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傭兵ギルドの猫  作者: kay
第3章 精霊のいとし子
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傭兵ギルドのジーン

ちょっと癖のある人物が出ます。と言うより、本性が出ました。

 右手が酒瓶に延びそうになるのをどうにかこらえたニコルは、手伝って欲しいと上目使いで懇願してくる目の前の男に対しため息を付いた。

 自分よりも背の高い男に上目使いをされても、ニコルは全くといって良いほど心は動かされなかった。それが、まれに見る美形の男だったとしてもだ。



「手伝って欲しいって言ってるけど、私が手伝わなかったらどうなる?」


「別に、どうもしないよ?」



 そこはかとなくジーンの言い方には何か裏がありそうな気はしたが、ニコルはここまで裏事情も含めて話を聞かされてしまうと、今更手伝いませんとは言い出し難かった。



「……本音は?」


「自分一人じゃ面倒だから、付き合って欲しいな」


「はぁ……。この件は、傭兵ギルドが手を借りたいと考えていると思った方が良いわけ?」


「まぁ、その辺はお好きに考えてちょうだいな」



 ジーンが傭兵ギルドと繋がっていることは確実だろうとニコルは考えていた。傭兵ギルドがギルドに登録している者たちの情報を漏えいしないようにしっかりと管理していることを知っていたからだ。

 もし人を紹介してほしい場合は、傭兵ギルドの職員から直接紹介をしてもらわないと会うことすら叶わないこともある。そのため、ジーンは間違いなくギルドから直接情報を得られるような立場にいる人間と考えてよかった。



「ここまで話を一方的に聞かせといて良く言うよ……。断ったら確実にギルドから睨まれる」


「よく分かってるじゃない。とりあえず、協力関係になったんだから自己紹介」


「クルーガー傭兵団のニコル。今は、家出中だからフリーだけど」


アタシ(・・・)は、傭兵ギルドのジーン。今後ともよろしく~」


「……よ、よろしく?」 


「あー、やっと肩の力が抜けた! ホント、猫被るのも楽じゃないわぁ」



 見た目だけ(・・)はものすごく美形な目の前の男から、似合わないオネエな科白が口から飛び出して来たため、ニコルは一瞬自分の耳を疑った。

 これは聞き間違いだ、酒場の客にそっち系の言葉使いの人が居たに違いないと現実逃避をしたくなったのだが、周囲の音はジーンが張った結界に阻まれそれほど鮮明には聞こえず、明らかにジーンの言葉だったのだと実感させられた。



「……」


「なにか言いたいことでもあるかしらぁ?」


「そ、その言葉使いって……? まさかそっち人?」


「んー、別にオカマってわけじゃないと思うんだけど、昔からの癖かしら? 情報を得るために色々やってたらこう(・・)なっちゃっただけよ」



 驚きすぎてジーンを見つめるだけで無言になってしまったニコルに対し、面白そうに声をかけてきた。実際、素の自分を見せるとこういった反応が返ってくるとわかっていたのだろう、ジーンは苦笑しながらも癖だと話した。



「他には、何か聞きたいことある? この際だから、どーんと聞いてちょうだい!」


「いや、なんていうか……。色々ギャップがありすぎて、考えが追いつかない」


「あらそう?」


「なんかドッと疲れた気がする」


「ま、その辺は仕方ないと思って慣れてちょうだい、こっちに気を遣ったりする必要はないから、自然体で接してくれればイイワヨ」



 外見詐欺だと内心滝汗になりつつも、ニコルはどうにか気持ちを立て直したのだが、バチーンと音のしそうな長い睫(自前)でウィンクをされて、どう反応すればいいのだろうかと気が遠くなりそうな思いだった。



「さっそく本題に入りたいんだけど、良いかしらん?」


「はぁ、もう勝手に話してよ。こっちはアンタに付き合うしかないんだから」


「流石、ニコルちゃんは男前ねっ! 男はいざとなると、腹をくくるのが遅くていけないわ!」



 引くに引けない状況に強制的に持って行って良く言うなとニコルは思ったが、口には出さなかった。もし口に出したとしても、脱力必至な事をつらつらと言われるとこがなんとなくわかったため、諸手を挙げて話を促した。



「ニコルちゃんに引き受けてもらいたいのは、ある店の用心棒なの」


「店の用心棒? ギルドへ正式依頼が入ってるなら、私に頼まなくてもいいんじゃ……」


「まあまあ、話は最後まで聞いてちょうだいな。そこのお店なんだけどね、ギルドが前から情報収集で諜報員(ひと)を送り込みたかった店なのよ。お店側も警戒してたのかその辺は分かんないけど、専属の用心棒がしばらく留守にするらしくて、ギルドに短期依頼をしてきたの。当然、入り込めるチャンスが来たって喜んだんだけど、どうにも面接の時点でうまくいかないのよ」



「ギルドが情報を集めるのに人を送り込みたがるのは分かるけど、アンタみたいな情報収集専門の人なんか、ギルドの手駒でいっぱいいるんじゃないの?」


「そうなのよ、問題がそこなのよぉ! ギルドの情報収集専門の人だと、どうしても雰囲気で分かっちゃうらしくてねぇ。上の人たちが困り果てたところで、白羽の矢が当たったのがア ナ タ!」


「……」


「明日の昼の鐘が鳴る頃に傭兵ギルドに来てちょうだい。詳しい話はそこで、ね」



 ジーンが結界を解くと遠くなっていた店内の喧騒が戻ってきた。追加で注文した酒瓶と一緒にニコルが食べた分の支払を済ませると、傭兵ギルドで会う約束を取り付け、意気揚々と店を後にしたのだった。



 ニコルはジーンと一緒に店を出たのだが、追加で頼んだ酒だけでは酔うに酔えなかった。少し飲みなおそうかと考えていたところに、見慣れた集団が通りの向こうから歩いてきた。

 

 

「あ、ニコルじゃん」


「こんばんは、カルロ。これから夕食ですか? モーリッツさん」


「ああ、こいつらが偶には飲みに行こうと煩くてなぁ。君も時間が空いてるなら、一緒にどうだ?」


「それは是非! ちょうどもう一杯飲みたかったとこだったので」



 モーリッツが率いる傭兵チームと一緒に飲むことに決まった。ちょうど飲みたい気分だったため、渡りに船だったニコルは満面の笑みでモーリッツの提案を受け入れたのだった。

 騒いでいる若手に注意をしていたベンノの隣に居たカルロが、やけに嬉しそうなのがニコルは気になったが、特に気に留めずモーリッツの後について行くことにした。


 やってきた酒場は先ほどまでニコルが飲んでいた店だった。店主が『また来たのか?』と怪訝な顔をしたが、ニコルは気にせずテーブルに着き酒を頼んだのだった。




鈍足更新ですが、読んでくださってありがとうございます。


ジーンの本性について賛否両論あるとは思うのですが、どうしてもオネエが書きたかったのです。

個人的には後悔していません。

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