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傭兵ギルドの猫  作者: kay
第2章 旅路
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閑話 元見合い相手の話

ニコルは出てきません。クルーガー傭兵団の一室での話です。

「こちらの都合で申し訳ないが、見合いはなかったことにしてほしい」



 ウォーレン・ブロウは見合いを断られたことにショックを受けていた。別に自らの容姿に自信があるわけではなく、見合いの相手に淡い恋心を抱いていたからだ。


 見合いの相手はクルーガー傭兵団の団長夫婦の娘、ニコルと言う名前で年齢は17歳になったばかりだという。クルーガー傭兵団と何度か一緒に仕事をした際に、彼女の人柄に触れ、傭兵という仕事をするうえで彼女ならば自分と一緒に歩んでくれるのではないかとウォーレンは思っていた。



「すみません、自分のどこが至らなかったのでしょう?」


「あー、ううむ……。君が悪い、というわけではないんだが……」


「では、なぜ……」



 ウォーレンはどうして見合いを破棄されたか疑問に思った。一緒に仕事をした際にテオドールはウォーレンの事を高く評価してくれていると聞いていたし、ウォーレン自身も他人に迷惑をかけるような恥ずべき行いはしていないと思っていたからだ。

 むろん、ウォーレン自身があずかり知れぬところで多大な迷惑をかけたことがあるかもしれないが、そういうところがあるのならば改善するつもりだった。


 仕事の時は毅然とした態度のテオドールだったが、ウォーレンの返答に困ってしまった。見合いを断った理由がウォーレンのせいではなく、テオドールがニコルのために立て続けの見合いを組み、それに嫌気がさしたニコルの家出が原因だとは言い出し難かった。



「テオ、ちょっといいかしら?」


「ああ、アデーレ! こちらはウォーレン君だ。ニコルの見合い相手の」


「ウォーレン・ブロウです」



 ウォーレンへの返答に窮していたテオドールは、書類を届けに来たアデーレが天の助けのように思えた。ここぞとばかりに、アデーレにウォーレンを紹介すると、ウォーレンは姿勢を正し、若手にしては珍しく生真面目な自己紹介をした。二つ名付きの女傭兵であるアデーレの事を知っていたようで、今度手合わせをしてほしいと言うと、アデーレは面白そうに笑った。



「ふうん、思っていたよりもいい男じゃない」


「は?」


「気にしないで、こっちの話。ごめんなさいね、うちの旦那のせいでニコルと見合いができなくなっちゃって」



 意味深な言葉にウォーレンが首を傾げると、アデーレは意地悪そうな顔をテオドールに向けた。この顔をしている時のアデーレには碌な思い出がないため、嫌な予感がテオドールの頭を駆け巡り、案の定、テオドールのせいで見合いが出来なくなったことをあっさりとばらされてしまい慌てた。



「それは、どういう……?」


「コレが立て続けに見合いを組むものだから、嫌気がさしたニコルが逃げたのよ」


「あ、アデーレ!!?」


「アンタは、黙ってなさい! その通りなんだから」


「それは……、自分のことが嫌で逃げたという訳ではないということでしょうか?」


「まぁ、直接的な理由はテオよ。ニコルの好みとか全く無視の見合いを30回だっけ?」



 アデーレはニコルが逃げ出した理由を話してくれた。テオドールが情けない声を出して話しの制止を促したが、アデーレはテオドールに黙っていろと詰め寄り、テオドールはしぶしぶ従った。アデーレの話を聞く限り、嫌いな相手と30回も見合いをさせられたのならば嫌がっても当然だとウォーレンは思ったが、その嫌いな相手に自分も含まれているのかと思うと、気が沈んだ。



「言っておくが、ニコルの好みは俺の様な男だと思っていたんだから、仕方ないだろう」


「それでも、30回とかやり過ぎよ?! あの子にとって筋肉ムキムキでゴツイのはトラウマでしょうが!」



 呆気にとられるウォーレンを無視して、夫婦げんかが始まってしまった。ただ、内容を聞いていると、テオドールが立て続けにニコルに見合いを持ちかけたのが原因と分かり、ウォーレンは少しだけ安堵したのだった。


 アデーレの言うとおり、ニコルがゴツイ系の男性を忌避するのは、テオドールが原因だった。ニコルが幼いころにテオドールが参加した祭りで、上半身裸の脂ぎった筋肉の男性たちにもみくちゃにされたのが原因だった。人の波にのまれていくニコルをアデーレがあわてて引き上げたのがショックで失神しており、それからしばらくニコルはその記憶を思い出させるテオドールや体格の良い団員たちを見ると大泣きし、大いに彼らを落ち込ませた。


 数年が経過し、ニコルもその事件の事は記憶の彼方に置いてきたようだったが、父親であるテオドールや特に体格の良い団員たちとは一緒に仕事はしたくないと宣言し、クルトや兄のラルフと一緒に依頼を受けるようになったのだ。

 テオドールは、思春期に入った娘の一時的な反抗期と考えていたようだが、アデーレにしてみると、トラウマが原因で近寄りたくない物だと考えていた。



「一つ疑問に思ったのだけど、ウォーレン君はうちのニコルの何処が気に入って見合いをしようと思ったの?」


「何度か依頼でご一緒しまして、率直に言いますと一目ぼれです」


「私が言うのもなんだけど、あの子全然女の子らしくないわよ?」


「飾ってなくて自然な感じがして良いと思いました」


「……」


「……」


 

 恋愛に全く興味を示さないニコルは、女らしさのかけらもなかった。服を選ぶ基準は機能性のみを重視し、はっきり言って色気とは程遠い。おそらく、ウォーレンが飾っていなくて自然体なのだと思ったのは、単にニコルが着飾るのが面倒だったと言うだけで、そのことを知っている家族としては、ウォーレンがニコルに一目ぼれしたことが信じがたかった。


 アデーレはしげしげ眺めと、少し落ち込み気味のウォーレンを観察していた。

 ウォーレンはアデーレから見てもいい男だと言えた。(一番は旦那のテオドールだが)

 灰色の髪を短く刈り込み、よく日に焼けた精悍な顔立ちをしており、色街に行けば確実に両腕に客引きの女が釣れるだろう男ぶり。しかも、性格は生真面目そのものだ。

 ニコルが言うゴツイ系には当てはまるだろうが、着やせするタイプでニコルが付き合えるぎりぎりの線だとアデーレは思った。年齢も23歳で若いながらも、テオドールの折紙つきの実力がある文句のつけようもない見合い相手だった。



「テオ、これは痘痕もなんとやらってことなのかしら……」


「いや、ニコルは可愛いぞ! やはりウォーレン君は見る目があるな!」


「親馬鹿発言もいい加減にしなさいね」



 テオドールのはただの親馬鹿発言だ。もちろんアデーレもニコルはかわいいと思っているが、如何せん女らしさが圧倒的に足りない。娘として育てたはずなのに、どこに行っても、坊主と呼ばれるニコルにしばしば頭が痛くなってくるのは気のせいではない。

 ニコルに心底惚れている様子の、ウォーレンを逃したら一生結婚をしなそうな懸念もある。



「ウォーレン君はあの子の居場所が分かったらどうするつもりなのか聞いても良い?」


「告白します。真剣に付き合って欲しいと思っていますので」


「……一応、合格かしら?」


「?」


「ウォーレン君。ニコルの居場所だけど、今はセレストに向かってるわ」


「なに!? なんで俺に教えてくれない! 今すぐあっちにいる奴らにつ――」


「テオ、アンタはちょっと黙ってなさい!」



 一か八かの賭けではあるが、アデーレはニコルをウォーレンに託しても良いような気がした。テオドールの人を見る目は確かだが、アデーレが認めなければウォーレンはニコルに近付くことすら無理だったろう。

 テオドールは、ニコルの居場所を知るとセレストの近くにいる傭兵に連れ戻すよう指示を出そうとしたが、アデーレの一睨みで黙り込んだ。



「何故、自分にそれを教えてくれるんですか?」


「あなたなら任せてもいいかもしれないと思ったからかしら? 見合いが流れちゃったのは、うちの旦那のせいだけど」


「あ、ありがとうございます!」



 ウォーレンはアデーレがニコルの行先を教えてくれたことに驚いていた。いたずらっぽく微笑むアデーレに裏がないとは考えなかったが、ここは素直に礼を言った。

 


「まぁ、あの子が嫌だって言ったらそれまでだけど、どうする?」


「自分はただの見合い相手としてではなく、ウォーレン・ブロウとして一から関係を築きたいと思っています」


「ふふふ、応援してるわ。じゃあ、急いで行った方がいいわよ。あの子が一か所にとどまるとは限らないし、頑張りなさいね」


「はい!」



 アデーレが言っていることは、母親として当然のことだ。ニコルには顔見知りの見合い相手としか見られていなくても、自分を見てほしいとウォーレンは思った。そのことをアデーレといじけて座っているテオドールに向けて言うと、アデーレはウォーレンの言ったことに満足したのか、笑顔で送り出してくれたのだった。

 我ながら青臭いことを言ったとウォーレンは思ったが、そんなことはどうでもよかった。今はただ、セレストに向けて出発しようとクルーガー傭兵団を後にしたのだった。




読んでくださってありがとうございます。


今回は、ニコルの両親と、見合い相手だったウォーレンの話でした。

父親は何処も尻に敷かれるものなんです。

ってか、テオドールの場合はアデーレの恐怖政治の敷物になってる気がする。

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