盛田出人の場合その2 07
第十三節
「何だって?」
「“普通に考えたら”“常識で考えるとそうはならない”これまで超常現象を疑われてきた事件の幾つがそういう偶然と気まぐれに支えられてきたことやら」
「何を言ってんだよ」
「確かに床板は内側に向かって外すから外からは見えない。ただ、以前にもこの小屋に入り込んだことがあって、床下からの入り方を知ってたとしたらどうだ?」
「…入口はカギが掛かってると最初から思い込んでた…」
「電気もついてないから無人だと言う確信はあった。この夜は月明かりが強かったから、中で寝るくらいはなんとかなると判断したんだろ」
「…そう考えるとそういう気もしてきたな」
5 床下に人が出入りした証拠は残っているのか?
「これは残念ながら残ってない。単なる土の地面だからな」
「事件が起こったのも結構前だからな」
「仮に昨日の晩だったとしても物証なんぞのこりゃせん」
「でも、制服は汚れずに真新しかったらしいぞ?」
「あのミニスカートだと膝つけば制服のどこも地面に接触せんぞ」
「あ…」
「入り込める床下は妙に段差が高くてな、俺らみたいな大人じゃ無理だが、十七歳くらいの小柄な女の子なら何とか可能らしい」
「…やっぱそうかも」
「少なくとも男が急激に女になって、着てたおっさんルックが女子校生の制服に変形したなんて推理よりはずっとな」
3 三太郎は何故行方不明になったのか?
「問題はこれだ」
「説明してみてくれ」
「それこそ簡単じゃないか」
第十四節
「三太郎は別に死んでない。謎の少女の見舞いに現れてる」
「それは病院で採取された指紋から類推しただけだろ?三太郎の指紋はやたらにあるのに、肝腎の少女自身の指紋が一つも見つかってないのはどう説明するんだ?」
「あのな、病院の…しかも個室じゃなくて大部屋だぞ?周囲にあるものと言えば布団くらいだ。毎日大量の見舞客やら看護師が入れ代わり立ち代わりしてる。訪問客に過ぎん三太郎の指紋が残ってた方が奇跡なんだよ!前日に世話をしたナースの指紋も結果として一つも見つからなかったんだが?」
「…それは…部分指紋はあったろ」
「逆に言えば現場で作業をしていた人間すら部分指紋しか残さなかったってことだ。確かに入院患者本人には違いないが動いたりだってする。そもそも指紋採取だって行われたのは行方不明になってから三日後だ」
「それは…」
「事情聴取に来た刑事の指紋がばっちり残ってたってんだから笑わせるぜ」
「それは分かったが行方不明の件は」
「自殺と同じで、行方不明だって明確な理由が分かるものなんて1~2割しかない。デカなら知ってるだろ」
「…まあ」
「どれもこれも偶然!単なる巡りあわせの良くある事件だ。まあ、「おっさんが女にされて女子高生の制服まで着せられた」なんてアホな推理をする奴がいるとは思わなかったけどな!」
「じゃあ、謎の少女が行方不明になってから届く様になった『仕送り金』についてはどう考えてる」
「…何だそれは」
「昨日届いたらしい。差出人も無く、「生活費の足しにしてくれ」としか書いてなかったらしい」
「それこそ三太郎がどこかで心を入れ替えて生きてる証拠だろうが」
「そうかな?」
「まだ何か疑問があるのか」
「お前の推理は謎の男女の存在を忘れてるぞ」
「…そりゃ、正義の義賊ってところだ」
「俺の推理はこうだ」
「はあ」
「あの男女はやはり男を女にし、着ている服を女物にする力がある。どっちかは分からんが」
「まだ言うか」




