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傭兵ギルドの猫  作者: kay
第1章 旅立ち
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傭兵団にて

ま、まだ主人公が出てきません。

 クルーガー傭兵団は、ウィスマリア魔法国で有名な傭兵団である。

 団長のテオドールは2メートル近い体格と、相手を叩き潰すように使用する大剣使いとして有名で、その妻のアデーレは燃えるような赤髪と、魔法と剣を使った苛烈な戦い方をするため、一部の傭兵たちに『烈火の雌豹』と呼ばれ恐れられていた。

 傭兵団にはそんな彼らを慕い加入した者も多く、優秀な者たちが各組織を率いて確実に依頼をこなす歴史はないが実力者が多い傭兵団だった。





「ニコルがいない!」

 そんな傭兵団の団長であるテオドールは、朝から焦っていた。

 数日後に見合いを控えているのだが、娘であるニコルの姿が朝から見当たらなかった。

 団員も何事かと思ったが、団長が朝から騒ぐ理由を同僚に聞くと、思い当たる節があったのか何事もなかったかのように自分の持ち場に戻っていった。



「アデーレ、ニコルを知らないか? 見合いの話をしようと思ったんだが」

「あの子、見合いは絶対にしたくないから、家出するって言ってたわよ?」


 団長の執務室に書類を届けに来た妻に、娘の行方を問うと予想外の返答があった。


「どうして引き止めてくれない! 先方は乗り気なのに!」


 テオドールは頭を抱え、手に持っていた書類の束と一緒に見合い相手からと思われる手紙が床に散らばった。


「あの子が本気で嫌がってるのに、あなたは引き留めるの?」


 アデーレはニコルに無理やり見合いを押し付けてくる、夫の身勝手さに腹を立てており、容赦なく痛いところを突いた。


 娘が連れてきた恋人との結婚を認めず娘を手元に置いておきたいという理屈ならわかる。

 しかし、自分の夫ながら手元に置いておきたいのになぜ見合いをさせるのか、アデーレは不思議でならなかった。


「次に持ち込んで来たら家出するって宣言してたじゃない。あなたも一緒に聞いていたでしょ?」 

「あれは冗談じゃなかったのか?」

「あの子ならそのくらいするわよ。本人の意思を無視して立て続けに見合いさせようとするんだもの」


 全面的にニコルの味方をする気のアデーレは、テオドールに容赦なく畳み掛ける。


「いい奴なんだ、紹介くらいさせてくれたっていいじゃないか」


 アデーレは床に散らばった書類の中から見合い相手の手紙を拾い上げた。

 相手は若手でも比較的名の知れた傭兵で、何度か会ったこともある。人格も優れていたと記憶しているが、筋肉ダルマのような体格であったのを思い出した。


「この人は確かに良さそうな人ではあるけど、ニコルの好みとは真逆じゃない」

「なに!? でも、ニコルは俺のようなのが好きだって言ってたぞ!?」


――それは父親だからでしょうが……


 以前ニコルにお父さんかっこいいと褒められたのを覚えていたのだろうが、それは何年前の科白なのかと、アデーレは頭を抱えたくなった。


「あなたが心配してる色気の無さだって、17歳になったばかりなんだから、恋の一つや二つすれば気を使うようになるでしょ」

「……それは困る」


 テオドールがニコルの見合いを進めたのは、恋愛ごとに興味を示さない娘に心配しすぎた結果だった。

 婚期を過ぎても結婚出来ないのではないかと一方的に不安になり、おかしな虫が現れる前に自分が認めた男とくっつけてしまえと考えたことが原因だった。


「ニコルの意見だって尊重してあげないと二度と家に戻ってこないわよ」

「それも絶対に困る!」


 ニコルの人脈は広い。

 傭兵団の団長として依頼を受ける際、テオドールとアデーレは娘を傭兵団の団員に預けて引き受けたくなかったため、どの依頼を受けるにもニコルを連れて歩いた。

 ニコルは隊商の護衛では馬車の荷台に乗せてもらい子供好きの依頼人に商売の話を教えてもらったりしていたし、隊商の子供と仲良くなり、手紙のやり取りをするような仲になった者も居た。

 つまり、各地の商家とつながりがあるため、一時的な家出先には困らないのだ。


 更に、アデーレが率先して兄のラルフと一緒に剣と魔法の使い方を教えたため、護身という程度の腕前ではなく、傭兵団員として即戦力になる実力があった。

 したがって、無理をしなければ家出道中は比較的安全であり、下手をしたら帰ってこない可能性もあった。


「ラルフが家を出たのも17歳の時だったのに、なんでニコルが出てくのはダメなのよ」

「ニコルは女なんだぞ!」

「テオ? それは私の育て方と、あの子の実力に不満があるってこと?」

「そ、そうは言ってない……」


 『烈火の雌豹』と呼ばれたアデーレは怒ると恐ろしい。

 普段はそれほど怒ることはないのだが、激怒した際は相手がぼろ雑巾のようになるまで魔法を使った、殴り飛ばした、切り飛ばしたなどといった逸話が数多く残っている。

 子供ができて怒ることは少なくなったが、過去のアデーレを知る者は揃って雌豹だけは怒らすなとトラウマのように語る。

 顔はニコニコ笑っていても、心なしか燃えるような赤毛はうねっているように見えるし、背後に猛獣のような威圧感を背負っている。

 テオドールは冷や汗で背中がじっとりと濡れるのを感じた。


「じゃあ、ニコルが家を出たって問題ないわよね?」

「い、いや。まぁ、その通りではあるんだが……」

「問題ないわよね?」


 念を押すようにアデーレに睨まれ、テオドールは首を縦に振った。


「なら、ニコルは留守だし、先方には私の方から見合いの話はお断りしておくわね」


 アデーレは満足そうに微笑むと、断りの手紙を書くべく軽い足取りで自分の書斎に戻っていったのだった。



読んでくださりありがとうございます。

次回から主人公が出ます。


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