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傭兵ギルドの猫  作者: kay
第3章 精霊のいとし子
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騎士団と警備隊

 ジゼルを見送った後、ニコルは表に居る騎士たちを連れ、裏通りの現場まで案内することになった。裏通りに入る前に、ニコルは思い出したように持っていた麻袋を取り出した。



「なんだ? この薄汚れた袋は」


「一人だけ逃がしてしまったんですが、その男がジゼルさんを捕まえて入れていた袋です。犬系の騎獣か、警備隊に犬が居るなら、この麻袋の臭いを辿って逃げた男を追うって手もあるんですが、騎士団に犬系の騎獣って居ます?」



 ラースをはじめとした騎士たちは、何故小汚い麻袋を取り出したのだろうと怪訝な顔をしたが、この袋は逃げた男が担いでおり、男の臭いは確実についているはずだった。嗅覚の優れた犬系の騎獣が居れば逃げた男の行方が分かるかも知れないと思い持ってきたと説明すると、一同納得した様子だった。



「居ることには居るが、先日の山狩りの残党を追うのに使っていてな。すべてで払っている」


「それじゃ、警備隊……」


「副団長の命でこの件は騎士団の預かりになっている。警備隊の力を借りることはできない」


「そうなんですか?」


「ああ」


「隊長、発言してもよろしいでしょうか」


「なんだ?」


「そのぉ……。ニコル殿の魔獣の中でも赤猫は人の言葉を理解するくらい賢いと聞きます。騎獣として使っているので臭いを追う訓練をしていないでしょうが、説明すれば臭いを追うくらいは出来るのではないのですか?」



 若手と思われる騎士の一人が、ティアを捜査に使えないのかとニコルに声をかけてきた。騎士たちの視線が自然とティアに集まるが、ティアは特に同じた様子もなく、ニコルの足に太い尻尾を絡みつけてそっぽを向いている。

 ラースが視線だけで問いかけると、ニコルは少々気まずそうに頬をかいた。



「まぁ、頭も嗅覚は良いとは思いますが、そういう訓練はしてないからなぁ。一応、お願いすれば理解はするでしょうが、確実に後で拗ねるのでやりたくないです」


「拗ねるのか?!」


「そりゃ、ティアは頭が良いですもん、あなた方に頼まれてやるってことは大体理解していますよ。本人としては犬みたいな事をさせるなって感じだろうし、そもそも主人でもない人に頼まれるのが嫌みたいなので……」


「まぁ、猫は気まぐれだしな……。訓練していないなら無理強いさせることもないだろう」


「わかってくれて、非常に助かります」



 少々残念そうな若手の騎士たちを尻目に、ティアは分かったなら良いと言わんばかりに、えばる様に胸を張り、鼻を鳴らしたのだった。



「警備隊が使えないなら、傭兵ギルドだな」


「へっ!? 何で傭兵ギルド?」


「あそこは傭兵以外に様々な依頼が舞い込むからな。騎士として傭兵に手を借りるのは癪に障るが、背に腹は代えられないのでな……。バルナスとヤン! 二人は至急商業ギルドに状況を説明し、借りられるよう手配して来い!」


「ハッ!」


「俺たちは先に現場に向かう。手配出来次第この場で待機! こちらの見聞が終わり次第戻る」



 バルドとヤンと呼ばれた大柄な騎士が、敬礼と共にもう一人の騎士を連れて商業ギルドに向かった。二人の後ろ姿を見送りつつ、騎士は基本的に二人で行動するのかと、ニコルは頭の隅でどうでもいいことを考えていた。




 騎士を現場に案内するにあたり、ジゼルが浚われた時は無我夢中でティアを追いかけて辿りついた道だったため、ニコルは道をほとんど覚えていない状態だったが、ティアはそんなことを重々承知しているかのように先導し、迷わずに着くことができた。

 狭い通りで人通りが少ないため、現場は戦闘の跡を色濃く残しており、また誰かが戻ってきた痕跡はないように見えた。



「現場に着いたわけだが、戦闘の跡以外は何もないな……」


「まぁ、何もないところで戦闘になったし」



 周りを見渡したラースがポツリとつぶやいた。

 戦っている時でさえ狭いと感じていたような裏路地のため、ニコルとティアの他に騎士が5名も居り、狭いうえにむさ苦しく感じた。



「ジゼル殿が浚われた時の状況はどうだったのだ?」


「傭兵っぽい男とさっきの通りですれ違った時に、ぶつかって荷物が散らばったんですよ。それで、私が荷物を拾って戻ってきたら、ジゼルさんは浚われたあとでした」


「何故すんなりここにたどり着くことができた。通ってきたときに思ったが、ここは相当迷いやすいぞ?」


「ああ、ここに来た時みたいに、ティアに着いて行ったらここに出ました!」


「……」


「……」


「いや、本当ですよ?」


「……その赤猫についてきたと? どうやって説明するつもりだ」



 騎士たちの視線が一斉にティアに集まった。そんな騎士たちを余所に、ティアはやはり興味がないと言わんばかりに、騎士たちの視線を無視して大きな欠伸をしていた。

 ラースは、本気で言っているのかと半ば怒りながらニコルを睨んできたが、嘘は言っていないため、ニコルは肩をすくめた。



「ラースさん。そんなに睨まないでくださいよ。一応、皆さんが来た時に居た店のご主人は私がティアの後を追ったのを見ていたと思いますよ? 私がジゼルさんを見てないか、ご主人に聞いている時にこの子が走り出したんで、とっさに荷物を預けましたから」


「なるほど……」



 現場に来た時の様子を説明しながら、ニコルは平静を装ってティアの頭を撫でた。

 先ほどの店主が居なければ、自分も人攫いの共犯者にされるかも知れなかったと、今更ながら気づき背筋が冷える思いだった。



「男が三人居たという話は聞いたが、ジゼル殿を浚った男達に見覚えは?」


「一応は……。と言っても話したりした訳ではないので、確証は持てないんですが……」


「言ってみろ」


「逃げた一人は全くの初見。捕まえたうちの二人のうち腕に怪我をしていた方の人は、おそらく先日の隊商襲撃犯のうちの一人だと思う。私も襲撃を受けた隊商の護衛だったので、副団長のエッカルトさんに聞いてもらえれば証明できます。もう一人の方は、昨日知人と行った酒場で私の隣に座ってた」


「酒場? 酒場の名前は?」


「何て言ったっけなぁ……。隊商の護衛をした時の仲間に連れて行ってもらったから、名前まで憶えてないや。この前の定期市で蒸し鶏とセルの実ソースの屋台を出してたおじさんの店ってのは分かるけど。ご飯がおいしかった」


「飯が旨いのは兎も角、行けばわかるか?」


「多分?」


「一緒に行った知り合いと言うのは?」


「セレストを中心に活動をしている。モーリッツさんチームの若手でカルロ。そういえば名前しか知らないや。私より背が低いから見ればわかると思うけど」



 酒場の場所がうろ覚えだったため、ラースに場所が説明できなかった。最悪の場合は、カルロに聞けばいいかとニコルは考えていたが、騎士の中の一人がその店に心当たりがあるようだったため、特に問題はなさそうだった。

 その後、ラースに聞かれたため戦闘になった状況を詳しく説明し、ニコルの方からは何も話すことがなくなってしまった。



「ここで分かることもないだろう。ここまで何もないと調べようもない。一度戻るぞ!」


「あ、ラースさん! ちょっと気になっていたことがあるんだけど聞いて良い?」


「なんだ?」



 ラースは周りの騎士たちに表通りに戻る指示を出した。帰りはティアの先導は必要ないようで、迷いなく足を進めていた。最後の曲がり角に差し掛かったころ、ニコルは少し聞きたいことがあったためラースを引き留めた。



「ここにラースさん以外は居ないから聞くんですが、隊商を襲撃する盗賊団とセレストでの人攫い事件って関係があるんですか?」


「……今回の件でその可能性は高いと私個人では考えているが」


「ふぅん。じゃあ、セレストの騎士団と警備隊って仲悪いの?」


「いや、同じ治安を守る機関だから悪くはないが……。何故そう思う?」


「隊商の襲撃に遭った時に捕まえた奴らを騎士団で直接引き取ったからかな。普通はギルドに所属している傭兵が捕まえた犯罪者はギルド経由で警備隊に回されるから。エッカルトさんが取った行動がちょっと疑問だったんだよね」


「……なるほど。すまないが、私はそのことを意見できる立場には居ない。副団長がそのような指示を出したなら何か理由があっての事なのだろう」



 エッカルトが襲撃者をギルドに引き渡さなかった疑問をラースにぶつけてみたニコルだったが、ラースにも言えないこともあるだろうと考えていたため、疑問に対する答えが得られるとは思っていなかった。



「警備隊の中に内通者が居るとでも?」


「……私に聞いて正解だったな、この話を周りに聞かれたらこの街からつまみ出されるぞ」


「なんで?」


「セレストは帝国に占領されていた時代があったのは知っているな?」


「まぁ一応? ウィスマリア魔法国が建国されるまでって話だったと聞いたけど」


「そうだ。帝国からの独立戦争時にセレストがスフェーンに攻め入る要の地だったらしい。実際は当時の領主の働きでセレストの占領はなく、目前まで迫った帝国軍を水際で食い止めたのが領主率いるセレストの警備隊だったそうだ」


「警備隊って一般市民でしょ? 市民だけで帝国軍を食い止めたってすごいことなんじゃ……」


「実際は傭兵との混合部隊だったらしいが。それ故、セレストの警備隊はこの街の住民との結びつきは強いからな、下手に警備隊の事を貶めるような発言はしない方がいい」



 ニコルが警備隊に内通者が居るのではないかと言った時、ラースは眉をひそめてニコルに忠告をした。

 歴史的な背景で住民たちが警備隊に親しみを持っているとはいえ、騎士団は警備隊よりも上部の組織である。セレスト領の中心街だけの限定的な力とはいえ、騎士団よりも警備隊の力が強いことを知り、ニコルは驚いていた。



「わかった。じゃあ、騎士団が警備隊に不信感を持ってるいるかも? っていうのも言わない方がいいね」


「そうしてくれると助かる。一応、騎士団はセレスト領内の治安を守るためにあるが、街の治安を守るのが警備隊の仕事だからな、今回の件は副団長宛に連絡が来て助かった。ありがとう」


「あ、いえ。た、偶々ですから、気にしないでください!」



 正直なところニコルは男達を捕まえた際に、警備隊を呼ぶべきだと思ったのだが、捕まえた男が襲撃者の一人かも知れないと警備隊に説明するのが面倒だったのだ。そのため、もっともらしい理由をくっ付けて、同行していたエッカルトを呼んできてほしいと言ったのだった。

 それが、いい方向に働いたのはうれしいが、ラースのような大の男が感謝の意を伝えるため頭を下げてきたため、今更警備隊に説明するのが手間を省くためだったとは言えず、ニコルは大変困惑したのだった。

読んでくださってありがとうございました。

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