鬼頭真琴の場合その2 22
第四十五節
「制服じゃなきゃいい…ってことはないよね?」
これは真琴。
「制服だったから余計にキツいけど…別に何だって一緒だよ」
「別に女の服は全部あんたのもんじゃないんだけど?」
ふう、とため息をつく美夕。
「論争する気無いから。別に」
「そ」
「ゴメンねフィーリング派でさ。上手く表現できないんだよ。口から先に出てきた位おしゃべりなつもりだったけど」
「いや…かまわんけど」
「何で女装まですんの?」
また質問されてしまった。
「よっぽど女装が引っかかってるみたいだな」
「いや別に…純粋な疑問としてね」
美夕の口調に責めるような要素は無い。諦めて達観しているみたいな雰囲気だ。
「…本当に上手く言えないんだけどさ、女になっておっぱいもんだりあそこに指突っ込んだりする分にはいいと思う訳よ」
「お前…」
花も恥じらう乙女のセリフではない。
「でも女装はイヤ!嫌なの!」
「…そういう仕組みなんだ」
「でしょうね」
冷たい言い方だった。
「しつもーん!質問いいかなー」
「どーぞ」
美夕の声に抑揚が無い。
第四十六節
「女装が嫌だっていうけど、彼氏がコメディアンとか役者さんだったらどうよ?女装とか普通なんだけど」
「それは…別に」
「歌舞伎役者とかだったらどう?自分のお父さんとか弟の「お嫁さん役」とか、息子の「愛人役」とか当たり前の世界だけど?」
「…」
「旅芸人一座の花形だったらどうすんの?綺麗な着物着てなよっとした踊りして歌まで歌ったりするよ?」
「鬼頭!」
「…別に。どうでもいいわ」
「あんたの中学では体育祭とか文化祭の女装コンテストとか無かったの?」
「あったよ」
「へー」
「つーかあたしの制服貸したわ。すぐにクリーニングにぶち込んだけど」
そうだったのか。それは知らなかった。
「確か大学生のお兄ちゃんだかお姉ちゃんいたよね?大学の学園祭での男だらけのミスコンとか観たことない?」
「あるよ。ウェディングドレス着たどうみてもおっさんとか、まるで似合ってないバニーガールで踊ってる屋台とかも見せられたよ」
「それも全部生理的に受け付けない?」
「別にどうでもいいって」
「折角だから教えてよ。そーゆう『学園祭女装』とか『宴会女装』とかは別にいいんだよね?『宴会女装』みたことは?」
「…お姉ちゃんに無理やり連れて行かれた結婚式の二次会で見せられたわ」
「どうなの?気持ち悪かった?」
美夕の態度がどんどん投げやりになって行く。
「(ためいき)別!に…。勝手にやればいいんじゃん?」
「何でよ?教えて?そういう「宴会女装」はどうでもよくて、なんでメタモルファイトの結果としての女装は『生理的に気持ち悪い』の?身体も女になってるから…じゃないよね?さっきあんた女になるだけならマシって言ってたし」
物凄く大きなため息をつく美夕。
空気がビリビリと震える。明らかに修羅場だ。
「…上手く言えんけど、そういう『女装』ってさ。人の目があるじゃん?ドレスだって借り物だろうし、大体ドレスの中身はジャージとか長ズボンでしょ?」
ちょっと考える橋場。
第四十七節
今や女装経験だけでいうと一端の橋場だが、ついこの間武林に女子高生スタイルにされるまではスカートに脚を通したことも無い。
だから「女装経験」について一家言ある訳では全く無いのだが、ただ体育祭で女装で練り歩く破目になるんだとしたら、確かにスカートの下はズボンだろう。
見た目がそれらしくなればいいんであって、バカ正直にパンツ一丁になってスカートめくりの恐怖におびえるところまで付き合ってやる必要などない。
大学生がやるような『学園祭女装』だの、大人がやる『宴会女装』だのについても、若干十六歳の男子高校生が経験に基づく知識などあるはずもないが、ただ、あの分厚いスカートをめくったらそこに女物の補正下着だのストッキングにハイヒールが出て来ることは余りイメージが湧かない。
見えるところのメイクはある程度するのかも知らないが、むしろ「見えないところ」は軒並みいい加減に違いない。
「だからその…女装ったって他人の目がある気がするじゃん」
「ま、確かに学園祭の女装って女の子がメイク係するしねー」
「でもその…メタモル…なんとかって、下着も全部女ものなんでしょ?誰もそんなところまで見てないのに…」
何か橋場に電流が走った…気がする。
「…要は下着が駄目なんだな」
「…」
返事はしなかったが、しているのと同じだ。
「別に下着そのものって訳じゃないけど…単なるケンカ能力なんだったら殴り合いだけしとけばいいじゃない。何でブラジャーしたりパンティ履いたりスカート履いたりしてんの?わけわかんない」
真琴が割り込んできた。
「自己満足だっていいたいんだ」
「…あたしだっていい年だから男の子がそういうの興奮するのは知ってるけど…ちょっと違うじゃんこの能力。女の世界に勝手に入ってこないで欲しいのよ」
「む~ん…悔しいけどちょっと理解出来ちゃったかも」
「オレもだ」
三人が顔を見合わせる。
「一応言っとくが、好きでそんなもんしてる訳じゃないことは念を押しとく」
「それは分かったってば」




