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鬼頭真琴の場合 05


第九節


 幸か不幸か橋場の通う高校にはメタモルファイターの仲間はいない。

 人並みに人間関係を築けている橋場だったが、その点悩みを相談し合える仲間はいないわけだ。


 まあ、「事情を知る」様になったという点では美夕がそれに該当するわけだが、とても相談という雰囲気じゃない。

 戦って汗だくになったブラの当たってたところがかゆい話なんぞした日にはぶん殴られるだろう。


 そんなこんなで、帰宅部である橋場はさっさと放課後になると帰途に就く。

 毎日見慣れてるカラスみたいなセーラー服と学ランが目に痛い。


 校門を出て、しばらく歩いていた時の事だった。


「よっ!」

「…?あんたは…」


 先日助けられた謎のショートカット美少女だ。今日はキャップはしていないらしい。


「この間はどさくさになってごめんよー。大丈夫だった?彼女とはさ」

「結構修羅場だったよ」


 結構どころじゃないんだが、まあそういうことにしておく。


「にしても凄いねー。コッテコテのセーラーに学ラン。今時こんな高校ってあるんだ」

「まあな…っていうか一緒に歩くのか?」

「うん。この間はあんな感じだったし」


 周囲には家路を急ぐ帰宅部がちらほらいる。住宅街の真ん中にある高校なので大通りに出ると人通りが結構ある。


「ついてくるな。こんなとこ見られたら破滅だ」

「破滅って大げさな」

「約束させられたんだよ。基本的にもうファイトはしないって」

「あれま?でも何でそうなるのよ。この間はどうみてもあんたが男の尊厳を犠牲にしてまで人質の彼女をかばったって図じゃん」


 一瞬立ち止まる橋場。


「分かってくれるのか!」

「だってあたしもメタモルファイターだからさ。そりゃ分かるよ」

「で?今日は何を?」

「いや、あんだけ男気が…あの時の見た目は綺麗なドレスの美女だったけど…あるんだったらきっと強いと思って。戦ってくれん?」



第十節


 橋場が通う高校は駅から10分は歩くところにある。結構一緒に歩かなくてはならない。


「とりあえず名前教えてよ。それでいいから」

「あ…すまん。俺は橋場英男だ(はしば・ひでお)だ。ブリッジの橋に場、英語の男で「はしばひでお」」

「いい名前だね。あたしは鬼頭真琴きとう・まこと

「きとう…」

「鬼の頭に真実と楽器の琴ね。「おにあたま」って書くから怖いと思われるけどそんなことないから」


 確かに目の前の屈託のない美少女はどこかのアイドルグループにいると言われても信じてしまいそうなほど可愛らしい。ショートカットに長ズボンと、着ている服装に少女趣味が全く無いのも逆に可愛く見える。

 ただ、身長は女子にしては結構高く今の橋場と同じくらいだ。


「あの時は助かったよ」

「なーに、困った時はお互い様ってね」

「大丈夫だったか?」

「あの後のこと?悪いけどこっちが大関だとしたらありゃ関脇どころか新入りだね。苦戦もしないよ」


 まあ、そうなんだろう。相撲の番付で例えるのは良く分からんけど、言いたいことは分かる。


「それにしても人質取るなんてね~。まあ、弱いプレイヤーはそういうこと考えないといけないのかな~って」


 両手を頭の後ろで組んで歩いている。可愛い。


「彼女とのこともっと聞きたいなあ。事情を了承した一般人なんて滅多にいないよ?」


「だから修羅場になった」


 正直に言うしかない。


「信じてもらえない…ってことはないよね。目の前であの悲劇だもん」


 橋場は、鏡で自分の痴態を見た訳ではないが、目の前に見下ろすセクシードレスからはみ出す胸の谷間やら、身体に張り付くドレスの感触がフラッシュバックしていた。


「…彼女は理屈では分かってるんだろうけど、自分の彼氏が女になって女装するのは生理的に受け付けないらしい…無理もないが」

「しょーがないじゃんねー。そういうもんなんだからさ」

「そう言ってくれるのはあんたくらいだよ」

「ちょっと待ったあ!」


 そこには般若みたいな形相の美夕が制服のセーラー服姿で仁王立ちしていた。



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