朝原 至の場合 06
第十一節
声変わり前の少年の声と、思春期の少女の声はそれほど違いが無い。だからこそ女性声優が少年の声を当てたりするわけだ。
「じゃ、続きやろうか。二本目」
心なしか生まれたばかりの女子高生の表情が勝ち誇っている様に見える。
…何か…何かおかしい。嫌な予感がする。
「…慣れてるな」
「これのこと?」
身体をきゅっとひねって片手でぴらっとスカートを持ち上げる朝原。まるで女の子みたいなリアクションだ。相当慣れている。
「本当にみんなそれ言うよね」
自分でやらかしといて言うのもなんだが、目の前の落ち着いた制服姿の少女の中身が先ほどの少年だと思うと何やら複雑な気分になってくる。
「さー続き続き!二本目行くよ!」
同じポジションに立つ女子高生…朝原。
「…っ!!!!」
「あ?もしかして気が付いた?」
目の前、正面に朝原の美少女顔があった。
「少なくとも身長の条件はこれで対等だよ?」
なんてこった!こちとら効果があると思ってメタモル能力を仕掛けたのに、圧倒的だった体格差を全く同じ土俵に引っ張り上げてしまっていたのだ!
「…そういうことか」
第十二節
「うん。そういうこと」
にっこりする女子高生…朝原。その笑顔すらも手慣れたものだ。まるで小悪魔だ。本当に年端もいかない男の子なんだろうか。
「知ってると思うけど今から試合条件の変更は認めないから」
「…もとよりそんなつもりはない」
「じゃー二本目…スタート!」
だが、勝負は見えていた。
押し相撲はセンスがモロに出る競技だ。上手い人間は天才的に上手い。これは生まれつき足が速いとか、背が高いとか、絵のセンスがあるとかそういう話なのである。
バランス感覚と押し引きの緩急の使い分けの巧みさは、生まれ持っての素質に加えて星の数ほど行ってきたのであろう実戦に磨き上げられたものだった。素人同然の斎賀が朝原にかなうはずも無かった。
「ほい!」
何度目かのやりとりの後、駄目押しよろしく行われたその一撃によってたまらずふらつく斎賀。
「はい、一本取った!」
にっこり笑って小首をかしげる朝原。…こいつは、一体どこでそんな男を惑わす技を習ったのか。
「なるほど…そういうことか」
全ては自分の土俵…押しとはいえ相撲だけに…に引っ張り込むための作戦だったんだ。子供がやるカードゲームと一緒だ。
「卑怯だと思う?」
「いや、思わない。それも作戦の内だ」
「余裕だね」
とはいえこのままじゃじり貧だ。どうにか対抗策を考えないと…相手を性転換させようったってもうしてるからな…。意図的に能力ってキャンセル出来るんだろうか?
普通は試合中に有利になることはあっても不利になることなど無いのだが、この場合は相手を変身させることで体格を良くしてしまっている。
「解除条件は終わるまでね。試合中はそのまんま。最初に確認したでしょ?」
「…っ!!」
そうか、意図的に解除させないための作戦だったのか…ということはそんな約束が無ければ仕掛けた側が一方的に解除できるってことか?
「続けましょ?日が暮れちゃうよ」
「そうだな…?」
何か妙だ。先ほどからの嫌な予感がどんどん胸の中で大きくなってくる。




