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第4話 真中中と白木善行

「そういえばさ、真中ちゃんはまだあれ持ってるの?」


 先ほど悪業宅を訪れてから帰宅途中。

 真中と共に力野と技山が歩き、真中の家へ向けて歩き続けていた。技山は特に話したいこともないらしく、にやにやしながらどこかを見ていたが、力野と真中は古い仲だ。久々に会ったから話したいことも山ほどあるのだろう。


「あ、持ってるよ」


 力野に言われて鞄から出したのは一枚の護符。よく見ればその護符は少しだけ光っているように見えた。今もなお発動しているということだろう。

 霊除けの護符。

 真中は昔から霊や災厄に憑依されやすい体質だった。


 霊・・・・・というのは陽山師でもまだ解明できていないものではあるが、災厄は本当にいる。普段は高い霊力のあるところ、主に霊脈、もしくは霊力の高い人間に近づくことが多い。しかしなぜか真中は例外だった。霊力も強くなく、一般人と変わらない。

 それでもなぜか憑依されやすく、気付けば体が重かったり、体調を崩したり、発熱が数が月続いたり、立てなくなるほどに疲労したり・・・。


 それでもあそこまで快活な明るい少女に育ったのは性格だろう。

 憑依されてもなんとなく体調が悪いぐらいだと思っていた少女は普通に学校に通っていたし、悪業を通して悪性に伝えられるまでなんの異常だとも思っていなかった。

 それからは陽山師の長が直々に作ったこの霊除けの護符のおかげで憑依されることはめっきり減っていた。


「一度持たないで外出したことがあったんだけど、また体調崩しちゃったまだあの体質はなおってないみたいなんだよね」

「そっか・・・その護符作ってもらってよかったね」

「長、直々の護符ですからねえ・・・そりゃ効果もありますよ」


 まるで自分のことかのように技山がそう言った。

 力野は「また始まったか・・・」と言い、真中も「ははは・・・」と苦笑いしている。


 陽山師の長は現在1人。

 今すべての陽山師に出回っている護符を作った張本人であり、今、この世界で唯一自らの霊力を護符なしでコントロールできる人物だ。

 もう年齢もそれなりなはずだが、まだまだ現役らしい。


 そしてそんな長を慕う人間も多い。

 技山もその1人で長の話になると長くなるのだ。過去の武勇伝だとかをまるで自分のことのように嬉しそうに話している。だからなんとなく言いにくいのだが・・・。


「うっせーぞ技山。真中ちゃんもいるんだから少しは自重しな」


 力野は違った。

 相変わらず誰に対してもガツガツいくような子である。いつもと同じようなその光景に真中は笑ってしまった。それと同時に羨ましくもある。

 こうして気兼ねなく話すことができる友達、そんな友達が真中にも2人いたのだ。


 だからこそ過去を追い求めてしまう。またあのころに戻れないかと考えてしまう。そう考えてるのはもしかしたら自分だけで、人間だから変わっていくのは当たり前で、その変化を止めようとする自分だけが異質なのではないかと思ってしまう。

 そうなると襲ってくるのは孤独感。自分は悪業の復帰を願っている。でもそれは自分のわがままなのではないかと思ってしまうほどに思い詰めている時があるのだ。


「なに考えてるのかわかりませんが」


 元に戻ったのだろう。技山が真中に声をかける。


「いえ、勝手な推測ですよ、以前力野に相談しているところを聞いてしまった、そんなワタシの勝手な考えなんで無視してくれてもかまいません」

「それは本当に偶然たまたま聞いたんだろうなてめえ・・・」


 力野は技山をにらみつけるが慣れているのか技山は気にしない。

 そのまま何事もなかったかのように話し始めた。


「変化をするのが人間なら我が儘を言うのもまた人間です。人間らしく変化するのなら人間らしく我が儘を言ってもいいのではないですか。まさしくあなたは背負いすぎってやつです」


 「なにやらあなたのまわりには背負い過ぎが2人もいるみたいですがね」と技山は苦笑いする。その言葉に力野もにやりと笑った。


「その通りその通り。つーか、白木にならともかくうちの黒いのは真中ちゃんに迷惑をかけているわけだし、そんぐらい許される我が儘でしょ」

「そもそもあなただけが考えてるわけじゃないと思いますよ。人間だからこそ昔に戻りたいときもある、取り戻したいものもある。みんな同じです」


 そう言って力野も技山もどこか遠くを見つめる。

 真中はその目をする理由を知っている。悪業の母だ。悪業の母は誰からも好かれており、もちろんこの2人もお世話になっていたのだ。取り戻したいもの・・・それが分からないほど真中は鈍感ではない。

 しかしその悪業の母に対する思いが今の悪業を追い詰めていると思うと手放しで喜べないところもあるが、真中も同じく悪業の母にはお世話になったものだ。


 優しい人だった。

 みんなの母なんて言われており、陽山師を陰ながらサポートする今の悪意と同じ役職で日々、貢献していた。与えられた仕事をこなし、そのうえ他人のことも気にかける性格。昔の悪業はきっと母の姿を見て人を助けることを覚え、厳格な父の姿を見て努力することを学んだのかもしれない。


 そこで真中もまた考え込んでしまっていることに自分でようやく気付いた。他2人はその様子を見て笑っている。

 きっと同じ気持ち。

 その意味が。その言葉が。真中の中に溶け込むように入り込んでいった。


「ありがとうございます、2人共」


 またこうして今度はあの3人と一緒に笑えるように。

 そのために頑張ろう。きっとみんな同じ気持ちなんだと今は思い込んででも。

 心の底からそう思った。







「ただいま」


 白木善行の家は悪業と同じ住宅街にある一軒家だ。

 両親を亡くした善行は叔父、叔母、そして妹と共にこの家で暮らしている。ちなみに父親亡き今、その白木をまとめているのは叔父である。

 玄関にある靴を見る限りまだ叔父叔母は帰ってきてない様子。善行も靴を脱ぎ、唯一置いてある小さめの靴の隣に並べて置いた。


 まだ先ほどの速水との勝負をひきずっているのか体が重く、疲労感はとれない。それでも今、もうすでに帰ってきているらしい妹に心配をかけさせまいと笑顔でリビングへと向かっていた。

 護符は使い捨てだ。鞄の奥底に入れていた護符は先ほどのゲームで使い果たしてしまい、もうない。


(もらうには叔父さんか叔母さんに頼むしかないけど...)


 頼みにくい。もうすでに陽山師の訓練をやめたことは父や母、妹だけではなく、白木の人間、さらには黒木の人間だって知っている。

 陽山師は生まれに関わらずなることができるが、やはりまとめているのはこの2つの家だ。そうなると自分のことを知らない人間なんてものはいなくなってしまう。


(そもそも知らない人間に頼むっていうのもハードルが高いけど...)


 洗面台で手を洗い、そのままリビングへ。

 するとなんだかおいしそうな匂いが漂ってきていた。なにやら料理を作っているらしい。


「あ、お兄ちゃん!」


 明るい声が響く。

 キッチンには背の低い女の子が立っていた。小さくツインテールにしたその髪がこちらを振り向くと同時に揺れている。恰好は小学生の時家庭科で作ったかわいらしい柄物のエプロンをつけていた。


 白木善意。善行の妹であり、3歳差の中学生だ。叔父叔母の帰りが遅いときは妹が料理を作るため、今もキッチンに立っている。まだ14歳ではあるが、もう料理もお手の物だ。


「ごめん、善意。帰りが遅くなった、今手伝うよ」

「お兄ちゃんはいいから座ってて」

「でも」

「でもも何もないの。なんかわかんないけど疲れてそうだし」


 そういうと妹は無理やり善行をソファに座らせ、自分はキッチンに戻ってしまう。

 疲れていることがバレるとは思っていなかった善行は苦笑いだ。いつまでも子供のままだと思っていたら、どうやらそう思っていたのは善行だけらしい。

 もうそういう機微に気付くようになったのか、と少し驚いてしまう。


「なら甘えさせてもらおうかな」


 善行はソファに座り、ゆっくりともたれかかる。

 そうして思い出すのは今日のことだ。本当にたくさんのことがあった。

 悪業の家にいって遊ぶだけのつもりが、思わぬことに巻き込まれてしまったのだ。速水とのゲームを思い出す。まるで相手にならなかったあの勝負を。


 善行は白木の生まれにして生まれつき、霊力がとても弱かった。そのため元々扱える護符の種類も少なく、本当に白木の生まれなのか疑われるほどだった。

 本当に白木の出なのか、霊力が弱くてもコントロールがうまいのかもしれない。様々な仮説が並び立てられたが答えはどれも違う。単純に才能がなかったのだ。


 昔は訓練なんて何も楽しくなかった。基礎知識を覚えることからだったので座学がほとんど。学校を終えてへとへとになっていたとしても家に帰るとまた和室に通され、そこで陽山師の勉強をしなければいけない。それは辛く、遊びたい盛りの年頃にとっては地獄のようだったのだ。


 そこで出会ったのが悪業。あの日、真中を助けたらしい悪業とすぐに友達になり、そこで同じ陽山師の子どもだということも分かった。分かった、というより見た。それを。

 悪業の霊力は黒木の末裔らしく、かなりの量なもので霊力が弱く、目に見えぬものを見ることさえ覚束ない善行でもはっきりと見えた。


 こんなに近くに陽山師の、それも黒木と白木の末裔がいるなんて。でも、これを教えなかったのも父の優しさだろう。同じ末裔で、同じ年齢。それなのになぜ自分には力がないのか。

 そう思わせないようにするためだった。父はきっと努力によっては善行も一人前の陽山師になれるとその頃は思っていたのだろう。だから諦めさせたくなかったのだ。


 しかし善行は全くの逆。

 それを見て、自分もこうなりたい、人を救いたい。そう思ったのだ。相手と友達になったのも大きく、一緒に頑張ろう、そう約束することで善行のモチベーションはとてつもなく上がっていた。

 憧れていたのだろう、悪業に。

 あのヒーローな悪業に。

 あの時少なからず好意を抱いていた真中のことを助けた悪業のようになって、今度は2人を、大切な人を守りたいとそう思ったのだ。


 それでも崩壊はすぐに訪れる。それは悪業と出会ってから数年後。

 父親の言葉。優しい父だった。だからきっと善行を危険にさらしたくなかったのだろう。善行の気持ちと自分の親としての気持ち。それを天秤にかけることがどれほど辛かったのか、今の善行にはわかる。


『善、お前にはほかの道がある』


 そう切り出されたのだ。

 陽山師は遊びじゃない。それこそこの間の大災厄のように命を落とす可能性だってある。才能もなく、訓練をしても上達しない、そんな陽山師は真っ先に死ぬことだろう。

 そしてそんな陽山師とは善行のことだった。あれから必死に勉強や訓練を繰り返しても弱い霊力を補える方法は見つからず、使える護符が多いか少ないかでほとんど強さが決まってしまう陽山師にとってそれは致命的。だからこれは父の優しさで・・・父の厳しさだった。


 結局はそう言った父と喧嘩をし、そこからの流れで訓練をやめ、勉強や遊び、そして部活などに集中するようになっていった。

 普通の道を歩み始めたのだった。

 さらにそこから数年後。時間が全てを解決するというようにもう自分の中に未練は残っていないはずだったのだが、あのゲームに触発されてしまうとは。


「~♪」


 妹の姿を見る。

 かつては嫉妬したこともあった。善行になかった才能を妹が持っていたからだ。妹は今も訓練を続けており、きっと14歳にしてすでに善行を超えているのだろう。先ほど、善行が疲れていると見破ったのも顔とかを見たのではなく、霊力で察知したと考えられる。

 久々に使った善行の霊力はボロボロだ。いつもと違う霊力に気付いたのだ。きっと。


 後にわかったことではあるが、白木の屋敷で見た書物に兄弟がいる場合には霊力がその片方に偏ってしまうことはよくあるそうだ。だから悪業の家では兄と悪業に霊力が偏り、姉の悪意には霊力がないため、裏方の仕事を担当している。

 そしてうちは・・・妹の善意の方にすべての霊力がいってしまった。それについては思うところがないでもないが、兄の分まで頑張っている妹の、唯一残った家族の姿を見るとどうでもよくなってしまう。

 しっかりものの妹が善行の支えになっていた。


「ふふっ」

「なんか帰ってきてからお兄ちゃん嬉しそうだよね」

「そう...かな...」


 それは今していた考え事と、きっとさっきの出来事だ。

 悪業の叫び声が聞こえたと思ったらどうやら特に何もなかったらしいさっきの出来事。そのときの慌てふためいた悪業の姿が少し昔に戻った感じがして・・・。

 少なくとも今までのあの無気力状態なんかではない。何が起こったのかはわからないが、少しずつ戻りつつある、あのことがうれしかったのだ。


(なんて・・・戻ってほしいなんて願ってるの俺だけかもしれないけど・・・)


 人間は変化する。変わっていく。それが当たり前だ。だからこそ今の悪業の変化はもしかしたら悪いことじゃないのかもしれない。悪業自身は戻りたくなんかなくて、だからこれは自分の我が儘かもしれない。

 そんなことばかりを考えてしまう。


(1人で悩むのにも限界がある・・・今度真中さんにも相談してみよう)


 きっとあの3人はどこまでも幼馴染。

 また笑いあえる日が来ることを信じて善行もひたすら今自分ができることをやっていくつもりだ。


「お兄ちゃん御飯ー」


 妹に呼ばれて食卓の方へと進んでいく。

 テーブルにあったのはオムライスだ。妹の最も得意な料理であり、必ず週に1回は食べることになる。ケチャップが多く、味が濃すぎるのがどうやら妹の好みらしく、そこは若干合わないのだが、それでもおいしい。自分のために作ってくれた事実がうれしいのだ。


「はいスプーン」

「ありがとう」


 妹からスプーンを受け取った時だった。

 少しの違和感。

 見間違いかと思ったものの、気になりだすとそれが止まらなくなる。


「善意、もう一度手を見せてくれないか?」

「え?いいけど」


 そう言って出してきた手をもう一度しっかりと見る。すると小さくはあるが何やら手の平に小さい痣のようなものができていた。

 痣・・・?こんな手に平にこんな小さく...?

 不思議に思い、さらに目をこらしてみる。その痣はよく見るとなんだか形を形成しているようだった。これは...六芒星...そう見える。


「六芒星の痣...?」


 偶然どこかにぶつけてできた、で片づけるには無理やりすぎるような気がする。しかし、人間には顔っぽく見えるものを顔と認識してしまうということがあるみたいだし、これも何かの偶然かもしれない。

 しかしすでに家族を失っている善行は以前以上に注意深くなっていた。


「善意、手に平をどこかにぶつけたりしたか?」

「え?うーん・・・記憶にないけど・・・どうしたの?」


 ぶつけたわけでもない...。

 よくわからないうちから不安にさせるのもよくない。善行は「なんでもないよ」と嘘をつき、そのまま席を立つ。鞄を持って「先に荷物置いてくる」と報告。急いで自分の部屋にあがり、入れたままにしていた携帯を鞄の中から取り出した。

 かけるのは叔父さんだ。

 7時過ぎ。日によっては今も余裕で仕事途中のはずだが、幸いにして電話は繋がった。


「もしもし」

『お、善行か、どうした』


 この電話が後にすべてを変えることになるとはこのとき誰も思っていなかった。

よろしくお願いします。

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