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傭兵ギルドの猫  作者: kay
第2章 旅路
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セレストへ

第二章の完結編です。

 ニコルが目を覚ましたのは、まだ早朝と言うにも早い時間の事だった。

 気分が高揚しすぎて眠れないという傭兵が居たため、見張りの順番を変えてもらうことができ、他の人よりも長く睡眠をとることができた。とはいっても、ニコルの気分もその傭兵と同様に高揚していたため、よく寝られたのは良かったが、逆に早くに目が覚めてしまったのだ。



「嬢ちゃん、まだ寝てていいぜ?」


「いや、目が冴えちゃってもう寝付けそうにないんだ」


「……無理するなよ?」



 この時間の見張りの当番の傭兵がまだ寝ていていいと言ってくれたが、ニコルは既に寝付けそうにもなかった。見張りの傭兵の気遣いに肩をすくめて礼を言うと、傭兵はニコルに興味を失ったようで、たき火に視線を戻す。

 剣の鍛錬をしようかと脳裏によぎったが、この時間帯に下手に動くと周りに迷惑がかかってしまうため諦めた。周囲は森で散策するにも、夜明け前のくらい時間に森に入るのは危険すぎるため、ニコルは毛布にくるまってぼんやりとたき火を眺めたのだった。





 森の奥で鳥の鳴き声がこだまし始めると、空が白み始め傭兵たちも動き始めた。もっとも、横になるだけで寝ていない者も居たはずだったが、たき火に照らされた彼らの顔つきは、昨日の戦闘の緊張を引きずっている者はいないように見えた。

 ニコルも固まった筋肉をほぐすように、伸びをして体の動きを確認する。時間が経って痛んでくる怪我もあるが、疲れは残っているものの特に問題はなさそうだった。



 距離的にはマナッセとセレストの中間地点手前であるが、今日中にセレストには到着できるだろうと、朝食の席でベルクマン達が話していた。




 何度かの休憩をとり、夕闇の森の中を進んだ。街道の先にセレストの城壁と思われる黒い影が見え、ちらちらと松明の灯りが揺らめいていた。



「やっと着いた……」


「過去にないくらい面倒な護衛だったな」


「全くだ!」



 城壁が見えてきたからか、傭兵たちが此度の苦労を口ぐちに語った。日暮れ過ぎの到着のため街に入る門は閉ざされていしまっていた。しかし、目的地に着けた安堵は皆同じだった。

 城壁の上は見張り用の鋸壁になっており、松明の灯りに影が映るところを見ると、当直の兵士が周囲に目を光らせているのだろう。隊商の馬車が、城門の前に到着すると、案の定城門の上の兵士から声がかかった。



「街道を通ってきた隊商とお見受けする。責任者はどなたか!」


「セレストの商人ベルクマンでございます。ベニトアからの帰りの為、開門をしていただきたく存じます!」


「ハールバットの関所で聞いているだろうが、先日の盗賊団の討伐で残党が市街に入り込む可能性がある! それ故、日暮れ後の開門は出来ない。明朝の開門まで待っていただきたい!」



 城門の兵士に聞こえるよう、ベルクマンが声を張り上げて受け答えをする。盗賊の討伐の影響で、こちらの兵士たちも殺気立っているようにニコルには感じられた。ベルクマンも半ば予想していた返答のため、仕方ないと隊商にこの場での野営の準備に入るよう指示を出そうとした時だった。



「私だ! 任より戻った! 開門せよ!」


「ふ、副団長!?」


「副団長! お勤めご苦労様です!」


「団長より、ライマー様とエッカルト副団長が戻り次第、門を開けるよう指示をいただいております! しばしお待ちください!」



 ベルクマンの後ろに居たエッカルトが前に進み出て、声を張り上げ兵士たちに声をかけた。流石に自らの上司の声は間違えるはずもなく、城壁の内部がにわかに騒がしくなった。

 ニコルは開門する際の、鎖を巻きあげる金属音にわずかに顔をしかめた。本来開門出来る時間帯ではないため、通行できるのはエッカルト達だけだろうと思った。



「何か変わったことは?」


「は! 先日の盗賊団の討伐以降は残党討伐のみであります!」


「分かった。詳細は団長と話をする前に確認をしておく。それと道中、数名の襲撃者を捕えた。これから尋問する故、牢に入れておけ」


「はっ!」



 エッカルトとライマーを前にして、門から出てきた兵士たちが敬礼をする。ライマーはエッカルトに目配せすると、マルセルを伴って先に門の中に入って行った。エッカルトが捕えた襲撃者の拘束を指示すると、こちらにやって来て、馬車の中で簀巻きにされていた襲撃者を連行していった。



「エッカルトさんって本当に副団長だったんだね……」


「俺、初めて見たとき危ないおっさんかと思った」


「実は、私もそう思った。絶対に堅気じゃなさそうな顔つきだったし」

「だよなぁ……」


「おいおい、失礼なことを言ってんじゃないぞ二人とも」



 上に立つものらしくキビキビと指示を出している姿を見て、ニコルは近くに居たカルロに、エッカルトに対して抱いていた失礼極まりない印象をこぼした。カルロもニコルと似たり寄ったりな印象を持っていたらしく、二人は茫然とエッカルトの様子を見ていたのだった。二人のつぶやきを聞いたベンノは苦笑いをしながら、一応二人を窘めた。



 団長の指示とはいえ、城門を開けてしまったため、隊商の人たちは特例として市街に入ることを許された。商人や傭兵たちは、各ギルドの証が身分証の代わりになるため、ギルドにある読み取り用魔道具と同じものが設置されている。ニコルも兵士に傭兵ギルドの証である水晶を手渡して確認してもらった。エリシア親子は、旅券があったためそちらを確認してもらっていた。



「ようこそ古城の街セレストへ」


「古城の街……」



 城門を抜けて街を茫然と眺めるニコルにベンノがおどけて言った。『古城の街』とはセレストが帝国占領下にあった時代から続く古い街のためについた俗称の様なものだ。

 セレストの歴史は古く、ウィスマリア魔法国の首都スフェーンよりも古い。かつては、帝国の金山採掘のために栄えた街だった。現在は金鉱は廃鉱となり、変わって夜光石の採掘と廃鉱になった洞窟に住まう魔獣の討伐で傭兵の出入りが多い街となっている。




 城門を抜けると、昼間は市場になる広場と、その奥に広がる変わった石造りの建物が段々になっている街並みが広がる。ひときわ明るい場所はおそらく酒場の立ち並ぶ歓楽街だろう。山のふもとの街のため、広場を抜けると石段が続く。

 まずは宿屋の確保をすべきだったが、馬車を置いていく訳にはいかず、傭兵たちが数名残って荷物の番をすることになった。ベルクマン曰く、明日の定期市の場所取りも兼ねているらしく特に問題はないとのことだった。



 ニコルを含む数名の傭兵はそのまま契約完了という運びになるため、まずはベルクマンの店に行く必要があり、彼を先頭に比較的広い道を進んだ。

 道の幅はベニトアの大通りの半分ほどだったが、セレストではこの通りが一番の大通りらしい。

 傭兵団の仕事で何度か訪れた事はあったが、暗くなってから出歩けるほど詳しい訳ではなかった。城下街なだけあり、主要な道も曲がりくねり迷路のようで、一歩道を外れると迷子になりそうだとニコルは思った。




 ベルクマンの店は、セレスト市街地の中心地にあった。城門前の広場からのびる通りを進み、噴水のある広場の周りにある商館だった。予定していた日程よりも少しずれたのと、盗賊団の噂が相まって、ベルクマンの家族は大変心配をしていたらしい、到着早々家族にもみくちゃにされたベルクマンを見て、ニコルは少し羨ましく感じた。



「お疲れさまでした。あなた方のおかげで無事にセレストに着くことができました。ありがとうございます」


「怪我人も少なくて良かったですよ」


「ええ、本当に。報酬はこちらです。エッカルト副団長さんか盗賊を捕獲した報奨金もいただいておりますので、そちらも……」


「……確かに。確認しました。また何かありましたら、声をかけてください」


「私の方からも、何かありましたらまたお願い致します」



 ベルクマンは傭兵たちに向き合うと、お礼の言葉と報酬を手渡した。盗賊団と思われる襲撃があったにも関わらず、死者が出なかった事は喜ばしいことだった。モーリッツが率いる傭兵たちもベルクマンと握手をし、今後も贔屓にしてくれと声をかけていた。モーリッツが報酬を受け取ると、隊商は解散になった。モーリッツが店を後にすると、ニコルとベルクマンの二人がその場に残された。

 


「ベルクマンさん、短い間でしたが、同行させていただきありがとうございました」


「ニコル君も若いのに大した活躍でしたね。ですが、報酬はなしで本当に良かったのですか?」


「はい。報酬は発生しないのがこの隊商に同行させてもらう条件でしたから、」



 ベルクマンはニコルにもモーリッツたちと同じように報酬を渡そうとしたが、ニコルは契約は結んでいないから受け取ることは出来ないと、報酬の受け取りを拒否した。ベルクマンはそれでは、気が済まないという顔をしたが、ニコルは笑って首を横に振った。



「まさかあれほど強いと思ってもみませんでしたから、君には不利な契約を結んだと思っていたのですが……」


「私は、まだまだ若輩者です。ベニトアで依頼を受けることも出来ない……」


「君はそこまで言うならば、契約通り報酬はなしですが、こちらは盗賊を捕縛した報奨金です。こちらは受け取ってくれますね?」


「……ありがたく頂戴します」


「君はもっと自信を持つべきだ。君にはその価値がある」


「ベルクマンさん……」


「一人で大変だろうとは思うが、何かあったら力になろう」


「ありがとうございます」



 ベルクマンは、ニコルの意見を尊重し護衛の報酬は渡さなかった。エッカルトから渡された報奨金をニコルに渡し、何かあったら力になると言うと、ニコルはうれしそうにほほえみ、ありがとうと言いベルクマンの店を後にしたのだった。



 セレストは坂が多く、遠くまで見渡すことができる。今は夕闇に包まれ、それほど遠くを見ることは出来ないが、城門の奥に永延と続くデマントイドの黒い森が見える。

 見合いがしたくないという理由で家を出て、ずいぶん遠くまで来たものだとニコルは思った。

 しんみりとした雰囲気を感じ取ってか、ティアがニコルにすりついてきた。暖かなティアの体温を感じ、自分は一人ではないと気持ちを立て直し、今日の宿をどうするかと目下の問題に向かうことにしたのだった。




読んでくださってありがとうございます。

前回の更新より、時間が経ってしまい申し訳ありませんでした。

一応これで二章は終わりになります。

次は閑話の更新になるかと思います。



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