謎の少女の場合 07
第十五節
「いいねえ。女になりたてのせいか反応が新鮮だ」
「…き…さま…」
「おっとぉ…反抗的な態度を取っていいと思ってんのか?」
指先で大きく開いたドレスのせなかをつつつ…となでるリーゼント。
「…っ!!」
びくっ!として思わず背中を逸らす橋場…今はセクシー美女…。
「声を出してもいいんだぜ?甘い声をよお」
そのままお尻を鷲掴みにした!
「っ!!!!」
つるつるすべすべのドレスの表面をさらさらと撫で、お尻の上で丸を書くリーゼント。
「う…あ…」
ガマンしきれずに声を出し、身を捩って逃れようとする橋場。
目に鮮やかな真っ赤なドレスが悩ましい。
「さーてここから選択だ。俺も鬼じゃない。これからのお相手はそこの彼女か…それともお前か…」
ギョッとして目を見開く橋場…である美女。
「そんな!約束がちが…」
「俺も男だからさー。そんな恰好した女を目の前にしてガマンしてばかりいられねえんだよ」
「オレは…おとこ…」
「構わねえよ。つーかこの頃はそれだからこそ余計に興奮…ってな」
遂に谷間が強調された橋場の右の乳房を右手で鷲掴みにした!
「っ!!!」
悩ましい表情を歪めて抵抗する橋場。
「やめて!やめてぇえ!」
目の前で美夕が泣き叫んでいる。確かにこれ以上の悪夢は無い。
「決まりだな。獲物はお前だあんちゃん」
無駄毛ひとつなく処理された橋場の左の脇の下をぺろーりを舐め挙げた。
「っあああっ!」
遂にこらえきれず、声を上げてしまうセクシー美女とされている橋場。
「いやぁ!橋場くん!」
「どうすれば戻るか知ってるか?精神的に折れた時だ。自分の彼氏の晴れ姿をとくとみろや」
キスをしようと迫ってくるリーゼント。
「ちょっと待ったあ!」
人気が無かったはずの廃工場跡地に爽やかな声が響き渡った。
第十六節
少し高いところから、キャップにジャケット、ジーンズにショートカットの女の子がひょいと身軽く飛び降りてくる。
「あんだテメエは!?」
リーゼントが再びナイフを取り出してすごんだ。
「これはメタモルファイトでしょうが?人質とって一方的に勝つとかありえんの?」
流石はメタモルファイターである。
一瞬にして間合いを詰め、数メートルのところまで迫っていた。
自信があるのか常に張り気味の上半身に、くりっとした瞳、ショートカットにボーイッシュなスタイルが却って可愛らしい。
「うるせえ!引っ込んでろ!」
「うんにゃ引っ込まない。同じメタモルファイターとしてあんたみたいなゲスなのは許せんからここから先は引き受けさせてもらうよ」
「あんだと女のくせに…ナイフにかなうと思ってんのか」
「女のくせにって…(失笑)。メタモルファイターのあんたが言うかね」
「るせえ!得物の差で俺の勝ちだ」
ナイフを構えるリーゼント。確かに体格的に二回りは立派だ。リーチも段違いだろう。
「口上長いよ。さっさと掛かってきな」
あろうことか少女は両手をポケットに入れたままだ。しかも普通に立っているだけで何の構えもしていない。
…確かにこの能力においては、拳法などの体系的格闘技術は必ずしも勝敗における決定的な要因にはなりにくい。それにしても余りにも無謀だ。
次の瞬間だった。
きらりと光ったナイフが明後日の方向に吹っ飛ぶと、同時に反対側の暗がりに向かってリーゼントが吹っ飛んでいた。
メタモルファイトは掛け持ちできない。リーゼントにとっては今の橋場の変身を維持することの方が優先されるだろう。つまり謎の少女とはメタモルファイト無しで殴り合ったはずなのだ。
にもかかわらず圧倒的な実力差で一方的になぎ倒してしまった。
第十七節
てくてく歩いてくる少女。
「…大丈夫?」
「あ、ああ」
「やっぱ男の子だよね?」
無言で頷く橋場。
すると、リーゼントから吹っ飛ばしたのであろうナイフを使って器用に戒めを解いてくれる。
「もう試合無効だから戻れるよ」
「すまん」
気合を入れてみると、セクシーなドレスも美女もあっという間に消えていき、そこには精一杯のデートルックをしてみた十六歳の男子高校生が出現していた。
「…」
あちこちを確認する橋場。さっきまでの重い乳房の感触はもうない。
「ありゃ、結構イケメンじゃん」
「すまんかった」
「いえいえ。人質取られたんなら仕方ないよ」
かなりの大事件なんだがケロッとしているショートカット少女。
「彼女大事にね。フォロ―いる?精神的ケアとか」
「いや、いらない」
「じゃあバイバイ。ここは任せて。同じメタモルファイターならまた会うこともあるでしょ」
気になることは沢山あったが、ここは美夕のためにも一刻も早くここを脱出するべきだ。
放心状態になっていた美夕を引きずるようにその場を離れた。