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傭兵ギルドの猫  作者: kay
第3章 精霊のいとし子
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街案内

「カルロ、何してんの?」


「え、いや……」


「他の人の邪魔になるから、落ち着いた方がいいんじゃない?」



 ティアを連れて傭兵ギルドの入口に戻ると、カルロが落ち着きなく入口の前をうろうろしていた。これでは、傭兵ギルドに用事がある人も近寄りがたいだろうと思い、ニコルは少し離れたところからカルロに声をかけた。

 カルロも周囲の視線に気がついたようで、気まずそうにしながらニコルの元に駆け寄ってきた。



「街を案内するけど、まず何処に行きたいんだ?」


「とりあえず、朝ごはん。それから、ティアと一緒に泊まれる宿と商業ギルドに寄りたい」


「分かった。まずは朝飯だな。大まかな場所は歩きながら説明するのでいいか?」


「任せるよ」



 ニコルはカルロに行きたい場所を言うと、カルロはまずは朝食を取ろうと屋台の多い通りを目指して歩き出した。

 ニコルはカルロの隣を歩く。人通りはそこそこ多いため、ティアはニコルの隣を歩けず、渋々後ろを付いてきた。しかし、自分を差し置き何故こいつが主人の隣を歩くのかと言いたそうな不機嫌な唸り声を上げたため、カルロの背筋には冷たいものが流れた。





 段差の多いセレストだが、細い通路も整備されている。

 セレストは扇状の街である。扇の要の部分にあたる場所に、セレストの領主が住まう城や騎士団がある。セレストの政治の中心ともいえる場所は一の郭と言われる壁で区切られており、有事の際には、敷地内に住民を避難させることを目的としていた。一の郭の外側には、扇状に商家や住宅街が広がっている。扇の外側に住宅街が多く、内側には商家が立ち並んでいる。東側の通りは花街となっており、その周辺には住宅街は少なかった。


 カルロが連れてきたのは、定期市が開かれている城壁前の広場の屋台だった。各地から商人が仕入れてきた珍しい商品が並んでおり、商人のほかにも市民や子供も多く、祭りのような雰囲気だった。



「ニコルは何食いたい?」


「何でもいいけど、朝からこってりしたのは食べたくない」


「ははは、俺は別にどっちでも平気だけどな! そこの屋台はどれでも美味いぜ」


「へぇ。じゃあ、この蒸し鶏とセルの実ソースってやつ」


「毎度!」



 カルロが案内した店は、普通の屋台だった。中心街に店舗があるのだが、定期市や祭りの時はそちらに客を取られてしまうため、こういった市の時には屋台を出しているらしい。

 ニコルは屋台の隅に書かれた品書きを見て、食べたことのない物を頼んだ。



「おっちゃん! 俺はいつものね!」


「はいよ。そっちのきれいな兄ちゃんは友達か!?」


「依頼で一緒だったんだ」



 商魂たくましい店主に感心しながらも、カルロは店主にからかわれているようだった。店主が常連に絡むのはよくある光景だと思い、ニコルは特に気にすることもなく蒸し鶏と付け合せの野菜をパンに挟んでかぶりついた。

 蒸した鶏肉は程よく油が抜けてあっさりとしている。野菜と一緒に食べると味が塩味だけで物足りない感が否めないが、油分が多い木の実の一種であるセルの実のまろやかソースが絡まると野菜のうまみも合わさって、とてもおいしく感じられた。



「旨いね、これ」


「はっはぁ! そうだろう、俺の自信作だ! カルロも好き嫌いしちゃぁいけねぇよ!こっちの兄さんみたいになれねえぞ!」


「うるせぇ! こっちはまだ成長期なんだよ!」



 ニコルが食べた感想を言うと、店主は豪快に笑った。カルロは店主からニコルよりも幾分低い身長のことを指摘され、ふてくされながらも店主から渡された肉を挟んだうす焼きのパンにかぶりついた。




 食べ終わり、屋台の側を離れ市場の商品を冷やかしながら歩く。

 商業ギルドは街の中心地に作られることが多いが、セレストは坂が多い地形のため城門の近くにあった。定期市が開かれている広場に近い場所にあるため、こちらも人通りは多い。



「ここが商業ギルドだけど、寄るのか?」


「寄らないよ。あとで、依頼の報告をするから場所を覚えようと思って」


「へぇ、じゃあ後は宿屋だな。宿屋の後はどうするんだ? 飲みに行くにしても時間は大分あるぜ?」


「うーん……。行きたいところって言っても、後は武器屋くらいだから、カルロに任せるよ」


「お、おう」



 商業ギルドはアンジェラの依頼が終わらない限り寄ることはないだろう。銀行を使うにしても、傭兵ギルドと連携を取っているため、特にここを使う必要はなかった。

 商業ギルドの外観はセレストの住居とは異なり、大きな商館のように見える建物のため、広場に来れば何とかなるだろうとニコルは思った。

 太陽はまだ中天にも達しておらず、ニコルは宿屋の案内を頼んだ後の予定は特に決めていなかったことを、カルロに言われて気が付いた。先日の襲撃で愛用の片手剣が刃毀れをしていたため、武器屋に行こうとニコルはカルロに言った。武器屋に行ったとしても、夜になるまでそれほど時間がつぶせるわけではないため、その後の予定をカルロに丸投げした。



 定期市の人通りは、街中に行くほど少なくなっているが、宿屋が多く立ち並ぶ地区は例外的に人通りが多かった。マナッセでは女の媚びた感じの客引きが多かったが、セレストではそのような光景は見られなかった。



「普通な感じの宿屋が多いね」


「そりゃそうだよ。無理な客引きは取り締まりの対象になるんだよ」


「その辺はマナッセとは違うんだな」


「そんなことしたら、花街の胴元が黙ってねぇよ」


「胴元?」


「ああ。領主の膝元って言っても、治安が悪い場所はあるからな、そういうところに柄の悪い奴らの元締めが居るんだよ」


「そうなんだ? まぁ、セレストに限らずそういった人は何処にでもいるもんだね」


「俺は直接知らないけどな。治安が悪いところの顔役だったりするから、トラブルがあった時には出張ってくるらしいぜ?」


「なるほどねぇ……」


「裏路地に一歩入ると、奴らの縄張りだったりするから、通るんだったら大通りにしとけよ」


「わかった」



 裏の顔を持つ人間は何処にでもいるものだと思い、面倒事には巻き込まれたくないため、カルロの忠告にニコルは素直に頷いた。



読んでくださってありがとうございました。


2013/06/20加筆修正

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