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傭兵ギルドの猫  作者: kay
第3章 精霊のいとし子
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ダグのお茶とジゼルの朝食

 ニコルはずしりとした重みで目が覚めた。

 小鳥の鳴き声は聞こえるが、部屋にはまだカーテンの隙間から光は届いておらず、空がうっすらと白んできた頃だろうと、ぼんやりとした頭で考えていた。

 腹に感じる重みの正体を確かめるべく、手を動かすとサラサラとした心地の良い手触りがあった。



「……ティア。重い」


「くるるるる」



 上半身を起こして現状を確かめると、ティアの頭が布団の上に、右前脚がニコルの腹の上に乗っている状況だった。少し息苦しいニコルをよそに、ティアは寝言なのか機嫌がいいのか分からないが、喉を鳴らしていた。子猫ほどの大きさだった幼獣時代に、一緒のベッドで寝ていたのが悪かったのだろうと、ニコルはぼんやりした頭で反省した。


 宿屋で一緒に泊まるときは、頭を腹の上に乗せてみたり、見た目よりも重い尻尾を腕に巻きつけるように寝てみたりと、必ずと言っていいほど体の一部がニコルに密着していた。

 ティアを退かそうと試みるも、下手に動かそうとすると爪が引っ掛かり、シーツや服を破きかねなかったため、少し重いがいつものことだと諦めることにした。




 ニコルがしばらくティアを撫でながらぼんやりしていると、中庭の方から物音が聞こえてきた。ティアは起きる気配はないが、ぴくぴくと耳が動いている。

 何かを振り下ろす音と木が割れる音がしているため、誰かが薪を割っているのだろう。空も大分明るくなってきたため、ニコルが動き出そうとすると、ティアも目を覚まし大きく欠伸をしながら伸びをした。




 外で薪を割る音が聞こえているとはいえ、朝食にはまだ早い。鍛練をするには宿屋の中庭では狭すぎたため、ニコルは部屋の中で無理のない程度の体術の型を一通り浚うことにした。

 鍛練を終えて、顔を洗いに厨房の裏手にある中庭の水場に向かうと、ダグが厨房に水瓶をかついで運び入れているところだった。人間よりも体が丈夫な獣人なだけあり、大の男が音を上げそうな大きさの水瓶を軽々と持ち上げていてニコルは素直にすごいと思った。

 食堂に顔を出すと、ジゼルが厨房で忙しそうに動き回っていた。ニコルが食堂に入ってきたことに気が付くと、わざわざ厨房から顔を出してきた。



「おはようございます」


「あら、ニコルちゃんおはよう。昨日は遅くに帰ってきたみたいだけど、二日酔いとか大丈夫?」


「ええ、それほど飲まなかったので」


「朝食までもう少し待ってくれるかしら!」


「わかりました」



 朝から賑やかなジゼルを眺めつつ、ニコルは食堂でダグに入れてもらったハーブティーを啜り、朝食ができるのを待つことにした。

 ジゼルが当たり前のようにダグにお茶を入れるように言ったので、てっきりおいしいお茶が出てくるものだと思ったが、色は兎も角、味が薄いお茶が出てきてニコルはまじまじとダグの顔を二度見してしまった。



「……すまない、ジゼルのようには茶は淹れられない」


「いえ、私が淹れるよりはおいしいです」



 武装すれば傭兵に見える体格の獣人の男が、気まずそうにしょんぼりと耳を伏せている様子を見て、ニコルはどう反応すればいいのか分からず、視線を逸らしてカップに残ったお茶を飲み干した。

 しばらくして、他の宿泊客が騎獣連れで食堂にやってきた。行商人と思われる男と、傭兵の二人組だった。騎獣はそれぞれ大きな犬の魔獣だったため、一瞬ティアが威嚇のために体を起こしたが、ニコルが頭を撫でると気がそれたのか再び伏せの状態に戻った。



 ジゼルの用意してくれた朝食は焼き立ての黒パンとセレストの北部の特産の山羊のチーズと野菜の沢山入ったスープだった。黒パンは焼き立ての為、外はしっかり硬かったが、中は暖かくふんわりとしていた。スープの根野菜はスプーンでつつくとほろりと崩れてしまう程良く煮込んであり、野菜の甘みでやさしい味で朝食にぴったりだとニコルは思った。



「ニコルちゃん、お味はどう? 」


「とてもおいしいです。ここに来るまで野営中も商人さん達が料理を作ってくれましたけど、男の料理! という感じだったので……」


「ふふふ、ありがとう! スープはおかわり自由だけどどうする? 今日はお客さんがそんなに居ないから何か足りなければ追加もできるわよ」


「え!? これで十分ですよ?」


「ダメよぅ! 男の子がそんなに遠慮しちゃ! 確か腸詰肉があったから、ボイルしてこようかしら……」


「いえ、遠慮している訳じゃなくてですね……。朝からそんな量は食べられないですよ。それに、昨日は遅くまでカルロと酒場に居ましたし、私にはこれで十分です!」


「そうなの? でも、おかわりしたくなったらいつでも言ってね? 私は厨房の方に居るからー」



 ジゼルが成長期の男の子は肉を食べるべきと言い、気を使ってボイルした腸詰肉を出そうとしたが、朝からそんなに多くは食べられないとニコルは丁重に断った。

 朝食後、ダグが裏方にジゼルを引っ張って行き、昨日頼んでおいた洗濯物を受け取るのと同時にジゼルに謝られたため、ダグが性別の訂正をしてくれたのだろうなとニコルは思った。



「ジゼルさんとダグさんは夫婦なんですか?」



 洗濯物を受け取るついでに、疑問に思っていたことを聞いてみた。初めに二人に会った際に、騎獣が好きなジゼルと、獣人のダグはお似合いの組み合わせに見えたのだが、ダグがあまりに接客慣れしていないのが疑問だったのだ。



「やぁねぇ! 私みたいなオバさんのところにダグみたいないい男が来るわけないじゃない。ダグは神官さんの紹介で半年前から働いている臨時従業員よ」



 魔力の多い魔法国の民は総じて他国の民よりも寿命が長く、見た目と実年齢の乖離が激しいことが多い。

 ジゼルとダグは同年代くらいに見えるため、ニコルはジゼルが自身をオバさんと言うほど年齢が離れているとは思わなかった。



「神官さん? ってあの体格の良いエルフの?」


「あら、神官さん知ってるの? ダグはお姉さんが亡くなって甥っ子が行方不明になったらしくてね。ダグはセレストを拠点に探したいと神官さんに相談して、ここを紹介されたのよ」


「すみません、部外者が立ち込んだことを聞いてしまいました」


「いいのよ、人探しをするなら協力者が居ないと無理だもの。ニコルちゃんも傭兵なんでしょ? ダグのお姉さんも傭兵だったみたいだし、何か知っていることがあれば教えてあげてね?」



 神官が職業の斡旋をするのかと疑問に思ったことがするっと口からこぼれてしまったため、ニコルは気まずくなった。だが、ジゼルは人探しをするには人手は多い方がいいと言い、気にしなくてもいいと言った。ただ、当事者のダグの居ないところで、突っ込んだ話を聞いてしまったため、ダグに対して少し申し訳なく思ったニコルだった。




 洗濯物を置きに来ただけなのだが、ずいぶんと長話になってしまったため、昼寝中のティアを置いて食堂に戻った。朝食の時間も終わり、他の客は既に出払っていたため、食堂はがらんとしていた。

 少し席を外していたジゼルがお茶を淹れてニコルに前に出す。ダグが淹れたお茶と同じ香りがしたため、恐る恐る口を付けた。香りも味も違いニコルは素直においしいと思った。



「淹れ方ひとつで、こんなに味が違うものなんですね……」


「そりゃね、ダグはまだ練習中だもの。不味かったでしょ?」


「そ、それなりにおいしかったですよ? 欲を言えば、もう少し味があればって思いましたけど」


「あはは! ニコルちゃんは正直ね。キチンと量って淹れてねって言ってるんだけど、お客さんの反応を見れば変わるかなぁと思ったんだけど、ちょっと無理だったか」



 客に練習中のお茶を飲ませるなと思ったのが顔に出ていたのか、ジゼルはカラカラと笑い、カルロの知り合いなら大丈夫だろうと思ったと言い、ニコルを大いに脱力させたのだった。

 



読んでくださってありがとうございます。

前回の更新から時間が空いてしまい、すみませんでした!!

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