なろう特典SS 4 『フレイム戦隊テラレンジャー』
お陰様を持ちましてフレイム王国興亡記四巻、発売となりました。これも偏に皆様のお陰です、ありがとうございます!
今回もなろう特典という事でSSを掲載させて頂きます。楽しんで頂ければ!
「なんや、『五人組』って呼ばれているらしいわ」
ロンド・デ・テラ公爵屋敷、公爵執務室。ようはエリカの部屋をいつも通り訪ねたマリアは溜息を吐きつつ、勧められてもいないのに流れる様にソファに腰を降ろした。
「どうなさいましたか、マリア様?」
そんなマリアの前に、エミリがそっと紅茶を置く。『あんがとさん』と受け取って、もう一度深々とマリアは溜息を吐いた。
「さっき、テラの商人の会合に行ってきたんよ。ホレ、そうは言うてもウチ、テラの専任やし? こう……まあ、テラ寄りの意見になるやん?」
「ありがとう、マリア。有り難いけど……いいの?」
マリアの言葉にエリカが嬉しそうに、その後心配そうに声を掛ける。マリアも商人、しかもテラに来ている商会の中では『小さな』方の商会である。あまり、目立ってテラに組するのは得策とは言い切れない。
「妬み、僻みは専任の義務みたいなモンやさかい、それは別にエエんやけど……まあ、そこで『テラの経営は五人組で回っていますね』って言われてん」
「五人?」
「エリカ様、エミリさん、ソニア様、コータはん、それにウチの五人や」
「……ああ」
「ほんで、言うに事欠いて『癒着』とか言うねん。カンジ悪いわ~」
ぷくっと頬を膨らませたままソファにズルズルとその身を沈めるマリアを見やって、エリカの表情に苦笑の色が浮かぶ。
「あまり面白くないのは分かるけど……ほら、そんなに膨れないの」
「まあ、専任は領地経営にがっつり食い込むから、そう言われる事もあるけどな? ほいでも……ウチかてそこそこ頑張ってるつもりなんやけどな」
マリアとしては面白くない。確かに、専任という事で融通して貰っている所もあるにはあるが、彼女自身の商才もあって儲けを出している所もあるのだ。にもかかわらず、『はいはい、どうせコネでしょ?』と言われれば、面白くないのは当然とも言える。膨れ面を浮かべたままのマリアを見やりエリカとエミリが視線を合わせて苦笑を浮かべた。
「……遅く――マリアさん……というか、お三方とも? どうされたんですか?」
それと同時、ソニアを伴って浩太が執務室の扉を押し開け、ソファに座って頬を膨らませるマリア、苦笑を浮かべるエリカ、エミリを見やって首を捻った。
「ええっと……どう説明したらいいかしら?」
首を捻る浩太に対し、マリアの――なんとなく、分かりにくい『不満』を伝えるエリカ。それを聞いて、浩太も小さく苦笑いを浮かべて見せた。
「なるほど。まあ、仰ってる意味はある程度理解できますが……」
「せやろ? ウチかて頑張ってるのに!」
どうやら今日のマリアは『拗ね』モードの様子。大して経験が豊富な訳では無いが、浩太だってこうなった女性に取る方法は二つしか無いのは分かっている。納得するまで話を聞くか。
「そういう風に『一纏め』にするのを、私の居た国では名数、と呼ぶんですよ」
話を変えるか、だ。その辺りを良く心得ているエミリは、浩太の話に乗る事にした。
「名数、ですか?」
「ええ。例えば……そうですね、例えばある組織で力を持った人が二人居る場合、『双璧』なんて言い方をします。二つの壁、という意味ですね」
立てた人差し指をクルリと回して見せながら説明をする浩太。その姿をチラリと見た後、ソニアが視線をエリカに向けた。
「……何よ?」
「いえ。双『璧』ですか」
「…………なに? 私の身体的特徴を馬鹿にしてるのかしら、ソニア? 貴方には壁がないでしょう、とでも言いたいの?」
「被害妄想ですわ、それは。わたくしは単純に、コータ様とエミリさんがテラの双璧だな~と思っただけですわ」
「……あはは」
「……うふふ」
「つ、続けます! えっと、先程と同条件、つまり同じ組織に力を持った人が三人居る場合、『三傑』という言い方をします。『御三家』という言い方もありますが、これはどちらかと言えば人ではなく……たとえば、私の居た国では組織に使う方が多いですかね? 重電御三家とか、ホテル御三家とか……あとは、私立の中学……まあ、学校ですね。そういったモノに使う事が多いですかね」
「なるほど、別に人だけに使う訳ではないという事ですね」
不穏な空気を察した浩太による必死の回避策に乗っかるエミリ。本当に、出来たメイドである。そんなエミリの優しさに笑顔で返して、浩太は言葉を続けた。
「四人の場合は、『四天王』が多いでしょう。組織に使う事も多いですし、ある意味では一番有名な名数かも知れませんね」
「他にはないのですか、『四』の場合」
「うーん……名数としては結構あるんです。四神とか、四大とか、四姓とか。ただ、あまり使う事は……まあ、四大くらいですかね?」
「なるほど」
「『五』になるともっと少ないですね。いえ、少ないという言い方は語弊があるのですが……まあ、『五摂家』くらいですかね? 汎用性があるの」
「五摂家、ですか?」
「有名な……まあ、貴族でしょうか? 貴族の家の集まりです。それに倣って、呼ぶことがあるんです」
有名どころでは名古屋の五摂家と呼ばれる企業群がある。
「……ほな、なに? ウチらはテラの『五摂家』ちゅうやつなん?」
「あまり人に使っている例は見た事がないですかね。五人組として直ぐに思い浮かぶのは……」
そう言うと、浩太はふむと頷き腕を組み瞑目してしばし。やがて、ポツリと声を漏らした。
「……戦隊ヒーロー」
「はい?」
「ああ、いえ。私が子供の頃によく見ていた……まあ、演劇ですかね? 演劇の中にあったんですよ、『戦隊ヒーロー』というジャンルが。その戦隊ヒーローが五人だったな、と」
少しだけ照れ臭そうにそういう浩太に、四人の眼が『きらーん』と輝く。
「へ~。コータの子供の頃みていた演劇なの? どんなのかしらね、ソニア?」
「わたくし、とても興味があります! ねえ、エミリさん!」
「そうですね。宜しければご教授願えれば。どうでしょうか、マリア様」
「せやな! 興味ある――ちゅうか、コータはんにも子供の頃とかあったんやね」
意外にグイグイと来る四人の喰い付きに、少しだけ浩太がヒくも気にしない。なんせ、自分の事を殆ど語らない浩太だ。エリカたちにしてみればどんな情報だって、十分興味を引く対象にはなる。
「……そこまでノリノリだと話難いですが……っていうか、マリアさん? 私だってありますよ、子供の頃。なんだと思ってるんですか、私の事」
「ウチ、コータはんがそのまんまの年齢と考え方で『ポン』って生まれたって言われても信じる自信あるわ」
「……はあ」
「ま、それはエエやん。それで? そのコータはんが小さい頃見ていた演劇、どんなだったん?」
そう言ってにっこり微笑むマリアに溜息を吐き――それでも、機嫌が少し良くなったマリアに胸中で安堵の息を漏らして浩太は口を開いた。
◆◇◆◇◆
「……」
「……」
「……」
「……」
「……えっと……あ、あはは。皆さん? そう、怖い顔をしないで。ね? こう、た、楽しく行きましょう!」
「……コータ」
「……コータ様」
「……コータ様」
「……コータはん?」
空気を変えよう。
そう思って、引き攣った笑顔を浮かべながらそういう浩太に鋭い四つの視線が飛ぶ。その視線に狼狽え、それでも、それでも少しでも空気を良くしようと――
「「「「……誰が、『ピンク』だと……思う?」」」」
「……ははは」
――良くしようとして、失敗。威圧感すらある視線と言葉に、浩太の頬にタラりと汗がしたたり落ちる。
断っておくが、浩太にも別段悪気があった訳ではない。最初は皆、興味深く聞いていたのだ。ストーリーに始まり、合体変形ロボのおもちゃをねだった事、友達と『ごっこ』遊びをした事などの話では皆盛り上がったのだ、間違いなく。
『戦隊ヒーローはそれぞれ『色』の付いた衣装を纏うんです』
『色?』
『ええ。種類は色々ありますが……まあ、オーソドックスな所ではレッド、ブルー、グリーン、イエロー、ピンクですかね? それぞれにキャラクター付けがあって、赤は主人公、青はクールな参謀、緑は年下の若者、黄色は明るいお調子者で……ピンクは紅一点、物語のヒロインですかね?』
『……へー……『ヒロイン』ね。それで? ピンクはどんなキャラクターなの?』
『えっと……エリカさん? なんだか眼が怖いんですが』
『コータ様、ピンクは?』
『え、エミリさん?』
『コータ様!』
『ちょ、ソニアさんまで!』
『ええから! 早く説明し!』
『ま、マリアさん……えっと……まあ、ピンクは明るい性格で、可愛らしく、でも芯が強くて、お姉さんっぽい、包容力のある印象ですかね? 赤が熱血ですから、それに対比する様な形が多いイメージです』
『……』
『……』
『……』
『……』
『『『『……ふーん』』』』
雲行きが怪しくなったのは浩太のこの説明の辺りからだ。誰もがチラチラとお互いを伺いだし、そして。
「……まあ、ちょっと考えて見ましょうよ? ねえ、コータ?」
「……なんでしょうか」
「コータの説明だったら、『ピンク』っていうのは物語のヒロイン的ポジションな訳よね? レッドに常に寄り添う役目な訳でしょ? だって、紅一点ですものね?」
「……そうですね。まあ……そういう面もあります」
「そうなると、やっぱり私が一番相応しいと思うんだけど!」
そう言って残念な胸を張るエリカ。
「お待ちください、コータ様。その『ピンク』とは『お姉さん』な一面もあるのでしょう?」
「え、ええ。そうですね」
「でしたら、この私が一番相応しいのでは無いでしょうか? この中で一番年齢が上ですし……女性的、というのであれば私が一番家事に長けていると愚考致しますが」
そう言って、花の咲いた様な笑顔を見せるエミリ。
「まあ、まちーな。コータはん? ピンクは『明るい性格』なんやろ?」
「え、ええ」
「ほな、この中で一番明るいのはウチやん! やっぱりウチが『ピンク』やな!」
自信満々、ふふんと鼻を鳴らすマリア。
「ま、待ってくださいコータ様!」
「……はい」
「ピンクは可愛らしいというのも大事な要件なのですよね! でしたら、この中で一番『可愛らしい』のは絶対わたくしです!」
「……へえ。どういう意味よ、それ?」
「エリカ様やエミリさん、それにマリアが見目麗しいのは認めましょう。ですが、『可愛らしい』となるとそれはわたくしでしょう! 一番若いですし!」
「…………なるほど、喧嘩売ってるのね、貴方?」
「…………ああ、そうですか。それで――」
そこまで喋り、なにかに気付いたかの様にソニアがポンと手を打つ。そのまま、浩太の背中にそっと隠れ、顔だけエリカに向けた。
「……コータさまぁ~。エリカ様が怖いですぅ。守って下さいぃ」
「な! ちょ、ソニア!」
「幾ら『ヒーロー』と言えど、やはり素敵な殿方に守って貰うのは『ピンク』の仕事でしょう? 紅一点ですし」
浩太の背中に隠れたまま、んべっと舌を出して見せるソニア。修羅もかくやという表情で睨み付けるエリカ。無言で、バチバチと火花を飛ばすエミリとマリア。
「……はあ」
そんなカオスな空間で浩太は小さく溜息を吐く。可能であればなんでこうなったと頭を抱えたいし、許されるのならばさっさと逃げ出したい。が、現状ではそういう訳にも行かない事は浩太とて百も承知だ。そもそも……まあ、浩太は全然悪くはないが、話を振ったのは自分だ。責任感的にも放置は出来ない。
「……取り敢えず、皆さん席に着きましょう。ほら、ソニアさんも」
浩太に促され、全員が思い思いの席につく。その姿を見てうんと頷き、浩太は視線をエミリに飛ばした。
「エミリさん」
「はい」
「エミリさんは『ブルー』です」
「……」
「……」
「…………ぐす」
「え、エミリさん! え? な、なんで? なんで涙目になるんですか!」
「す、済みません。こう……『お前には女としての価値はない』と言われた気がしまして」
首よもげよとばかりに左右に振る浩太。そんな事、全然思ってない。
「ち、違います! こう、『ブルー』は参謀役のイメージなんですよ! クールで格好いい、そんな人にぴったりなんです」
「……格好いい、ですか。格好いい……格好いい……可愛いではなく、格好いい……」
「か、格好いいは褒め言葉ですよ!」
「……やはり、この釣り目がいけないのでしょうか? もう少し、垂れ目であればコータ様にも『可愛いね、エミリは』と言って頂けるのでしょうか?」
「……エミリさん?」
なんだかキャラが違う。そんな益体の無い事を考える浩太を見やり、エミリがクスリと笑みを見せた。
「……冗談、に御座います。張り合ってみましたが、そもそも私に『ピンク』は若干荷が勝ち過ぎると思っておりました。ですが……まあ、少し拗ねて見ました」
「荷が勝ち過ぎるとか、そこまでのモノでもないですが……ただまあ、『青』は生き様がハンサムですので。エミリさんの様な芯の強い方にはぴったりだとは思います」
「褒め言葉、でしょうか?」
「勿論」
「……ふふふ。では、それで宜しいです」
そう言ってもう一度笑顔を浮かべるエミリに胸中でほっと息を吐き、浩太は視線をマリアに向けた。
「ん? ウチ? ウチがピンク?」
「いえ……マリアさんはやはり『イエロー』かな、と思います」
「イエロー、ね~。なんや? それはウチがお調子者ちゅうことかいな?」
「い、いえ、そうではなく……イエロー、というのはやはりムードメーカーなんですよ」
「……ほう」
「皆が暗くなった時でも、盛り上げてくださるのがイエローの役目です。やはり、このテラではイエロー役はマリアさんしかいませんよ」
「ふーん……まあ、なんや? 色々言いたい事はあんねんけど……一応、褒めて貰ってるって思うとく事にする」
「い、一応じゃないです! 褒めてるんですよ!」
「コータはんの『褒め』は分かりにくいからな~。ま、ほいでも『ムードメーカー』ちゅうんはウチにぴったりやしな。それでエエわ」
そう言ってにっこり笑うマリア。その姿に、浩太もほっと息を吐きかけて。
「……ん? ちゅうかウチ、なんでそんなにピンクを一生懸命取り合ってたんやろ?」
「……私が聞きたいんですけど、それ」
「いやな? エリカ様とかエミリさん、それにソニア様は分かるやん? こう、『ヒロイン』ちゅうのに憧れあるやろうし? ほいでもな? ウチ、別にヒロインしたい訳やないし」
「……本当にいい加減にして下さいよ」
今度こそ、息を吐く。まあ、溜息だが。そんな浩太を見やり面白そうに視線を向こう側に向けるマリアに合わす様、浩太も視線をそちらに向けて。
「「……」」
「……なんですか、その期待と不安の入り混じった眼」
ソニアとエリカの視線とかち合った。ドキドキとワクワクを混在させたそんな瞳に思わず回れ右をしてダッシュして逃げたい気持ちが浩太の中でむくむくと湧きあがる。
「……前世でどんな悪い事したんでしょうか、私」
言ってみればエミリとマリアはまだやり易い。エミリは基本、そこまで我儘を言うキャラでは無いし、マリアは本人も言ったように場の空気に流されてなんとなく、である。
「……」
が、この二人は違う。浩太自らの『ピンク』宣言は言ってみれば浩太からのヒロイン宣言に他ならない、という認識なのだ。いや、そんなオーバーな、と思わないではないが……乙女心は複雑怪奇ナリ、である。
「ソニアさん」
「イヤです!」
「……ソニアさん?」
「イヤです! 今までを見ていくと『ピンク』じゃない人を先に言っていきました! この流れではわたくしはピンクでは無い筈です!」
「あ……いえ、そういう訳では」
「じゃあ! じゃあわたくしがピンクですか!」
「……」
「……」
「…………グリーン、ですかね?」
その言葉に、ソニアが膝から崩れ落ちた。その姿を一瞬気の毒そうに、それでもそれ以上に嬉しそうにエリカは見つめた。はしゃぎださない辺り、エリカも少しは大人な対応である。
「その……ソニアさん?」
「……」
「え、えっと……そう! グリーンはアレです! 成長株なんですよ!」
「……成長株?」
「え、ええ! グリーンの特徴と言えば『若さ』ですから! これから、これから成長していく方にはやはりグリーンが一番相応しいと思いますよ!」
「…………ピンク」
「……」
「ピンクよりも、将来性がある、と?」
「え……っと……え、ええ! やはりピンクよりも将来性のあるグリーンの方が、ソニアさんには良く似合っていますよ!」
「……」
「……」
「……分かりました」
「……ありがとうございます」
「今回は、騙されておいて差し上げます」
「…………ありがとうございます」
ジトーっとした目を向けて来るソニアに頭を下げ、浩太は視線を最後の一人、エリカに向けた。満面の、嬉しそうな笑顔を見せながらエリカは口を開いた。
「そうね? やっぱり私が――」
「エリカさんはレッドですね」
「――ピンクよね……って……え?」
エリカ、ポカン。否、エリカだけではない。エミリが、マリアが、ソニアが、三人が三人ともポカンとした表情を浮かべて見せる。
「――って、ちょっと待ちなさいよ! なんで私がレッドなのよ!」
一番に反応したのはエリカ。そんなエリカを見やり、浩太は静かに言葉を紡ぐ。
「いえ……だって、ココ、ロンド・デ・テラですよ? そしてテラ公爵はエリカさんじゃないですか。戦隊ヒーローの主役はレッドですし、やっぱりエリカさんが一番レッドかな、と」
「そ、それは……で、でも! どちらかと言えばレッドはコータの役じゃない!」
「私?」
「そ、そうよ! レッドはコータよ!」
「……エリカさん」
「な、なに?」
「……良いですか? レッドは熱血漢で、リーダー的で、行動力がある『主人公』ですよ?」
「そ、それが?」
「……私に似合うと思います、『レッド』?」
「うっ!」
エリカの喉奥から、美少女領主が出しちゃいけない声が出た。浩太がレッドという事は、熱血漢で、リーダー的で、行動力がある『主人公』の浩太であり、それはつまり。
『――はん! ソルバニアがどうした! 行くぜ! 皆、俺について来い! うおぉーーーーーーー!』
誰だこれ、である。
「……」
「……」
「…………似合わない、と思う」
「でしょ? どちらかと言えば、それはエリカさんの役目だと思いません?」
エリカは内にある闘志を外に出す事の出来る女性であるし、浩太が来るまではテラ領主としてこの領地を指導して来た実績もある。失敗したとはいえ、行動力だってあるのだ。
「……コータがレッドだと思ってた」
「……まあ私の知る限り、レッドは『若年寄』とか呼ばれていませんから」
そう言って肩を竦めて見せる浩太に、エリカは対照的に肩を落とす。今回参加の面々からも、なんとなく白けた、それでも浩太が誰も『選ばなかった』事に対するほっとした空気が流れた。
「……ん?」
そんな空気の中で、首を捻ったモノがいる。マリアだ。
「どうしました、マリアさん?」
「いや……エリカ様がレッドなのはまあ、納得いった。ウチのイエローも、エミリさんのブルーも、ソニア様のグリーンも分かるんやけど……」
そう言って、浩太をじっと見やり。
「……コータはんが、ピンク?」
「…………は?」
訳の分からない事を言いだした。そんなマリアに苦笑を浮かべ、否定する様に手を左右に振る浩太。
「そんな訳ないでしょう。私は……まあ、秘密基地にいる隊員とか――」
「……ですが……確かに。コータ様にピンクがぴったりかも知れません」
「――が似合って……エミリさん? え? エミリさんまで何言っているんですか?」
「いえ……ただ、『ピンク』とは包容力のある、所謂『大人』な方なのでしょう?」
「あ、いえ……まあ……」
「包容力、という点ではコータ様が一番かと」
「い、いや、ちょっと待って下さい!」
「そうですわね、エミリさんの言う通りです」
「そ、ソニアさん?」
「コータ様は根が明るい方ですし、それに芯も強いお方じゃないですか」
「い、いや、その……それは……」
「……なるほど。確かにコータってピンクっぽいかも」
「エリカさんまで! な、なんですか! 意趣返しですか!」
「失礼ね、そんな性格悪くは無いわよ。ただ……こう、やっぱりコータが適任かなって」
「いや、さっきも言ったでしょ? ピンクは紅一点、つまり女性こそが――」
「でもそれって、『男性の中に女性が一人』って意味でしょ?」
「そ、それは……まあ」
「じゃあ、女性の中に男性が一人ってこの状況なら、浩太がピンクでもおかしくないじゃない」
「いえ、それは……で、ですが! 可愛らしい! 可愛らしいが無いですよ!」
「寝顔なんかは可愛らしいトコあるで、コータはん」
「ちょ、マリアさん!」
「……そうね」
「……そうですね」
「……そうですわね」
「……そうやな~」
「……ちょ、え?」
浩太の顔が引き攣る。そんな浩太に向けて、四人はイイ笑顔で。
「「「「――テラピンクは、コータで決定ね!」」」」
「え、えーーーーー!」
なんとなく、男性の尊厳的なモノを削られながらの浩太の絶叫が屋敷中に響いたと言う。ちなみに、『テラピンク』と言っても『とってもピンク』という意味で無い事を特記しておく。