エッカルトとニコル
エッカルトに頭を下げられて恐縮してしまったニコルだったが、慌ててエッカルトに頭を上げてもらうと、気まずそうに頬をかいた。
「それにしても、君は年の割には強いな」
「ええ、まぁ……」
「流石はベニトアで依頼を受けてきただけはある」
「いや、私はベトニアで依頼を受ける資格は持ってないんで……」
「隊商の傭兵ではないのか?」
エッカルトはニコルがベトニアで依頼を受けたものと勘違いしていたが、隊商に同行することになった経緯を話すと納得したようだった。
「その若さで、この実力。大したものだ」
「そうですか?」
「その実力をただの傭兵で終わらせるには勿体ない」
「あ、ありがとうございます」
「是非、うちの騎士団に入団してほしい。どうだろう?」
「あ、遠慮します」
エッカルトはニコルの実力をしみじみと感心して言っているようだった。話の流れで騎士団に勧誘されるかもしれないと思っていが、ニコルの予想通りにエッカルトが勧誘してきた。騎士団に入る気もなかったニコルが否と即答すると、速攻で拒否されると思っていなかったのだろう、エッカルトは絶句していた。
「何故だ。傭兵よりも安定している職だぞ?」
「汗臭い男どもと一緒に居るのは実家だけでいいです」
「何を女々しい事を言っている! その実力を無駄にする気か!?」
「私は女なんで、女々しくて良いです」
騎士団への勧誘は、本気ではないにしても、先日まで盗賊の一味と勘違いしていたのに変わり身の早いことだとニコルは苦笑気味だった。まして、傭兵団に居た時に男所帯の汗臭さには辟易している。実家の傭兵団よりも騎士団の方が規模違うため、確実に我慢出来ない自信があった。
力いっぱい勧誘してくるエッカルトに引き気味になりながらも、一度共闘しただけの傭兵を勧誘するほど、セレストの騎士団には実力者が少ないのだろうかと考えてしまった。
「は? 女、だと?」
「あ、はい。それとも、セレストの騎士団は女性の入団を認めてるんですか?」
「いや」
「じゃあ、騎士になるのは無理ですね。私は女なんで」
驚いたように絶句しているエッカルトに、やはり気が付いていなかったのだなとニコルは溜め息をついた。
魔法国の王都の騎士団には女騎士が居ると言う噂は聞いたことはあったが、セレストの騎士団にも居るのだろうかと思い、聞いてみたがセレストでは入団を認めていないようだった。もっとも、ニコルは騎士になる気は更々なかったため、興味本位の質問だった。
「女が何故傭兵をやっている!」
「何故って、傭兵団育ちですから」
「そういう問題ではない!」
「別に女傭兵なんか沢山居るじゃないですか。男の方が多いですが」
「傭兵団で育ったとしても女が傭兵になる必要はないだろう!」
話の内容は逆切れに近いが、女が傭兵と言う血なまぐさい仕事をするなと言いたかったのだろう。家族が傭兵だからと言って、子が傭兵になるとは限らず、別の職に就く人間も多くいる。しかし、ニコルは自分で傭兵という道を選んだのだ。エッカルトの気遣いはうれしいが、ニコルにとっては余計なお世話だった。
「自分で傭兵になりたいと言ったんです。実家云々は別に関係ないですよ」
「しかしだな!」
「うちの母が聞いたら殺されそうなセリフですよ。女だからと見下す奴は斬り捨て―――」
「待て待て待て!」
エッカルトはニコルに制止をかけた。物騒な単語が出たため、話をとめたのではなく、エッカルトは「ベニトアの方から来た」「傭兵団?!」と、何やらぶつぶつ独り言をいい、次第に表情が硬くなっていった。心なしか青ざめているように見える。
「……まさかと思うが、お前はクルーガー傭兵団の出身か?」
「そうです。諸事情で実家にばれると不味いので、言いませんでしたけど」
「その……。母親というのは、雌豹か!?」
「母を御存じで?」
「知っているも何も……」
何かを思い出したようで、エッカルトの顔から血の気が引いていく。傭兵団の団員から母のアデーレの武勇伝(と言う名の各地で起きた被害者の話)は色々と聞いていたが、エッカルトの様子を見る限り、アデーレの武勇伝の被害者なのだろう
「そうか、あの雌豹の娘か……」
「?」
「いや、なんでもない」
エッカルトは何かを言いかけ、ニコルが首を傾げると気にするなと話を切ってしまった。
他に何か話があるのかとエッカルトに聞いてみたが、人前で詫びる訳にはいかなかったため、呼び出しただけだったようだった。
その日の野営は、襲撃を受けて血に酔い気分が高揚していたせいか、寝付けないものが多く、ニコルもなかなか寝付けなかった。
これでは自分もカルロに何か言える立場ではないなと、背中に当たるティアのぬくもりに癒されながら、自嘲気味に笑ったのだった。
読んでくださりありがとうございます。
段々一話の文章が短くなってきてしまって、焦っています(’’;




