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傭兵ギルドの猫  作者: kay
第2章 旅路
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エッカルトの疑惑

 街道がある場所は兎も角、森の奥は木が生い茂り日の光は入ってくるものの薄暗い。緩い坂道のため馬車の進む速度は平地よりも遅い。そのため、セレストに着くまでに一度野営をしなければならず、これが夜になったら危険は一気に跳ね上がるとニコルは感じていた。



「毎度の事とはいえ、この街道の野営が一番危険なんだよな……」


「一人で進むならそれほど長い距離じゃないんですけどね」


「荷馬車での上り坂だから仕方ないんだけどな」



 隊列が長くなったことで普段よりも速度が出ていないのだろう、ベンノがこの森での野営はしたくないとぼやいた。

 マナッセからセレストまでは、早馬をとばせは一日程の距離であり、それほど長い道のりではないのだが、坂道の分だけ歩く速度は遅くなり、隊商の場合は確実に野営を迫られる。



 ニコルはマナッセの酒場で出会った吟遊詩人の話を思い出していた。散り散りに逃げた残党は何処に行ったのだろうか。領主軍が山狩りをしたのならば、アジトと思われる場所は殲滅されているはずである。もし、散り散りに逃げたとしても、オオカミなどの獣が住まうこの森で生き延びられる要素は限りなく低いように思えた。可能性として残っていることは、別のアジトがあるか、もしくは街に潜伏しているかのどちらかであろうとニコルは考えていた。





 荷台を引く馬の休憩のため、しばしの休憩をとる。先ほどの戦闘後を見たことで、どこかピリピリとした緊張感が漂っていた。



「ニコルさん。私たちは見てないのですが、戦闘の跡があったって本当ですか?」


「……ええ、規模の大きい戦闘だったようです」


「そうですか、何事もなければ良いんですが……」



 ユリアに街道の戦闘跡の話を振られ、ニコルはうっかり答えてしまった。しかし、この先何があるか分からないため、心の準備だけは必要だと自分に言い訳をした。

 ニコルは不安がるエリシア親子の話を聞いたりして、不安を取り除くために何かできないかを考えていた。



「ティア、その辺に怪しいのがないか見て来れない?」


「……ニャア」


「ぐるっと見てくるだけでいいよ。置いて行かれるかもしれないから、すぐ戻ってこれる?」


「頭が良い猫ちゃんですねぇ」


「傭兵団に居た時に、偵察の類の訓練はしましたから」



 ふと、ニコルの足元でくつろぐティアを偵察に行かせることにした。傭兵団に居た時は、何度も同じ様な事をしてきたため、何かあったらニコルに知らせる訓練もしている。

 頭のいいティアはニコルが何を求めているのかわかっているようで、わかったというように、ニコルに頭を擦り付けた。動きやすいように腹帯を外してやると、軽く伸びをし森の中に入っていった。

 見知らぬ人物を見つけたときには、その場にあるものを何かしら拾ってくるように訓練してあると話すと、ユリアにそういう訓練をしているのだと説明すると、ティアの賢さに感心したようだった。



 ニコルは先ほどから自分に向けられている穏やかでない視線を感じていた。そちらの方に目を向けると、エッカルトがニコルをにらみつけていた。関所に居る時から、エッカルトはニコルに向けて探るような視線を向けてきたため、正直居心地が悪かったのだ。一言文句を言ってやろうと思い、エリシア親子の側を離れた。



「赤猫をどこにやった」


「は?」


「どこにやったと聞いている」


「周りに危険がないか偵察させに行かせました」


「……」



 ニコルとティアの一部始終を見ていたエッカルトが声をかけてきた。しかし、顔つきは険しく、ニコルの本意がどこにあるのかを探っているように見えた。



「盗賊団の仲間を呼ぶとでも?」


「その可能性は否定できない」


「なぜそう思うんだ?」


「関所でも赤猫を放っていただろう」


「それは、ティアが獲物の調達に行っただけだよ」


「その晩に一つの隊商が襲われた。あれは仲間に合図を送っていたのだろう!」



 エッカルトはニコルを盗賊団の一味だと考えていたようだ。おそらく、ライマーやマルセルはエッカルトの指示を受け、ニコルが盗賊団の一味である証拠や情報を探っていたのだろう。

 彼らに話しかけられすぎてニコル自身は迷惑しており、何故彼らは自分にちょっかいを出してくるのだろうと疑問に感じていたが、こんなところで疑問が解消されるとは思っていなかった。



「関所は封鎖されていたし、隊商が襲われたのだって私は知らない」


「嘘をつけ!」


「……アンタ軍の関係者だったのか」


「答えろ、貴様!!」


「通りで、お行儀良い鍛錬をすると思った」



 今にも剣を抜きそうなエッカルトの殺気立った声色に、ニコルは強張りながらも平静を装った。

 ハールバット川の関所はニコルたちの隊商が付いた時点では封鎖されており、関所の反対側の情報を持つ者は関所の兵士くらいしか思い当たらなかった。マナッセでエッカルトを前にした兵士たちの様子がおかしかったことから推測すると、エッカルトがセレスト領の兵士でも指揮する立場に居る騎士だろう。その推測はおそらく外れてはいないだろうとニコルが確信を持った。しかし、どうやって自分が盗賊の一味ではないことを証明するかを考えると頭が痛くなりそうな問題だった。



「言っておくけど、私は盗賊団とは無関係だよ」


「……」


「その様子じゃあ、信じてもいないだろうけどね」



 ニコルは、一応盗賊団の一味ではないと否定をしてみたが、エッカルトはニコルの話を聞く素振りも見せず、何も言わずにライマーやマルセルの元に戻っていった。

 ポツンと一人取り残されたニコルは、エッカルトの誤解をどうやって解こうかと考え、深いため息を付いたのだった。


読んでくださりありがとうございます。

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