鬼頭真琴の場合その2 05
第九節
いつの間にか腕組みをして見下ろしているではないか。
「橋場君…今、ブラしたでしょ」
「い、いやその…」
なんという『女のカン』だ。
“させられたんだ”と訂正しようとしたが、余計に事態が深刻になりそうな気がして思いとどまった。
さて問題です、男にとって「自ら進んでブラジャーをする」のと「無理やりブラジャーをさせられる」のはどっちがマシでしょうか?あ、ついでに「女の身体に性転換させられて」も追加で。
「…っ!!!」
変化は止まらなかった。
内側に着こんでいたシャツが変形していく。
何の変哲もない無地のシャツは、キャミソール形状に広がると、柔らかくてつるつるすべすべした官能的な肌触りのシルク状になってアンダーバストから下の乙女の柔肌全体にまとわりついた。
「…」
ほんの少し動くだけで全身に女物の下着の感触が波の様に伝わって行く…。
大きくため息をつく美夕。
「ち、違う!違うんだこれは!!」
自分で言ってても何が“違う”んだかわかりゃしない。
長い髪を振り乱して美夕に向き合ってる間に全身が漆黒に染まりつつある。
「あ…ああ…」
思わず見下ろすが、それで事態が何か好転する訳でもない。
間違いなく鬼頭の能力だこれは。
ということは、着せられるスタイルは確定している。
「…っ!」
手首部分が“きゅっ!”と引き締まり、純白の三本ラインが入って行く。
妙に胸元が涼しくなったと思ったら、大きく開いているではないか。
学ランの時には苦しくてたまらなかったのに首が殆どむき出しの格好だ。だが、その胸元の切れ込みには内側からふたをするように三角の生地が出現し、校章の縫い取りと三本ラインで素肌を隠す。
「…」
刺す様な美夕の視線が痛い。
「いや…だからその…これは…」
大きな襟が首後ろを回り込み、背中側に広がって四角くなり、その縁を純白の三本ラインが形作って行く。
そのラインは身体の前方にも進出し、肩から盛り上がった身体正面の頂点に向かった。
“しゅるしゅるしゅるしゅるしゅるるるるるるっ!”と当人でない美夕にすら聞こえる衣擦れを響かせてどこからともなく現れた真紅のスカーフが襟の下にもぐりこみ、背中から小さく三角形に飛び出し、身体の正面で束ねられた。
第十節
「これは…何よ」
何の抑揚も無い声だ。
寸詰まりの上半身の生地は僅かではあるが白くお腹を見せていた。それが女物の下着…スリップの一部なのは橋場と美夕の双方に分かっていた。
「と、止まれ!止まれえぇ!」
無駄なのは分かっているが一応言ってみる。
ズボンが真っ黒に染まり、全体がぐにゃりと変形して一体に溶け合う。見慣れていないと頭がおかしくなりそうなビジュアルだ。
一瞬だけ変化が止まったかと思うと、「ぶわあ!」と爆発する様に一気に広がった!
「わあああっ!」
下半身が一気に空気にさらされる。
物理的に風が吹き込んで来て、むき出しの素肌を嬲った。
それはスカートに間違いなかった。
アコーディオンみたいな“ひだ”の入った、下ろしたての女子の制服だ。
いつの間にか足元には、足首までの真っ白な靴下が履かされている。ご丁寧に部屋用のスリッパまでピンク色の女の子仕様だ。
「あ…あ…」
茫然とその場に立ち尽くす橋場…だった人物。
今や一部のスキも無い、「清楚なセーラー服に身を包んだ、ロングヘアの女子高生」となってしまっている。
「そんな…これは…」
目の前に美夕がいるのに、きゅ…きゅ…と全身を動かしながら見下ろしている。
下半身はあくまでも寂しく、それでいて動くたびにブラジャーが乳房の重みで肩に食い込み、上半身の胴回りにはスリップの官能的な肌触りが襲い…いや、セーラー服の上着の内側にはびっしりと同じく官能的な肌触りの「裏地」がくまなく張られているので肩から腕から背中から触れる内側全て…上半身全てがその「女物の下着の感触」である。
むき出しになっている素脚をちらちらとスカートの裏地とスリップがくすぐってくる。
「…このカッコって…ウチの女子の制服だけど、昼間のあの女の『能力』だったわよね?」
可愛らしい服であるはずなのに、服の前を「外しかけ」で乱れたまま表情は般若なのだから全く可愛くない。
「そ…そう…だね」
その声も先ほどまでとは似ても似つかない「女の声」である。
「あ…くそ…」
思わず格好に似合わない悪態をついてしまう。
「何よ?」
「仕草…まで…」
よく見ると橋場はきちんと内股を守り、身体の内側にむかって丸まる様な挙動…平たく言えば『女の子の仕草』…になってしまっている。
ぴくぴくと青筋が浮かんでいる美夕。
目の前の「美少女」は明らかに美夕よりもウェストは細く、バストもヒップも豊かだ。
メリハリの効いたプロポーションにより、腰元から広がるスカートのシルエットが実に女性的だ。




