鬼頭真琴の場合 02
第三節
「今日みたいな相手は初めて?」
「大人路線のナイトドレスは初めてだ」
「能力は人によって違うの?」
「全く違う。変える相手の年齢設定や衣装がだ」
「衣装?衣装って何?」
「だからその…女物の種類だよ」
「スカートとかワンピースとかそういうこと?」
「まあ…そんな感じだ。今日の相手はああいうドレスだったってことさ」
物凄く不審…というか訳が分からないものを見せられたような表情の美夕。当たり前か。
こんな話をしただけならば絶対に信じないだろうが、目の前で女体化のみならず女装化までさせられ、挙句に元に戻されているのだ。信じるしかない。
「橋場くんの能力は?」
「…笑ったり軽蔑したりしないか?」
「…多分」
しばし沈黙。言葉にしてみるとなんと陳腐で馬鹿馬鹿しいことか。しかし、事実なんだから仕方が無い。
「セーラー服だ。真っ黒で膝下丈スカートの」
言い終わった後、何故か心臓がどきどきする。
「…もしかして白い三本ラインに真っ赤なスカーフとか?」
「…ああ」
「それって、身体も下着とかも全部含めて?」
「全部。靴やヘアピン、生徒手帳に至るまで全部だ」
びっくりして目を剥く美夕。
「何なの?何よその能力?」
第四節
「俺にも分からん。いつのまにかこんな能力がだなあ」
「…」
物凄く気まずい雰囲気が充満する。
「変態だと思うか?」
「…」
答えない美夕。
「思うんだな」
「…別に橋場くんがそういう願望があるとかじゃ無いんでしょ?」
この場合の「願望」とは「女装趣味」と言う意味だろう。
「んな訳があるか!大体これは他人に対して行使出来る能力なんであって、自分で自分に掛けることは出来ん!」
「そうなんだ。でも、人の能力を食らったことはあるよね?」
「…まあな」
やっぱりその追求が来たか…。
「今日みたいなドレスとか」
「今日は例外だよ。人質を取られてたし」
「あたしのせいだっていうの?」
「そこでキレられてもどうしようもない」
実際どうにもならなかった。
「人質と男の尊厳だったら男選ばないんだ」
「さっきも言ったがメタモルファイター同士の能力行使は元に戻れるんでな。お前が傷物にされたり、それこそ殺されたりしたら取り返しがつかない。だったら一時的に女にされるくらいはさ…」
我慢するってことだよ…と心の中で続けた。
もしもあそこで謎のショートカット少女が助けてくれなかったら、あの男は橋場を「最後まで」やる気だっただろう。
そして、美夕をかばうためなら受け入れたに違いないのだ。
「今まで「メタモル・ファイト」ってのは何回くらいやったの?」
美夕はまだ食い下がった。
「もういいんじゃないか?」
「知りたい」




