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第3話 黒の禍津

 大災厄だった。

 この街は田舎と都会の中間でとても中途半端な街だ。ショッピング通りなどがある部分は栄えているが、住宅街や街のはずれなどに行くと大自然が広がっている。

 その大自然の中にはよく観光名所として観光客が訪れる山があった。


 霊山れいざん


 陽山師が護符を使うために必要な体中の霊力には限りがある。護符を使うとその霊力が使用され、体中の霊力は0になってしまうのだ。

 普通に生活する分には影響がないが、陽山師としてそれは死を意味する。ではどこから霊力を補充してくるのか。それは霊脈だ。


 この世界の至るところには霊脈と呼ばれる霊力の発生源がある。人間の体はそこから自動的に足りなくなった霊力を補うようになっているのだ。

 だからこそ霊脈は命綱。幸い日本にはたくさんの霊脈があるため、今のところ困ったことはないが、1つでも破壊されてしまえばその地域の陽山師は何もできなくなり、そこを起点として大災厄が起こることになる。


 その霊山も霊脈の1つであり、この地域に住む陽山師の、そしてこの地域に住む人たちのライフラインだった。その日・・・その霊脈が壊されるまでは。


 大きな災厄だったように思える。

 災厄とは様々なものを指して言う。目に見えぬ存在が引き起こした事象、そして目に見えぬ存在自体を指して災厄ということもある。それほどまでに恐ろしいものは恐ろしいのだ。

 小さいものならポルターガイスト、大きいものなら街1つを破壊し、そこを起点として全国、世界的に災厄を引き起こすものも・・・。


「捕縛!流!回避!急急如律令!!!」


 この日霊山の近くではたくさんの陽山師がいた。

 黒い装束のものもいれば白い装束のものもいる。しかしそれらは1つのものを見続けて護符を使い続けている。どの人間の顔にも余裕はない。


「悪性さん!」

「わかっている。ここは食い止めるからはやく捕縛しろ!」


 悪性と呼ばれた男は相手の迫りくる攻撃を流して回避していた。

 悪性の最も得意な技の1つだ。霊力の強さを活かして同時に3つの護符を解放、捕縛で攻撃を捕縛し、流で相手の攻撃を流しつつ、回避で自分は当たらない位置に少しだけ移動する。

 これに霊力の正確なコントロールが合わさって攻撃をその場で流しているように見えるのだ。


 相手は巨大な災厄だった。

 いるだけで瘴気をまき散らし、その瘴気は人間を侵す。その口から吐く炎で燃えないものなどなく、木や人間までも跡形もなく焼き尽くす。そしてその体でする攻撃は人間を切り裂き、大地を穿つ。


 目に見えぬ存在、災厄は基本的に霊力にしか干渉できない。すなわちこの世に実在するものや人間の体を傷つけることは滅多にできないのだ。

 しかしこの災厄は違った。この世のものに干渉できる強大な力をもった災厄だったのだ。


 姿は狐。狼。その2つを混ぜたような姿をしていた。

 目的は恐らく、霊脈の破壊。災厄にとって自分たちを捕縛し、消す存在は邪魔でしかない。必然的に霊脈は狙われやすくなる。陽山師の無効化、それがあの災厄の目的。


「させるわけにはいかぬ」


 悪性はまた護符を取り出す。

 昔の祖先は自分で護符などなく霊力をコントロールできたというがこの時代にそんなことができるのはただ1人。人の護符に頼らなければいけない弱さを悪性は嘆く。


「陽山様お1人を戦わせるわけにはいかぬのだ」


 護符を3枚投げつける。


「捕縛!流!回避!急急如律令!」


 いくつも生えた尾で攻撃しようとしていた尾をまず捕縛する。そして流で自分の位置から攻撃を少しずらし、回避で自分自身も少しずらす。これがあるから悪性は無傷だった。

 悪性は。


(基本的に自分にしか効果のない技、もし、ここら一体を一度に攻撃されたら・・・)


 そんな気持ちが聞こえたのか。

 災厄はにやりと笑い口を大きく開き・・・ここら一体を焼き尽くす業火を吐き出そうとする。


「チッ・・・」


 軽く舌打ちをしてすぐに携帯電話を開く。会話は必要ない。

 通話の相手は上空にいたヘリコプターにのった陽山師だった。合図は着信。携帯に着信がきたことに気付いた陽山師の1人がヘリのドアを開け、そこから一気に護符をまき散らした。


 まき散らした護符は捕縛、流、回避。

 そしてこれらを正確に操れる人物は1人のみ。軽いおもりのついた護符はものすごい勢いで降下し、ここらへん一体に散らばり始める。


 その時、エネルギーをためたのか災厄の口から恐ろしい量の炎がまき散らされる。

 絶炎。そう呼ばれる一撃だった。


「捕縛!!!」


 しかしそれに対し悪性も諦めていない。

 自分だけではなく、ここにいる全員を守るために全力を尽くす。


「流!」


 ここにいる全員を大切な人を守るために。


「回避!」


 体中の霊力を集める。

 これを出し惜しみはしない。今あるすべての力を使って。


「急急如律令!!!」


 その言葉を発した。

 そして・・・・。







「・・・・・・」


 黒木悪業は今日も部屋にいた。特にやることはない。ただ漫然と日々を過ごすだけ。もうお昼ではあるものの閉めっぱなしのカーテンは開くことがなく、せっかくの日差しもこの部屋には入らず、暗いままであった。それでも悪業は気にしない。テレビをつけて静かに見ている。


 そう・・・いつもの通りならば。


『いやあ、まだてれび、とやらを見て数日だがこんなにも色々なものを流すんだな。毎日内容が変わるってのはとっても画期的じゃねえか!』


 いつもは1人。

 姉である悪意は今頃陽山師の事務仕事をしに、でかけているだろうし、たまにくる3人組もこの時間から来るはずがない。そして幼馴染たちもこの時間はまだ学校のはずだ。

 そんな平日の昼に部屋からは悪業以外の声が響いていた。


『かっー!!でもこのにゅーすってやつは連日同じことばっかだなあ!つまんねえ!どのばんぐみでも同じことばかりやってやがる!!1つありゃ十分だろうが!』


 とても低い声。

 そして荒々しい口調。

 どれも悪業のものではない。


「あのさ・・・もう少し静かにできないの?」

『あァ!?うるせえ!俺が騒ぎたいときに騒ぐんだよ!つーかこの声はお前の霊力の波長に合わせてるからお前にしか聞こえねえよ、らじお?だかなんだかと同じだ』


 悪業が見ているのは床。

 そこの床には一枚の紙ぺらが。何やらたくさんの言葉や模様なんかも入っており、いわゆる護符というやつだろうと悪業は判断している。


 黒木と白木は生まれながらにして陽山師の才能があり、代々陽山師になっている。とはいえ、それは強制ではなく、幼少期に基本は教え込まれるものの、その先は本人の希望次第ということになっている。

 歴代の黒木の陽山師には一族とは関係のないものが黒木の長になった時代もある。それは跡継ぎが陽山師にならなかったことを意味していた。


 善行は早々に訓練をやめ、悪業はそれなりに訓練していたが、この前の大災厄以来・・・1年とちょっと何もしていない状態だった。

 それでも教え込まれた知識は残っている。


(見たことない護符・・・霊力が込められてるわけじゃない・・・というより空っぽだ・・・護符じゃないのかな・・・)


 そう考えたものの、悪意は詳しいことがわからないだろうし、悪性、悪業の父は最近家に帰ってさえいない。会いに行こうと思えば行けるが、わざわざそこまでしようとは思わなかった。

 それに・・・。


「父さんとは顔を合わせにくい・・・」


 理由はたくさんある。この間までやっていた訓練をやめたこと。引きこもりになったこと。高校に通っていないこと。そもそもこうして外に出ないようにしている理由の1つに陽山師の訓練をしたくないというものがあるのだ。

 まあ、そのうち帰ってくるだろうし、この護符も特別悪いことはしていない。なんだか数日でとても俗物的になってしまったけれど。


 今度3人組にでも聞いてみようと簡単に思いつつ、護符を見る。


「君・・・えっと・・・」

『黒の禍津、確かそう呼ばれていた』

「黒の・・・?なんか仰々しい感じだけどほんとに大丈夫なの・・・?」

『さあな、俺にもよくわかんねえんだよなくそったれ。なんか記憶がねえんだよ、覚えてるのは名前とどうでもいいことだけだ。この護符のせいかと思ったんだが、力がでなくてここから出ることもできねえ』


 本当に忌々しい感じで黒の禍津はそう言った。

 悪業は「ふーん」と言いつつ、話題を変える。


「気付いたら僕の部屋にいたけど・・・どうやってきたの?」

『紙ペラだぜ。少しの隙間でもありゃあこのくそったれな家ぐらい侵入できる』

「そういうことじゃなくて・・・それもよくはないんだけど・・・」

『気付いたら外にいてな。ほんとはお前のその・・・黒木?っつーとこの屋敷みたいなとこにいたんだが、もうそこに戻るの面倒だから自由を求めてここまで来たということよ』

「屋敷・・・」


 そこは黒木の本部。

 重役のいる、重役とそのまわりしか知らない作戦会議場みたいなところだ。悪業も悪性に連れられて一度いったことがあるが、息がつまりそうになるぐらい空気が張りつめていたのを覚えている。

 そんなところにいたぐらいだ、この黒い護符は余程の何かなのかもしれない。


(封印されてたのが解かれた?でも黒木の捕縛が解かれることなんて余程のことがない限りないと思うけど・・・)


 悪業は考える。

 このしゃべる護符、やはりやばい何かなのではないかと。


『この家に来たのは偶然だな。ここらへんで一番霊力が強かったのがお前だったからそれを目指してきた。なんかよ、霊力の強いとこに行く癖みたいなのがあるんだよなァ・・・本当は外れにあるあの山に行きたかったんだが、もう限界。歩きたかなかったっつーわけ!』


 なぜか嬉しそうに護符がしゃべる。

 護符ではあるものの、すごいよく動くため、感情がわかりやすい。


「あの山・・・・・霊山か・・・」


 あまりいい思い出はない。

 少し目を閉じると意を決して携帯電話を取り出した。しばらく使っていなかったそれには幼馴染からのメールや知り合いからのメール、着信履歴などがあったが、すべて無視。

 悪業はすぐに電話をかける。


「・・・・・・」


 聞こえてきたのは留守電。

 どうやら悪性、父はまだ電話に出れる様子ではないみたいだ。つながらなかった不安とつながらなくてよかったという安堵から思わずため息がでる。


「やっぱり出ないか・・・」

『なんだ?その父?とかいうのに電話してんのか?』

「そりゃ、君のこと僕には扱いきれないからね・・・父さんに任せるしか・・・」

『ああ!?せっかく外に出れたのにんなことしたらまた戻されちまうじゃねえかよ!!てめ・・・!貸せ!!そのくそったれなでんわをぶち壊してやる!』

「やめてってば!!!このわけわかんない紙ペラ・・・・!!勝手にモノを壊さないでって・・・!」


 しばらく護符との携帯電話争奪戦をしていた悪業だが、護符が何かに気付いたと同時にその争奪戦をやめ、しばらく窓の外を眺めている。

 窓の外にはもう学校が終わったのだろう、学生たちが歩いていた。ここらへんの住宅街では見慣れた光景である。気付けばもう下校時間になってしまったのか、と悪業は少し驚く。


『あのさあ、1つ聞いていいか』

「やだ」

『お前はあのがっこうってやつにいかねえのか?』

「話を聞いてよ!」


 どうやら問答無用。

 断るという選択肢はないらしい。


「行かないよ・・・外に出たくないんだ」

『あ?なんでよ』

「クロにはわからないよ」

『お前クロって俺の事だったらぶっ飛ばすからな、犬っころじゃねえんだよ』


 『んで』とクロは1つ区切りを入れて。


『なんで外に出ないんだ?』

「・・・・・・」

『話した方が楽になるぜ』

「・・・・・・」

『俺はただの護符、話しても問題ないだろ?』

「・・・・・・」


 口調でわかる。クロはにやにやしている。

 この護符、心配しているわけじゃない。何か面白そうな話だからはやく教えろと、そう言っているのだ。それがわかるからこそ腹立たしい気持ちと・・・でも誰かに話したい気持ちもある。

 悪業は引きこもりの理由を誰にも話していなかったのだ。

 人間だから。

 弱い。

 誰かに頼らないと、誰かに打ち明けないと立ってられない。


「母さんが死んだんだ」

『それはいわゆる母親ってやつか?』


 自分の知っている言葉とリンクさせようとする護符に悪業はうなずいた。


「僕のせいで・・・死んだんだ」


 災厄の日。

 あの日、父と共に高校生になる前の悪業は霊山に来ていた。危ないから来るなという父の助言は無視し、はやく強くなりたいという思いがあった悪業はその大災厄を間近で見ていたのだ。

 真剣に大災厄を見ていたせいで気付かなかった。その災厄があたり一面を火に変える一撃を放とうとしていることを。そしてそこから守るための悪性の護符の対象範囲外に来ていたことを。


 気付けば思いっきり突き飛ばされていた。

 恐らく護符で腕力を上げた母だったのだろう。思いっきり突き飛ばされた先には父の護符の加護があり、突き飛ばした母のところには災厄の放った炎が。


「母さんは笑ってた。お前が無事でよかったって・・・そしてその後跡形もなく・・・僕はまたここから出ると誰かを犠牲にしてしまうかもしれない・・・」


 悪意姉さんか、気のいい3人組か、あの幼馴染たちか。


「それに・・・父さんだって僕のことを憎んでいるに決まってる・・・!僕のせいで母さんが死んだんだ・・・僕なんて放っておいてくれればよかったんだ・・・こんなに苦しいなら生きていても・・・」


 消えようと思った。

 死んでしまおうかとも思った。

 あの時は全員に憎まれていると思っていたのだ。顔を合わせるのが怖い。何か言われるのが怖い。父さんに・・・家族に拒絶されるのが怖い。

 だからこそ引きこもって、もう陽山師の訓練もやめて静かにしていようとそう決めた。


「そして何より情けないのは・・・善行くん・・・善くんは両親を失っている・・・僕よりもつらいはずだ」


 悪業とは違い、善行を庇って死んだわけではないが、それでも中学生のころだ。両親を失ったダメージは大きいはずだし、まだ父親が生きている悪業より絶対に辛いはずなのだ。


「それなのに善くんは僕のことを気にかけてくれる、あたりちゃん・・・真中さんもあれから僕を責めるでもなく、普通に接してくれている」


 真中中は白木でも黒木でもないが、2人の幼馴染ということで少し事情は知っている。


「でも・・・情けないなあ、と思って終わりなんだ・・・それをどうこうしようとかは思わない。そう思っている自分がさらに情けない・・・」


 悪業は護符を見る。


「笑ってくれてもいいよ」

『・・・・・・・』

「クロ・・・?」

『・・・・・・・ZZZ』

「うそでしょ・・・」


 寝ていた。

 あれだけ聞きたがってたから教えたのに。恥も偲んで。


「こんの紙ペラーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」

『んぐお・・・な、なんだ!!持ち上げんなくそったれ!!』

「燃やす・・・燃やしてやる・・・!」

『だーーーーー!待て!聞いてた聞いてたから!!!あれだよなお前自分が死ねばよかったんだとか言ってたよな!そこは覚えてる!』

「う・・・」


 改めて言われると少し恥ずかしい。


『俺はお前が死んでくれた方が父親とやらにも連絡されないし、この部屋を独り占めできるしでお前死なねえかなあって思ってたからそこは覚えてる』

「殺される前に燃やす・・・」


 またしても喧嘩が起こる前に。

 とん。とん。とん。と階段を上がる音が。


(!?・・・・・悪意姉さんか・・・?いや・・・2人・・・あの2人か)

『お前忍者みてーだな』


 とりあえず。

 悪業は護符を掴み、結局まだ全然使われていない高校の教科書に挟む。外を見るともう夕焼けも沈みかかっており、かなり長い時間話していたことが分かった。


(どうして・・・あんな護符に話してしまったのだろう・・・)


 いや、護符だからこそ、かもしれない。

 人間ではないから。だからこそ話しやすい。壁に話すと気持ちが楽になる、みたいなのと同じだ。

 がちゃり。

 ドアが開く。


「あっくん、遊びに来たよ!」

「こんばんは」


 真中中と白木善行。

 2人がそこにはいた。幼馴染で昔からの友人。こんな状態になった悪業に対しても見捨てずにこうして遊びに来てくれる。悪業もロボットではない。嬉しいには違いないのだ。

 しかしやはり顔を合わせにくい。悪業と同じぐらい、それ以上に辛いはずの善行は悪業のこの姿を見て、どう思っているのだろうか。聞くのが・・・怖い。


「えっと・・・・何か用・・・」


 ちらちらと教科書を見る。

 この2人は自分より陽山師に詳しくない。護符と話しているなんてことがバレたら本当に気がくるってしまったのではないかと思われてしまう。

 もう世間体を気にする段階は超えているのかもしれないが。


「だから遊びに来たの!」


 そう言って真中はテーブルに何か袋を置いた。

 思わずそれを見てしまう。


「やっぱり忘れてるみたいね・・・今日は私たちが出会った日、でしょ」

「覚えてるわけないよ・・・俺だって聞いて思い出したぐらいだし、あっくんだって忘れてて当たり前」


 当然のように言う真中に善行はフォローをする。


「出会った日・・・」


 悪業は床を見る。

 そんなの覚えているはずがない。だってもう10年以上も前で・・・あの時はひたすらにがむしゃらで・・・そういえば何か・・・誰かに何かを言ったことがあった気が・・・。

 もう少しで思い出せそうなとき、ドンドンと小さな音がする。

 音の方を見てみると先ほどの護符が動き始めているのか教科書が開きつつある。


 まずい。

 思い返してみればこの2人にぐらいなら打ち明けても問題がなさそうだし、動いているところを見れば悪業が狂っているとは思われない。

 だが、あまりの焦りにそこまで考えが至らず。


「ごめん・・・今日は帰ってほしいんだ」


 そう、言うことになってしまった。


 2人が部屋から出ていった後、護符を教科書から出す。


『てめえ!!!!!!!ほんと何しやがる!!!!!!』


 そう叫ぶ声も今は聞こえない。

 先ほど帰ってほしいと頼んだ時の真中の顔が、善行の顔が忘れられない。忘れていたとはいえ記念日、本当に残念そうな顔をして帰って行ってしまった。


『おい!!!!聞いてんのか!!!』


 やっぱり話した方がよかったかな・・・。

 そう後悔する。幼馴染にも予定があるし、毎日会えるわけではない。せっかく時間をあけて会いに来てくれたのに冷たすぎたのかもしれない。


『おい!!!!!このくそったれ野郎!!!!』


 それよりもなによりも。


「君がうちに来たからこうなったんじゃないか!!!!」


 こいつのせいだ。そう思った。


「なんで君のために僕が我慢しなくちゃいけない!!ここは僕の部屋だ!!!我慢するならクロがしなよ!!」

『お前にわかるのか!?いきなり閉鎖的な場所に閉じ込められる恐怖が・・・せめて説明するのが礼儀ってもんなんじゃねえのかよ!!!』

「そんな時間なかったのはわかるでしょ!!大体嫌なら出ていきなよ!」

『はっ!嫌だね。俺はここが気に入ったんだ』


 悪業は思いっきり護符を掴み、そして窓を開ける。


「おおおおおおおおおりゃああああああああああああああああああああああああ!!!」


 思いっきり振りかぶってそのまま投げた。

 そのまま道路に落ちて車に轢かれてしまえ。そう思っての行動だったが。

 ガブリ。

 その思惑は失敗した。護符から何やら狐の口のようなものが出てそれが悪業の手にかみついて離れないのだ。ガブリ、ガブリ。黒い毛皮の狐の口から歯がのぞく。どんどん食い込んでいった。


「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

『はん!これが俺に逆らった罰だ』

「ご、護符からなんか出すのは卑怯だ!!」

『こっちが俺本来の姿なんだよ、普段はハンデ背負ってるったわけだ!』


 全く離れない護符にやきもきしているとまたしても階段を上がる音が。

 どたどたどた。また2人みたいだが、急いでこの部屋にあがってくる。


「あっくん!」

「悪業!」


 部屋に入ってきたのは善行と速水だった。

 何をしていたのかは分からないが、善行の方はもう立っているのもやっとで汗をずっとかいている。反対に速水はいつものように飄々としていた。


「あ・・・・・」


 善行がまだ帰っていなかったことに気付くのと同時、速水が来ていたことに気付いた悪業。慌てて手についた護符を見せようとするが・・・・・。


「ない!!」


 綺麗に消えていた。

 きっと察知していたのだろう。ここで悪業が速水に見せて何かしらの判断を仰ごうとしていたことを。そしてきっと元の屋敷に戻されることを。


「ない!ない!」

「んだよ、探し物か。心配させんな悪業」

「いや、速水さん!探し物じゃなくてですね!しゃべる護符が・・・」

「しゃべる護符?んなもん聞いたことねえぞ。見間違いなんじゃねえの?」

「いや、でも黒の禍津って・・・」


 そう悪業が言うと速水の目つきが変わる。


「禍津・・・ね・・・ま、気のせいだろ」

「で、でも・・・」

「ま、この汚い部屋片づけて見つけたら教えてくれや」


 そう言って階段を降りていく速水。


「もし部屋を片付けるなら手伝うから教えてねあっくん」


 そう言い残してなんだかうれしそうに善行も階段を降りて行った。

 こうしてこの日、長い長い1日が終わったのである。

よろしくお願いします。

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