謎の少女の場合 03
第六節
「…それ、橋場くんのけーたいですよね?」
明らかに怒気を含んでいる。
「え…あの…」
確かにここは待ち合わせ場所なんだから、いても不可解しくは無いんだけど、どうしてこんなに人ごみの多いところで特定を!?
美夕はもう一度手元の自分のスマートフォンを操作する。
魔法少女スタイルの橋場の手元で鳴り出すスマホ。
「…間違いないですよね?」
「あ…あ…」
なんという策士!そういう風にして特定していたってのか!
…って別に不自然ではない。
流石の秋葉原でも目立つ格好の変な女に近づいてみたら携帯をいじっていて、それが手元のそれに連動してる。しかもコスプレ女が送信してるはずのが彼氏の携帯ということになれば穏やかじゃない。
「…あなた誰なんですか?」
橋場は最初から浮き上がって空中で停止しているみたいな形状のスカートがさらに舞い上がるのも構わず脱兎の様に駆けだしていた。
こちとらメタモルファイターなので素早い動きはお手の物だ。
信号が赤に変わりそうだったが、背中に大きな声を聴きつつとにかく只管距離を引き離した。
すぐに携帯の電源を落とす。
第七節
橋場の身体はその日の夜には元に戻った。
一体どういうメカニズムなのかは良く分からんが、呉福妹みたいに相手の同意が必要でないタイプの特殊系なのかもしれない。
次の日、ぶすくれてる美夕をなだめるのに苦労した。
だが、落としたスマートフォンをコスプレイヤーが拾ってくれたことにした。
確かに電話の着信こそ連動して鳴りはしたものの、単なる偶然ということもありえる。証拠と言えばその状況証拠しかないのだ。
かなり長い時間不機嫌なままだったが、丸一日掛けて説得した結果「埋め合わせのデートをする」ことで決着が付いた。
場所は再び秋葉原だ。
第八節
「美夕!」
橋場は息を切らしていた。
薄暗い廃屋の中、壊れて締まり切らない蛇口からぴしゃりぴしゃりと水滴が落ちる音が続いている。
「橋場くん!」
両手を頭上に縛られた先日と同じデートルックの美夕が叫んだ。
「…王子様のお出ましか」
皮ジャンにリーゼントという分かりやすい不良ルックの男が手の中でピシャピシャとナイフで掌を叩いて遊んでいる。
「来るのが遅いぜ」
待ち合わせの場所に来てみると、そこには美夕はおらず、いきなりスマートフォンに着信があった。
美夕をさらったので指定する場所に来いというのである。
「聞いたぜ。結構な実力者なのに余りバトルに熱心じゃないらしいな?」
「テメエ…」
背筋が怒りで泡立つ。だが次の言葉が続かない。
「おや?彼女の前ではバラされたくないってかよ?」
そう、ここで「テメエもメタモルファイターか!?」とすごむ訳にはいかないのだ。
「何のことだ?」
怒りつつも、なるべく平静を装って言った。
「こいつぁいい!最高の人質じゃねえか!」
下卑た笑いだ。
「美夕に指一本触れてもぶっ殺す!」