なろう特典SS 2 『女王陛下育成計画 EX』
過日、フレイム王国二巻発売しました! 感謝の気持ちを込めまして、二巻特典SSのなろう版です……と、なんか重版出来! らしいです。重ねてありがとうございますです、はい。
さて、今回のSSはなんとリズがメイ――あれ? ロッテメイン? な感じの話になっております。少しでも楽しんで頂ければ。
「ゆるしてにゃん☆」
「……」
「今日はもう、お仕事したくないにゃん☆ 遊びに行きたいにゃん☆」
頭には『ネコミミ』のカチューシャをつけ、語尾に星を飛ばしながらシナを作る。手には『こんなサイズでは明らかにバランスが悪いだろう』と言わんばかりのリズの顔程もある巨大な猫の手グローブを装着し、お尻――というか、正確には腰の辺りに尻尾のオブジェを付けた目の前の美少女、フレイム王国女王陛下であるエリザベート・オーレンフェルト・フレイムを、ロッテは冷めた目で見つめていた。
「……ゆ、ゆるして……にゃん?」
「……」
「……」
「……」
「……わ」
「……」
「……分かっていましたよぉ! 私だって、『あ、これはちょっとないな』って思ってましたよぉーーーー!!!!!」
頭のネコミミカチューシャを取ろうと手を伸ばし、某猫型ロボット程高性能ではないその猫の手グローブでは思うように取る事も叶わず失敗。『にゃ!? にゃ、にゃ!』なんて声を出しながら悪戦苦闘してようやくネコミミカチューシャを取る事に成功したリズは、力一杯そのネコミミカチューシャを地面に投げつけた。
「でもね!? ロッテ、貴方が言ったんですからね! 『陛下、もう少しこう……貴方には存在感が必要ではないですか?』と」
「……」
「だから私、一生懸命……何でしたっけ? きゃ、『キャラ作り』? をしてみたんですよ! それなのにそんな冷たい目、ちょっと酷いと思いませんか!」
「……」
「なにか言ってくれませんかねぇ!」
「……陛下」
「なんですか! 言いたい事があるんだったらはっき――
「……ネコミミを、舐めるな」
「――りいいなさ……え? ね、ネコミミを舐めるな?」
「陛下、少しそこにお座り下さい」
「え? え? ろ、ロッテ? そ、その、ちょっとこ、こわ――」
「早く!」
「は、はい!」
ロッテの声にびくっと体を震わし、慌ててリズは玉座に向かって小走りに走りかけて。
「陛下、何処に行かれるのですか?」
「あ、貴方が座れって言うから、玉座に――」
「座れと言われれば正座に決まっているでしょう」
「――座ろうと……せ、正座? いえ、ロッテ! 何を言っているのですか! 私はエリザベート・オーレンフェルト・フレイムですよ! フレイム王国女王へい――」
「いいから、正座!」
「――かです……は、はいぃ!」
今のロッテに言い訳は無理。それを悟ったリズは、逆らう事を諦めて大人しく床に正座した。大理石の床が何だか少しだけ冷たい。
「す、座りました」
「……はあ。陛下、貴方は分かってない。全く分かって無い」
「え、えっと……はあ」
「いえね、陛下。別に私はネコミミについて何か特別な言を持っている訳ではありません。ありませんがしかし、『キャラ付け』と言われて取りあえず『ネコミミ』付けてみました、というのは如何がなものか、と言っているのです」
「……ロッテ? 済みません、帰って来て下さい」
「確かに、貴方は存在感がありません。『あれ? 陛下? 居たの?』とか『どう考えても脇役キャラだよね』とか『もうね、陛下とか居なくても全然問題ないよね?』と言われるほど、存在感がありませんが」
「言い過ぎですよねぇ! 私、そんなに存在感無い訳じゃないですよ!」
「――ありませんが、それでも貴方には貴方にしかない魅力が……あると良いですが」
「そこはあると言って下さいよ! 何かあるでしょう、私の魅力!」
「ええっと…………とにかく、です」
「雑! 誤魔化し方が雑!」
「そこをはき違えて、安易にネコミミに走るなど……このロッテ、とても悲しいです」
「済みません、ロッテ。私の方が悲しいです」
「陛下のそんな姿……私は見たくなかった」
「奇遇ですねロッテ。私も貴方のそんな姿は見たくなかったです」
「そんな姿では臣下の心は離れていくばかりですぞ!」
「ちょっと自分を振り返って貰えませんかねぇ! 既に私の心は貴方から離れていますよ!」
ぜーはーと息も荒げて絶叫するリズ。その姿を面白そうに見やって、ロッテがポツリと。
「無論、冗談ですが」
「きぃーーーーーーーーー!!!」
リズの絶叫が玉間に響いた。
◇◆◇◆◇
「……ロッテなんか、嫌いです」
玉座に座り、涙目になりながらロッテを睨みほっぺたを膨らませるリズ。年相応のリズのそんな姿に苦笑を一つ浮かべ、ロッテは言葉を発した。
「大変失礼しました、陛下。ですが私が言いたかったのは『形だけネコミミを付けてどうするのか?』という話です」
「……形だけ、ですか?」
「ええ。確かに陛下、私は存在感の無い陛下に、もう少し存在感の出る様なキャラ付けをお願いしましたが」
「ねえ、ロッテ? その存在感がない、存在感がないって言うの、止めて貰えません? 結構落ち込むんですけど」
「自身に存在感のない事を自覚してこそ開ける道もあります。ともかく、陛下が『ネコミミ』を付けた所で『ああ、陛下がネコミミ付けたんだ』としか思われません」
「えっと……言っている意味が分かりかねるのですが」
「例えば……そうですな、例えばエリカ様です」
「お姉様?」
「もしエリカ様がネコミミを付けたとしたらリズ様、どう思いますか?」
「キュン死します」
溜めも迷いもなく、ノータイムの打ち返し。目をキラキラさせて玉座からずいーっと身を乗り出すリズに、流石のロッテも少しだけ引き気味に頬の端をひくつかせた。
「……いえ、陛下?」
「だってあのお姉様ですよ? 『もう、仕方ないわね、リズは』とか言って大人びているお姉様がネコミミ付けて恥ずかしそうに『にゃ……にゃあ』とか言ってるって事ですよね!? ちょっとほっぺとか赤らめちゃってるんですよね!? キュンキュン来ますよ!!」
むはーっと鼻息荒く、一息で喋るリズ。その姿に『ああ、陛下……おいたわしや』なんて失礼な事を考えながら、それでもロッテは話を続けた。
「そこまでお分かりなら、もう理解されたのでは無かろうかと思いますが?」
「……ええ。普段、『絶対ネコミミなんか絶対付けないだろう』という人がネコミミを付ける事によって、普段とのギャップでよりそのキャラが際立つ、という事ですね?」
「流石は陛下。よくお分かりで」
「でも、ロッテ? それだったらシオンとかでも似合いそうだと思いませんか?」
「シオン、ですか?」
「ええ。シオンなら恥ずかしがる事なく堂々とネコミミを付けそうな気がします。『陛下、お腹が減ったにゃ』とか傲岸不遜な態度を取って……でも、たまにゴロゴロと甘えて来るんですよ」
「……陛下」
「違いますか?」
コクン、と小首を傾げるリズ。その姿を視界におさめ、ロッテはぐっと親指を立てた。
「流石です、陛下。もう教える事は何もありませんな」
「あ、ありがとうございます、ロッテ!」
「ですが、キャラ付けの道は一日してならず。これからも日々、精進なさって下さい」
「はい!」
「それでは」
「はい――って、ちょっと待ってください!」
踵を返し、玉間を後にしようとしたロッテの背中に慌てた様子でリズが声を掛ける。その声に足を止め、ロッテが振り返った。
「なんですかな?」
「結局、お姉様とシオンの話しかしていません! 私! 私はどうなるのですか!」
「……しかし、陛下。陛下には既にこのロッテ、教える事がありません。いえ、少し面倒になった、とかではなく」
「そ、それでも! それでも私だってもっと『さ、流石陛下! 存在感、抜群です!』とか言われたいです! こう、キラキラと輝いた新生エリザベート・オーレンフェルト・フレイムになりたいのです!」
「ヘソで茶を沸かしますな」
「ですから、ロッテ! どうか! どうか貴方の力を貸して――ヘソで茶を沸かす?」
「空耳でしょう。しかし……ふむ」
そう言ってロッテは上から下までマジマジとリズを見渡し、もう一度『ふむ』と頷いて見せた。
「……分かりました。陛下がそこまで仰るのなら、このロッテ、一肌脱ぎましょう」
「あ、ありがとうございます、ロッテ! 貴方が居てくれて……本当に良かった」
「いえ……敬愛する陛下の為です。しかし陛下! 貴方が一度口に出した事です! これから私は臣下という立場を忘れ、貴方を育てる事に致しましょう! それでも付いてこれますかな!」
「はい、ロッテ!」
「ロッテではありません。師匠と呼びなさい」
「はい、師匠!」
「それでは陛下、行きましょう。遙か遠き理想郷へ!」
「はい!」
がっちりと手を握り逢うロッテとリズ。興奮と感動で目を潤ませるリズの姿を視界におさめ、顔に笑顔を浮かべながら。
「……良い息抜きができましたな」
「え? 何か言いましたか、師匠!」
「いえ、何でもありません。それでは陛下、まずは――」
『国王』とは、国の頂きに立つ者とは何時だって孤独だ。
頼りになる臣下、信用できる臣下はおれども、真の意味での『友』となると、作るのは相当に難しいのは想像に難くない。
「か、カカシ?」
「そうです。その『カカシ』を相手役に見立てて練習するのですよ、陛下!」
エリカがテラに旅立ち、リズはずっと一人だった。たった一人、齢十六の『子供』が片肘を張り、息を吐く暇もなく、隙を見せない様に、舐められない様に、ずっと国政の頂きで懸命に戦って来たのだ。
「わ、わかりました! それではカカシ、調達してきます!」
「ええ――ああ、陛下。転ばない様に」
「子供じゃありませんから大丈夫です!」
まだまだ貴方は『子供』です、と。
「それでは行ってきます!」
「はい、行ってらっしゃいませ」
そんな『子供』の貴方に、素が見せられる、ただそれだけの時間を作って差し上げましょうと、ロッテは胸中で一人呟いて。
「…………まあ、私の『息抜き』でもありますが」
偽悪的にそんな事を言って見せながら、それでもリズが飛び出して出て行った扉を見つめるロッテの瞳は、何処までも優しかった。