らいおん&エンジェルハート
久しぶりに車で遠出した。助手席から気持ちいい寝息が聞こえてくる。さっきは運転を代わってくれたから良しとするか。
ラジオはSMAPの「らいおんハート」を流している。この歌の気持ちが分かるような、まだその域には達していないような。
寝顔を見て愛おしいと思ったり、家族になることを想像したり、歌のように平凡な恋を俺もしている。付き合い始めて3年が過ぎていた。周囲が段々に所帯を持ち、親も「孫が見たい」と露骨に言うようになった。
「…ん…、ゴメン、寝てた」
「いいよ。寝てな。今日早かっただろ?」
「うん、ありがと…」
対向車のすれ違う音が耳につく。街のネオンがまぶしい。どうしたら踏ん切りがつくんだろう。どうしたら「らいおんハート」は芽生えるんだろう。
「じゃあ、また連絡するね。送ってくれてありがとう」
「ああ。…あのさ…」
いつもの別れといつもの挨拶。俺はお前を守るために生まれてきたんだ。ここでそう言えたらどんなにいいか。
「うん?」
「……その…」
「悪いこと?」
「いや、そうじゃないんだ。…えっと…」
「ならいいや! ゆっくり聞かせて!」
少年みたいにニカッと笑った。
「大丈夫。私がついてるから」
何も聞いてないのに、いきなり「大丈夫」か。笑ってしまうが俺よりよっぽど男前で思い切りがいいし、すべてを許す温かさが辺りを満たす。「らいおんハート」も「エンジェルハート」もこいつが持っていた。