鬼頭真琴の場合その2 21
第四十三節
「…何だ」
美夕はもう泣いていなかった。学校から帰ってすぐに着替えていたらしく、可愛らしいミニスカートである。美夕は決してプライベートでスカートを履こうとしない真琴に対抗している訳でもあるまいが頑固なスカート派である。
「…今日はつんけんしててゴメン」
「…無理も無い。気にするな」
「あれから色々考えたんだけどさ…」
嫌な予感がする。
「…やっぱあたしには無理みたい」
「そんな…」
まだ日は高かったが、橋場の視界が暗くなっていきそうだ。
「待って!喋らせて!」
何かを言いだそうとした橋場と、そして真琴を手で遮る美夕。
「別に嫌いになった訳じゃないよ。色々考えたけど、助けてくれた橋場くんには感謝してる」
あのストーカー事件のことだろう。
「そのメタモル…体質も、別に橋場くんが望んでなった訳じゃないんでしょ?」
「誓ってな」
「だったら不可抗力だよ。橋場くんは悪くない」
「…」
…とはいえ、あの鏡の前での一人「セーラー服&ブラジャー」ファッションショーの時に全く浮かれて無かったかと言うと決してそんなことは無いだけにちと申し訳なく思う橋場だった。
「えーと…きとう…さん?」
「あいよ」
「今日も助けてもらって…ありがとうございます」
「いーっていーって!気にしないで」
「よくよく考えたらその…この間だって、あなたがいなかったら」
「分かってくれればいいよ!うん」
もっともらしい表情で腕を組んで頷いている真琴。
第四十四節
「今日のその…メタモル・ファイトを見て分かった気がする。あれは避けようがないわ」
「…」
少なくとも今日のそれは厳密にメタモルファイトと言えるかどうかはかなり怪しい。誰ひとり合意も何もしていないし、主役の真琴は特殊系だ。
一応メタモル能力の披露はあったとは言えるが、スタンダードな腕試し系メタモルファイトでも名誉と報酬を掛けた代理戦でもない。
だが、そんな些細な差などどうでもいい。
「美夕…」
「待って!…一度に話させて」
「…分かった」
深呼吸する美夕。
「理屈では分かってるけど、あたしは普通の女の子なの。相手が誰とかはどうでもいいけど、知ってる男の子が女になったり男に戻ったりドレス着たりセーラー服着たりって…仕方ないとは思うけどその…生理的に受け付けないわ」
がっくり肩を落とす橋場。
「ギリギリその…女になるってだけだったら…まだ分からなくもないけど…」
「女装が駄目だと」
「だって…気持ち悪いじゃない」
真琴が割って入った。
「ねえ“気持ち悪い”ってどの辺が?」
興味津々…という体だ。少し考えて美夕が続ける。
「あなた方の能力が…よりによってウチの女子の制服じゃん?」
「ああ」
妙な因果で橋場と真琴の能力…衣装の種類…はほぼ同じである。
今時珍しいクラシックな「セーラー服」なのだ。膝丈のスカート、真っ黒に三本ライン、血の様に紅いスカーフ…。
よりにもよってそれがまた橋場の通っている高校の女子の制服とほぼ同じなのだ。
つまり、美夕たちが日常的に着ている制服そのものだ。
「だから余計にその…あたし個人のじゃないって分かってるけど、自分の制服を勝手に着られてるみたいな感じっていうか…」
もじもじしている美夕。
「上手く言えないけど、勝手に女になるだけならまだしも制服まで着て…いやらしいっていうか、女を馬鹿にしてるわ」




