朝原 至の場合 03
第五節
「遊興王」のカードの欠点はとにかく「傷みやすい」ことである。
何重にも貼り付けられたビニール素材などが使いこむうちに簡単にめくれあがって来て、あっという間にボロボロになってしまう。
メインユーザーが子供なのでスリーブに入れず、扱いも乱暴なことも珍しくない。
バックプリント(背面)が全く同じでランダム(無作為)にカードを引くことが前提となっているゲームに於いて、容易に見分けが付く状態のカードをマークド(傷あり)といい、競技制が重視されるゲームに於いては厳に慎むべきとされている。
要するに麻雀の「ガンパイ」と同じで、自分だけは次に何のカードを引くのか分かってしまうのだから公平性も何もあったものじゃない。
とはいえ、それを指摘してもへそを曲げるだけで不透明スリーブに全カードを収納するなどといった対策を取ってくれるわけも無い。
だから、子供相手にトレーディング・カードゲームをするのは大変なのだ。
それをこの子はきちんと配慮している。そもそも子供の口から「全国大会ルール(統一ルール)」何て言葉を聞いたのは初めてかも知れない。
「じゃ、始めよう。カットをどうぞ」
小さな手でテーブルに乗り出す様にカットが行われる。
「じゃんけんで先攻後攻決めよう」
「サイコロがいい」
本格的な提言を聞いて試合が開始された。
「…ではアタックで」
子供…朝原くんのプレイは見事だった。
まだ手が小さいためかカードを扱う手さばきがたどたどしいし、子供らしく発音も若干不明瞭だ。
だが、ルールマニアとすら言える斎賀からしても全く間違いのない、セオリーに従った対処法である。宣言時のタイミングや確認などのマナーも完璧だ。
「子供」は相手に適正プレイで割り込まれるのを嫌がって、「早口」で自分だけさっさとやりたいことだけ全部やってしまうようなことも珍しくないのにだ。
「ちょっと待って」と巻き戻してきちんとプレイをしたりするとやっぱりふてくされて、それこそカードを投げる様ないじけ状態になったりする。本当に子どもはわがままだ。自分の思い通りにならないと機嫌が悪くなる。
盤面上では一進一退の攻防が続き、からくも斎賀が逃げ切った。勝利したのだ。
第六節
「もう一回やろう!」
朝原くんの目がキラキラしている。
「おお」
その後何試合もしたが、斎賀は久しぶりに充実感を味わった。
同年代でこれほど戦えるプレイヤーとてそうはおるまい。
夢中でプレイし続ける内に時間になった。
ここのプレイスペースでは夕方の5時以降には小学校低学年以下は入り続けることが出来ない。
「おにいちゃん!外で続きやろうよ!」
少し考えて「分かった」と返事をする斎賀。
デッキを片付けて学生カバンに放り込むと、抱えて一足先に店の外に出た。
小さな身体に短い手足をバタバタさせながら追いかけてくる。
「ここの店の駐車場が外にあるんだ!」
~数分後~
確かに駐車場はあった。
都会の真ん中のエアポケットみたいになっている猫の額みたいな駐車場が。
ビルの谷間の間にぽかんとあり、絶妙に周囲の視線が入りにくい。
駐車場に書かれている文字を見ると、あのカードショップ専用の駐車スペースはたった5つしかない内の1つしかないではないか。
「…で?どうするんだ?ここで続きやるの?」
幾らスリーブに入ってるとはいえ、アスファルトの地面にカードを並べて遊ぶのは抵抗がある。
これはどこかのファーストフード店で続き…とかいうパターンなのかもしれないな。
「いや、遊興王はもういいよ」
「じゃ、何で遊ぶんだ?」
「メタモル・ファイトしようよ」




