記憶の断片 後編
「…」
「あの…支部長…?」
悪戦が近接戦闘を繰り広げ、悪質が霊力を供給、悪夢が足止めをして、悪運が狙撃、悪化は待機している中。大災厄から少し離れた位置に男が立っていた。
白木偽善。
白木の生まれながら、黒木の近畿支部の支部長になっている人物だ。この作戦、黒木だけではなく、白木も同時に戦っている。いや、白木だけじゃない。その2つのどちらにも属さない陽山師も参加しているのだ。ほぼ総動員。その時点でこの作戦の重要さがわかるだろう。
そんな中、偽善は傍にある木によりかかりながら腕を組んで目をつぶっている。腰につけているのは刀だ。刀身は鞘に納められているため見えないものの恐らく刀だろう。
陽山師で武器を使うものは少なくない。特に弓や、護符による武器などやはり護符は絡んでいるが。
しかし偽善は違う。
ただひたすらに普通の刀で災厄を相手にしてきた。
その様に憧れるものは多い。
今、こうして話しかけている女の部下もまた偽善に憧れてこの近畿支部に配属されたうちの1人であった。そしてこの大きな任務。部下はとても期待していた、また偽善の実力が見れるのではないか、と。
偽善は先ほどから動かず、目をつぶったままだ。
長い髪を後ろで結っている姿は髪型だけ見れば女性にも見えるが、それでも男だとわかるのは気迫からか、それとも大きな体格からか。
「命令とはいえ、ここにいて大丈夫なのでしょうか…そのみなさん戦いに参加しているのに私たち近畿支部だけこうして離れた位置で待機、だなんて…」
部下は不安そうである。
本来ならばこの不安を取り除いてこその上司ではあるが、偽善はそこまで器用ではない。言葉の代わりか、偽善は静かに腰にあった刀を抜き構える。
やはり刀。
それでも普通の刀ではなかった。
所謂斬れない刀だ。
刃がなく、何も斬ることができない刀。
「支部長…?」
「全員、武器を構えろ」
静かに偽善が言う。
なんのことかは分からないが、それでも部下たちはそれぞれ武器や護符をとった。それほどまでに信頼されているということだろう。
次の瞬間。
バキッという音と共に木が倒れてきた。森の中だ。木はいたるところにある。それでもここまで急に、何かに折られたかのように倒れてくるのはあまりにも異質である。
そして、異質の傍には災厄あり。
「災厄…!」
事態に気付いた部下たちが災厄に向かって護符を発動する。
低級の災厄とはいえないが、すぐに処理できるだろう。それでも木を折ったぐらいだ。直接現実世界に影響を与える災厄。気は抜けない。
「こちらにも災厄です!」
別の場所から声が上がる。
「こちらにも!」「こっちにも!」次々と声が上がっていく。気付けばあちらこちらに大量の災厄が集まってきていた。
大災厄の霊力は他の災厄をも集める。
近畿支部に言い渡された任務は大災厄の消滅ではなく、大災厄を消滅させるための戦闘を邪魔されないように場を整えること。
すなわち集まった災厄を一掃することだった。
「抜刀」
偽善が静かに呟く。
刀に災厄を斬る力、退魔の力が宿っていく。この刀は何も斬れない。唯一斬れるのはこの世のものではない、災厄のみ。
災厄だけを斬るための刀、これこそがこの偽善の専用護符の代わり。
偽善刀。
それがこの刀の名前だった。
(何も斬らず、斬るのは災厄だけ…まさしく偽善というわけだ)
偽善はその皮肉に笑う。
相変わらずあのばあさんはこういうところでふざけ、人を傷つけてくる。
それでもやることは変わらない。ただ、刀を振るうだけ。
「ッ!」
災厄に向かって一振り。
災厄が一刀両断され、消えていく。美しい一閃だった。まわりの部下も思わず、見惚れてしまう。だが、そんなことをしている場合でもない。
部下たちもそれぞれ災厄を消滅させていく。
先ほど偽善と話していた部下、黒木七実も刀を構えて一閃。
偽善に憧れ、偽善のようになりたくて見よう見まねで使っていたこの刀もすでに馴染んでいる。偽善刀とは違い、これはただの刀ではあるが、近畿支部では唯一偽善と同じく、ただの刀を扱う陽山師だった。
ちなみに七実の名前に悪がないのは女の子に悪をつけるのは可哀想という両親の想い故である(本人はそんなことで伝統を消しちゃったの!?とショックを受けていたが)。
「他のみなさんのために…邪魔はさせない!」
その声に応えるようにまわりの陽山師も護符や刀を出し、それぞれ災厄に向かっていく。
口数の少ない偽善に代わって発破をきったりするのは七実がいつも担当していた。
大災厄と直接戦うわけではないが、気を抜くことはなく。
ただひたすらに振るっていく。
〇
他にも陽山師が戦っている中、少し離れたところには事務員たちがいた。
やっていることは基本的に記録だ。こうして後世へとつないでいく。陽山師の基本はここにある。大昔から存在する陽山師の強みはつまりここ、情報量の多さだ。
突然のことにも過去の事例から探し出し、対応していく。長く続いているからこその強み。それをここで途絶えさせるわけにはいかない。
だからこうして非戦闘員である事務員も戦場に来ているのだ。
「にしても、あれだけの陽山師が必要になるんですね…」
事務員の1人が呟いた。
基本的に1人の陽山師が1つの異常に対応するというのが基本だ。もちろん例外もあるし、相手が強力になればなるほどこちらも人員を増やしていくことが普通ではあるのだが、こうしていろんな支部の人たちが集まって同時に攻撃して、それでもまだ倒れていない災厄を見るのは初めてのことだ。
「これが大災厄…」
ごくりと生唾を飲み込む。
そんな事務員たちを見ながら後ろの方で少しだけ不機嫌になっている少年がいた。まわりの陽山師と同じく黒い装束に身を包んでいる。非戦闘員ではない、戦闘員だ。
その少年はどうやら待機を命じられているらしく、遠目から大災厄をじっと見ている。
「僕も…」
「ダメだよ、悪業」
少年を止めたのは事務員の女性だった。
事務員ではあるものの、戦闘に対して無知ではないその女性は少年、悪業がいったところで何も変わらないことを知っていた。
まだ修行中みたいなもので、いくら霊力が強くても前線には出せない。少年はそう判断されたことが不服らしく、小さくため息をついた。
「僕がいっても役に立たない…そんなことはわかってるけど…」
わかってはいるけど、みんながこうして戦っているのに自分は何もせずにここで突っ立ってていいのだろうか。そう何度も考えている。
もうさすがにヒーローになりたいだなんて言わない。
それでも悪業は誰かが苦しんで、誰かが頑張っている時に何もしないでいる人間にはなりたくないと思っていた。
「悪業、そもそもお前はつったってるだけじゃないだろう。ここにいる事務員を守ること。それがお前に与えられた任務じゃないの?」
「…」
ただの待機ではない。
事務員を守るため。
とはいえ、大災厄からは大きく離れており、事実上の待機であることには変わりがない。戦力外通告。それに、もしここまで攻撃が届くようだったら悪業1人の力ではどうすることもできない。
どこの事務員が潰されてもいいように、いくつか分散させて事務員を配置している。その事務員が今まで大きな怪我を負ったことがあるのは0回。
今回も大災厄の攻撃はこちらまで届いていないみたいだ。
と。
悪業は判断していた。
「というかそもそも事務員を守る陽山師が少ないよ、これじゃ何かあった時に対処できない」
「それはしょうがない。こちらに人員を割くということは今前線で戦っている人員を減らすということだ。こうして今均衡しているバランスが崩れた方がまわりへの被害が大きくなる、と判断したんだろうよ。これに間違いはないさ」
「母さん…」
悪業はその女性、自分の母親を見上げた。
この作戦を考えたのは悪業の父親だ。自分の妻がこうして大した守りもなく、危険な場所にいることを許容できるのはどういうことなのだろうか。
「あの人はどこまでも平等だよ、仕事で誰かを特別扱いしたことはない」
「でも…」
そうしてまだ不満に思っていた悪業から文句が飛び出る直前のことだった。
大災厄が動き出す。
いや、正確に言えば、大災厄の霊力が大きく。
「なんだこれ…」
感じたことのない魔力の動き。
何か来る。
トランシーバーから声が聞こえてきた。トランシーバーとはいえ、今はスピーカーの役割を担っているらしく、こちらから声を伝えることはできない。
そこまで考えたうえで悪業は静かにボタンを押した。
『魔力の増大を感知。黒木悪性が護符を展開する。地図を転送。その地図の赤くなっているところには出るな、以上』
ぶつっと通信が切れる。
すぐに端末を操作して地図を開く。ギリギリだ。ギリギリここは守備範囲内におさまっているらしい。助かった、のだと思う。
父がああやっていう時は防ぐ自信があるときだけだ。必ず防ぐという覚悟があるときだけだ。
むしろ下手に距離をとることが命取りになるかもしれない。
悪業は震える手で護符をつかみ取る。
もし。
万が一。
父が守れなかった時。動けるのは悪業だけだ。
「僕が…守らなくちゃ…」
落ち着け。
僕だって黒木家の跡取りなんだ。
それでも体の震えは止まらなかった。目の前の災厄に力が集まっている。尋常じゃない力だ。これから何をするのかはわからないが、その事実だけでその場にへたり込みたくなってしまう。
そして。
その時は来る。
〇
「悪化さん!!」
「言われずともわかっています。この悪化、正気は失っても使命を忘れることはありませんから」
上空を飛ぶいくつかのヘリコプター。
その中の1つにいた四国支部支部長はすぐにトランシーバーを取り出す。
『四国支部のみなさん、とうとう我々の出番です。今から私が合図を出したヘリコプターは護符をお願いします』
さきほどのふざけた空気はすでに消え、そこにいたのは四国支部支部長の姿。
とはいえ、自分の護符をほとんど破ってしまった罪は消えるわけではないのだが、それでも使命を全うするのが黒木悪化である。
激情に流され。
現を抜かし。
愛を歌っても。
状況が悪化しても変わらない。
それが黒木悪化だった。
『4番のヘリ、そこで投下です』
合図があったヘリから真下へと大量の護符が投下される。
悪化の能力の1つはまたここでも発揮されていた。
『1番、3番そこです』
またもや投下されていく。
護符をただひたすらに外へ捨てているような光景ではあるが、これも全て計算されたタイミングで行われていることだった。
投下する護符の量、タイミング、位置。それかが少しでもずれたらきっとこれは失敗する。そんな中、よどみなく指示していく悪化。
状況把握能力。
護符の力ではない。悪化そのものにあった才能。悪化にしかできないことだった。
「この能力でこんなアホが支部長になれるんすね」
「言わずともわかっています。あとで覚えていなさい」
地上にはたくさんの護符が降り注いでいるはず。
準備はできた。
あとは。
〇
そもそも護符にはたくさんの発動の仕方がある。
手で触れてそこに直接霊力を流し込む方法。遠隔で遠くにある護符に霊力を流す方法などだ。普通は一度手に触れた方がよいと考えられている。その方が安定するからだ。自分の霊力を遠くのものに流し込むことはとても不安定なことだ。
訓練した陽山師であっても100%霊力をコントロール下に置くことはできない。霊力の暴走などがその例だ。だから直接触れて、発動させる。
では尋常でないコントロール力があったとすれば?
どんだけ遠くにあろうとも正確に、そして膨大な量の霊力を流し込める、そんな人間がいたとすればどうだろうか。
黒木悪性。
今までの陽山師の中で2番目の霊力量を持ち、一番のコントロール力とも言われている彼ならば。
「来るか、大災厄」
その声が伝わったかのように、大災厄に集まっていた霊力の充填が終わる。
放たれるは獣の咆哮。
一撃であたりを焼野原にし、地形を変えるとも言われている一撃。
文献によれば確かそれはこう呼ばれていたはずだ。
燃え尽くし、すべてを拒絶する絶対の存在。
『絶炎』と。
最初はとてつもない衝撃波だった。
見るものによってはこれこそが絶炎なのでは、と勘違いしてしまうほどに強大な衝撃波。そして次に襲うは咆哮。獣の咆哮だ。思わず耳を防ぎたくなるような音の中、悪性はひたすらにそれを見ていた。
大災厄から放たれた炎。
真上に放たれたそれは上空で破裂し、あたり一面に降り注ぐ。
白い護符と共に降る様はどこか綺麗でもあった。
「よくやった。悪化」
そんな炎に当たることもなく、護符は綺麗に落ちていく。
これすらも計算済なのだとすれば感嘆に値する。
そしてこれから悪性がやることは、そんな悪化ですらこの男には敵わないと思わせるようなものであった。そう、ここらへん一帯、ばらまかれた全ての護符を発動させるという離れ業を。
「捕縛!」
1つ目の護符。
それは相手の攻撃を捕縛する。あちらこちらに落ちる炎にイメージとしての縄を結び付ける。これはイメージだ。縄化させてはいけない。見えるものになってしまえば、捕縛できずに焼かれるだけ。
「流!」
2つ目の護符。
これは相手の攻撃を受け流す護符。ではあるものの、実は流という護符はない。これは完全に悪性オリジナルの護符だった。
護符は道具だ。
基本的にこの護符はこの役目、この護符は縄を出す、など決まった状態で支給される。そういう役目を陽山師の長が埋め込んでいるからだ。
そこに霊力を流すことで埋め込まれた役目に沿い、護符が発動する。込められた役目が発動者の霊力を誘導するといった方がいいだろうか。
そう、誘導止まりなのである。
その誘導を無視して縄を出す護符から無理矢理剣を生み出すといったことも可能だった。もちろん、その時には誘導を無視する分に霊力を使うことになるので必然的に威力は減ってしまう上に平均以上の霊力コントロールが必要になるが。
ならば。
その誘導がなければ。
まっさらな護符があれば。
自分の思うままに発動できるコントロール力があれば。
悪性専用の護符、というのは言葉的に正しくはない。
『流』の護符は悪性が生み出した護符だった。
「回避!」
攻撃を流すという霊力の流れを作った後、その流れた攻撃がいかない場所に回避する護符。
今回は悪性だけではない。範囲内にいる陽山師全てを攻撃が当たらない位置に移動させる。ただワープの類ではないため、最小限の移動、数歩程度ではある。
逆に言えばその数歩程度で攻撃が躱せる位置というのを悪性は理解していた。この場所は関東支部の庭だ。地理は頭に入っている。
3枚もの護符を使った大幅な回避。
相手に霊力を使わせるといった意味でもこれはとても大きな一手だ。
「…」
悪性の霊力も膨大な量消費される。顔には汗が浮かんでいた。
それでも退けないのは。
この男が黒木の当主だから。
「霊力量の勝負といくか、大災厄よ」
〇
「父さんの霊力だ…」
悪業は思わず呟く。
大災厄の霊力によって乱された感覚が整っていく。安心感。幾度も助けられた霊力の感覚に思わず安堵してしまう。
まだ大災厄を倒したというわけではないのに、これからの一撃を防ぎきれるかもわからないのに。不思議と父さんならなんとかしてくれると思わされる。
悪業だけではない。事務員の人々も顔には笑顔が浮かんでいた。
(相手の大災厄が攻撃を放ったら…急激に霊力を失うはずだ…いくら大災厄といえど…その隙に攻撃の白木組が弱らせて封印してくれれば…)
勝てる。
思わず拳を握り込む。
その、瞬間だった。
「え…?」
目の前の林。
木々が生い茂り、地面から生えている草もそれなりの長さがある。だから気付かなかったのか。そこには小さな男の子がいた。震えている。一般人だろうか。大災厄の霊力は一般人にも伝わるほど。あの男の子は逃げ遅れたんだ。
「クソッ!!!!」
悪業は駆ける。
そこは父さんの護符で守れる範囲じゃない!
後ろから声が聞こえる。きっと悪業を心配してのことだろう。その声を振り切って助けに向かう。ここで見捨てたら悪業が悪業ではなくなってしまうような気がして。
ある程度近づいてから護符を発動。縄を男の子に向けて放つ。少し乱暴な手段だが、しょうがない。これなら間に合う。
しかし、縄はばちりと弾かれた。
「なっ…」
護符は基本災厄に対するものだ。縄で人間を捕まえる場合も人間の霊力を捕まえることで縄が人間を縛っているように見えているだけである。もちろん、込めた霊力の強さによって現実世界に影響を与えることは可能なため、実際に捕まえることもできるが、今は咄嗟のことでそこまで考えてはいなかった。
まとめると、縄で人間を捕まえることができないこともある、ということだ。
だが、いまのはどう見ても『弾いていた』。
男の子の口がにちゃりと裂ける。
『黒木の末裔よ』
『私は』
『未来を選ぶ』
男の子の姿が狼のような狐のような姿へと変わっていく。
悪業は騙された。
いや、悪業だけではない。きっとここにいる陽山師たち全員が騙されていた。大災厄の目的は霊脈を消すことではなかった。
陽山師の未来を刈り取ること。
それが大災厄の目的だったのだ。
大災厄が人間に大きく勝っているところがある。
寿命だ。
人間は短命だ。次々子孫を残し、後に託していかなくてはならない。大災厄は違う。寿命というものがまずないのだ。消されるまで生き続ける。ここで大災厄は今現在ではなく、未来を、それこそ気が遠くなるほどの未来を見据えていた。
今、陽山師として戦っているものではなく、そこから受け継ぐ、未来の陽山師を潰す。
「ぐ…」
大災厄の気にあてられ動きが鈍くなる。
このままでは悪業は悪性の守れる域外で絶炎に焼かれることになってしまうだろう。いや、未来を潰す大災厄だ。騙されたのは悪業だけではないのかもしれない。今ここにいる若い陽山師の卵たちが全員…。
悪業は唐突にきた浮遊感に驚く。
浮いている?
なぜ?
気付けばお腹には縄が。
後ろに吹き飛んでいく。このままいけば悪業は先ほどの場所に戻れるだろう。よかった。なにも終わってはいないが、とりあえず死の危険は去ったとみていい。
では誰が。
誰がこれを。
「母さん!!!!!!」
見えたのは域外に出て悪業に縄を巻き付け、域内に戻した母親の姿。
咄嗟に護符に手を伸ばす。
ここでさらに悪業が縄を巻き付ければ…2人一緒に助かるかもしれない。
「いいや無理さ。その縄は1人用、というより私が使える縄では1人が限界だったんだ。私まで連れていくのなら、切れてしまう」
きっと域内の木に片側を結びつけ、悪業を捕まえてから引き戻すような命令を護符にしたのだろう。
戦えない事務員でそこまでできるのはさすがといったところか。
「母さん!」
ではこのままだと、戻れない母親だけが絶炎に。
護符を発動させる、も動かない。大災厄の霊力にあてられてうまく霊力が使えない。
動け。
動け動け動け動け動け動け動け!!体動けば助けられるかもしれないのに!なんでこの護符1枚発動させることができないんだよ!!
「悪業、前を向きなさい」
「振り返ってはいけない」
「お前なら絶対になれるよ、ヒーローに」
その言葉は悪業に届いたのか。
次の瞬間には目の前が炎に包まれた。めらめらと燃える目の前の光景を域内から見ながら、悪業は1人呆然としていた。
パチパチと音が聴こえる。
皮肉なことにそれは拍手のように聴こえた。
『なるほど、誤算だった。人間とは「そういう」生き物だったか』
無機質な声が響く。
この後、霊力を放出した大災厄は黒木の力で弱体化させられ、白木の力で封印することに成功した。
それがいつか訪れる終焉を先延ばしにしただけだとしても。
よろしくお願いします。