謎の少女の場合 01
第一章 謎の少女の場合
第一節
「どうですかね?このアイデア」
「…それは色んなルールありなんだよな」
「当然そのつもりです」
「メタモル能力無し対決もありか?」
「またそれですか…お互いが合意していればありだとは思いますが」
斎賀健二と武林光が話し込んでいる。
それを頬杖を突きながら眺めている橋場英男。
「…で?それは何の話なんだよ」
「アキバのメタモルカフェを本格的にデュエルスペースとして活用するためのアイデアですよ」
「はあ」
「俺は、相手がいるんなら歓迎だ」
実はこの間、色々あった。
武林は契約ファイト当然にバレリーナとなって踊らされる羽目になったし、橋場は関西からの刺客、メタモルファイトジャンキーに辛酸をなめさせられていた。
仲間のよしみでその報告会を兼ねる積りだったのだ。
「…と、言う訳で関西じゃあそんな有様らしいぞ」
しばし呆然として話に聞き入っていた斎賀。
「す、すごい!本当にそんな人が!?」
「ああ。間違いねえよ」
「写真とか撮ってないんですか写真!」
ファーストフード店のテーブルを乗り越えそうな勢いである。
「撮るか!こっ恥ずかしい」
自分の「就活中の女子大生」みたいなリクルートスーツ姿をなんで残さんといかんのか。
「駄目ですよ!少々恥ずかしくても情報共有するんなら残しとか無いと!」
…ま、確かにそうかもしれん。
「…」
普段ならあれこれ悪態をつきそうな武林が黙り込んで、心なしか頬を赤くしながら明後日の方向を向いている。
…この間に何かあったな…とは思ったが武士の情けで追及しないことにした。
第二節
ガタリ、と席を立つ橋場。
「どこへ?」
「今日はお前らに報告しようと思って待ち合わせただけだ。もう行く」
「デートですか?」
「ああそうだ」
淀みなく答える橋場。
今日は久しぶりに潮崎美夕とデートなのだ。
彼女は秋葉原に別に抵抗が無いみたいなのでこいつらの都合に合わせてみた。
「女にかまけやがって」
硬派らしい文句を言う武林。
「そのデュエルスペースとやらは当局に目を付けられたりせんのか?」
「ああ、さっきの話ですか。大丈夫でしょ」
「そうかね」
「別に違法カジノって訳じゃないし。まだ綾小路さんには話してませんが」
「ま、お前らバトルマニアどもは勝手にやってろ。オレは付き合わんぞ」
「で?でもリクスーさんとは戦ったんでしょ?」
「たまにはそういうこともあるって話だ!こちとらバトルマニアじゃねえんだ!」
第三節
ぜえはあと息が切れている橋場。
橋場は、タイトルも何も知らないが、何とか言う「魔法少女」アニメの主人公の衣装らしいそれを着せられていた。
言うまでも無く、肉体もそれに合わせて少女へと性転換されている。
スカートの内側はあくまでも涼しく、下腹部に感触が無い。
ピンク色のふりふりで、オシャレ帽子に膝上スカート…というか空中に浮きあがって形を成しているんだが。
膝上までのうっすら肌色の透ける靴下に、これまた縁のところがフリフリになっていて真っ赤で細いリボンで締め付けられている。
目が痛いレベルで真っ赤に光沢を放つ靴を履かされ、謎の変身ステッキを持たされている。
…畜生…なんてこった…。
「魔法少女」ではあるみたいだが、別に小学生の女の子になってしまっている訳ではないらしい。
女子中学生…せいぜい女子中学生くらいか。女子高生…今の自分と同じ年齢…程度であるのかは良く分からない。
この間の歩行者天国での「当て逃げ」バトルみたいなもんで、声を掛けられたはいいが、振り切って逃げる際に何をどう解釈を捻じ曲げられたのか能力を喰らってしまった。
こういう場合はこっちの同意も不十分だし、「勝負不成立」で気合を入れればすぐに戻れたりするもんなんだが、今のところ戻れていない。
対戦相手を探すも人ごみに紛れて見つからない。
デートの待ち合わせ時間が迫っている。
こんなんじゃデートどころじゃない。恰好が突飛なこともあるが、そもそも本人と認識してもらえまい。
「あっ!」
思わず声を上げてしまった。
周囲の人間が怪しげに見ている。
…秋葉原で良かった。
これが渋谷や六本木だったら偉いことになるだろう。というか秋葉原や中野以外だったらそもそも大問題だ。
いやそれはどうでもいい。
一番問題なのはここがデートの待ち合わせ場所だってことなのだ。




