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傭兵ギルドの猫  作者: kay
第3章 精霊のいとし子
33/48

裏通りの攻防

「ジゼルのところに戻るのだったら、これを持って行ってくれない?」


「いいですよ。軽いですね」



 ユリアの家を出る際にジゼルに渡してほしいと、小包を受け取った。

 思ったよりも軽いので、何が入っているのかとニコルが不思議に思っていると、ユリアのお手製のお茶だと教えてくれた。



「いつもはジゼルが取りに来てくれるけど、最近このあたり物騒だから……」


「物騒なんですか?」


「ええ、この前に商業ギルドで聞いた噂なのだけど、セレストで行方不明になる人が何人も出ているらしいのよ」


「人攫い!? 」


「騎士団や警備隊から何の知らせもないし、はっきりしたことも分からないんだけどね」


「じゃあ、セレストに入るときに警備が厳しかったのって、その件もあったとか?」


「ニコルちゃんも帰るときは気を付けて? 大通りを通って、裏道には入らないようにね!」



 人攫いがあるという噂はカルロやジゼルからも聞かなかったため、ユリアの話には驚いた。ニコルはベルクマンの隊商の護衛で襲撃に遭ったことも気にかかっていたが、人攫いがあると言う噂が本当ならば、既に騎士団や街の警備隊には動きがあるのだろうと考え直し、今は目先の安全を優先することにした。




 ユリアの家を後にして、武器屋に向かう途中でジゼルが両手に大きな荷物を抱えて歩いていた。荷物が相当重いのかふらふらと足取りが危なかったため、ニコルは見かねて声をかけた。



「ジゼルさーん! 買い物帰りですか? 持って帰るの手伝いますよ」


「ニコルちゃん! 丁度良かった! 重くて申し訳ないけど、片方お願いしていい?」


「こう見えても力はありますから!」



 ニコルが片方の荷物を受け取ると、ジゼルは重みのある荷物から解放されたと言って微笑んだ。

 受け取った荷物の中を覗いてみると、果物を中心とした食材が大半だった。



「こういう食材って、届けてもらう物じゃないんですか?」


「いつもは運んでくれるんだけど。今日に限ってお店の人が怪我をして届けられないって言われちゃってね……。明日なら人が手配できるって言われたんだけど、流石に材料が足りなくなるのは目に見えてるし、仕方ないから私が買い出しに来たのよ」


「それだったら、メモを渡してダグさんにお使いを頼めばよかったんじゃ……。これかなり重いですよ?」


「力仕事はダグにお願いしてるけど、流石に食事に関することは人任せにできないからね」




 石段の街であるセレストは、荷車を使えないため、荷を運ぶには騎獣が良く使われた。宿に戻る道は大通りに比べれば少し狭かったが、騎獣の列が二人の横を通り過ぎたため、端に避けてすれ違うのを待っていた。

 ジゼルが羨ましそうに騎獣の列を見送ったところで、傭兵と思われる男がジゼルとすれ違いざまにぶつかってしまった。男はちらっと横目で眺めたが、何も言わずに立ち去った。

 感じの悪い男だとニコルは思って睨みつけたが、ジゼルが男とぶつかった拍子に落とした荷物がバラけてしまい、果物や瓶などが坂道を転がり出したため、二人は慌てて拾い集めに走った。



「ジゼルさんはここに居て! 拾ってくるから!」


「わかったわ、お願いね!」



 果物はすぐに拾うことができたのだが、勢いづいてしまった瓶は中々追いつくことができなかったが、数人の人が助けてくれたため、それほど遠くまで走らずにすみ、よかったとニコルは思った。


 下り坂を転げ落ちる果物を拾い集め、ニコルはジゼルが居た場所に戻ったのだが、ジゼルは荷物を残したままいなくなっていた。



「……あれ? ジゼルさん?」


「……」


「さっきまで、ここに居たのに……」



 見渡しても姿がないため、周りに居た人に聞いてみたが、分からないと言われてしまった。ニコルは焦って周りを走って探してみたが、ジゼルは見当たらなかった。

 途方に暮れたニコルが、ティアにジゼルの匂いを辿ってもらおうかと考えていた時だった。ジゼルの荷物のある場所からじっと座って動かなかったティアが、おもむろに起き上がり、裏通りに向かって走って行ってしまった。



「ちょ!? ティア何処行くの!?」



 治安の悪いと言われている裏通りにジゼルが居るとは思えなかったが、ティアが走り出してしまったため、ニコルは近くの店にジゼルの荷物を預け、剣を片手にティアの後を追いかけた。




 人がかろうじてすれ違える程の幅しかなく、表通りの店の荷物と思われる木箱があったり、水たまりがあって滑りやすくなっていたりする場所もあり、通り難いことこの上なかったが、ティアの姿を見失わないようニコルは駆けた。

 途中何度か道を曲がって、帰り道が分かるか不安になった頃、ティアが立ち止まった。



「ちょっと、ティア!?」


「……」



 ティアに向かって文句を言おうとしたニコルだったが、道の奥から聞こえてきた誰かが暴れるような物々しい音を聞き取り、口を噤んだ。

 ニコルは物音の正体を確認すべく、気配を消して物陰に隠れるように移動した。



「…ちょうど、………あと……か…」


「もう一人は……する?」



 二人の男の声が聞こえた。それほど距離は離れていないはずだが、声を抑えているせいか、会話はそれほど聞き取れなかった。

 相変わらずもがいている音が聞こえるため、会話をしている男達とは別にほかにも人が居るのだろう判断し、ニコルが物陰から男達の様子を伺おうと、物陰から覗いた。

 ニコルが見たのは、話をしている二人の男。それと穀物を入れるような大きな麻袋を担いだ男だった。麻袋の中身は容易に人であると判断できるほどの大きさで、喚きながら暴れていた。



「まさかと思うけど、あの麻袋の中身がジゼルさんとか言わない……よね?」


「……ふん」



 ティアが察しろと言わんばかりに、鼻を鳴らし、ニコルは溜め息をついた。現状はかなり悪そうだった。



「うわぁ……。これ、どう見ても犯罪現場じゃないか……」



 男の一人にニコルは見覚えがあった。カルロと入った酒場で見かけた二人組の男のうちの一人だった。朝袋を担いでいる男の顔は見えないが、他の二人よりも体格がいいため武器を持っていた場合は一番手ごわそうに見えた。

 現状を見る限り、麻袋の中身は確実に人間で、ユリアから聞いていた人浚いをしている犯人と見て間違いなさそうだった。


 ニコルの背筋に冷たいものが伝った。現状をどうにかしたくても、むやみに飛び出せば三対一の多勢に無勢。応援を呼びたくても、この場所にはニコルの他はティアしか居ない。しかもニコルが居る場所は裏通りのため分かり難い。もし、応援を呼べたとしてもここに辿りつくまでに時間がかかりそうだった。

 八方ふさがりの状況だが、ニコルは相手が他の仲間と合流する前に、ジゼルを助けたかった。

 無謀な賭けになるが、やるしかないと考え左手に持った剣を強く握りしめた時だった。



「グルルルゥ!!」


「ちょっ! ティア!?」



 剣を抜こうとしたときだった、ニコルはジゼルの奪還を決めたが、まだ心の準備も整わないうちにティアが飛び出してしまった。



「なに!? なんでこんなところに、魔獣が!!」


「おい! そっち行ったぞ!」



 ティアは手前に居る二人組は眼中にいれず、麻袋の男を目掛けて牙をむいた。

 ニコルは、なし崩し的にティアの奇襲を受けた二人組に雷系の魔術を放ち、剣を抜いた。 二人組を目掛けてはなった魔術は、一人に直撃し男は崩れ落ちた。

 麻袋の男がティアにかかりきりになっているため、ニコルの相手は必然的に魔術の直撃を避けた男のみになった。



「あー、もう! なんでこうなるかな! ティア、自分で飛び出したんだから一人は確実に捕まえてよね!!」


「!? 貴様!」


「えっと、どこかで会ったっけ!?」



 男はニコルの姿を確認すると忌々しげに睨みつけてきた。人攫いの現場をぶち壊しただけにしては憎々しげな様子だったため、どこかで会ったことがあっただろうかとニコルは首を傾げたが、剣を抜かれてしまってはこちらも相手をせざるを得なかった。

 狭い場所では剣を横に薙ぎ払うこともできず、打てる手は限られている。にらみ合いが続いたが、剣を持つ男の腕がわずかに下がっているのを見て、ニコルは一気に攻め込んだ。


 男は不意打ちを食らったが何とか攻撃を防ぎ切ったものの、鍔迫り合いに持ち込んだ。ぎりぎりと不快な金属の音が響き、相手が体格の良い男であったため、ニコルは腕力の差で不利だった。

 じりじりと押され気味になったものの、ニコルは男の右腕に巻かれた包帯に気付いた。

 ニコルが包帯をするような怪我を負わせたのは隊商を襲撃した者たちだけだった。それに、男がニコルを見る目は初対面の者を見る目ではなかった。



「あんた、まさか……」


「チッ!」



 ニコルは襲撃者たちの顔をはっきりと覚えていなかったが、相手の反応を見る限りおそらく間違いないだろう。

 何とか相手の剣を弾き返し、距離を置くことができた。相手はちらりと後ろを見て逃げ道を模索しているようだったが、あいにく男の後ろには麻袋の男と対峙しているティアが居た。

 逃げることもできず正体がばれてしまった男だったが、逃げられない以上はニコルの口封じをしなければならないと考えたようで、先ほどとはくらべものにならないほどの力で斬りかかってきた。

 この力で打ち込まれると危ないと思ったニコルだったが、相手が斬りかかってくるのを半歩飛び下がることで躱した。仕留めようとした一撃が躱されたことで焦ったせいか、若干の隙ができたのをニコルは見逃さなかった。腰に下げた短剣を投擲すると、低いうめき声が上がった。短剣が当たったか否かを確認する暇はなく、ニコルは男がよろけたところに雷系魔術の麻痺効果を与える一撃を入れ、念のため剣の鞘で殴り飛ばすと、男は力なく崩れ落ちたのだった。




読んでくださってありがとうございます。

久々の戦闘シーンです。

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