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朝原 至の場合 01


第四章 朝原至あさはら・いたるの場合


第一節


 その少年は退屈そうにしていた。


「そのデッキって『遊興王』かな?」


 斎賀健二さいが・けんじが声を掛ける。


「うん。そーだよ」


 ここは都内某所のデュエルスペースである。

 カードゲームショップの奥などに設置され、多くの場合は入場料を払うことで一定時間使用することが出来る。

 カードゲームプレイヤーはこうした場所を有効活用して身内以外と対戦して腕を磨いたり、トレードに精を出してデッキの強化を計ったり、コレクションを充実させたりするのだ。


「おにーちゃんもやるの?『遊興王』?」

「…うん。丁度デッキもある。やろうか」

「やるやる!」


 目を輝かせた。

 見たところ小学校に入ったかどうかという程度の年齢に見える。身長はそれほど大柄でもない斎賀の半分くらいの感覚だ。


「ルールは?」

「全国大会ルールだよ」


 カードゲームはアナログゲームである。プログラムに従って動作し、融通が利かないと言ったことが無いため、エラッタ(ルール修正)などを「運用」で導入することが可能だ。

 つまりルールの運用に自由度が高いということであり、それは「安易なローカルルール」が跳梁跋扈しがちであるということも同時に意味する。

 トレーディング・カードゲームとしては後発の部類に入る『遊興王』は、「子供が気持ち良く遊べる」ことを念頭に設計されているため、発売直後のルールでは最強のカードを1ターン目に出すことも可能であるという豪快なゲームだった。

 また、細かい厳密なルールを突き詰めていなかったため、簡単に「最強戦術」が発見されてしまい、その都度「制限カード」などで切り抜けるしかなかった。

 とはいえ、メインユーザーである「子供」たちが仲間内で遊ぶにあたってそんな細かいルールの変更をいちいち全てチェックする訳も無い。

 結果として日本全国に無数に存在する「遊興王」コミュニティの数ぶんのローカルルールが存在し、それぞれが仲間同士で戦うことがメインとなってしまった。


 発売元は、売り上げが落ち始めた頃を境に、欧米やアジアまで巻き込んだ「世界大会」を企画するに至る。



第二節


 いざ世界大会を行うに当たってやっと「統一ルール」が整備された。

 このルールに従ってデッキの制限枚数をクリアしなくてはそもそも大会に出場することも出来ない。


 だが、長年使い慣れたローカルルールを簡単に捨てることが出来ない子供たちは仲間内のルールにしがみつこうとする者も多かった。

 こうして「大会派」と「ローカルルール派」に大きく分裂したまま「遊興王」界は今に至っている。

 ただし、やはり「統一ルール」は大会の為に整備されただけあって、豪快な動きは(ほとん)ど出来なくなっているもののバランスは取れているし、折角なら大きな目標を持ってプレイしたいという子供も多かった。

 結果として徐々に徐々に統一ルール派が勢力を増しつつある…というのが昨今の情勢である。


 斎賀と子供…朝原至あさはら・いたるは机の上を綺麗に片付けるとプレイマットの上にライフカウンターを置き、お互いに黙々とディール・シャッフルを始めた。

 カードの束を引き抜いては上に重ね続ける最も一般的なシャッフルを「ヒンズー・シャッフル」というが、実はあれだとカードが(ほとん)ど混ざらないのである。

 理想的なのは、マジシャンがよくやるカードを大きくそらせて弾き、交互に重ねあわせることを繰り返す「リフル・シャッフル」である。

 ただし、高価なカードが痛みかねない上、この頃のトレーディングカードはカードを保護するための「スリーブ」に入れられていることが多いため、物理的に不可能だ。

 その為、一定の法則で「机の上にカードを並べる(ディール=配る)」様にして行う「ディール・シャッフル」がカードゲームプレイヤーの間では一般的である。


 橋場はその「手さばき」から大したことは無いかな…と辺りを付けていた。


 高校生になってもまだ幼稚園時代から行っていたカードゲームを続けているのは進学校に通う斎賀の周辺では彼しかいなかった。

 必然的にプレイヤーは小学生やそれ以下…ということになるのだが、残念ながら子供相手にはまともな試合は余り期待出来ないのだ。

 プレイしてみると分かるが、子供は負けることが大嫌いだ。本当に嫌いなのだ。



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