鬼頭真琴の場合その2 20
第四十一節
「分かってるとは思うけど、月のものがある以上、妊娠も出産も出来るから。まあせいぜい頑張ってね。恋愛・結婚・妊娠・つわり・出産・授乳・子育て…あれやこれや」
「…」
状況が絶望的過ぎるためか、全く動くことが出来ない元・リーゼント。
「あ、でもあたしも鬼じゃないから。まず仕草を女の子にして…」
「あっ…」
「更に、口調も完全にっ!」
「ああっ!」
「はい、これでごく普通に歩いてても決してがに股になったりしないし、スカートで椅子に座ろうとしたら無意識にお尻の方を撫でつけて座って、でもって脚をぴっちり閉じて揃える様になるから。ま、あたしもやったことないけど」
「え…」
橋場は口を挟めない。
「大丈夫大丈夫!女に必要なスキルはぜ~んぶ身に付いた状態にしておいてあげるから。あんたは心配せんでもちゃんと淀みなくブラジャーする時に腕を吊らせずに背中側に回せるし、男物にはまず無いワンピースでも無理なく背中から着られるし、メイクの仕方もぜ~んぶ叩きこんどいたから!あんたは普通に日常生活を送ってれば大丈夫!」
「そ…そん…な…」
「いたれりつくせりのアフターサービスって訳か」
「そーそー。でもひでちゃんもやってたでしょ?」
「…」
じわりと美少女の目から涙があふれてきた。
…これも女の子の仕草って奴なんだろうか。
「ま、でもあたしも鬼じゃないからさ~、頭の中…思考は男の時のままの記憶から考え方から残しといてあげるから」
「!!!っ!」
「ついでにド緊張体質で魅力的な人が目の前に現れたらすぐに胸がドキドキして顔を真っ赤にしちゃう様にしてあげるんでぇ」
「ぃゃ…」
「後悔するくらいなら能力を悪用して卑怯なこととかするんじゃないよ。…もう反省しても遅いけどね」
第四十二節
そのセーラー服の少女は、「カラ元気を装う」様に操られると、太陽の様な笑顔と共に橋場たちの前から去った。
肉体的に頭のてっぺんからつま先まで肉体は完全に「少女」のそれだ。
もはや「男装」などしようものならそれが全く似合っていない部類である。
それこそ「ズボンが似合わない」タイプの「女の子」となって去って行った。
ぶっちゃけ橋場も今まで何人もの男の人生を狂わせてきた。学校に押し入ったテロリストだの付きまとい相手を殺しかねない狂信的なストーカーまがいだの。
こういう連中はある意味殺されても仕方が無い。殺される代わりに「女にされた」のだ。
それこそ、殺されることに比べればあらゆることは大したことは無い。…一応そうはいえる。「女にされる」くらいで勘弁してもらったんだから感謝して欲しいもんだ。
その前提を学ぶところから始まったメタモルファイトであったが、一番最初に斎賀と相対した時の背筋が冷たくなる感慨が蘇ってきた。
「この戦い(メタモルファイト)に負ければ女にされる」
やがてそれは美しい誤解だと分かり、以降は順当に対戦を重ね、経験を積んできた。それは同時に「女への性転換&女装」への越境感覚を麻痺させることにもつながっていた。
ブレザー、デートルック、CAの制服、お嬢さま学校の制服、チャイナドレス、リクルートスーツ、パーティドレス…そしてセーラー服…。
こうして並べ立ててみると、何とも馬鹿馬鹿しいというか壮観だ。
少なくともこれだけバラエティに富んだ「女の服」を着た経験は同年代の女子高生も持ち合わせてはおるまい。
というか、ごく普通(?)の女子高生が、それだけ色んな学校の制服を着る経験なんぞ、アイドルタレントかモデルでもない限りは体験することは不可能だろう。
ましてや「本物」のCA制服ともなってくると生粋の成人女子だと逆に距離があるんじゃないかとすら思う。
ごく普通の彼女がもしも「CA制服を着たことがある」などと抜かしたら「制服マニアなの?」と引いてしまう可能性すらある。男の制服マニアと女の制服マニアではどちらも異なったベクトルで変態っぽいのは何故なのか。
「今日はごめんねー。お邪魔だったかなあ」
「「…」」
相変わらず能天気な真琴に答えない橋場と美夕。
美夕の速度に合わせなくてはならないので三人ともゆっくり歩いている。
もう夕方に向けて日が傾き始める時間帯、先ほどの廃工場から住宅街を抜け掛かり、繁華街に差し掛かり掛けているあたりである。
「橋場くんいいかな」




