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傭兵ギルドの猫  作者: kay
第3章 精霊のいとし子
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精霊のいとし子

 宿屋『ジゼルの止り木』を出て、襲撃を受けた際の片手剣の手入れを依頼するために武器屋に行った。

 武器屋の店主が酒場に行って留守だったため、店番に剣の砥ぎだけ依頼することにした。ニコルは、昼間から酒場に行くような店主で大丈夫なのかと眉をしかめていたが、カルロと店番が腕だけは保障すると執り成したため、一応信用することにしたのだった。



「……本当にあそこの武器屋は大丈夫?」


「不安なるのも分かるけど、腕は良いから、うちのチームはみんなあそこの武器屋を使ってるぜ?」


「まぁ、借りた剣のバランスは悪くないから、腕のいい職人なのだろうけど、昼間から酒とか……」


「……多分、会えば納得するから心配しなくても大丈夫だ、と思うぞ?」



 普段から武器は手放さない主義のニコルは、丸腰になるのを嫌がったため、代用の片手剣を借りている。剣を借りる際に軽く振ってみて一番しっくりくるものを選んだが、代替品のどれもがバランス良く作られており、ニコルは良い店なのだろうと判断した。

 ただ、懸念があるとするなら店主が昼間から酒を飲みに留守にしているという点である。カルロが少々ニコルの不安を煽るような発言をしているが、既に愛用の剣は預けてしまったため、引き返すわけにもいかず、ニコルは諦めて空を見上げた。



 アンジェラに頼まれた街の情報を探るべく、ニコルはカルロの案内で街の中を見て歩いたが、特に名産品と言えるものを扱っている店はなかった。

 カルロはセレストを拠点にしているが、ニコルが話を聞いても飯屋か酒場くらいしか、出てこなかったため、早々にカルロに頼るのは諦めた。むしろ、ベニトアと違う部分を探す方が難しいのではないかとニコルは思った。

 これといった名所はないセレストだが、一日で街中を見られるほど小さい街ではない。まだ夕暮れには早いが、日は大分傾いている。



「うーん……。家の形と街の構造が違うだけで、お店はベニトアと対して差はないね」


「そりゃそうさ。しいて言うなら、周の森で採れるものとか、北の岩場で育てた山羊のチーズが名産ってとこじゃないか?」


「チーズか、それはちょっと食べてみたいかも知れない。あ、あそこにある大きな木は?」


「あれか? 俺も詳しくは知らないけど精霊木って聞いた。なんでも、この街ができる前からあるって話だ」


「精霊木? 近くで観ることは出来る?」


「俺も行ったことないけど、特に、治安の悪い地区じゃないし大丈夫じゃないか?」


「いや、そろそろ日も暮れそうだし、そっちは明日行くから良いよ」



 街の端に居ても見える程の大木のため、カルロの案内が無くても問題がなさそうだと判断したニコルは、精霊木を見に行くのを明日に回すことにした。カルロががっかりした様子だったが、飲みに行こうと促すと機嫌が直ったようだった。

 調子よく早く行こうと促してくるカルロを見ていると、同い年だが弟が居たらこんな感じなのだろうかと、カルロが聞いたら怒りそうな事をニコルは考えていた。





 二人で入った酒場は、朝食を食べた屋台の店だった。昼間は食堂になるであろう店内は、ある程度の広さがある。席はほとんど開いていなかったため、二人組の男がいるだけで、まだ席が空いているカウンターに座った。



「カルロと今朝のにいちゃんじゃねぇか! よく来たな!」


「どうも」


「とりあえず、エールでいいか?」


「それでいいよ」


「親父っさん、エール二つ! あとは何か食うもん」


「はいよ! ちょっと待ってろ」



 店主は今朝方会ったニコルのことを覚えていたらしく、カウンターに座ると声をかけてきた。威勢のいい声で注文を受けると、樽からエールを注ぎ二人の前にドンと置いた。

 カルロは目の前のエールを一気に飲み干し、ニコルの目を丸くさせた。



「飲まないのか?」


「飲むよ? カルロはお酒強い方なんだ?」


「いや、普通。俺が知っている中で一番強いのは、ベンノさんだな。あの人はザルと言うか、ワクだ!」


「へぇ、あんまり飲まなそうに見えるけど」



 カルロのチームの副隊長である、人の良さそうな中年傭兵を思いだし、人は見かけによらないとニコルは思った。

 昼間は色々な場所を歩いたため、喉が渇いていたためニコルもエールで喉を潤した。樽に冷却の魔道具が仕込んであるのだろう、よく冷えたエールの冷たさが心地よかった。



「今日は、案内ありがと」


「い、いや。大したことないよ!」


「来たことのない場所だと、どうにも目的地に着けないんだよねぇ」


「そうなのか?」


「うん、昨日だって宿屋がどこだかわからなくて、なんとなくティアについて行ったら神殿に着いたんだよね」


「……ニコルって方向音痴なのか?」


「別に方向音痴ってわけじゃないよ? 目印になるものが分かれば普通に目的地にはたどり着けるし?」



 ニコルはセレストに着いたら宿の場所を聞いておけばよかったと、店主が運んできた煮込み料理をつつきながら言った。カルロは、赤猫について行くくらいならベルクマンに聞けばよかったのにと語ると、ニコルはその通りだと笑った。

 


「おかげで宿屋も決まったし、よかったよ」


「そっか、ジゼルさんもダグさんも良い人だから、安心していいぞ」


「そうみたいだね。あ、ジゼルさんってカルロの初恋だったりする?」


「な、なんで!?」


「ふふふ、イレーネの時も胸に目がいってし、ダグさんがカルロを睨んでいたから、多分そうなんだろうなと」



 ニコルがジゼルに会った時のカルロの様子が、妙に熱っぽかったため、そうではないかと思ったと伝えるとカルロは真っ赤になって頭を抱えてしまった。

 店主が二人の会話を聞いて笑いをかみ殺している。



「はぁ……、なんでバレるかなぁ」


「カルロは分かりやすすぎるんだよ。全部顔に出るし、視線は胸にいってるし?」


「マジか……」


「まぁ、ジゼルさんがいい人だっていうのは見てわかったよ。あそこまで純粋に騎獣が好きで、ティアに初見で逃げられる人は初めて見たけどね」


「……ジゼルさんだからな」



 カルロが訳のわからない理屈を言っているが、ジゼルが普段から騎獣に避けられる体質なのだろう。

 ティアは自分が敵わない人間には近寄らないが、宿屋で働いているジゼルがティアに勝てるかと聞かれると、答えは確実に否だ。一緒に働いているダグはどうだかわからないが。ニコルはジゼルとティアが対面したときの様子を思い出し、ある可能性にたどり着いた。



「もしかしたらジゼルさんは精霊の愛し子なのかも知れないね」


「精霊の愛し子?」


「精霊に好かれて加護を貰った人の事なんだけど、聞いたことない?」


「俺は初めて聞いた。騎獣に嫌われてるジゼルさんが、その精霊の愛し子なのか?」


「まぁ、あくまで可能性の話だよ? その人を加護している精霊が騎獣に嫉妬して威嚇したりすると騎獣が近寄らなくなったりするんだよ」


「へぇ……。なんかすごいな、精霊って神殿で祀ってるあれだろ? 俺なんか聞いたこともなかったぜ?」


「うちは、母さんが精霊の愛し子だからね。その辺りは色々聞かされたんだ」



 『精霊の愛し子』はそう多くはないが、精霊と人間の橋渡しをする存在として神殿に保護される存在でもあった。

 ニコルの母であるアデーレは、火の精霊の加護がある。幼獣だったティアを連れてきた時には、精霊が脅しをかけたせいで、ティアが毛を逆立ててアデーレを威嚇していたと話すと、それならジゼルもそうなのかも知れないと納得したようだった。



「傭兵で二つ名が着いている人に多いんだよ。加護持ちは寿命が延びたり、魔力が多かったり、妙に魔法を使うのが上手かったり……」


「なんかすごいな!」


「まぁ、加護を貰うって言ったって精霊の気まぐれだし、魔力が多いから調べてみたら、ただの魔力が多くて器用な人だったってことも多いみたいだし」


「仰々しい名前がついてる割に、そんなもんなのか?」


「そうだよ? 魔法国じゃほとんどの人が魔力を持ってるから、器用な人って認識だけだしね。逆に帝国じゃそうはいかないみたいだよ」


「あぁ、あそこはな……。一度だけ依頼で行ったけど、魔力があるってわかれば差別の対象だからな。魔法国出身ってだけで、宿にも泊まれなかったんだぜ?」



 隣国であるラドラム帝国は古くから魔力がある者を排除してきた国である。ウィスマリア魔法国との国境近くはそれほど差別も強くないが、帝国の首都に近い場所になると、魔法国出身と言うだけで街に入れないという噂もある。

 魔力を持っている者は、持たない者よりも遥かに長寿である。元々、魔力保持者が生まれ難い土地では、老いずに居る者を気味悪がり迫害することが多く、帝国の魔力保持者の迫害はそこからくるのだろう。


 

 気分の悪くなる話を区切るように、カルロは三杯目のエールを頼み、勢いよく煽って飲み干し、ニコルもそれを真似るように残りのエールに口を付けたのだった。


読んでくださってありがとうございます。

ようやく章の本題に入ることができました。


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