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なろう特典SS 3 『ノエル先生のハニーハニーコーチング!』

いつもお世話になっております。どうも、疎陀です。お陰様を持ちまして12月24日にドラマCD、12月25日に第3巻発売となりました! これも偏に皆様のお陰です。超ありがとう!


さて、いつも通り単行本発売記念SSとなります。なろう特典ですね。本当は『プリティ・リズ ~胎動編~』にしようかと思ったのですが、ブックレット未読の方は何が何やらとなるでしょうから、此方の方にさせて頂きました。楽しんで頂ければ幸いです! ではでは~。


「あら、のえるさま! すてきなほうせきですこと。どちらでおかいになられたのですか?」

「あーらお気付きになったかしら、リタちゃん! こちら、アレクハルト侯爵様が送って下さったのよ? 『ノエル、君のその知性溢れる顔立ち、全てが愛しい。あんなお饅頭顔のフローラではなく、君が、君こそが僕に相応しい』と。まあプロポーズの様なものですかね~」

「あれくはるとこうしゃくさまからぷろぽーずされたのですか! すごいですね、のえるさま! ぜひ、けっこんしきにはわたしもよんでくださいね!」

「イヤですね~、リタちゃん。アレクハルト侯爵とは結婚なんてしませんよ?」

「ほえ? けっこんされないのですか?」

「キープですよ、キープ。まあ? アレクハルト侯爵はお金も持ってるし? 火遊びにはちょーど良いかな~って。リタちゃんにはちょっと早いかも知れませんが、これが大人の女性の嗜みですよ?」

「は、はふ~。おとなです! ししょー、おとなです! リタもはやくししょーみたいな『おとなのじょせい』になりたいです!」

「……あの、リタちゃん? ノエルさんの真似はどうかと思いますが……それに、ノエルさんも。リタちゃんにあんまり変な事、教えないで下さい」

 敷かれたゴザの上で、リタ相手に『ヲーホッホホ』なんて品の無い貴族の真似事をして笑って見せるノエルと、そんなノエルをキラキラした目で見つめるリタの双方を見ながら、ソニアは溜息交じりにそう忠告なんぞして見せる。

「ヤですね~、ニアちゃん。変な事じゃありませんよ? 大事な事です、大事な!」

 対してノエルはそんな事を意に介した様子もなく、ふんすと鼻息荒く右手の拳を握り込み立ち上がって反論。

「――私の父はよく言ったものです」

「……なんと?」

「『いいか、ノエル。何でも一人で出来る必要はない。そんな事より、女の子なら何でも出来る男性をゲットする為に、笑顔を練習して置け』と!」

「……」

 あんまりと言えばあんまりのノエルの台詞にソニア、絶句。

「ちなみにこれは『人生を楽に生き抜くための掟・その十三』です」

「……ノエルさんのお父様は一体、どの様な人ですの? その様な……その、『女』を売りにする様な教えをするなんて」

 少しだけ非難が籠った視線を向けるソニア。そんな視線を物ともせず、ノエルは『にぱっ』と邪気の無い笑顔を浮かべて見せた。

「普通のお父様でしたよ? 私には凄く優しかったですし。どうやったら巧く世渡りできるか、よく教えてくれました。まあ、その度に涙目になっていたんですが」

「涙目?」

「『いいか、ノエル。よく聞けよ? ああ、全部覚えようと思わなくても良いからな? 無理に実践しようとしなくても良いから。出来る事を、出来るだけやればいいから』って」

「……」

「その後必ず、『良かった……ノエルが女の子で、本当に良かった』って言うんですよ」

 可笑しなお父様でしょ? と笑うノエルに、聡いソニアは引き攣った笑みを返す。女の幸せは結婚だけだ、と言うつもりは毛頭無いが、それでも女性には結婚相手によってその後の生活環境が担保される面もあるにはあるのだ。裏を返せば、『イイ男を捕まえれば、ノエルでも生きていける』と彼女の父が思った事の証左に他ならない。

「……そうですか。それでは……その掟は実践しなければならないですね?」

「ほえ? ええ、そうですね。そこそこ実践出来てると思いますよ? 『相手の顔色を窺って、空気を読め』っていう『その九』の掟なんかは王城でも良く使ってますし」

 ロッテが聞いたら火を吹いて怒りそうな事を平気で言って見せるノエル。幸運にも普段の仕事ぶりを知らないソニアは、そんなノエルの言葉に曖昧な笑みを返した。

「むう……ししょーもソニアおねーちゃんもむずかしそうなはなしをしています!」

 そんなソニアとノエルの会話を、頬を膨らませたリタが睨む。困った様な、慌てた様な笑みを見せながら、ノエルはリタの頭を軽く撫でた。

「ごめんなさい、リタちゃん。お詫びに取って置きの掟をリタちゃんに伝授してあげましょう。これが出来れば免許皆伝ですから!」

「めんきょかいでん! なんかかっこういいです!」

「でしょ? では行きます! 人生を楽に生き抜く為の掟・最終! 『男は狼! 気を付けるべし!』」

「……溜めた割には普通――」

「『が、その狼を手玉に取ってこそ一流のレディ! そうなる為の努力を惜しむな!』」

「――でも無いですか。いえ、やはり普通なのでしょうか?」

「イイですか、リタちゃん? 男は狼です。油断してたらぱくって食べられちゃいます。ですが、その殿方を、こう、上手い事操縦できるようにするんです」

「そうじゅう!」

「ええ、そうです。そうなればリタちゃん、貴方は無敵ですから!」

「むてきですか! かっこういいです!」

「でしょう? ただ、これが中々、難しいのですよ。正に奥義は一日にしてならず! 私もこれを会得する為に血を滲むような修行を積んだのです!」

「しゅぎょう! すごいです! さすが、ししょー!」

「……ノエルさん」

『小さい子に何教えているんですか!』と言わんばかりの視線と声音を向けるソニア。その視線の冷たさに一瞬『うぐっ』と言葉に詰まるも、それでもノエルはリタに話しかけた。都合の悪い事は聞こえるが、聞きながせるのがノエル・ハインヒマンである。

「いいですか、リタちゃん。手玉に取る為には小悪魔にならなければいけません」

「こあくま?」

「そうです。簡単にホイホイと言う事を聞くのではなく、『焦らす』のです。焦らされれば、殿方は女性に興味を持ちます。そうすれば後はこっちのモノですよ!」

「……あんまり変な事、教え込まんで貰えたら助かるんですけど……」

 そんな二人を、ある種あきれ返って見つめていたソニアに背後から声がかかる。振り返ったソニアが見たのは、困った様な視線をリタとソニアに向ける一人の男性、この『学校』の校長職を務めるセリオだった。

「セリオ?」

「ご機嫌麗しゅう、ソニア様。ほいで……ソニア様の御友人をあんまり悪うは言いとうないんやけど……」

「……申し訳ございません」

「あ、ああ、ソニア様が悪いんちゃいます! そもそもコータはんや……それにエリカ様がリタに変な事を教え込むんのも悪いんですし」

「変な事?」

「知ってはります? 俺、リタのおままごとで『三番目の男』役させられてるんですよ」

「……ちょっと興味がわいてきましたが。どの様な配役で?」

「コータはんとリタが夫婦で、エリカ様が『どろぼうねこ』の役、ほんで俺がリタの三番目の男役ですわ」

「……何と言いますか……エリカ様も?」

「最近、ノリノリです。こんな言うたらアレですけど……子供相手にあそこまで本気になれるのは、ある種才能やないかと思ってます。俺らより向いてるんちゃいますか、育児」

「……ちなみにセリオが三番目だとして、二番目は?」

「フレックやったんですけど……『かせぎがわるそうですので、ぽい! です』言うて捨てられましたわ」

 言葉もない。

「子供が大人のやる事に興味を持つのは分かりますし、それは別に悪い事やないとは思うんですけど……ほいでも、リタのは……」

 流石にちょっと、である。そんなセリオの言葉に大きく大きく溜息を吐くソニア。

「……良く、言って聞かせます」

「こんな事、ソニア様に頼むのもなんやねんけど……ほんまに、宜しくお願いします」

 そう言ってソニアに頭を下げ、セリオはリタに視線を向けた。

「ほれ、リタ! そろそろこっちにおいで。お昼寝の時間やで」

「おひるね、ですか?」

「せや。今日もよう遊んだやろ? 眠たくなってきたんちゃうか?」

「むう……たしかにリタ、ちょっとねむたくなってきました……」

「やろ? ほら、リタ? ほな行こうか?」

「はー――」

 元気よく手を挙げかけ、その姿勢のままリタが固まる。視線だけをきょろきょろとセリオとノエルの間をせわしなく行き来させ、挙げた手をゆっくりと降ろして。


「――どうしよっかな~」


「……は?」

「リタ、やっぱりあんまりねむたくないな~。おひるね、あとにしよっかな~?」

 腕を後ろで組み、片足で小石なんぞ蹴って見せながら上目遣いでチラチラとセリオを見やるリタ。その姿に愕然とした表情を見せた後、セリオが恐る恐る口を開いた。

「えっと……リタ? リタちゃん? 自分、なに言うてんの? さっき眠たい言うてたやん」

「さっきはさっきだし~。どうしてもっていうなら、おひるね、してあげてもいいけど……こう、『せいい』? みせてほしいかな~って?」

 すっかり表情が抜け落ちたセリオの目が、ソニアを射貫く。その視線に慌てた様に、ソニアはリタに声を掛けた。

「り、リタちゃん? 何をいっているのです? さあ、あんまりセリオを困らせずに、早くお昼寝しましょう?」

「えー……どうしよっかな~」

「リタちゃん! 怒りますよ!」

「ひ、ひぅ! だ、だって、ししょーがいってました! 『じらす』って! ね、ししょー! どうですか! リタ、ちゃんとししょーみたいに『こあくま』、できてますか!」

 期待を込めたリタの視線を受け、ノエルが厳かに右手を上げる。握り込まれたその右手の拳から、親指だけをぐっと立てて見せ。

「――完璧です」

「完璧です、ちゃうわ、このダボ! リタにナニ教えてんねん!」

「な、なんですか、校長! イイですか? これは、リタちゃんが大人の女性になる為に必須の技能ですよ!」

「お前、それリタのお父ちゃんの前で言えるんかいな! こないだ相談されてんで! 『リタに、お父さんは五番目くらいかな~って言われたんですが……どういう意味でしょう?』いうて! 分かるか! お父さんよりも上の順位だった俺の気持ちが!」

「ヤですね~、自慢ですか?」

「何処聞いたらそうなんねん! もっすごい気まずかったちゅうねん!」

「ですが、コレをマスターすればリタちゃんの人生は楽勝ですよ? 楽しい事ばっかりです!」

「楽と楽しいは違うねん! とにかく! 大事な子供さん預かってる身として、これ以上変な事教え込まれたら困るんやって! エリカ様と顧問様だけで往生しているのに、頼むから問題ふやさんでくれへんかなぁ!」

 聞く人が聞いたらとんでもない事を言っているセリオ。だが、その余りに悲痛な叫びに思わずソニアが胸中で手を合わす。報われないのは何時だって中間管理職だ。

「……まあ、エエ。ほな『誠意』を見せるわ」

 肩で息をしつつ、セリオが諦めた様にそう言う。その言葉に、きょとんとした表情をリタはして見せた。

「ほえ? せいい、みせてくれるんですか?」

「せやで。リタ、言うてたやん。お昼寝して欲しいんやったら誠意見せろって。ほんまはあんまり良くないんやけど……お菓子。お菓子、用意したる」

「おかし、ですか?」

「せや。しかも、普通のお菓子ちゃうで? こないだ商業区で見つけた取って置きや。プランっちゅうあまーいお菓子やで?」

 どや? と問い掛けるセリオに、少しだけ呆れた様にふぅと息を吐くリタ。

「このわたしが、おかしていどでつられるとでも? だからせんせーはいつまでたってもさんばんめなのです。いいですか? もうちょっと、べつの――」

「そのお菓子、詳しく!」

「――ほうほう……し、ししょー? 『こあくま』は? 『こあくま』は何処にいったんですか!」

「ちっちっち。甘いですね、リタちゃん。ある程度焦らした後は、ころっと靡いたフリをして見せるんですよ。御預けばかりではいけません。この辺りの駆け引きが重要ですよ?」

「お、おお! おくがふかい! おくがふかいです、ししょー!」

「そうでしょう、そうでしょう。いえ、決して私がその『プラン』とかいうお菓子を食べたい訳ではなくて、ですね? こう、鞭を与えた後は飴を――」

「……お前の分まであるとは言うてへんのやけどな、俺」

「――簡単に与える訳には行きませんね! リタちゃん、お昼寝はダメです!」

「ふ、ふえ? え? し、ししょー? り、リタは! リタはどうしたらいいんですか?」

「リタが混乱してるやないか! ほんまにアンタ、エエ加減にせーよ!」

 セリオとノエルをおろおろと見渡すリタ、ノエルを怒鳴りつけるセリオ、そんなセリオにきゃしゃーと威嚇して見せるノエルというカオスな風景を見ながら吐いたソニアの溜息は、今日一番深かったという。


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