雨の日
昼間だっていうのに外は暗い灰色でとても寒そうだ。
隣の建物の薄汚れた白い外壁を、次々雨が流れ落ちていく。
裸足で窓際に立つとフローリングの床は冷たくて、足先がツキツキ痛んだ。
雨で濡れた窓の向こうには、工事中の覆いをかぶった背の高い建物がぼんやり歪んで見え、
遠く下の方に無限に伸びる入り組んだ路地は真っ暗で誰もいない。
パチパチと雨が窓をたたくだけの、静かで暗くてさみしい昼間。
暖かい珈琲の香りが、数字的には広くない、気持ち的に少し広くなった部屋をあっという間に満たした。
椅子に座って暖かくて柔らかいロールパンにバターを塗る。
一口かじると柔らかいパンの香りと塗りすぎたバターの冷たさとしょっぱさが口に広がって、
それから急に鼻の奥がツンとした。
目の奥がじわっと熱くなって、喉の奥もじわっと熱くなって、もう何の味もわからない。
この部屋は暖かい。
なのにわざわざこんな雨の中に出ていくなんて、
明日だってかまわないんじゃないの?
明日だったらもっと違ったかもしれないのに。
「バカだね、こんな日にさよならをしたら悲しいに決まってるよ」