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傭兵ギルドの猫  作者: kay
第3章 精霊のいとし子
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ニコルと歌姫

 女主人はマルグリットと入れ替わるように部屋から出ていき、なし崩し的な感じで顔合わせをすることになってしまった。



「傭兵ギルドで依頼を受けた、ニコル・クルーガーです」


「マルグリットよ、この店の歌姫をやっているわ。こっちの愛想の悪いのがコーグ。店の警備というか私たちの雑用係よ、何か困ったことがあれば頼りなさい」



 思わぬ展開で依頼人との対面になってしまったが、マルグリットは特に気にした様子もなかった。

 瑠璃色の瞳はニコルに対する好奇心を隠そうともせずキラキラと輝いており、ニコルが自己紹介をすると好意を隠そうともせずに笑みをこぼした。



「ごめんなさいね。お客様の合間を見て来たものだから、あまり時間が取れないのよ」


「いえ、こういった場所での依頼が初めてだったもので、どんな場所なのか見に来ただけだったので。余計な手間をかけさせてしまって申し訳ない」



 忙しい所に手間をかけさせてしまったと詫びると、マルグリットは特に気にしていないと首を横に振った。



「あなた真面目ねぇ……。ここを見に来て、不審者に見られた挙句、男衆が連れてきてしまったんでしょう? あなたが謝ることはないと思うのだけど」


「ちょっと待て! 怪しい動きをしていたのなら声をかけるべきだろう!」



 マルグリットがからかうような視線を男に向けると、壁際で置物のようになっていた男が思わずといった様子で口をはさんだが、彼女がにっこりとほほ笑むとグッと押し黙ってしまった。男との力関係としてはマルグリットの方が強いらしい。



「ま、それもそうね。今回の依頼の件だけど警護のお願いをしたのは私の独断なのよ。身請けという噂もあるけれど全く関係ないから、あまり気を遣わなくていいわ」



 セレストでの人さらいの話もあり、花街のような社会の裏側に位置するような場所では尚のこと気を払っておくべきなのだろうとニコルは考えたのだが、マルグリットの説明は、どうやらそちらとはあまり関係のなさそうな様子だった。




「護衛の依頼とのことですが、マルグリットさんの護衛となるのでしょうか?」


「ええ、そうよ。貴女を雇ったのは私の安心のため。近々よくないことが起こるような気がするのよ」


「……勘ですか?」


「そう、ただの勘。だから具体的に何から守れとは言えないわ」



 何か厄介ごとに巻き込まれているのだろうかと首をかしげたニコルだったが、マルグリットはきっぱりと自身の勘であると言い切ってしまった。

 護衛の依頼は何度も受けたことがあるニコルは、町の中に居ながら隊商のような護衛の依頼だと感じた。


 豪商や貴族のような立場にある者たちは、身の安全を守るために長期に渡り傭兵を雇うことがあるが、マルグリットのように漠然とした勘だけで傭兵を雇っていては破産をしてしまう。

 花街で働いているということは、身内もしくは自身が借金を背負っているという認識が強い。もしかしたら何か依頼に問題があるのではないか、護衛の内容に偽りがあるのではないかとの考えが頭によぎった。



「報酬は既にギルドに払ってあるの。私が依頼完了の札を渡せばもらえるから心配いらないわ」


「……すみません、顔に出ていましたか?」


「こういった仕事だもの。お客様の機微を感じ取ることができないと何かあった時に自分の身を守ることができないの」



 マルグリットは涼しい顔で気にすることはないと言った。



「もう夜も遅いし、泊って行ってもいいわよ?」

 


 必要なことは粗方聞き終えたニコルが引き上げようかと考えたところで、次の客が来ると下働きの少女がマルグリットを呼びに来たためこの場はお開きとなった。

 既に夜も更けているため、マルグリットが店に泊っていくかと聞いてきたが、ニコルが依頼は明日からであると伝え首を横に振った。

 それもそうだと納得した様子のマルグリットは、明日を楽しみにしていると言い残し、彼女は部屋を後にしたのだった。

 




 その後、行きと同じように男の後について屋敷の裏口に出た。

 女主人に会うために通された部屋に向かうときは緊張していたため周りを見る余裕があまりなかったが、帰りは気分が軽くなったのか周りを見る余裕もできた。

 屋敷裏口から外に出ると、表の通りからは見えないような造りの広い庭園があった。星明りでは見えないが薄暗くなっている場所にはおそらく逢引に使われる東屋があるのだろう。



「ここでは、騎獣を預かってくれたりするの?」


「あ? まぁ騎獣連れの傭兵も来たりするからな、そういった客用の騎獣舎は用意してある」



 木立に囲まれるように屋敷の裏手に付随している小屋に向かう轍があるのに気づき、もしかしたら騎獣舎があるかもしれないと思い、男に確認すると、この娼館でも預かることができるとの返答をもらった。

 なんでも貴族や商人がこの店を訪れる際、他の客と顔を合わせないように馬車ごと乗り入れることもあるようで、それを使えばいいとのことだった。

 明日、ティアを連れてくると伝えると、男は下男に話をつけておくと了解したため、当初の懸念事項が減ったことにニコルは胸をなでおろした。

 



 男に見送られ表の通りに出たころには、客引きの娼婦たちが店に戻った後だったようで来た時よりも少しだけ人は少なくなっていた。

 花街の境にある門にたどり着いたときには、話をした門番は既になかった。

 夜明けを待たずに花街から出る者は大抵女に振られたか、賭場で摩った者のどちらかなのだろう、およそ数刻は経っているために交代したのだろう門番から負け犬と揶揄するような視線が刺さったが、ニコルは特に気にするでもなく門を出たのだった。


お読みくださりありがとうございます。

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