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傭兵ギルドの猫  作者: kay
第3章 精霊のいとし子
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厄介ごとの種

 ラース達と別れたニコルは、そのまま宿に戻った。

 市内の犯罪は基本的には警備隊の仕事になるため、騎士たちはジゼルに付きっ切りになることはできない。騎士たちの前では気丈にふるまっていたジゼルだったが、浚われそうになった直後だったためショックも大きいだろうと心配だったのだ。



「ジゼルさん!?」


「あー、ニコルちゃん。お帰り」


「大丈夫ですか!? どこか怪我とか、具合が悪いとか……」


「ちょっといろんなことがありすぎて疲れちゃったみたい……」



 まだ、ニコルの他の客は帰ってきてはいないようで、ジゼルは食堂の椅子に座りぐったりとしていた。慌ててニコルが駆け寄り声をかけると、具合が悪そうではあったが笑顔で迎えてくれた。

 浚われた時に怪我をしたのだろうかと、不安になったが精神的につかれただけのようで、ニコルは胸をなでおろした。



「ニコルちゃん、今日は悪いんだけど夕ご飯は作れそうにないのよ……。他のお客さんも少ないし、申し訳ないけど……」


「あ、気にしないでください。この前カルロに案内してもらったから、大体の場所はティアが覚えてるし! ね、ティア」


「にゃ」


「ふふふ、道を覚えるのは猫ちゃん任せなの?」


「道を覚えるのが苦手なだけです。決して方向音痴とかじゃないです!」


「そうなの? じゃあ、申し訳ないけど今日はこのままお休みするわ。何かあったらダグにお願いしてね。料理以外の事なら大抵できるから安心してちょうだい」


「わかりました。ゆっくり休んでください」



 ふらふらとしているジゼルを部屋に送り届け、泊まっている部屋に戻った。

 パリッとしたシーツに飛び込んだ。そのまま眠ってしまいたくなったが、色々なことがありすぎて昼食を食べる暇すらなかったことを思い出した。



「ちょっと早いけど、夕ご飯を食べに行くか……」

 


 ベッドに飛び込んだ際に放り出した荷物を身に着けた。剣を装備した際に、愛用の剣とは違う手触りで、ごたごたの中で武器屋に行くことを忘れていたことを思い出し、ニコルは夕飯の前に武器屋に寄ることにしたのだった。




 やはりティアの案内で武器屋に寄り、砥ぎあがった愛剣を受け取ることができた。

 あと半刻程で店が閉まるとのことだったため、夕飯の前に寄って良かったと腰に下げた剣の重みを感じながら昨晩カルロと行った酒場を目指した。



 酒場は昨晩と同じような賑わいを見せていた。迷うことなくカウンター席に座り、ニコルは店主に声をかけた。



「マスター、こんばんは」


「あぁ、昨日の兄ちゃんか!? 聞いてくれ! 俺の店に盗賊団の一味が来たみたいでよ! 騎士様たちが色々聞いてったんだ!」


「へぇー、そうなんだ?」



 少々興奮気味な酒場のマスターをよそに、ニコルは品書きを眺めて気のない返事をした。昨晩食べたものとは別の物を注文しようと思い、いくつか頼むものの候補を考えながらマスターの話を聞き流す。



「それが、聞いて驚くなよ? そいつら、なんとお前さんとカルロの隣に居た二人組だったらしいんだ!!」


「ほぉー」


「なんだ、乗ってこないな。こういう話は興味ないか?」



 やはり興奮気味に話し始めたが、ニコルが話を聞き流している様子に眉をしかめ、噂話は興味ないのかと聞いてきた。せっかく話が分かる人物が来客したのだから、一緒に話をしたかったのだろう。しかし、あいにく話のネタになる人物を捕えたのはニコルだった。既に知っている話をもう一度聞くのも面倒なうえ、自分が話のネタになるのは避けたかったため、あえて聞き流した。



「あはは、その話ならもう知ってるよ」


「なんだよ、畜生。せっかく話が分かる奴が来たってのによぉ……」


「ごめんね。あ、マスター、この山羊肉のシチューとチーズの盛り合わせっていうのと、エールお願い」


「はいよ、シチューとチーズ盛りとエールだな。パンは付けるか?」


「サービス?」


「いいや、銅貨2枚だ」


「んー。じゃあ、お願いする」



 話を聞き流しているニコルの様子に面白くなさそうな目を向けたが、既にその話を知っていると分かるとマスターは軽くため息を付いた。知っているなら早く言えと言わんばかりにジト目で見られたが、ニコルは軽く受け流し、品書きに書いてある物を注文したのだった。




 ほどなくして注文していた料理が運ばれてきた。

 香ばしく焼かれた丸パンに少し癖のある山羊の肉がトロトロになるまで煮込まれたシチュー、薄く切ったチーズとゴブレットから溢れそうになるほどなみなみと注がれたエールがニコルの前に並んだ。

 マスターに聞いたところによると、この店で出しているチーズはセレストの名産である山羊の乳で作られたものらしい。

 癖が強くとろりとした食感のチーズは、ニコルの口には合わず、エールでどうにか流し込んだ。残す訳にもいかないため、マスターにどうやったら食べやすくなるかと聞いてみると、ジャムと合わせると食べやすくなると言われ、仕方なくニコルはベリーのジャムを注文し、パンに挟んで食べることにしたのだった。




 最初に来たエールを飲み干した頃だった。ニコルの隣に人がやってきた。

 カウンター席はニコルが座っている席の他にも空いており、何故自分のところに来たのだろうと疑問に思ったが、足元に剣の鞘が見えたため傭兵が食事に来たのだろうと考え、ニコルは特に気にせず食事を続けた。



「マスター、エールと何か食べる物を適当に持ってきてくれないか?」


「ハイよ」


「!?」



 昨晩も聞いた声だった。驚いて隣に座った人物を確認すると、声の主は吟遊詩人のジーンだった。

 前回会った時は吟遊詩人特有のひらひらとした服装をしていたのが、今は長い髪も縛って普通の旅人の格好をしている。腰には使い込んだ剣を帯びており、こういった格好をすると少し身綺麗な傭兵に見えた。



「こんばんは、また会ったね」


「……何の用?」


「ごあいさつだなぁ、一人寂しく飲んでるから声をかけてあげたのに」


「別に3回しか会ったことのない人に気を使う必要なんてないと思うけど?」



 ジーンは服装が違うせいか、昨晩会った時とは雰囲気が違っていた。ニコルは一瞬訝しげな顔をしたが、なれ合う必要も感じなかったため、突き放すようにジーンから目をそらした。



「つれないなぁ。ちょっと君と話がしたかったから、今日の騒動の話を持ってきてあげたのに」


「……」


「宿屋の女将さんを浚った犯人を捕まえたの、君だろ?」


「!?」



 耳元でささやかれた話の内容に驚き、ニコルはジーンを睨みつけた。人の悪い笑みを浮かべているならまだしも、ジーンは人のよさそうな笑みを浮かべており、その考えていることは酷く読み難かった。



「そんなに警戒しなくてもいいと思うんだけど? この店のマスターでさえ知っているんだから、その手の情報を集める手段はたくさんあるよ?」


「……警戒しなくてもいい理由が見当たらない」


「それもそうか。じゃあ、一つだけ教えてあげよう。宿屋の女将さんが浚われそうになったのは偶然じゃないよ」


「!?」



 確かにジゼルを浚った犯人を捕まえたのがニコルだと知っている人は何人もいた。現場に来た騎士たちを始めとして、ニコルが荷物を預けた店の店主やその丁稚の少年。野次馬をしていた人も居たかもしれない。

 ジーンの話を聞くまで、ニコルはジゼルが浚われそうになったのは偶然ではないかと心の隅で思っていた。しかし、ジーンは違うと言う。何が原因なのか知りたいと思ったが、ニコルは直感的に目の前の優男の話を聞けば、厄介ごとに巻き込まれそうな予感がした。

 

読んでくださってありがとうございます。

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