俺のパーティーの魔道師
俺のパーティーには独立魔法の魔道師がいる。そうれがどうした?と思うやつもいるかもしれないが、俺らのパーティーの魔道師は強いんだ。
それぞれの属性の精霊に力を借りて魔法を使う依存魔法じゃなく空気中にある魔素を体内に溜め込んで魔法を使う独立魔法は、大気に漂う魔素をうまく循環させることができる体質や魔法を満足に制御する能力が必要になる。それに魔素を感知するのにも吸収と放出ができるようになるのにも時間がかかるため、この魔法を使う者はあまりいない。ところが、こいつは魔道書を使っているとはいえ制御がとても難しいと言われている完全回復や全属性強化等の上級魔法を無詠唱でしやがる。あんなやつは他に見たことがない。というかそんなやつがホイホイいたら独立魔法の魔道師はもっといるはずだ。
どうしてそんなやつが王都とかで働かずに冒険者になってるのかは最初俺も疑問だったが、すぐに性格のせいだと分かった。仲間がダメージ受けても戦闘不可能状態寸前にならないと助けてくれないし、話しかけても最低限の返事どころか無言で睨みつけてくることもある。回復要員兼強化要員という補助にまわっているのにあるまじき態度だ。
このパーティーにいるのだって火力が必要なギルドの階級昇進依頼に魔道師がいないと大変な敵がいるからだ。「人とかかわるとろくでもないことが起こる」とか意味不明なことを言っていたやつを説得するのに2日もかかって、衣食住は不干渉という旅を今からするのに守れるはずがない条件をのみ込まされてやっとパーティーになった。
「別にあいつじゃなくていいじゃん」と幼馴染に訴えたんだが、「他に腕のいい独立魔法の魔道師はここに居ないでしょ」と返されて仕方ないかと思った。それほどにこの国に魔道師は少なく、気まぐれな精霊の力を頼りにしたくない。
そんな魔道師と一緒に旅をして思ったのはこいつ人間か?ということ。休憩になると俺たちが追えないように気配ごと消えて、出発する時にフラッと戻ってくる。旅の初日なんて「そろそろ行くか」って言った瞬間に現れたから盗聴されてたのかと思った。まあ、聞いてから転移しようにも魔法を構築するのに時間がかかるからそれはないって思い直したけど。とりあえず、条件の方はあっちが勝手に果たしてくれるからなんら問題は起こっていない。
今、俺たちは次の村に続く森の沼で討伐対象の沼の主と闘っている。体が沼の成分で出来ているらしく、斬りかかっても液状化して掠る程度であまりダメージを喰らっているように見えない。魔道師の属性付与で少しずつ体力を削っているものの、時折森の他の魔物も襲いかかってきていて長丁場になりそうだ。
沼の主の体力を半分ほど削ったと思われる頃、俺たちの隙をついて沼の主は魔道師に攻撃を仕掛けた。魔道師は全体回復を掛け終わって氷属性強化を掛けるところだったので、反応できないと思い焦って駆け付けようとした。沼の主の攻撃力は高い為、何の耐性強化も掛けていない魔道師では攻撃に耐えられないはず。しかし俺と魔道師の距離は離れていて、間に合わないのは分かり切っていた。それでもギリギリまで近付いて斧を沼の主が繰り出した攻撃と魔道師の間になんとか滑り込ませるのと同時に魔道師の声が聞こえた。
「女神の盾」
その瞬間、沼の主の攻撃は勿論、俺の斧諸共魔道師の張った防御壁で跳ね返された。魔道師はそのまま沼の主に手を翳して停止した後、何を思ったのか白い魔道書をしまう。
「ちょ、何してんだよ!」
魔法以外は使えなさそうな魔道師の行動に困惑して声をかけたが、魔道師は聞こえないかのように言葉を紡いだ。
「こんな魔物に放つなんてこの子が穢れてしまう。”贖罪の屍”」
そして魔導師の手の上に召喚されたのは別の魔道書だった。
「は?」
「嘘、魔法書複数持ちかよ。」
幼馴染と弓使いの二人が驚きの声を上げるのも無視して魔道師は再び沼の主に手を翳した。
「氷結、昇華」
魔道師が単語を呟いた途端に沼が主ごと凍り、すぐに気化し始める。その光景を茫然と見ていると俺の足元に斧が突き刺さった。驚いて斧が飛ばされていた方向を向くと、魔道師がこっちを見ていた。
「……殺す気か?」
「いや、そんなつもりは――」
「竜巻の群衆」
魔道師は俺の言葉を遮るように呪文を最短縮して唱え、周りの魔物を一掃し始めた。
さっきの事を言っているのだろう。確かに魔道師が防御壁を張らなければ斧も当たっていた。投げた時は逸らそうとしていたが、今考えると魔道師に逆に負担をかけただけだと分かる。
「行くぞ、フェリクス。」
「あ、ああ。」
俺が反省している間に魔物は全て片付いたらしく、弓使いに声をかけられて俺は慌てて移動する準備をした。
あいつ、攻撃魔法使えるのかよ。隠してないで教えてくれたらよかったのに。
と俺は戦闘補助ができるかどうか以外を一切聞かなかった事を棚に上げて思った。
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