はグーと言って促す。
久木は負けて、若者役が決まった。
次に鹿親子の希望者を募り、それに双子が手をあげた。
今回も希望者とジャンケンすることになる。運よく双子は勝ち残り、家族役にちょうどよさそうだと一恵も頷いていた。
次々と役は決まっていき、柚子は仙人の娘、久木は仙人に決まった。
それを学校から帰って、透に伝える。
「鹿の親子かー、しっかりと写真に収めないとな。たぶん母さんも帰ってくるだろうし、楽しみだろ?」
「「うん」」
そろって頷いた双子に、練習頑張れよと透は声援を送る。
「あ、そうそう。劇のためにオレンジっぽい色か明るい茶色の服の上下を準備してほしいって」
「なかったら、学校で布を準備して巻き付けるって言ってたよ」
双子から得られた情報に、透はそんな色の服あったかとタンスの中身を思い出す。
「あとで探してみるか。準備するのはそれだけでいいのか? 鹿から人に変身するんだろ。そのときに衣装替えしたりしないのか?」
「浴衣みたいのは学校にあるからいいって。角もパーティーグッズのやつを買ってくるんだって」
「そうか。以前使ったものがあるんだろうな」
劇は毎年やっていて、使えそうなものは倉庫に入れて保管している。浴衣もそういった以前使ったものの一つで、一恵と弥生は既に必要分を確認ずみだった。虫食いなどもなくクリーニングに出している。
「にいちゃんが小学校に行ってたときはなにか劇やったの?」
星乃の言葉に、透は「おう」と頷く。
「俺のときは外国の物語で、悪いドラゴンに囚われたお姫さまを王子さまが仲間の手を借りて助けるって話だったな」
「にーちゃんはなにしたの?」
「劇にでてきたドラゴンはな、三枚の板に描かれたものだったんだ。顔と首で一枚、胴体と羽で一枚、尻尾で一枚ってな感じだ。三人でそれを動かしていたんだが、その一人だったよ。みほしのも見に来てたんだぞ。三才くらいのことだから覚えてないだろうけどな」
両親に抱かれて見ていたのだが、二人とも当時のことはまったく記憶になかった。
一生懸命思い出そうとしている双子に、透は微笑ましさから笑みを向ける。
「たしかアルバムに写真が入っていたはずだから、それを見ればいいさ」
「あとで見る。そのときの劇は上手くいったの?」
聞かれた透は当時のことを思い出し、小さく噴き出す。
「磐田ってやつが王子の仲間役だったんだけどなぁ。セリフ間違えて、危うくお姫様救出劇からお姫様黒幕劇になりかけた。王子たちのアドリブでどうにか路線が戻ったんだよ」
王道ストーリーと思っていた観客たちから意外な展開に対するどよめきが起きたことや舞台上の人間の焦った表情をよく覚えている。
「磐田って人、前も話に出てきたね」
「何度かやらかしている奴だからな。思い出話だと話題に上がりやすいんだ」
透はちらりと時計を見て、そろそろ夕食の準備だと立ち上がる。
双子に宿題をすませるように言って、キッチンへと歩いていく。
学芸会の準備が始まって順調に時間が流れていく。
セリフの読み合わせを透が手伝うことがあったり、休日に柚子と咲子がやってきて練習したりしていた。
咲子は劇前半のナレーション役になっていて、全体の流れを把握する必要があり、役者組たち三人の練習に加わったのだ。
双子が劇に出るという話は綾と里紗にも伝わり、見物に行こうという話になった。その二人からクロエにも情報が流れて、行きたいと言っていたのだが、さすがに迷惑になるからと里紗から止められた。かわりに写真を送ってくるように依頼が出て、透が撮ったものを送ることになっている。
そして学芸会の前日の土曜日になる。
リハーサルを終えて午後三時少し前に帰ってきた双子を透が出迎える。
「おかえり。リハーサルはどうだった?」
「上手くいったよ!」
「誰も失敗しなかった」
言葉だけではなく満面の笑みで、成功具合がよくわかる。
「そりゃよかった。明日も上手くいくといいな」
うんと頷いた双子に、綾から差し入れだともらっていた手作りプリンアラモードを渡す。
どうしたのこれと双子は聞きながら目が輝やかせる。
「綾さんからだよ。明日楽しみにしてるってさ」
「食べていい?」
「いいよ」
双子は早速プリンを口に運んで、美味しそうに手と口を動かす。
「母さんも向こうを出発したってさ。五時くらいに帰ってくるんだとか。夕飯も母さんが作るって言ってたぞ」
「ぽんと? 楽しみ。ね、しの」
「うん! なに作るって言ってた?」
「ミートボールシチュー。二人とも好きだろ」
千夏が作るそれは双子にとって好物の一つだ。もちろん透も好物だった。
三人して待ち遠しく思いながら、母親の帰りを待つ。
双子が携帯ゲーム機で遊び、透は迫る受験に備えて勉強をしていると玄関が開く音がして、ただいまという聞きなれた声が聞こえてきた。
双子はゲームを止めて、玄関に走っていく。
すぐに双子を両側にくっつけた千夏がリビングに入ってきた。
「おかえり」
「ただいま。やっぱり家はほっとするわね」
言いながら千夏は荷物をソファーに置いて、改めて屈んで双子を抱きしめた。
「可愛い可愛いお二人さん、元気だったかしら?」
約二か月ぶりの母親に、嬉しそうな様子で双子は抱き着き頷く。
千夏の方も双子の抱き心地を堪能し、立ち上がる。
「透も元気なようね。そろそろ受験が近いようだし、病気には注意してね」
「わかってるよ。母さんたちの方こそ、風邪とかひかないよう注意しろよ。みほしのが心配するからさ」
「誰かにうつされないかぎりは大丈夫よ。健康的な毎日送ってるから」
そりゃよかったと言っている透に、お土産を入れた袋から二つ取り出す。
「いつものようにお隣さんにお土産持っていってくれない?」
「あいよ。向こうに戻るのはいつになるんだ?」
「月曜はみほしのが休みでしょ? だからその日は一緒にすごして火曜日の朝に戻るつもりでいるわ。本当はお父さんも休めたらよかったんだけどね」
「忙しいなら仕方ないさ。母さんが帰ってくるだけでも、二人は喜ぶ」
話ながらお土産を受け取った透は、家から出て隣のインターホンを押す。
綾たちは帰ってきていたようで、返事があった。
透だとわかると、玄関を開いて里紗が出てきた。
「はいはい。なんの用かな」
「母さんからお土産です」
「おー、いつもありがとう。礼を言っていたと伝えておいてほしい」
「了解です」
「それと明日の予定だけど、二人の劇は午後の部一番目だっけ」
「ええ、十二時三十五分開始ですね。一緒に行きます? 母さんは朝から行くらしいけど、俺はみほしのの劇だけ見ればいいと思ってたんで」
「……うん、そうしようか。綾にもそう伝えておく。ここを出るのは十二時前になるよね?」
「そっすね。出発の時間になったら呼びにきますよ」
「おねがい」
約束を交わした透は家に戻る。
千夏が調理を始めており、双子がそんな母に話しかけていた。
「お土産ありがとうございますだってさ」
「はいな。ごはんできるのにまだまだ時間かかるからゆっくりしておきなさい」
「あいよ」
インターネットでもして暇を潰そうとノートパソコンを開く。
双子と母親の会話を聞きつつ、透は明日良い写真が撮れるようにコツの載っているサイトを開く。
趣味としてやっている写真撮影だが、より良いものをとこうしてサイトを見たりするのは珍しいことではない。おかげで自然と勉強している形になり、素人の域は超えている。仕事の関係で良い写真を見ていたクロエも感心するほどだ。プロにはまだ敵わないが、今後の精進次第でその道に進むことも可能だろう。
本人としては将来の職業にしようとは一切考えておらず、妹たちの可愛い姿を撮れたら満足だった。
撮影のサイトからニュースのサイト、さらに別のサイトへと時間を潰していると、双子から遊ぼうと声をかけられる。
それに頷いた透はインターネットを終わらせて、トランプを準備した双子のそばによる。
トランプを終わらせ、テレビを三人で見ているときに料理が完成したか、千夏が声をかけてくる。
「待ってました!」
「「待ってましたー!」」
漂ってくる匂いに空腹を刺激されていた透は思わず声を上げ、それを双子が真似する。
仲の良い兄妹光景に千夏は、微笑ましそうであり幸せそうな笑みを浮かべて、皿にシチューを盛っていく。
夕食後、千夏と双子は一緒にお風呂に入り、リビングで三人で眠る。
そして翌朝、元気に家を出る双子を千夏と透は見送る。その三十分後に千夏も家を出る。
透は十一時三十分にアラームをかけて勉強を始め、アラームが鳴るとリビングに移動し、コーヒーとトーストで軽い昼食をとり家を出る。
綾達を呼び出すと、出かける準備を整えた二人が出てきた。
「さあ、二人の雄姿を見に行こう!」
楽しみだーと笑い里紗が歩き出す。
「そこまで楽しみにすることですかね」
「私は里紗姉の気持ちわかるわ。妹分として可愛がってる二人が頑張っているところを見られるんだから楽しみよ」
双子に対する親愛が感じられて、透はありがたいことだと思う。
学校に到着し、昼休みで賑やかな校舎の横を通って体育館に入る。
携帯電話で時間を確認すると、あと十五分ほどで午後の部が始まるところだった。
三人分開いているパイプ椅子を探し、そこに座る。
待っている間に、透は到着したことを千夏に知らせる。
『どこにいるの?』
「後ろの方だよ、母さんは?」
『私は真ん中の少し前。周りが空いてるならこっちに呼んだんだけどね』
「むりそうだしこっから見とくよ」
『はいよ。綾さんと里紗さんも一緒にいる?』
「いる。わくわくしながら開始を待ってる」
『ちょっと手を上げて位置を教えてくれる? 挨拶しておきたいわ』
了解と返し、透は立ち上がって手を振る。
三人を見つけた千夏は移動してきて、いつも世話になっていることやおすそわけや服の礼を言う。
綾と里紗は「いえいえどういたしまして」と背筋を伸ばして対応し、少し雑談して午後の部が迫ったことで千夏を元の場所へ促す。
千夏が去っていくと、里紗は椅子にだらしなく座る。
「ふふぇ」
「どしたんです?」
「急に『大人な話』をしたからね。完全休日モードなときに硬い話はちょっと」
「あはは、里紗姉も真面目にやればできるけど、好んでそういった対応はしないからね。やろうと思えばご令嬢としての対応もできるんだよ」
「いつもの里紗さんからだといまいちイメージできないですねー」
正直な透の感想に、二人は笑う。
「いつもとご令嬢としての私はかけ離れてるって自覚あるからね。透がイメージできないのも無理ないよ」
そんなことを話していると午後の部開始を知らせるブザーがなり、明かりが落とされる。
アナウンスで四年生の劇が始まることと題名が告げられ、ステージを隠していた幕が開かれていく。
ステージ上には浴衣を少し改造した衣服の少年が立っていて、咲子の声で劇が始まる。
劇が進んですぐに実星と星乃の出番がきて、透は写真を撮る。
綾と里紗も、二人の出番に小さく歓声を上げた。
二人が問題なく演じていく様子を、透たちも千夏も満足そうに頷いて見ている。
劇はどんどん進み、誰も失敗することなく終幕まできた。
最後のセリフが終わり、咲子と交代したナレーションが締めて、役者がステージに集まって頭を下げた。
観客たちは拍手を送り、その拍手に包まれて幕が閉じていった。
「上手くいってよかったね」
綾が拍手を止めて、成功を喜ぶ。
「うんうん、皆どこかつまることもなかったし、たくさん練習したんだろうね」
「さて俺は帰りますけど、二人はどうします?」
綾と里紗は少し話して立ち上がる。久々の小学校を少し見物しようかなとも思ったが、こうして敷地内に入り、体育館にも入ったことで満足した。
透は千夏に帰るとメールを入れ、夕食の買い物を頼まれる。
了解のメールを返し、二人と小学校を出る。綾もついでに買い物をするということなので一緒にスーパーへ向かうことになる。
今日はなにを作ろうかと話し合いながら買い物していき、マンションに戻る。
玄関前まで来て、透はデジカメを差し出す。
「はい、どうぞ」
「ありがと。ちゃっちゃとコピーして返すよ」
礼を言って家に入った里紗はノートパソコンとデジカメを繋いで、綾とあれがいいこれがいいと話しつつ、クロエに渡すための映像データを選んでいく。
一時間ほどして選び終えた里紗は、透にデジカメを返す。
透もノートパソコンに繋いで、父と祖父母に送るものを選んでいく。
一通り選び終わって、テレビから流れる音を聞きつつ、教科書を流し読みしていると玄関が開く音が聞こえてきた。
元気よくかけこんできた双子を出迎える。
「上手くできてたなー」
言いながら頭を撫でると、嬉しそうに笑う。
「あら、私が褒めたときより嬉しそうじゃない?」
からかうように千夏が言い、双子は照れた様子で母の背中をぽかぽか叩く。
笑いながら双子に痛い痛いと返している千夏に、透は声をかけノートパソコンを指差す。
「母さん。父さんたちに送る映像選んでおいたから、あとで見といてくれる?」
「はいよ。まあ、まずは着替えてくるよ」
じゃれついてた双子の頭をがしがしと撫でて、自室に向かう。
部屋着に着替え、化粧を落とした千夏は双子と一緒にきゃいきゃい楽しそうに話しながら映像を見ていく。
そういった様子から学芸会は双方にとって楽しいものになったのだろうとわかる。
翌日の休みは千夏と双子で出かける。双子は行きたいところがあり、ちょうどよいと千夏に頼んだのだ。
帰ってきて渡されたお土産に、透は双子の思いやりを感じで嬉しかった。
そして火曜日、たっぷりと双子を甘やかして親子の交流を堪能した千夏は父親のところへと戻っていった。
その夜、枕を持って双子が透の服を握る。
思う存分母親に甘え、その母が戻っていった日の夜はいつも寂しく感じ透と一緒に寝たいとねだってくるのだ。
「わかったから、朝に米が炊けるようにだけさせてくれ」
「「「早くね」」
「はいはい」
苦笑を浮かべて双子の頭をぽんと叩いて、キッチンに移動する。米をとぎ、朝に炊けるようにセットする。
リビングに布団を敷いて、明かりを消し、寝る準備を整えると透は布団に入る。
その透に双子は両側からくっつく。
「それじゃおやすみ」
「「おやすみなさい」」




