宿屋『ジゼルの止まり木』
商業ギルドでは、看板の統一化を行っており、加入している店は何処も似たような趣向の看板が多い。宿屋も同様で、宿屋を表す寝台とランプのほかに、店名が書いてあったりとその店独自の趣向が凝らしてあったりする。
カルロが案内した店は、『ジゼルの止り木』と言った。騎獣も一緒に泊まれる事を表現したかったのだろうが、宿屋の印と一緒に猫なのか犬なのかよく分からない生き物が描かれていた。
「セレストで騎獣も泊まれる部屋だったら、ここが一番だと思う」
「ってことは、他にもあるの?」
「あるにはあるけど、ここの女将さん、ジゼルさんっていうんだけど、知り合いに騎獣使いが居るなら紹介しろって……」
「……なるほど」
「あ、でも。ものすごい騎獣好きでいい人だから安心していいぞ!」
「なんか、ものすごく不安になるけど、まぁいいか」
カルロが顔をそむけながら言い訳をするのを見て、ニコルは一抹の不安を覚えたが、商業ギルドに加入している店には変わりないため、深く考えるのを止めた。
扉を開けたベルの音を聞いた女性が奥から姿を現した。たっぷりとしたこげ茶の髪を結い上げて、若々しく見えるが落ち着いた雰囲気で年齢がわかりにくい女性だった。
内装は騎獣も宿泊可能なだけあり、ゆったりと広めのスペースがとられた食堂が目に入った。色に反応する騎獣も少なからずいるため、自然の色を基調とした家具に、店主の気遣いが感じられるつくりだと、ニコルは思った。
「いらっしゃい! あら、カルロ君」
「こんちわ、ジゼルさん」
「あら、きれいな子じゃない! 傭兵さん?」
「この前の仕事で一緒だったんだ。騎獣連れで泊まりたいっていうから連れてきた」
カルロがニコルを紹介すると、ジゼルはにっこりとほほ笑み、宿屋の説明をしてくれた。
通常、騎獣も泊まれる宿は一般的な宿よりも高額になる。二人で宿泊するよりも安いが、節約をしつつ旅をするニコルにとっては痛い出費だが、身の安全を考えれば、ティアと一緒に泊まった方がいいと考え、その辺りは割り切って考えることにしていた。
「一泊朝食付で半銀貨一枚ね。騎獣も一緒の部屋に泊まるなら追加料金で銅貨3枚ってところね。裏手の獣舎にするなら、銅貨1枚よ。もちろん騎獣もご飯付き。料金は前払いだけど、予定を切り上げるときは、手数料を引いた形で返金するわ」
「騎獣と同室の三泊でお願いします」
「銀貨2枚と銅貨4枚ね。あと、宿帳に名前を書いてちょうだい」
釣りが出ないよう、ニコルが宿泊費を支払い宿帳に名前を書いた。宿帳には、ニコルの前に数名の名前が書いてあった。
「ひーふーみー、ちょうどぴったりね! あ、騎獣って何の種類? 犬・猫どっちかしら? 他のお客さんの騎獣との相性もあるから、教えてくれない?」
「グルナ・ランクスです。おとなしいとは言えないですが、私が一緒に居れば他の騎獣と喧嘩はしないかと……」
「じゃあ、猫ちゃんね。猫部屋に案内するから赤猫ちゃんをきれいにして連れてきてね。カルロちゃんは、ここで待っててちょうだい」
宿屋の入り口前で待たせてあったティアを迎えに外に出る。きれい好きなティアは薄汚れてはいないが、ニコルは念のため浄化魔法できれいにしておいた。
ティアを連れてくると、ジゼルの目がうれしそうに輝いた。
わきわきとティアを撫でようとにじり寄るジゼルに、ティアは耳を伏せてじりじりと後退している。
普段からニコルやニコルの家族以外の人間を見るときは、見下しているかの如くふるまうティアだったが、初見の人間に対して怯えを見せるのは初めてだった。
「もう! いつもこうなのよ! もふもふを堪能したくて騎獣も可ってしてるのに!」
「あ、あの……。ジゼルさんって」
「動物好きなのに、動物から嫌われる質なんだ」
所見で嫌われたジゼルはがっくりと肩を落とした。カルロもいつものことだから気にするなとニコルに言ったが、落ち込んだジゼルをどうやって励ましたら良いのかニコルには検討が付かなかった。
どうしたものかと、悩む二人の奥からジゼルに声をかけたのは獣人の男性だった。特徴的な耳の形から、狗族だと分かった。尻尾が邪魔にならないよう作られた民族衣装から、ふさふさとした尻尾を覗かせて、ジゼルの肩を叩いた。
「ジゼル……。騒いでないで、部屋に案内してやれ。客を放っておくんじゃない」
「うー。ごめんねぇ、つい夢中になっちゃって」
「悪いな、坊主。後で説教しとくから、今日は許してやってくれ」
「あ、いえ。ティアは私以外に懐かないんで、仕方ないかと……」
「そう? じゃあ、部屋に案内するから付いてきて」
ジゼルに案内されて通されたのは、一階の中庭に面した一室だった。一般的な宿よりも少し広めの部屋は騎獣も一緒に泊まることを前提にしている作りだった。シングルベッドが一つに机や椅子といった最小限の家具に、騎獣用の寝台も用意されていた。
ティアは早速、寝台の臭いを嗅いでいたが、特に気になる臭いもなかったのか、自分の場所と決めたようだった。ういった騎獣も泊まれる宿は生活魔法である消臭を必ず行っているため、部屋や寝台が獣臭くなることはない。むしろ、香草や花で作られた室内香のさわやかな香りが快かった。
「良い部屋ですね。落ち着きます」
「ふふふ、気に入ったみたいで良かった。鍵はこれね、出かけるときは私か、さっきの獣人のダグに預けてちょうだい」
「分かりました」
「洗濯物は有料だけど、部屋の入口のところの籠に入れてくれれば洗っておくわよ?」
「あ、いくつかあるので頼んでも良いですか?」
「じゃあ、持っていくからその籠に入れてね。ほかの細かいことはそこに書いてあるから読んでみて? 分からなかったら、いつでも聞いてね」
大まかな説明をしたジゼルは、ニコルから預かった洗濯物を抱え部屋を後にした。カルロは食堂でダグと話しをしているようだった。
ティアの荷物を解き、貴重品と武器を持ち歩けば大丈夫だろうと思い、服などはそのまま部屋に置いておく。
部屋でゆっくりしたい気持ちもあったが、この後はカルロに街を案内してもらうことになるため、ティアを連れていくかどうか迷ったが、一緒に行きたがったため、結局連れていくことにした。
「部屋はどうだった?」
「良い部屋だったよ。ジゼルさん、これからカルロに少し街中を案内してもらうので、鍵を預かってもらえますか?」
「いいわよ。夕食もここで食べられるけど、どうする?」
「今日は俺と飲む予定だから、夕飯はいらないよな?」
「そうだね、すみませんジゼルさん。夕食は食べてきますから大丈夫です」
「分かったわ。最近、物騒な人たちが多いから、気を付けてね」
「いってきます」
ジゼルに部屋の鍵を預け、夕食はいらない旨を伝えた。
出かける間際にジゼルが言っていた物騒な人と言うのが気になったが、カルロが先に宿屋を出て行ってしまったため、ニコルも追いかける用に宿屋を後にしたのだった。
読んでくださってありがとうございました。
今回は、前回よりも早くに更新できたか、な?
総合評価が300ptを越えましたので、次回の更新までに活動報告にてお礼のSSを乗せておく予定です。
ジゼルさんが出てきたので、今回もティア中心の話しにしようかな。
何か、リクエストがある方がいらっしゃったら、活動報告でコメント宜しくお願いします。




