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五巻発売一カ月切った記念SS 『あいどる・ますたーず ~ぷりんせす・がーるず~』

なんかここ数日『なろう』が重いので急きょ土曜日投稿に。別にアイドルに悪意がある訳ではありませんので悪しからず。



「アイドル活動とか、どうですかね?」



「……は?」

 ロンド・デ・テラ、公爵邸。いつも通り――と言うと、なんだか語弊を招きそうではあるが、テラ領のスタッフ達、即ちエリカ、エミリ、ソニア、マリアが職務の間に紅茶を楽しんでいたエリカのプライベートルームで、唐突にノエルがそんな事を言いだした。少しばかり痛む頭を抑えて首を左右に二度ほど振り、キラキラと輝く瞳とは対照的な胡乱な瞳をエリカはノエルに向ける。

「……何言ってるの、ノエル?」

「いや、ほら。最近、テラってちょっとは話題の領地になって来たじゃないですか? だから、こう……なんて言うんですかね? ステップアップの一貫としてですね? 今以上のテラを目指すべく、ちょっと『アイドル活動』なんて取り入れてみたらどうかな~って」

 言いながら、ノエルはがさごそと足元の鞄を漁る。と、目当ての物を発見したのか、鞄から『それ』を取り出すと机の上に置いた。

「ほら! 今、ライムの大衆演劇でも話題なんですよ! 美少女三人組によるアイドルグループ、『ライム・ライム』が!」

「ええっと……『アコアコ増刊号! 大人気アイドルグループ、『ライム・ライム』を追う!』……って、これ、雑誌?」

「はいー! 今、ラルキアの若い女性の間で大人気の『アコアコ』でも、わざわざ増刊号で特集組むぐらい取り上げられているんですよ?」

「へー……」

 チラリとエリカが視線を這わすと、そこには美麗なイラストで描かれた三人の少女の姿があった。現物を見てみないと何とも言えないが、なるほど可愛らしい笑顔のイラストにエリカの顔も知らず知らずの内に笑みを形作る。

「なるほどね。可愛らしい子達じゃない。『アイドル』ね~……エミリ、どう思う?」

「……王立劇場にライムの人気劇団が来るときは、ラルキアのみならず近隣の街からも沢山の人が集まっていたのは記憶しております」

「せやな~。劇団に限らず、カトでも色んな興業打つ時は人が仰山集まってたし、それはエエかも知れんな~」

「わたくしは見に行った事が御座いませんが、ソルバニアでもそうでしたわ。やはり、こう……お祭り、に近いのでしょうか?」

 テレビもインターネットも無いオルケナ大陸において、『観劇』は結構上位に位置する娯楽ではある。少なくとも、ライム大衆演劇のスターが大統領になるぐらいには人気もあるのだ。

「それで? この子達をテラに呼ぼうって話?」

 イベントの誘致による集客増。なるほど、悪い案では無いとエリカが視線をノエルに向けて。


「ほえ? ライム・ライムを呼ぶ? 違いますよ」


 そんなエリカの視線にノエルは手をパタパタと振って見せて、そして言葉を継いだ。




「――皆さんがデビューするんです! 『アイドル』として!」




 エリカの私室の時間が止まった。そんな事はお構いなし、ノエルは言葉を続ける。

「幸い、テラのスタッフは美女・美少女揃いの訳ですし!」

「い、いや、美女・美少女揃いって」

 まあ、自身を『美しい』と評されればエリカだって悪い気はしない。口元を若干『もにょ』とさせながら、チラリと視線でエミリを見やる。

「……ノエル様? その……なぜ、アイドル活動を?」

「さっきも言いましたけど、テラは今話題の領地な訳ですよ。それだけでもイイんですけど、折角だったらもうちょっと発展すれば良いな~って思いません?」

「それは……まあ、そうですが」

「この『ライム・ライム』本当に凄い人気なんですよ! ライム・ライムが公演する予定の街には沢山の人が集まってお金を落として行くらしいんですよ! でも、ライム・ライムを呼ぼうと思っても果たして何時になるか分かりません。人気ですしね」

「まあ……そうでしょうね」

「ですが、どうです? テラの為に時間を割くことが出来る皆さまが、アイドル活動をすれば? ご当地のアイドルとして皆さまが活躍為されば……凄い事になると思いません? マリアさん? さっき御自身でも言っておられましたけど……今以上に人がテラに集まればサーチ商会、凄い事になるんじゃないですかぁ?」

 ノエルが悪い顔をして見せる。その顔に、マリアがごくりと生唾を呑んだ。

「ま、まあ……せやな。確かに、今以上に人が集まれば、結構な稼ぎになりそうな気はするわな」

「ですよね~? どうです、マリアさん? ちょっと憧れません、アイドルグループ?」

「……」

 マリアの心、揺らぐ。そんなマリアを若干呆れた目で見つめ、エリカが小さく溜息を吐いた。

「……あのね? そもそも、そんな簡単に『アイドル』になんて成れる訳ないでしょ? その……『ライム・ライム』だっけ? その子達だって元々は大衆演劇で修業を積んだんでしょ? 私達にそんな時間は無いの」

 この話はお終い。そう言わんばかりにヒラヒラと手を振って見せるエリカの目の前で、机越しにノエルが『チッチッチ』と指を左右に振って見せる。若干イラッと来るその姿に額に青筋を立てながら、それでもエリカは口を開いた。

「……しつこいわね、ノエルも。まだあるの?」

「エリカ様は少し考え違いをしている様ですので。イイですか、エリカ様? アイドル活動に置いて一番重要なのはなんだと思います?」

「一番重要なのって……」

「会場に詰め掛けたお客様が満足する演技ですか? 如才のない受け答えですか? 快適なソファがある劇場ですか? 思わず聞き惚れる様な歌声ですか? 否! 断じて否です!」

 途中から興奮して来たのか、若干鼻息荒くエリカに詰め寄るノエル。そんなノエルに軽くヒきながら、エリカは言葉を継いだ。

「じゃ、じゃあなんなのよ? アイドルに求められるモノって」

「アイドルに求められるモノ……そんなモノ、一つしかありません!」

 エリカから距離を取り、心持胸を張って。





「――顔です!」





 結構身も蓋も無い事を言った。ずっこけるエリカに構わず、尚もノエルは喋り続ける。

「イイですか? そもそもテラに集まっているスタッフは美少女・美女揃いな訳ですよ! リーダー格であるエリカ様、クール系美女であるエミリさん、正統派美少女のニアちゃんに、天然元気っ子のマリアさんですよ? 正直、どんな神の采配があればこんなに顔立ちが整った人ばっかり集まるんですか!」

「ちょ、の、ノエル! こ、興奮しすぎ! ち、近いわよ!」

「加えてエリカ様は現フレイム国王の姉であり、ニアちゃんはソルバニア王国のお姫様ですよ? 真正のプリンセスじゃないですか! 女の子の永遠の憧れですよ、お姫様は! そんな人たちがアイドル活動をして御覧なさい! 絶対に人気が出るに決まってるじゃないですか!」

「は、鼻息が荒い! ちょ、ノエル! いい加減にしなさい!」

 机の上に乗り顔を近づけるノエルをどうにかこうにか引っぺがし、何とか向かいの椅子に着席させる。ずり落ちた帽子を丁寧に直し、再びジトッとした視線を向けるエリカに対し、ノエルはペロッと舌を出す事によって応えた。

「少しばかり興奮してしまいましたが……ですが、良いアイデアだと思いますよ、我ながら」

「少しばかりって……っていうか、良いアイデア? アイドルが?」

 胡散臭そうな視線でノエルを見やるエリカ。そんな視線を意に介さず、ノエルはにこにこ笑顔で言葉を続けた。

「はいー。まずですね? さっきも言いましたけど、アイドル活動って結局は『容姿』に頼る所が大きいんですよ。んでんで! 裏を返せば容姿が良ければ、多少のアラはなんとか誤魔化しが効いちゃうんですよ!」

「誤魔化しって……まあ、いいわ。それで?」

「まあ結局の所ですね? 何が言いたいかと言うと」

 そう言ってノエルは親指と人差し指で『○』を描いて見せながら。



「――お金、掛かんないんですよね~」



 エリカとエミリ、同時にお互いの顔を見あわせる。そんな二人の仕草ににんまりと笑い、ノエルは言葉を続けた。

「まあ、アレですよ。結構真面目に初期投資、安く済むんです。可愛い女の子が舞台上で歌って踊っておけば、荒野に木箱で作った様なステージでも、へたっぴな歌でも、大根役者な演技でも、結構な集客が見込めると思うんですよね~。木箱だったらこないだのソルトグラスのヤツ、余ってるでしょう? それ使えば良いですし~」

「「……」」

「本来、宣伝活動にはお金が掛かるんですが……さっきも言いましたけど、エリカ様もニアちゃんも本物のお姫様な訳ですし。『お姫様アイドル』なんて周知だけしておけば後は勝手に向こうから取材が来ると思うんですよね。アコアコには読者投稿のコーナーもあるんで、私がこう、『ちょちょい』と投稿してですね?」

「あー……ウチも出版関係、知り合いおるで?」

「本当ですか、マリアさん!? ならばそちらの線でも推して頂ければ集客は大きく見込めそうです! いや~、渡りに船とは正にこの事ですよね!」

「……いや……で、でも……」

「テラでチケットを売り捌くだけでも、結構な利益になると思います。別に引渡証書みたいな特殊な技術がいる訳でもありませんし、一番掛かるアイドルの……そうですね、『人件費』にしたって身内でやるんですから高々知れてるでしょう。加えて街が潤えば、それはそのままテラ領の税収として返って来るんですよ? しかも、何度も言う様ですけど初期投資はタダみたいに安い!」

「……そ、それは……」

「実に松代様好みのアイデアだと思いませんか、エリカ様?」

「…………思う」

 実際問題、テラには幾らお金があっても余る事はない。『使えるモノはなんでも使う』と云うのは、ある意味で物凄く浩太好みではある。何より初期投資がバカみたいに安いというのも魅力は魅力である。

「……で、でも! 流石にそれはちょっと……」

 そうは言ってもエリカも王族。別に職業に貴賤は無いと思ってはいるが、それでも見世物扱いは若干ハードルも高い。そう思い、エリカが口を開いて反論を仕掛けて。



「きっと、松代様も喜ぶと思うんですよね。それに、ホラ! こないだ雑誌の連載小説にも載っていましたけど……『皆のアイドルとして笑顔を振りまく彼女に嫉妬する彼氏』とか、ちょっとイイな、って思いません? 『他のヤツに笑いかけるな。俺だけの為に笑え』とか言われたら、きゅんきゅん来たりしませんか、エリカ様?」



「エミリ。直ぐに手配を」

 仕掛けた反論を飲み込み、イイ笑顔で親指を立てて見せた。

「エリカ様!? なにを仰っているのですか!」

 そんなエリカの姿に慌てたのはエミリ。主を制すよう、声を上げて。

「だ、だって! コータが嫉妬したりするのよ!? す、凄く……そ、その……い、いいな~とか思わないの、エミリは!」

「そ、それは……」

「『エミリさん、今日もお綺麗ですね。ですが……その姿、私だけの為に見せて下さい』とか言われたら貴方だって頷くでしょ!」

「直ぐに手配を致します、エリカ様」

 エリカ同様、こちらもにこやかな笑みを浮かべて一礼。そんな二人に、ノエルが手を叩いて小躍りして見せた。

「それじゃ決定ですね! それじゃ始動しましょう! テラのアイドルで四人組ですから……そうですね! グループ名はテラ・フォー――」



「それで、ノエルさん? 本音は?」



「――オルケナ大陸アイドルユニットの仕掛人、通称『ノエルP』としてウハウハな生活を送るんですよ! チケット代金の一部を『プロデュース料』として頂ければ、寝ていてお金が入って来るって寸法です! 此処で一発当てれば王城付女官なんてさっさと止めて、自堕落な――っ!!」

 優雅に紅茶を飲んでいたソニアの一言に、調子に乗っていたノエルからついつい本音が漏れる。『あ、これ、不味い』と思ったノエルが脂汗を流しながらギギギと音が成りそうな緩慢な動作でエリカ、エミリ、マリアの三人に視線を向けて。


「「「…………」」」


 圧倒的な『無』な視線を受けた。

「――な、なんですか! べ、別に悪くないでしょう! 皆さんだってきっとウハウハな生活が待ってますよっ! アレです! WIN―WINの関係ですよ!」

「「「…………」」」

「そ、そんな目で見てもダメですよ! 皆さんだって……」

「「「…………」」」

「……そ、その……」

「「「…………」」」

「……え、ええっと……」

「「「…………なにか」」」

「…………」

「「「…………なにか……言う事は?」」」

「……ご……ごめんなさいーーーー!」


 ノエルの絶叫が、屋敷中に響いた。


◆◇◆◇


「……ふう」

 幾つかの商会を回り、テラの『学校』に顔を出した浩太は、心持疲れた――それでいて充実した気持ちでテラ公爵屋敷に帰って来た。幾つかの商談が巧く纏まった事にホッコリとしたモノを覚え、『今日の晩御飯はなんですかね?』なんて呑気な事を考えながら屋敷のドアを開けて。





「――みんなー! 今日は私の為に集まってくれてどうもありがとー! それじゃ最後の曲、行くねー! タイ……ト……ル……は……」





 木箱の上で、満面の笑みを浮かべるエリカと目が合った。


「……………………は?」


 浩太の間の抜けた声。その声に、固まっていたエリカの顔が青くなり、そして徐々に赤くなって。




「――っ! にゃ、にゃああああああーーーーーーーーーーーーー!!! 忘れて! 忘れなさい、コータ!」




 今度はエリカの絶叫が屋敷中に響き渡り、部屋の鏡の前で笑顔とポーズの練習をしていたエミリ、舞台上で披露する小話のネタを考えていたマリア、一人冷静に、それでもニヤニヤ笑顔が止まらないソニアは我に返ったとか、返っていないとか。




 ……ノエル? 食堂で正座中だ。


ゴキブリと戦ったりはしません。

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