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盛田出人の場合その2 02


第三節


 巣狩が解説を続ける。


「近所の住人の証言によると、毎晩の様に泣きわめく声が聞こえ、叩いたり物を壊したりといった音が響いていた」

「うん」

「執拗な怒鳴り声なども続くので直接文句を言いに行ったが、三太郎…父親…の余りの剣幕に直接文句を言うのではなくて警察に通報する様になる」

「うん」

「警察は一応は来るんだが、やはり三太郎の剣幕に『民事不介入』と言って去る」

「警察学校では他に何もならわんのかね」

「そして…通報を家族の誰かによる「ちくり」であるという被害妄想に囚われてなお一層激しい虐待が行われる」

「…ああ」

「一回だけ殴られたショックで弟が意識不明となり、近所の住人によって救急車で搬送されたことがあった」

「…なんてこった」

「殴った後、三太郎は有り金を握りしめて遊興施設にシケこんだらしい」

「…無職か」

「当然だ。まだ五十代で家族を殴る元気はあるのに仕事は出来んらしいな」

「…」

「…救急車で運ばれた時も、母親が泣いて止めたが、勇気のある救急隊員によって引き剥がすように緊急入院させられて一命を取り留めた」

「問題になったらしいがね」

「…ウチの国ではいつ人命救助が犯罪になったんだ?」

「三太郎が吠えてるだけだ」

「帰ってきて息子が連れ去られている…これは本人の自供だが…ことに気が付いた三太郎は病院に毎日の様に押しかけて息子を返せと言って怒鳴り散らし、暴れた」

「…」

「全身が虐待跡だらけなんだが、これまた剣幕に押されて意識が回復して歩けるようになった段階で自宅に帰してしまう」

「バカな…」



第四節


 歩き回りながら巣狩が続ける。


「当然ながら治療費は踏み倒して未だに払ってない」

「…これは強制力が使えたよな?」

「曰く、頼んでないのに勝手に治療しといて治療費を払えとは詐欺だ!…ってさ」

「…脳が腐ってやがる。処置なしだな」


 気を取りなおす巣狩。


「で…ここからが問題だ」

「事件当日の夜だな」

「ああそうだ。目撃証言によると男女二人組がこの家を訪ねてくる」

「うん」

「普段着でこれといった特徴は無かったらしい。女の方はひざまでのスカートにレギンスだったという程度」

「年齢はどれくらいなんだって?」

「この頃の若い奴は年齢が分かりにくいんで何とも言えないが、この目撃者は10代に見えたと言ってる。どんなに上でも二十歳程度だろうと」

「…そんなことがあったのか」

「家族の証言によると、この2人を見かけたのはこの日が最初で、以前に出会ったことは無いらしい」

「ふん…」

「高校生の長女によると、女の方がかなり威勢が良くて男が尻に敷かれている様に見えたらしい」

「ま、若いカップルでは特に珍しくも無いな」

「この時三太郎は相変わらず遊興施設で遊びほうけてる」

「この家って生活費は母親が稼いでたんだよな」

「ああ。公立だからどうにか子供も学校にこそ行かせられてはいたが、義務教育である中学でも給食費は払わない、修学旅行の積立もしないからクラスで一人だけ修学旅行に行けなかったらしい」

「…悲惨だな」

「いつもの通り、帰ってきた三太郎はひとしきり長女と長男を殴り、母親に暴言を吐いてその日の生活費を握りしめて飲みに行こうとする」

「…」

「…そこに例の男女が現れる訳だ」


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