プロローグ
・敵意・害意を持った相手に対し、触れることで相手を女性へと性転換し、女装させてしまう能力である「メタモル能力」が存在する。この能力の持ち主を「メタモル能力者」「メタモルファイター」と呼ぶ。
・彼らは一人に付き一種類の衣装という個性を持つ
・彼ら彼女らに女性へと性転換された被害者は元に戻ることは出来ない。
・メタモルファイター同士の腕の試し合いを「メタモル・ファイト」という
・「メタモル・ファイト」を行ったメタモルファイターは、試合後、元に戻ることが出来る。
プロローグ
「これだけの人数相手に勝てると思ってんのか?」
「思ってるけど」
ジーンズにキャップの少女が飄々と言う。
「…黙って従っときな。逆らわなきゃ殺さねえから」
ねじり鉢巻きで眉毛の無い男が言う。
その後ろにはアナクロなくらいにクラシックな「暴走族」が五十人は集結していた。
「ぺちゃくちゃとおしゃべり長いね。女子高生みたい」
「あんだとぐるぅあああ!」
シンナーが頭にまで回ったと見えるモヒカンが目を剥いている。
「ちょっとうるさい派手なツーリング軍団にして、交通違反コレクターの集会ならあたしもどうってことないんだけどさ」
帽子のつばに手を掛けたと思ったら今度はポケットに入れてしまう。
「手当たり次第に通行人襲ったり、強盗したりするのは良くないなあ」
「んなこたしねーよ!オレたちゃ走りが身上だ!素人にゃあ手を出さねえ」
「それは先代リーダーの時のモットーでしょ?今度のリーダーさんは武闘派だって聞いてるけど。主に自分より弱い者相手への」
「うるせえええ!」
ビシイイッ!とチェーンを地面に叩き付ける音がする。
「ま、お仲間同士仲良くケンカしてる内は良かったけどさ、集団で女の子を襲うのは許せないねえ」
「この間の事件か?どのヨタ記事見てきたのか知らんが、あれは女から頼まれたんだ」
「あんたがた乱暴男はみんなそういうよね。犯人の目星はついてるから…少なくとも同じ目に遭ってもらうよ」
にやりとする謎の少女の表情。
~数分後~
「うう…」「うわあ…ああ…」
見渡す限り伸びている男たち。
「…こんだけ数がいると苦戦くらいはするかと思ったけど…ま、こんなもんかな」
「て…テメエ…何もんだ!?」
「正義の味方…なんちゃってね」
「タダで済むと思うなよ…」
「今日は伸ばすくらいで勘弁してあげたんだけど…再起不能になってみる?」
うめきながらも別のところから声が上がる。
「覚えてろ…」
「…あんたレイプ犯だね。そろそろ効いてくるはずだよ」
「何を…!?」
その筋肉質の角刈り男が苦しみ始めた。
「な、何だ!?か、からだが…」
「おい!どうしたんだよ!」
やっと立ち上がれた坊主頭が声を掛ける。
角刈りが両方の手で自分の胸を抱きしめる様な形になっている。
「バカな…何だよこれ…ああああっ!」
両手を離すと、“ぷるんっ!”と溢れんばかりの乳房がそこにはあった。
「お、お前…」
ぐんぐんと伸びていく美しい黒髪。
「女に…」
「そんな…っ!何なんだよこれはぁ!?」
変化は止まらず、脚が内側に曲がって行き、お尻が丸く膨らむ。瞳がぱっちりとし、ゴリラの様だった指が細く長く美しく伸びていく。
「か、可愛い…」
「うっ…」
ダブダブの無骨な暴走族ルックに身を包んだ美少女が身体を前方に折り曲げる。その服の内側で、生まれたての乳房を拘束具が鷲掴みにしたのである。…どこからともなく出現したブラジャーだった。
周囲の注目が集まってくる。
「被害に遭った子とはスタイル違うけど…ま、いいよね」
「テメエ…何を…」
もはや筋肉質の角刈りの面影はない。
服の内側で柔らかくてすべすべの官能的な肌触りの女物の下着が乙女の柔肌を包み込んだ。
「…っ!!」
「ほーれ」
「ぐああああっ!」
あっという間に上半身が漆黒に染まると、手首部分が“きゅっ”と引き締まり、純白の三本ラインが入って行く。
どこからともなく出現した大きな襟が四角く背中側に形成され、四角い縁取りの同じく純白の三本ラインが入る。
「そ…そんな…」
そのラインは身体の前方に回り込み、肩から胸の真ん中に掛けて走って行き、同時に胸元を切り裂いていく。
「あ…あ…」
異形の変化を見ていることしかできない元・角刈り。
大きく開いた胸元を内側から同じ素材で「校章」らしきマークと、同じく三本ラインの生地が覆い、ボタンでパチリパチリと留められた。
「何だよ…これは…」
誰ともなく漏らしたが、誰もが同じ感想であったろう。
「やっぱ赤だよね」
謎の少女がそう言ったかと思うと「しゅるしゅるしゅるしゅるるるるるるっ!」と大きく衣擦れの音をさせながら、どこからともなく出現した真っ赤なスカーフが襟の下を走り抜けていく。
「わああああっ!」
それは背中側に小さく三角に飛び出たかと思うと、身体の前面で束ねられ、やはり校章入りの小さな長方形のパーツにまとめられた。
「あ…あ…」
寸詰まりの生地のお腹部分からは白いものが見えている。それがスリップと呼ばれる女物の下着なのであろうことは誰もが思い至っていた。
凶悪なデザインのレーサー仕様らしきブーツはいつの間にか上品な通学用革靴となり、可愛いリボン型の装飾がついていた。
足元には誰も注目していなかったが、被害者である元・角刈りだけはそこに足首までの白い靴下が履かされていることを感触で悟っていた。
「じゃー仕上げ」
「あ…ああああああああーっ!」
格好いい黒く細長いズボンはあっという間に溶けて一体化し、両脚の間に風が吹き込んできた。
ベルトもボタンもポケットも全てが均一になり、ストンと平板になり、そしてアコーディオンの様な「ひだ」状になって行く。
長さも縮まって膝下丈となり、そこに「素肌」…素脚が見えた。
「何だぁ!?」
ポカンとして突っ立っている元・角刈り。しかし今やその面影は無く、そこにいたのは清楚な漆黒のセーラー服に身を包んだ女子高生…美少女であった。
「あ…ああ…」
茫然として変わり果てた自らの身体を見下ろす元・角刈り。
全身を覆う違和感はいかんともしがたい。
「その場で一回転してみようか」
「うわあああっ!」
精神的抵抗も虚しく、両手を広げる様にくるりと回転する元・角刈りのセーラー服美少女。
「ぶわり!」と釣鐘型に広がるスカート。
周囲にはかぐわしい芳香が広がり、舞い上がったスカートによって脚が見える面積が広くなり、長いスリップの白い縁の刺繍が目に入った。
「た、たまらねえ!」
坊主とモヒカンが元・角刈りに襲い掛かった。
「きゃああああっ!」
たまらず少女の様な悲鳴を上げる元・角刈り。
たちまち押し倒され、しゅるるるるるっ!とスカーフが引き抜かれ、制服をビリビリビリッ!と破り取られる。
「いやああああーっ!」
絹を裂く様な悲鳴が響き渡った。
すると、周囲のあちこちで同様の狂態が繰り広げられているではないか。全て甲高い少女の声である。
「ば、馬鹿な…やめろ!やめろおおおっ!」
「俺だ!俺だよ!やめろ!よせ!いやっ!やめってええええーっ!」
「何考えてんだ!オレは男だぞ!きゃあああああーっ!」
どこからともなく出現したセーラー服少女たちが、屈強な暴走族たちの毒牙に掛かっている。
「ど…どうなってやがる…これは…」
茫然として周囲を見ている現・リーダー。
「女の子に乱暴する男は許さないって言ったでしょ?おしおきだよ」
「…お前が…やったのか!?」
「どうかなー」
とぼける謎の少女。
「ところで、あんたも参加してたよね?この間の事件」
「それは…」
「例外なし。逃さないから」
「よ…よせ…やめろ…」
「だーめ」
「助けてくれ!何でもする!女にしないでくれ!」
「…?」
不思議そうな表情で小首をかしげる謎の少女。
「良く似合ってるよ」
「え…ええええええええーっ!?!?!」
下腹部に風が吹き込んでくるのは同時だった。目の前の謎少女が思いっきりスカートをめくり上げたのだ!
「ほーれ!」
「きゃあああああーっ!」
一瞬、「パンチラ」ならぬ「パンモロ」状態になってしまう現リーダー。
純白にあちこちに入っている刺繍に縁どられた女の下着模様が生々しい。
「じゃ、楽しんで」
踵を返す謎の少女。
「そんな!ちょっと!」
スカートを押さえるために前かがみになっているセーラー服美少女と成り果てた現・リーダー。腰までありそうな長い黒髪が美しい。
「反省したから!元に戻してくれよお!」
「お断りしますー」
その返事は半分しか届いていなかった。
背後から抱きすくめられた現・リーダー…だったセーラー服美少女は力任せに乳房を制服の上から鷲掴みにされ、反射的に甘い声を出してしまったところだったからだ。
人気のないところまでマイペースでてくてく歩いてくる謎の少女。
「ま、こんなもんでしょ」
地域で悪名を振りまいていた凶悪な暴走族集団は数人の行方不明者を出し、この日を境に自然消滅した。
この件が大きく報道されることは無かったのだった。