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朝原 至の場合 09


第十七節


「結果って?」

「どうせ押し相撲だったんだろ?勝ったか」

「負けた」

「負けたぁ!?お前がか」

「そりゃボクだって負けることあるよ」


 飛田の強さは押し相撲になっても健在だったってことか。


「最初の試合はすぐに読まれて変身させられなかった。で負け」

「…」


 見抜いたんだ。変身させると体格を良くしてしまうことに。


「次の試合はボクをお姉さんにしたまま勝負」

「…前提条件として変身させたわけだ」

「うん」


 CAは職業柄背が高い。リーチ差もほぼ無い。互角の勝負になるだろう。

 そうか、互角の勝負にするために変身させたんだ。決して加虐趣味じゃない。


「勝ったか?」

「負けた」

「…どうやって」

「おじちゃん強かったもん」


 あれだけ身体コントロールに長けているということは、押し相撲など最も得意ジャンルというところだ。


「こっちから仕掛けたか?」

「仕掛けたけど…効かなかったなあ」


 徐々に分かってきた。

 確かに優位戦に持ち込むことは大いに勝利に貢献する。格闘ゲームで言うところの「わからん殺し」(相手にとって未知のマイナーキャラクターを使って、知識が無い内に不意打ち同然に勝ち逃げすること)でならば勝つ可能性は高くなる。

 しかし、それもこれもベテランにとっては単なる要素の一つでしかないってことだ。

 基本は実力だ。


第十八節


「次の駅で降りるね」

「メタモルファイトはともかく、遊興王はいい腕だった。また戦ってくれ」

「いいよ」


 器用にコードを丸め、携帯ゲーム機をカバンに収納する朝原。


「SENNのアドレスとか教えようか」


 SENNとはこの頃爆発的に流行している無料通信アプリである。


「あの店にいれば会えるから」


 電車が停まるとあっという間に駆け出していく朝原。


「そんじゃねー!」

「あ、ああ…」


 電車内には人が流れ込んでくる。

 さっきまで朝原が座っていた椅子も会社帰りのサラリーマンと思しき中年男性がどっかと腰を下ろす。一日の汗で増幅された加齢臭が鼻を衝いた。

 電車内はたちまち立錐の余地も無くなって行く。


 斎賀は考えていた。


 …自分たちがあのくらいの年齢の頃には、メタモルファイトなんて面白い遊びはなかったんだけどなあ…。

 朝原のCAの制服を着せられてすらけろっとしている挙動を想像してしまう斎賀だった。




*斎賀健二 メタモル・ファイト戦績 八勝三敗二引き分け 性転換回数八回

(三人同士の練習試合はカウントせず)


*朝原 至 メタモル・ファイト戦績 二十七勝二敗0引き分け 性転換回数二十九回



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